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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)758号 判決 1958年6月03日

主文

原判決および第一審判決中、被上告人主張の(二)の貸金(元金合計五三、〇〇〇円およびこれに対する遅延損害金)の請求に関する部分を左のとおり変更する。

上告人は被上告人に対し、被上告人から「金額一〇〇、〇〇〇円、昭和二五年一二月三一日附、有馬信用組合振出」の小切手一通の返還を受けるのと引換に、金五三、〇〇〇円およびこれに対する昭和二七年一月一日以降完済まで年一割の割合による金員を支払うこと。

前記貸金に関する被上告人のその余の請求は棄却する。

上告人のその余の上告は棄却する。

訴訟の総費用は、これを二〇分し、その一を被上告人の負担とし、その余を上告人の負担とする。

理由

上告代理人松永二夫の上告理由について。

原審の認定によれば、被上告人主張の本件(二)の貸金については、上告人は、支払確保のため、被上告人に対し昭和二五年一二月末頃、主文第二項記載の小切手一通を交付しているのである。そして、このように貸金債務確保のために小切手が交付された場合、債務者は債権者からの、貸金請求に対しては、特段の事由がないかぎり、右小切手の返還と引換に支払うべき旨の抗弁をなし得るものと解するを相当する(大審院昭和一三年一一月一九日言渡判決参照)。ところで、上告人は原審において、本件(二)の貸金については、右小切手の返還を受けるのと引換に支払うべき旨の同時履行の抗弁を提出したのであり、これに対し、原判決は、右小切手については消滅時効が完成した事実を認定し、その結果、右貸金債権の行使については、もはや小切手の返還との引換を要請すべき理由は失われたものとして、上告人の前記抗弁を排斥したことは、判文上明白である。しかし、原判示のような時効完成の事実は、原審において、なんら被上告人の主張しなかつたところであるから、原判決は当事者の主張しない事実を認定した違法があり、右違法は原判決の主文に影響することは明らかである。それ故、論旨は理由があり、原判決は、この点において一部破棄を免れない。

よつて、当裁判所は、原判決の確定した事実に基き、自判すべきものと認め、民訴四〇八条、三八六条、三九六条、三八四条、九六条、九二条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

裁判官本村善太郎は、退官につき、合議に関与しない。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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