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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)174号 判決 1950年7月04日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は末尾添附別紙記載のとおりであつて、これに対する判断は次のとおりである。

第一点について。

原判決は挙示の証拠によつて昭和一〇年八月一日当事者間に締結せられた本件賃貸借契約に際して作成せられた「建物貸借契約証書」(甲第一号証)第一一項の「賃借期間中に乙の責任に非る原因に依り家屋が火災其の他災厄に罹りたるときは甲(被上告人)は更に新築して乙(上告人)に之を賃貸すべきこと尚ほ官公署の命に依り他に移動する場合も亦右趣旨に依るべきこと」との条項中には、本件の如く防空法による命令で建物が強制的に除去される場合を包含しない趣旨であることを確定し、以て被上告人は右特約に基づいて上告人に対して本件宅地上に建物を新築して賃貸する義務のないことを判示したものであつて、原判決の証拠資料によれば、右契約の趣旨を原判示の如く解釈することについては、何等経験則及び条理に反し不合理と認むべき点は存しない。罹災都市借地借家臨時処理法が疎開建物と罹災建物とを同一に取扱い、罹災建物又は疎開建物の賃借人であつた者にその敷地の新築建物について優先賃借の権利を与えていることの故を以て、所論の如く右契約条項中の災厄に罹りたるときの中に必然的に防空法による強制疎開の場合を包含せしめて解釈しなければならないといふ何等の根拠もない。論旨は畢竟原審が適法にした契約の趣旨に関する事実認定を非難するに過ぎないものであつて上告適法の理由とならない。

第二点について。

第一点に説示した様に原審は証拠によつて本件契約中には防空法による建物の強制疎開の場合に被上告人において建物を新築してこれを上告人に賃貸すべき約旨を包含していないことを認定したのである。証拠によつて右事実が認められる以上(他の事実認定と相挨つて)原判決主文は充分維持されるのであつて契約条項の類推適用云々の原判示の如きは本件において全く無用蛇足のものであり、これに対する攻撃は原判決主文に影響の無いもので上告の理由にならない。

よつて民事訴訟法第三八四条、第三九六条、第八九条により主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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