大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)816号 判決 1961年3月14日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人井出正敏の上告理由第壱について。

論旨は要するに、本件債権譲渡契約には、債権取立のため主として上告人をして訴訟行為をなさしめることを目的とする信託行為と認むべき趣意を持つものと解すべき余地がないのであつて、原審も亦同一の見地に立ち、上告人が訴外仲摩卓の被上告会社に対する金融を仲介した責任上、債権取立を引受けたものと一旦認定しながら、終局的には却つて、本件債権譲渡契約を以つて債権取立のため主として訴訟行為をなさしめることを目的とした信託行為であると認定し、信託法一一条に違反する無効の行為であると判断したのは、理由齟齬、理由不備の違法となる旨主張するに帰する。

しかしながら原審は、原判決挙示の証拠により原判示の諸事実を認定し、その事実関係よりして、本件債権譲渡契約を以つて訴外仲摩卓が債権取立のため主として上告人をして訴訟行為をなさしめることを目的としてなした信託行為であると認定して居るのであつて、仮に所論の如く、本件債権につき公正証書が作成せられて居り、訴訟の提起が必然的に要求せられないものであるとしても、そのことが右認定を妨げるものではなく、また本件債権譲渡契約成立直後、被上告会社に対し破産申立或は強制執行がなかつたにしても、その当時既に被上告会社の資産状態が窮迫し到底任意の弁済を期待し得なかつたことが原判示の如くであるに徴すれば、原審の右事実認定は、これを是認し得られる。したがつて原審が、本件債権譲渡契約を信託法一一条に違反し、無効のものであると判断したのは正当である。

論旨は結局、独自の見解に立ち或は原審の否定した事実によつて、原審の適法にした事実の認定を非難するに外ならないのであつて、原審に所論の違法あることを見出し得ないから、論旨はこれを採用し得ない。

同第弐について。

論旨は、原審が信託法一一条を解釈適用するにつき、訴訟でない破産申立或は強制執行をも訴訟行為と誤つた違法及び経験則違反があると主張する。

しかしながら、同条にいう訴訟行為には、訴訟の提起、遂行のみならず、広く破産申立、強制執行をも含むものと解するのが相当であり、これと同趣旨に出た原判決は正当である。原審の判断に所論の違法はない。

その余の論旨は、結局原審の適法になした事実の認定を争う外に出ないのであつて、原審の法令違背を主張するものではない。

論旨は、すべてこれを採用し得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例