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最高裁判所第三小法廷 昭和22年(れ)221号 判決 1948年3月09日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人高橋武夫上告趣意書第一點は「原審公判調書を閲するに「裁判長は證據調を爲す旨を告げ一、原審公判調書中證據調の部列記の各書類一、原審公判調の各要旨を告げ其の都度意見を問ひ右各書類中其の供述者又は作成者の訊問を請求する事が出來る旨及利益の證據があれば提出することが出來る旨を告げた」とあるが押收に係る證據品を被告人に示した事迹の見るべきものがない此の押收品は松田義人に對する強盗被告事件に付押收せられた證第一二三號(白包布二十六枚、行李二個、毛布二枚)であるが原判決が證據に引用した第一審公判調書によると判事は該押收品を被告人に示して居り(記録第四十二丁)從て該物件は本件に付ても證據物になって居るから原審に於ては刑事訴訟法第三百四十一條に依り被告人に之を示して意見辯解を求むべき必要があるのである然るに原審公判に於ては其の手續を爲して居ないから刑事訴訟法第四百十條第十三號に違反する仍て原判決は此の點に於て破毀せらるべきものと信ずる」というにある。

しかし刑事訴訟法第四百十條第十三號に法律の規定により公判廷において取調ぶべき證據の取調を爲さざりしときとあるのは、同法第三百四十二條の如く、特に法律の明文を以て公判廷において取調ぶべきことを規定した場合に取調をなさなかったときを指すものであって、裁判所が必要と認めない押收の證據物について法定の證據調をしない場合の如きはこれに該當しないものであるから、原判決において、犯罪證明の用に供しない押收物について、法定の證據調をしなかったからとて、所論の如き違法はないものである。そして上告趣意書は、原判決において押收物を證據に引用したと主張するのであるが、記録に徴し原判決は押收物を證據に引用した形跡のないことは明らかであるから論旨は理由がない。

第二點は「原判決は事実理由として「被告人は永野正市外二名と共謀して昭和二十二年四月四日午前二時頃呉市西鹽屋町一丁目八十七番地鳥居原タカヱ(當四十八才)方に行き同家六畳の間で被告人は右タカヱに對して「隠匿物資を出せ」と申向けたが同人は其の様な物はないと答へたので右永野と代る代る同女に拳銃を突付けて脅迫し極度に畏怖させた上其の保管に係る毛布で包んだ包布在中の行李二個及び包布二枚(包布合計二十八枚)を奪い取ったものである」と認定し證據として「一、被告人の當公廷に於ける昭和二十二年四月四日午前二時過頃永野外二名と共に鳥居原タカヱ方に布切れを取りに行き行李二個を盗み取った旨の供述」を援用した仍て原審公判調書を閲するに「答崎本が鳥居原に顔を知られて居るから入れぬと私に申しましたので私は障子を開けて入りかけました處鳥居原の小母さんが寢返りを打って起きた様な氣配が致しましたので氣持が惡いから入らぬと云って私は入らなかったのであります……答私は硝子戸と部屋の間の縁側に立って居りました……答障子を開けた六畳の間の次の四畳の部屋に布切が置いてあったらしく其の部屋に入ったら家人が起きて誰ですかと云った様子でありましたので恐ろしくなりましたので永野は其の場にありました敷布を頭から被りましたが、私は一旦外へ出て中の様子を窺って居りました處崎本が行李二個を持って出たのであります……問其の行李は怎うして運んだか答一個宛松田が居る所まで二度に運びました」とあって被告人自身が判示の「行李二個を盗み取った」事実を認定すべき趣旨は見えない即ち原判決は此の點に於て證據の趣旨を誤解した違法があって破毀を免れないと信ずる」というにある。

しかし原審公判調書によれば、被告人は原審公判において裁判長より一審判決摘示の犯罪事実を示された上それについて辯解を求められたのに對し、其通りで事実に相違はないと答えていることが明らかである。そして一審判決摘示事実は昭和二十二年四月四日午前二時頃永野等と共謀の上鳥居原タカヱ方に行き行李二個と包布二枚を強取したというのであるから原審判決において被告人は原審公判においてこれと同趣旨の供述即ち「昭和二十二年四月四日午前二時過頃永野外二名と共に鳥居タカヱ方に布切れを取りに行き行李二個を盗み取った」旨の供述をしたものと認め、これを證據に引用したものであることがうかがわれる。なお被告人は原審公判において所論の如き供述をしたことは認められるが所論被告人の供述によっても被告人は永野等と共に鳥居原方から行李二個を盗み取った旨を供述したものと認めることができる。所論の如く、鳥居原の屋内から行李二個を屋外に持ち出したのは崎本であるとしても被告人はその行李を松田の居る所まで運んだと述べているのであるから原審判決において被告人は永野外二名と共に行李二個を盗み取った旨供述したものとしてこれを證據に引用したものであって、所論の如き證據の趣旨を誤解したものとは認め難いから論旨は理由がない。

よって刑事訴訟法第四百四十六條により主文の如く判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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