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最高裁判所第三小法廷 平成8年(オ)539号 判決 1999年7月13日

上告人

浅津平

右訴訟代理人弁護士

中島三郎

中島志津子

被上告人

冨田良太郎

右訴訟代理人弁護士

三上孝孜

國本敏子

梅田章二

脇山拓

主文

原判決を破棄し、被上告人の主位的請求を棄却する。

被上告人の予備的請求につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

第一項の部分に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人中島三郎、同中島志津子の上告理由について

一  所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯するに足りる。これによれば、本件の事実関係の概要等は、次のとおりである。

1  大西甚太郎は、昭和二四年当時、第一審判決別紙物件目録五記載の土地(以下「一三八一番一の土地」という。)、これに隣接する大阪府北河内郡枚方町大字村野一三八一番地の五の土地(以下「旧一三八一番地の五の土地」という。)のほか、右各土地上に存在する木造の長屋を所有していたが、同年一二月二日、被上告人に対し、一三八一番一の土地を売却した。

2  大西は、昭和三二年五月二八日、被上告人に対して旧一三八一番地の五の土地のうち前記目録三及び四記載の各部分(以下、それぞれ、「本件東側通路」、「一三八一番五の土地」といい、被上告人所有の各土地を合わせて「被上告人所有地」という。)並びに四戸から成る前記長屋のうち被上告人所有地上にある三戸(以下「旧被上告人所有建物」という。)を、高橋貞良に対して旧一三八一番地の五の土地のうち公道と約13.42メートルにわたって接する残りの部分(以下「上告人所有地」という。)及びその上にある前記長屋のうちの残りの一戸(以下「旧上告人所有建物」という。)を売却した。右各売却に係る上告人所有地と被上告人所有地の位置関係は、第一審判決別紙図面(一)のとおりであり、右のころ、旧一三八一番地の五の土地については前同所一三八一番五及び同番九の各土地に分筆する登記が、前記長屋については右のとおり分棟する登記がされている。なお、旧被上告人所有建物の居住者は、公道との出入りに関し、幅員1.45メートルの本件東側通路のほか、上告人所有地のうち西側の前記目録二記載の幅員1.25メートルの部分(以下「本件西側通路」という。)を利用していた。

3  上告人所有地及び旧上告人所有建物は、昭和三八年三月二五日、高橋から青瀨諭に対して譲渡され、さらに、昭和四三年六月三日、青瀨から上告人に対して譲渡された。

4  上告人は、昭和四七年八月、旧上告人所有建物を取り壊し、同年一一月、建物(以下「上告人所有建物」という。)を建築した。上告人所有建物は、上告人所有地を敷地とし、その東側の幅員約1.2メートルの部分(以下「玄関前部分」という。)及び本件西側通路を除く部分に、玄関を東向きに構えて配置され、玄関前部分の南端及び東端に沿って、コンクリートブロック塀(以下「本件ブロック塀」という。)が設置された。

5  被上告人は、平成二年、旧被上告人所有建物が老朽化したため、これを取り壊した。

6  現在、上告人所有建物は、第三者に賃貸されて飲食店として利用されており、被上告人所有地は、更地となっている。なお、上告人所有地及び被上告人所有地の付近は、いわゆる住宅地となっている。

二  本件において、被上告人は、主位的請求として、建築基準法四三条一項本文は建築物の敷地は原則として同法所定の道路と二メートル以上接しなければならない旨定めているところ(以下、右規定が定める原則を「接道要件」という。)、被上告人所有地は、接道要件を満たしておらずその用法に従って宅地として使用することができないから、袋地に当たり、被上告人は上告人所有地のうち玄関前部分に含まれる原判決別紙係争地目録記載の幅員0.55メートルの部分(以下「本件係争地」という。)につき囲繞地通行権を有すると主張し、上告人に対し、右の旨の確認、本件ブロック塀のうち本件係争地上に存在する部分の収去等を求めている。

原審は、次のように判示して、被上告人の主位的請求を認容した。

1  被上告人所有地は、宅地として利用することがその用法に最もかなっているが、現状のままでは、接道要件を満たさないため、建築物を建築することができない。したがって、被上告人所有地は、袋地状態にあるというべきである。

