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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)2032号 判決 1956年7月03日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人亀岡秀二郎の上告趣意について。

所論は、事実誤認の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(そして所論について、記録を調べてみると、第一審判決挙示の証拠を総合すれば、原判決が控訴趣意特にその第二点について判示するところは相当であって、誤とは認められない。所論は、第一審判決が引用する被告人の藤井署長に対する申出の言葉を指摘して原審の判断を非難するが、この部分のみを切り離して事を論ずるのは当らない。なお所論は大審院判例を引用するが、原判決はこの判例となんら相反する判断はしていない)。

弁護人小脇芳一、同亀岡秀二郎の上告趣意第一点について。

所論は、法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお刑法一九八条、一九七条の二に定める賄賂供与申込の罪は、申込者において公務員の職務に関し請託を為し、その代償として第三者に利益を供与する申込をすることによって成立し、本件のような警察署長とその属する国家地方警察の警察署(岡山県後月地区警察署)との関係についていえば、その警察署はここにいう第三者に当るものと解するを相当とする(昭和二七年(あ)第四九六七号同二九年八月二〇日第二小法廷判決、集八巻八号一二五六頁参照)。そして第一審判決挙示の証拠を総合すれば、被告人に判示事実を認めるに十分であって所論のような違法はない。

同第二点について。

所論は、判断遺脱を主張し合せて憲法一四条違反を主張する。しかし賄賂供与申込の罪は、第一点に説示したように申込者の一方的行為により成立するのであるから、申込の趣旨が相手方たる公務員に認識されなかったとしても、相手方に対して認識し得べき状態においてこれをなすにおいては成立するものと解するを相当とし、同趣旨の原判示に誤はない。従って所論のような判断遺脱はない。また本件において警察署長の認識の有無は前示のように被告人の罪の成立に消長がないところ、右署長が有責なることを仮定してこれを理由とする憲法違反の主張は、適法な上告理由と認められないのみならず、同一または類似の犯罪に関係ある多数の者のうち一人が検挙されず、または起訴されなかった場合でも、これをもって憲法一四条に違反するといえないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかであるから、所論は採用できない(昭和二三年(れ)第四三五号同年一〇月六日大法廷判決、第二巻一一号一二七五頁。昭和二八年(あ)第三二一号同二九年六月二二日第三小法廷判決各参照)。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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