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最高裁判所第三小法廷 平成8年(あ)619号 決定 1999年7月06日

主文

本件上告を棄却する。

理由

一  弁護人浅井洋ほか二名の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

二  なお、所論にかんがみ、職権で判断する。

原判決及びその是認する第一審判決の認定によれば、住友銀行青葉台支店、次いで同銀行大塚支店の各支店長であった被告人は、右各支店の顧客らに対し、ノンバンク等から借入れをした上、その借入金をもって、いわゆる仕手筋と目される甲野太郎又は乙山二郎が支配する会社等に、仕手株等を八割ないし一〇割という高い掛目で担保にし、あるいは無担保で、一〇億円ないし五〇億円という巨額の融資をするよう勧誘するなどして、顧客らと右会社等との間で一一回にわたり金銭消費貸借契約を成立させ、融資の媒介をしたというのである。

出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)三条が、金融機関の役員、職員その他の従業者に対して、その地位を利用し、自己又は当該金融機関以外の第三者の利益を図るため、金銭の貸付け、金銭の貸借の媒介又は債務の保証をすることを禁止している趣旨は、そのような行為が、当該金融機関の信用を失墜させ、ひいては一般預金者大衆に不慮の損害を被らせるおそれがあるため、これを取り締まろうとする点にあると考えられる。このような同条の立法趣旨等にかんがみると、ここにいう金銭の貸付け、金銭の貸借の媒介又は債務の保証は、金融機関の役職員等が、その業務の遂行としてではなく、自己の責任と計算において行うものであることを要するものと解すべきである。

被告人による本件融資の媒介は、その融資先、融資の条件等に照らし、銀行の業務として許容されるものでないことは明らかであり、そのために被告人もそれを意識して、銀行本部に対し融資の実態が明らかにならないように工作していたことが認められる。また、被告人が媒介した一一回の融資のうち三回に際しては、その融資資金の一部が住友銀行から顧客らに対し正規の手続を経て貸し付けられているほか、被告人がノンバンクに融資先として右顧客らを紹介したことによって、ノンバンクが同銀行に対して協力預金をしたことがあるけれども、これらの事情は、本件融資の媒介の準備的な段階に関することであり、それが銀行の業務として行われたものであるからといって、それのみによって融資の媒介行為までが銀行業務の遂行としてされたことになるものとはいえない。このように、本件融資の媒介は、銀行業務の遂行としてではなく、自己の責任と計算において行われたものということができるから、出資法三条の禁止する行為に該当するものと認められる。

したがって、銀行の支店長であるために有する便宜かつ有利な立場を利用し、自己及び銀行以外の第三者の利益を図るために行った本件融資の媒介につき、出資法三条違反の罪が成立するとした原判決の判断は相当である。

三  よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)

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