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最高裁判所第三小法廷 昭和22年(れ)232号 判決 1948年3月30日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人太田金次郎の上告趣意書は「原審は、上告人は燃料用アルコールを水に稀釋して「之を飮用すれば人體に生理上の障碍を與へることがあることを認識しながら」酒の代用として販賣し、爲に之を飮用した藤崎豊松はメチールアルコール中毒の爲め間もなく両眼失明を來し又その頃右豊松からその一部を買受けて飮用した同町の仲田竹は同中毒の爲め死亡した事実を認定し、上告人に對し傷害致死並に傷害罪として懲役二年の判決を下したのである。記録を閲するに原審が證據として引用した證人藤崎豊松に對する豫審訊問調書中、豊松は上告人方に於てアルコールを賣捌いてゐる事実を知り(記録第二三三丁裏)、之が購入の爲め被告人方に赴き、「飮んでみると酒か燒酎かアルコールかと云ふことが判りますので、私はアルコールだと云ふことは判ってをりました」(記録第二三四丁表九行より同丁裏一行)と陳べてゐる。之に依って是を觀ると、豊松は上告人方に於て販賣せるものはアルコールであると云ふ明確なる認識を有したるものであって、從って豊松に於ても斯かるアルコールを酒の代用として飮用するときは人體に生理上の障碍を與へることがあるといふ認識豫見があったか、若しくは認識豫見が可能であったと云ふべきである。而して仲田竹は豊松より買受けたるアルコールを飮用の結果メチールアルコール中毒死を遂げたることは原審の認むる處であり、豊松の結果に對する認識豫見ある行爲の介入があって始めて致死なる結果を生じたのであって、竹に對するアルコールの販賣については上告人の全く關知せざる處である。然もアルコールの飮用が人體に及ぼす影響は飮用量及び飮用者の健康状態、年齢、性別等により一定せず、之を飮用するときは必ず人體に生理上の障碍を與へるとは限らないから、上告人の行爲は單に未必的な結果発生の可能力を提供したにとゞまる。從って豊松の致死を確定せしめた行爲の介入により上告人の行爲と致死の結果との間の因果關係は中斷せられたと解するのが相當であるにも拘らず上告人を傷害致死罪に問擬するのは法令の適用を誤った違法の判決であり、破毀を免れない。」というのであるが、

特定の行爲に起因して特定の結果が発生した場合に、これを一般的に觀察して、その行爲によって、その結果が発生する虞れのあることが実驗法上當然豫想し得られるにおいては、たとえ、その間、他人の行爲が介入して、その結果の発生を助長したとしても、これによって因果關係は中斷せられず、先きの行爲を爲した者はその結果につき責任を負うべきものと解するのが相當である。

本件において、被告人は、酒の代用として燃料用アルコールを人體に生理上の障碍を與える虞れのあることを認識しながら、藤崎豊松に販賣したというのであって、當時豊松から更にこれを讓受けて飮用する者のあるべきことは、一般的に觀て當然豫想し得られるところであるから、事実、豊松から右アルコールを讓受けて飮用した仲田竹がその中毒によって死亡した以上、被告人が右竹の飮用の事実を豫見したと否とに關係なく、被告人として、竹の傷害致死の結果につき責任を負はねばならない。論旨は理由がない。

尚辯護人伊藤一郎の上告趣意書は法定の期間經過後に提出されたものであるからこれに對しては判斷を示さない。

よって刑事訴訟法第四百四十六條により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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