2  本件東側通路は従前からいわゆる生活道路として使用されていたこと、本件ブロック塀のうち本件係争地上に存在する部分の収去に要する費用は二〇万四〇〇〇円程度にすぎず被上告人はこれを負担することを申し出ていること、被上告人は本件係争地を通路として確保することができれば本件西側通路の通行権に関する主張を放棄することを申し出ていること、本件係争地が使用できなくなると上告人所有建物の出入口はやや手狭になり建物の印象が低下するおそれがあるものの、本件係争地を通路に提供することによる損害については上告人は被上告人に対して償金を請求することも可能であることなどを考慮すると、被上告人の本件係争地に関する囲繞地通行権の主張には、理由がある。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

民法二一〇条は、相隣接する土地の利用の調整を目的として、特定の土地がその利用に関する往来通行につき必要不可欠な公路に至る通路を欠き袋地に当たる場合に、囲繞地の所有者に対して袋地所有者が囲繞地を通行することを一定の範囲で受認すべき義務を課し、これによって、袋地の効用を全うさせようとするものである。一方、建築基準法四三条一項本文は、主として避難又は通行の安全を期して、接道要件を定め、建築物の敷地につき公法上の規制を課している。このように、右各規定は、その趣旨、目的等を異にしており、単に特定の土地が接道要件を満たさないとの一事をもって、同土地の所有者のために隣接する他の土地につき接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が当然に認められると解することはできない(最高裁昭和三四年(オ)第一一三二号同三七年三月一五日第一小法廷判決・民集一六巻三号五五六頁参照)。

ところで、本件において被上告人が囲繞地通行権を主張する理由は、被上告人がその所有地と公道との往来通行をするについて支障が存在するからではなく、現存の通路幅では本件係争地の奥にある被上告人所有地上に建築物を建築するために必要な建築基準法上の接道要件を満たすことができないという点にある。しかしながら、前記の事実関係の下において、被上告人が平成二年に旧被上告人所有建物を取り壊し被上告人所有地に対して接道要件に関する規定が適用されることとなった当時、本件係争地は既に建築基準法上も適法に上告人所有建物の敷地の一部とされていたのであって、後に、もし、これを重ねて被上告人の建築物の敷地の一部として使用させたならば、特定の土地を一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物についてのみその敷地とし得るものとする建築基準法の原則(同法施行令一条一号参照)と抵触する状態が生じ、上告人所有建物は同法所定の建築物の規模等に関する基準に適合しないものとなるおそれもある。そのような事情をも考慮するならば、右被上告人の主張を直ちに採用することのできないことは明らかであり、原審の前記判断は、奥の土地の所有者の必要を配慮する余り、法令全体の整合性について考慮を欠くものといわなければならない。

以上の次第で、原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものというべく、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、右に説示したところに徴すると、被上告人の主位的請求は理由がないから、これを棄却すべきである。しかし、被上告人の予備的請求については、更に審理を尽くさせる必要があるから、同請求につき本件を原審に差し戻すこととする。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣 裁判官奥田昌道)

上告代理人中島三郎、同中島志津子の上告理由

原判決には、判決の結果に影響を及ぼすことの明らかな法令違反、判例違反、及び理由不備ないし理由齟齬の違法があり、破棄を免れない。以下にその理由を述べる。

一 原判決は民法二一〇条の解釈、適用を誤った違法がある。

1 被上告人所有地の袋地性

(一) 被上告人所有地は、枚方市村野本町一三八一番一の土地と同番五の土地、及び同番九の土地中上告人所有地を除いた部分からなる一団の土地である(原判決の引用する第一審判決三頁六行目以下)。

右土地のうち、一三八一番九の部分(原判決のいう「本件東側通路」部分)は府道に面していて、一三八一番一及び同番五の両土地から公路に至る通路として利用されてきた。もとは右両土地及び上告人所有地にまたがって四軒長屋が存在し、その居住者らは、本件東側通路部分を生活通路として使用し、被上告人所有地の、宅地としての効用は全うされていた。つまり、被上告人所有地は本来袋地ではないのである。

(二) 右に加えて、囲繞地利用者としての上告人側には、次のような事情が存する。

(1) 右長屋のうちの北側の一戸とその敷地部分が、昭和三二年ころ高橋貞良に、昭和三八年三月右高橋から青瀬諭へ、昭和四三年六月右青瀬から上告人へと、順次譲渡されたが、この譲渡部分すなわち上告人所有地の東端には、古くから板塀があって、本件東側通路部分との境界を劃していた。

上告人は昭和四七年一一月ころ上告人所有地上の旧建物を取り壊して二階建の店舗付住宅を建築した。そして、その際右板塀を撤去して現在のコンクリートブロック塀を設置したが、東側ブロック塀の位置は旧板塀の位置と一致しており(原審における控訴人本人調書速記録三丁表一ないし六行目)、本件東側通路部分の幅員は元の儘維持されている。

