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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)735号 判決 1958年6月24日

上告人 大谷八助

被上告人 川島税務署長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

所論は原判決は売上原価の計算を誤まつた違法あるものであると主張する。けれども、原審は被上告人が争わないので上告人が主張したとおりの売上原価を認定したのであること記録上明らかであるから所論は採用することができない。(原判決は上告人の所得金額を認定するについて売上高を判示差益率によつて計算する方法を採り、棚卸商品と仕入高とによつて売上高を推定する方法を採らなかつたのであるから、売上高が判明している以上期首棚卸高は上告人の所得推定には関係がない。されば原審は一方において期首商品棚卸高を上告人の主張と異る三五万六四三二円と認定したけれども右は所詮原判決に不必要な認定をしたもので判決に影響を及ぼさないものというほかない。)

所論は、また、仕入総額が売上原価総額と一致しても期末に棚卸商品の存在する以上仕入品そのものが売れたものでないことは明らかであるから仕入品の利益率を売上原価に乗じて利益を計算することは不合理であると主張する。もとより仕入品と売上品とは金額が同じであつても品物は必ずしも同じでないこと所論のとおりであるけれども、しかし、特段の事情のない限り仕入品の利益率から売上品利益率を推定することは不合理ではないから、原審の判断を違法とすべき理由はない。所論は理由がない。

同第二点について。

所論は、原判決が被上告人提出の高松国税局長作成昭和二七年分「商工庶業所得標準表」(乙二三号証)により昭和二六年度の上告人の所得を推定したことを非難する、なるほど右標準表は昭和二七年度のもので被上告人が上告人の所得について更正決定をした時に使用したものではないが、政府が所得税法四四条により納税義務者の所得金額を調査するに際しどのような資料を用いたにせよ他の資料によりさきの調査による金額が正当と認められる以上、更正決定は結局正当なものというべきである。原審はこのような意味で右標準表を採用したのであり、そして、原審が昭和二七年度の右標準表と原判決挙示の証拠により昭和二六年度の判示差益率は同二七年のそれと異るべき特段の事情がなく、両者は差異なく同率であつたものと推認し、よつて原更正決定を是認したことは何等経験則その他法令に違反するものではない。所論旨は違憲を主張するが、右は原更正決定ないし原判決の違法を前提とするものであるところ、これらは何ら違法のものでないこと右説示のとおりであるから、違憲の主張は前提を欠くに帰し採用することができない。

同第三点について。

所論は原判決が判示個々の商品についての利益率を認定するに当り証拠判断を誤まつた違法があると主張するが、原判決挙示の証拠によつて判示利益率を認定しても何ら採証法則に違反するものではない。所論は原審が適法にした証拠の取捨判断を非難し原審の認定しない事実を主張するに帰し、採用するに足りない。

同第四点について。

所論は原判決の理由のくいちがいを主張する。なるほど原判決が売上高二七五万七八八〇円と認定し期首商品棚卸高について被上告人の主張に近い三五万六四三二円と認定しながら、売上原価を上告人自認どおり二二八万八二九三円と認定していることは一見理由のくいちがいのように見えるが、仔細にこれをみると、第一点で説示したように、原判決は上告人の所得金額を認定するについて当事者間に争のない売上原価を基礎とし、これに認定にかかる差益率を乗じて計算する方法によつたのであり、従つて期首棚卸高がいくらであつたかは原判決の利益推定には関係がなく、所論の点は結局原判決に影響を及ぼさないものということができる。所論は理由がない。

同第五点について。

所論は判断遺脱を主張するが、記録によると、原審で被上告人は、択一的に、第一、収入より必要経費を差し引いて所得額を算定する方法によつても、あるいは第二、資産負債生活費等の増減及び支出高より間接に所得を認定する方法によつても上告人の昭和二六年度所得額は原更正決定額三一万九〇〇〇円をはるかに超えると主張したのに対し、原判決は右第一の方法によつて所得額を推認したのであること明らかである。防禦者である被上告人側のかような趣旨の主張に対し原審がその前者を認容して被上告人に有利な判決をする場合においては、後者が右推認を覆えすに足るものでない限り、必ずしもその後者について判示するを要しないのであり、これを上告人の側から判断遺脱であるとする主張は採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 垂水克己 島保 河村又介)

上告理由書<省略>

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