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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)125号 判決 1955年7月05日

主文

原判決を破棄し本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人銭坂喜雄の上告理由第四点について。

上告人は第一審において、本件公正証書記載の金一三〇、〇〇〇円について消費貸借の成立を認めたが、第二審にいたり、消費貸借に際し、金一九、五〇〇円を天引されたから、消費貸借は金一一〇、五〇〇円につき成立したものと主張するにいたつたこと、しかも右金一九、五〇〇円が天引されたことについては、すでに上告人が第一審に提出し、陳述した訴状、昭和二六年六月五日および同年九月一〇日附の各準備書面に記載されていることは、いずれも記録によつて認めることができる。してみれば、上告人主張の事実は、本件消費貸借の額面は金一三〇、〇〇〇円になつているが、上告人はその成立に際し金一九、五〇〇円を天引され、金一一〇、五〇〇円を受け取つたにすぎないというのであつて、上告人の第一審における金一三〇、〇〇〇円につき消費貸借の成立したことを認める旨の陳述も、第二審における金一一〇、五〇〇円につき消費貸借が成立した趣旨の陳述も、ともに本件消費貸借が成立するに至つた事実上の経過に基いて上告人が法律上の意見を陳述したものと認めるのが相当であつて、これを直ちに自白と目するのは当らない。けだし消費貸借に際し、利息の天引が行われたような場合に、幾何の額につき消費貸借の成立を認めるかは、具体的な法律要件たる事実に基いてなされる法律効果の判断の問題であるから、天引が主張され、消費貸借の法律要件たる事実が明らかにされている以上、法律上の効果のみが当事者の一致した陳述によつて左右されるいわれはないからである。従つて法律上の意見の陳述が変更された場合、直ちに自白の取消に関する法理を適用することは許されないといわなければならない。なお本件消費貸借において天引利息があつたとすれば、天引利息中旧利息制限法の制限の範囲内の金額と現実の交付額との合算額につき消費貸借が成立すると解するのは、当裁判所の判例とするところであるから(昭和二七年(オ)第九六〇号同二九年四月一三日第三小法廷判決、集八巻四号八四〇頁)、本件においてもこの趣旨に従い、まず上告人が現実に交付を受けた金額を確定し、その上で本件消費貸借は金何円につき成立したかを判示すべきものであつて、原審は、自白に関する法律の適用を誤つた違法があるとともに理由不備審理不尽の違法があるに帰し、この点において論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて他の論点について判断することを省略し、民訴四〇七条に従い全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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