(2) 上告人は、右建築に際し、本件東側通路の存在を前提として、建物の東側を入口にし、東側ブロック塀と建物との間を空けて、玄関アプローチとしての空間を特に設けたのであり、この空間は右建物に必要不可欠である。

右建物は、当初は歯科診療所が、次いで中華料理店が、そして平成七年三月からは喫茶店「遊遊」が賃借使用しており(平成七年八月一八日付被控訴人準備書面添付の写真参照)、右「遊遊」は、現在この空間を利用して、飲料の自動販売機とともにベンチを備え、自動販売機の客がベンチに腰掛けて飲む仕組みになっている。「遊遊」にとってこの空間を奪われることは、営業上、生活上甚大な打撃である。

かように、上告人は既存通路の存在を前提とし、二十数年来適法な土地の利用関係を積み上げてきているのであり、かくして形成された上告人の既存の生活利益は当然尊重されなければならず、この既存の権利を覆滅させてまで、法的強制力をもって囲繞地通行権を認めるのは勿論不当である。

(3) 原判決は、本件係争部分(原判決添付図面イロヲルイの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分)の面積が2.365平方メートルに過ぎないといって、その狭小さを強調するけれども、しかし、もともと上告人所有地は、実測面積が57.65平方メートル(甲八号証の分筆測量図参照、登記面積が異なるのは地目が鉄道用地のため地積の端数切捨が繰りかえされたことによる)しかない狭い土地なのであり、この中から本件係争部分を削られる影響は大きい。ましてや、その位置が前述のとおり建物の入口付近なのであるから、上告人の蒙る打撃はなおさらである。

(三) 他方、被上告人側の事情としては次の事実が挙げられる。

(1) 被上告人は、前記高橋に対し上告人所有地を分割譲渡した当事者であり、右譲渡に際して、本件東側通路部分を譲渡対象から外し、これを、一三八一番一及び同番五の両土地から公路に至る通路として、わざわざ被上告人の所有に残したのである。

なお、原判決(その引用する第一審判決)は、右高橋に対する分割譲渡を行ったのは被上告人ではなくて大西甚太郎だとし、大西が、昭和三二年五月ころ旧一三八一番五の土地のうち、上告人所有地に該当する部分を高橋に、その残地すなわち現一三八一番五に該当する部分と本件東側通路部分を被上告人に、それぞれ売り渡したのだと判示し、登記簿上の記載も右に合致する。しかし、第一審における原告本人尋問の結果では、実際には、昭和二四年ころ一三八一番一の土地と共に旧一三八一番五の土地及び地上建物も一括して被上告人が大西から取得したもので、高橋への分割譲渡も被上告人自身がなしたものと供述しているのであり(同本人調書速記録一丁表五行目ないし二丁表一二行目、六丁裏二ないし一二行目)、この供述内容が自然かつ理に適っていることに鑑み(原判示のように被上告人が一三八一番一の土地を昭和二四年に、一三八一番五の土地を昭和三二年に購入したとするならば、当然両者の境界を認識して購入した筈であるのに、実際は両土地にまたがって四軒長屋が存在し、被上告人は両土地の境界を識別できなかった)、事実は右の供述どおりだというべく、これに関する原審の前記認定判断は、採証法則、論理則に反し違法である。

(2) 右のとおり、被上告人は本件東側通路部分をわざわざ通路用に残したのであり、従って、上告人所有地を買い受けた高橋は、既設通路があって、購入土地については、既設通路の拡幅等それ以上の通行権の負担が生じることはないとの前提の下に、被上告人との間で売買価格を決定し、上告人所有地を購入したのである。そして、その後青瀬及び上告人も、高橋同様、上告人所有地に通行権の負担がつかないとの前提で、相応の対価を支払って同土地を取得したのであり、右対価には、将来の通行権負担による価値の減少などという要素は全く折り込まれていない。なお、原判決は「償金」に言及するが、償金の支払いは当事者の私的自治に委ねられ実効性は殆ど見込めない。

これに対し被上告人は、昭和二四年ころ一三八一番一並びに分筆前の一三八一番五の土地及びその地上建物を一括して大西から所有権取得したところ、その取得原因は、いわゆる借金の返済代わりというもので(第一審における原告本人調書速記録二丁表一ないし五行目)、恐らくは、この種代物弁済の常として、右不動産の客観的価値よりも数倍劣る低価格で取得したに違いない。この点でも、被上告人には、囲繞地通行権による保護を与える必要はないというべきである。

