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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)765号 判決 1959年8月18日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人野村均一、同大和田安春の上告理由(第一点及び第二点)について。

原判決の引用する第一審判決理由によると、上告人は所有家屋の焼失により住宅に窮し、被上告人から本件建物を「他に適当な家屋に移るまで暫くの間」住居として使用するため無償で借受けたと認定した趣旨なることが明らかである。従つて、本件使用貸借については、返還の時期(民法五九七条一項)の定めはないけれども、使用、収益の目的(同条第二項)が定められているものと解すべきである。そして、その「使用、収益の目的」は、当事者の意思解釈上、適当な家屋を見付けるまでの一時的住居として使用収益するということであると認められるから、適当な家屋を見付けるに必要と思われる期間を経過した場合には、たとえ現実に見付かる以前でも民法五九七条二項但書により貸主において告知し得べきものと解すべきである。

ところで、原判決の確定するところによると、本件使用貸借成立は、昭和二〇年一〇月頃であり、告知は昭和二七年三月頃なされたというのであつて、その間前示適当な家屋を見付けるに必要な期間は十分経過したものと認められるから、右告知は有効である。

されば、原判決引用の第一審判決が「使用貸借にあつては貸主は何時でもその物の返還を請求し得る」と判示したのは妥当を欠くが、前記告知を有効と認めた判断は結局において相当であるから、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第三小法廷

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島保 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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