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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)255号 判決 1962年10月09日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人堀家嘉郎の上告理由第一点一について。

論旨は、本件命令の主文第一項は成否未定の将来における不当労働行為を事前に禁止するものであるから違法である、と主張する。

思うに、不当労働行為救済制度本来の目的が不当労働行為を是正してそれがなかつたと同じ状態を作り出すことにあり、しかも、いわゆる救済命令の違反に対しては一定の制裁が科せられる(労働組合法二八条、三二条参照)こととなつているのであるから、労働委員会としては、不当労働行為が現実になされた場合、その過去の不当労働行為を排除するために命令を発するのが労働組合法の建前であることは、所論のとおりである。しかし、さきになされた不当労働行為が単なる一回性のものでなく、審問終結当時には、何らかの事情ですでに解消されていても、再び繰り返えされる虞れが多分にあると認められる場合においては、不当労働行為制度の目的に照らし、その予想される将来の不当労働行為が過去の不当労働行為と同種若しくは類似のものである限り、労働委員会は予めこれを禁止する不作為命令を発するを妨げない、と解するのが相当である。

原判決の所論の点に関する判示も右と同趣旨に出たものと解される。そして、原判決の確定した事実によれば、上告人会社は、従業員の賃金支払につき、昭和三一年六月以降同年一〇月までの間非組合員たる臨時工に対しては毎月五日ないし一二日の遅怠をしたに止まるのに対し、組合員たる本工に対しては毎月一三日ないし三〇日の遅怠をしていたのであつて、同年一一月より賃金遅配を解消したのは、被上告人委員会が救済命令の申立により調査を開始したため余儀なくその挙に出たまでのことで、将来も再び同種の差別的取扱を繰り返えす危険が多分に存在していた、というのであるから、原判決が本件命令中「被申立人(上告人会社)は従業員の賃金支払について申立人(補助参加人組合)組合員と臨時工たる非組合員との間に自今遅速の差別を付けてはならない。」との主文第一項を適法とした判断は、正当として是認すべきである。

されば、叙上に反する独自の見解に立つ論旨は、結局、理由がない。

同点二および三について。

論旨は、原判決には証拠に基づかないで事実を認定した違法がある、という。

思うに、本件命令は将来の不当労働行為を禁止するものであるが、かような不当労働行為の証明は、過去に存した事実の証明と異なり、所詮将来発生しうべき事実の相当の蓋然性の証明であるから、審問終結当時客観的にその発生の虞れあることの証明をもつて足りるものと解すべきである。本件についてこれをみるに、原判決は、その挙示の証拠によつて、上告人会社が賃金支払についての差別的取扱を解消したのは、被上告人委員会が本件救済手続のために調査を開始したため余儀なくその挙に出たものであるという事実を認定したうえ、本件命令の発せられる当時において、若し右命令がなかつたとすれば、将来も賃金についての差別的取扱が繰り返えされる危険が多分に存在していたものと認めたこと、上叙のとおりである。

されば、原判決には所論の違法なく、論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定の非難であつて、上告適法の理由とならない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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