(四) 以上述べてきたように、本件においては、①被上告人所有地が本件東側通路部分において公路に通じており、往来通行に支障のないこと、②上告人は上告人所有地の東側境界線上にコンクリートブロック塀を設置したが、これにより右の既存通路には何らの変化も与えてはいないこと、③上告人は既存通路の存在を前提として、これに見合う設計で上告人所有地に建物を建築し、右建物の賃借人は本件係争部分に自販機やベンチを備えて利用しており、これを奪うときは同人の生活利益、営業利益を著しく害する結果になること、④被上告人は一団の土地のうち上告人所有地を分割譲渡した当事者であり、右譲渡に際し建築基準法令上の接道部分を確保しなかった責は被上告人に帰せらるべきこと、等々、幾多の事情が存し、これら諸事情のもとでは、被上告人所有地は、民法二一〇条所定のいわゆる袋地とは到底いえない。

2 囲繞地通行権の幅員と建築関係法令、判例違反

(一) 原判決は、本件東側通路部分の幅員が1.45メートルだと認定したうえ、この幅員が建築基準法四三条一項所定の二メートルに充たない点を取り上げ、これを、袋地判定の重要な根拠資料にしている。

しかし、建築基準法四三条一項が「建築物の敷地は道路に二メートル以上接しなければならない」と規定したのは、防災等公益上の行政目的から、建物の敷地となる土地の用法を制限するものであり、これに対し、囲繞地通行権は、隣地間の土地利用調節のために認められた私法上の権利であって、両者はその目的、趣旨を異にする。従って、囲繞地通行権の存否や範囲を定めるについて建築基準法の規制を考慮する必要はないものというべく、その結果建物の築造ができなくなることがあっても、それは、公共の福祉を維持する見地からの財産権に内在する制約の結果として、当該土地に課せられたものであり、やむを得ないといわなければならない。

(二) 右につき、最高裁昭和三七年三月一五日判決(民集一六巻三号五五六頁)は、建築基準法に基づき制定された地方自治体の条例の接道義務に関する規制を、囲繞地通行権の幅員決定の判断に当たり考慮すべきかが問題となった事案において、「建築関係諸法令に基づく必要性は通行権そのものの問題ではない」旨判示し、否定的立場を明らかにした。

原判決は、右最高裁の判例と相反し、民法二一〇条の解釈、適用を誤ったものである。

二 証拠手続きの法令違反

原審は、右のとおり建築基準法上の接道義務を重視して袋地判断をしたのであるが、この前提事実、すなわち被上告人所有地の公道に接する部分の幅員についての事実認定は、以下のとおり、採証法則に反する誤ったものであり、理由不備の違法がある。

1 本件東側通路部分の土地の範囲

(一) 原判決は、本件東側通路部分すなわち一三八一番九の土地のうち上告人所有地を除いた部分(原判決添付図面イリヌロイの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分)の範囲を確定するに当たり、何ら首肯しうる証拠を示していない。すなわち、

(1) 本件東側通路部分は、一三八一番九の土地から上告人所有地を除いた部分であるところ、上告人所有地の場所的範囲は明確であるから、右通路部分の西側境界線すなわち上告人所有地と本件東側通路部分との境界線(原判決添付図面イロ線)は確定できるけれども、反対側の東側境界線が、果して原判決のいうような添付図面リヌ線であるかどうかは、極めて疑わしい。

(2) 原判決は、「控訴人は東側隣接地所有者石井隆夫と第甲二三号証のとおり後記ブロック塀東側線から1.45メートルの石井宅雨落ち線を両者所有地の境界とする旨合意している」と判示している(原判決三丁表八行目以下)。

ところが、右に掲げる甲二三号証の記載文言は、

一三八二番四と、一三八一番五(及びこれに接続する同番一)との境界が、石井宅の雨落ち線であること

右境界線(雨落ち線)が右リヌ線であること

となっていて、右文面には、本件東側通路部分の土地地番たる一三八一番九の記載はどこにもないのである。

かように、原審の右認定判断は、その挙示する証拠からは到底認定できず、採証法則違反ひいては理由不備の違法があるといわざるをえず、これが判決の結論に影響を及ぼすのは明らかである。

