大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和22年(れ)303号 判決 1948年3月16日

主文

原判決を破毀する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

被告人辯護人林頼三郎、吉弘基彦、井本臺吉提出の上告趣意書第一點は「我邦の法制では決闘行爲を特殊の罪態と認めて特別法が制定せられ決闘に關するものは総て明治二十二年法律第三十四號「決闘罪ニ關スル件」の適用を受けるものとなって居るのである。而して殺傷の結果の生じた場合は同法第三條の適用に依って刑法傷害罪の規定に照して處斷せらるるのである(昭和六年七月三十一日大審院第四刑事部判決參照)。これ故に判決に於ては通常の傷害罪に該るべき事案なりや又は決闘に關する特別法を適用すべき事案なりやを判斷するに必要な事実を明かに認定せねばならぬのである。然るに原判決の認定に依れば「被告人は……二三口論の末翌四日午後一時市内護国神社附近で改めて喧嘩することとなりその日は一旦別れ翌四日午後一時五分前頃……川崎一男の來るを待ち受け同人と一緒に……松林内に行き同日午後一時三十分頃同所で被告人は前記短刀を抜き放ち右手にメリケンサックを嵌めた川崎一男に立向ひ」云々とあって、通常の傷害と認めたものであるか、決闘行爲に因る傷害と認めたものであるか、明確を缺くのである。從て特別法の適用を受くべきものであるか又は單に通常の刑法に依って處斷すべきものであるか明かでないのであって法律を適用するの基礎となるべき事実上の理由不備の違法あるものと信ずる。」というのである。

よって、原判決を檢討するに原判決は判文自體から觀ると、被告人は川崎一男と合意の上、同人と曽合し、所持の短刀で川崎一男を傷害したことを判示しているので、決闘の事実を認定しているようでもあり、又單純なる傷害致死罪として認定した趣旨の如くにも判讀せられるが、判示事実を擧示の證據、特に、證人倉島傳及び日野浦健の證言内容と比較考量すると、被告人の判示傷害行爲は、むしろ、決闘による爭闘の結果であるとも解せられ、原判決自體果して彼此いずれを認定して判示せる趣旨か不明であるというの外ない。若し本件傷害行爲が、決闘によるものであるとすれば、これに對し、傷害致死罪に關する刑法第二百五條第一項の規定の外、明治二十二年法律第三十四號「決闘罪ニ關スル件」第二條、第三條及び第六條の各規定をも併せて適用處斷すべきは當然であるから、結局、原判決は、法令適用の基礎となるべき事実を明確にしないものというべく審理不盡若くは理由不備の違法あるに歸着する。原判決はこの點において全部破毀を免かれない。よって他の論旨に對する判斷を省略し、なお、右の違法は事実の確定に影響を及ぼすものであるから、刑事訴訟法第四百四十八條の二に從い主文の通り判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例