大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)154号 判決 1955年11月29日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人樋口俊二の上告趣意第一点について。

所論は、刑訴三二一条一項二号後段の規定は、憲法三七条二項に違反し無効であり、原判決も憲法に違反すると主張する。しかし、所論は、原審で主張、判断されていない事項に関する主張であるのみならず、憲法三七条二項が、刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられると規定しているのは、裁判所の職権により又は当事者の請求により喚問した証人につき、反対尋問の機会を充分に与えなければならないという趣旨であって、被告人に反対尋問の機会を与えない証人その他の者の供述を録取した書類を絶対に証拠とすることを許さない意味をふくむものではなく、従って、法律においてこれらの書類はその供述者を公判期日において尋問する機会を被告人に与えれば、これを証拠とすることができる旨を規定したからといって、憲法三七条二項に反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例が示すところであるから(昭和二三年(れ)八三三号同二四年五月一八日宣告、集三巻六号七八九頁)、刑訴三二一条一項二号後段の規定が違憲でないことはおのずから明らかである。そして、本件において、第一審裁判所は、所論中畝梅二、坂本弘を公判廷において証人として尋問し(記録一六丁以下)、被告人及び弁護人に反対尋問の機会を与えた上その各証言と共に右両名の検察官に対する各供述調書を被告人の証拠とすることの同意を得て(同一四丁)、証拠に採用しているのであるから、これを是認した原判決には所論のような違憲はなく、論旨は理由がない。

同第二点について。

所論も、原審において主張、判断のない事項に関する主張であるばかりでなく、中畝梅二、坂本弘の検察官に対する各供述調書は、第一審公判において、被告人がこれを証拠とすることに同意していることは前記のとおりであり、被告人が書面を証拠とすることに同意した場合には、刑訴三二五条に従ってその書面に記載された供述の任意性の調査を必要としないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(あ)一三三三号同二六年六月七日第一小法廷決定、集五巻七号一二四三頁)。そして、第一審裁判所は、その裁量により右各供述調書に相当性があると認めてこれを証拠に採用したものであるから、これを是認した原判決には所論のような違法も認められない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例