(3) また、甲二三号証は成立に争いがある書証であるのに、原判決は書証の成立を確定することなく、これを証拠として前記境界線の認定をしたのであり、この違法も看過できないものである。

(二) 本件東側通路部分の地番が一三八一番九であり、同土地と東側の石井所有地とが地番上隣接し合っていることは確かである。

そして、原判決は、右両土地の境界を、石井宅の雨落ち線で両者が合意したとし、それを理由に右雨落ち線を境界に認定している。しかし、そもそも一筆の土地の範囲というものは客観的に定まっているものであり、従って、異なった筆との土地の境もまた同様に既に定まっているのであって、それは公的なものであり、私人が勝手に動かすことは許されない性質のものである。原審の右認定は、かかる境界の法的性質を無視した違法な判断といわざるをえない。

なお、本件東側通路部分その他被上告人所有地の各筆界線は、境界標識とてなく、現地での特定は不能である。被上告人も第一審における平成五年三月五日付準備書面において、被上告人所有地の東側境界線(当時の隣接地所有者は石川マサと竹川一雄)が不明であると述べているのである(同準備書面二丁表末行)。

2 本件東側通路部分の幅員

(一) 本件東側通路に該当する一三八一番九の土地の東側境界線は、右に述べたとおり明確ではなく、この確定如何により、被上告人所有地の府道に接する部分の幅員が左右され、それに伴い判決の結論が異なってくる理である。

原判決は本件東側通路の幅員を1.45メートルだと認定したが、それは、石井の建物の雨落ち線までの距離であって、建物外壁までの距離を測ると二メートルは優にある(検甲二四号証参照)。

(二) 右に関連して原判決は、被上告人所有地の接道部分が建築基準法上の接道幅に不足するため、建築確認が受けられず、被上告人所有地に建物を建築することができないといい、そして本件係争部分に通行権を認めるならば建物建築が可能だと結論づけているのであるが、これは、建築基準法四三条一項、同法六条の解釈を誤ったものというべく、この違法が判決の結論に影響を及ぼすのは明らかである。すなわち、

(1) 建築基準法四三条一項の規定は「建築物の敷地は道路に二メートル以上接しなければならない。ただし、建築物の周囲に広い空地があり、その他これと同様の状況にある場合で安全上支障のないときは、この限りでない」となっている。

右のただし書に該当するかどうかは、現実に建築確認申請書を受理した建築主事(枚方市の建築主事)の判断にかかるが、本件の場合、本件東側通路の奥行きは僅か4.3メートルで府道のすぐ間近であり、また、通路の幅員が1.45メートルといってもそれは隣家の雨落ち線までで、軒下を入れると二メートルに達するから、この状況下では防災上も支障がないというべく、右ただし書を適用して建築確認処分が行われる公算が大いにある。ちなみに建築主事は、確認申請にかかる申請敷地や公道の存否、接道義務の充足等の外形的事項について審査すれば足り、申請敷地の使用権の有無まで審査する義務も権限もないのである。

(2) 上告人はすでに、甲七号証の建物の建築の際、本件係争部分を含め上告人所有地全部を右建物の敷地として建築確認処分を受けている。したがって、被上告人が、被上告人所有地に建物を建築するため、本件係争部分を当該建物の敷地として建築確認申請をすると、敷地の重複申請となり、そのような確認処分は許されないはずである。

そして、もし建築主事が既存の確認処分に気付かないで、被上告人に対し敷地の重複確認をしたならば、今度は、上告人の既存建物が敷地との関係で建蔽率を超える違法建築物となり、将来、建物を建替える場合に、本件係争部分を建物の敷地に入れることができず、建蔽率との関係で大きな痛手を蒙る結果になるのである。

三 理由不備、理由齟齬

原判決は、「事案の概要」において、本件東側通路部分すなわち原判決添付図面イリヌロイの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分が、枚方市村野本町一三八一番九の土地の一部であると認定しておきながら(原判決二丁裏五行目ないし三丁表五行目、第一審判決三頁六行目以下)、他方、「当裁判所の判断」の中で、「控訴人所有地は、被控訴人所有地を分筆した残地である(原判決八丁表六、七行目)」「控訴人所有地が被控訴人所有地とその残部に分筆された(原判決一〇丁裏一一行目ないし一一丁表一行目)」と判示しており、結局、本件東側通路部分の土地地番が、前段では一三八一番九であり、後段では一三八一番五だという、相矛盾する判断を行った。これは民事訴訟法三九五条六項の理由不備ないし理由齟齬に該当する。

以上

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