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最高裁判所第三小法廷 平成7年(行ツ)110号 判決 1997年3月25日

愛知県幡豆群幡豆町大字東幡豆字上床崎二八番地

上告人

丸中縫工株式会社

右代表者代表取締役

天野恒夫

右訴訟代理人弁護士

中田健一

上田和孝

中村成人

愛知県西尾市熊味町南十五夜四一-一

被上告人

西尾税務署長 石田彰

右指定代理人

海老原明

右当事者間の名古屋高等裁判所平成六年(行コ)第二一号法人税更正処分取消等請求事件について、同裁判所が平成七年三月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田中健一、同上田和孝、同中村成人の上告理由第一点及び第二点について

法人税法三四条一項の規定の趣旨、目的及び法人税法施行令六九条一号の規定内容に照らせば、法人税法三四条一項所定の「不相当に高額な部分の金額」の概念が、不明確で漠然としているということはできないから、所論違憲の主張及び同項を限定して解釈すべきであるとする主張は、その前提を欠く、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。趣旨は、独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないで右判決における法令の解釈適用の誤りをいうか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 尾崎行信)

(平成七年(行ツ)第一一〇号 上告人 丸中縫工株式会社)

上告代理人中田健一、同上田和孝、同中村成人の上告理由

第一 (上告理由 第一点)

法人税法(以下「法」という)三四条一項が憲法八四条の課税要件明確主義に反しないとした原判決には、憲法解釈の誤りがある。

一 原判決の判断

原判決は、「法三四条一項の『不相当に高額な部分の金額』それ自体は不確定概念ではあるもの、法の趣旨によりその意義を明確になしうるものであり、しかも政令に定められた内容によって、その判断基準も客観的に明らかになっているといえるから、同条項は、憲法八四条の課税要件明確主義に反するものではない(原判決が五頁で引用する一審判決二六頁)」と判示する。しかしながら、右の判断には、以下に述べるように、憲法解釈の誤りがある。

二 上告人の主張

1 課税要件明確主義と税法規定の解釈姿勢

(1) 周知のように、課税要件明確主義は、課税要件及び租税の賦課・徴収の手続の規定は一義的に明確になっていなければならないという原則であり、憲法八四条の租税法律主義の一内容とされる(定説)。それゆえ、税法では、課税庁の自由裁量を認めるような曖昧な規定を設けることは、本来、許されない(金子宏『租税法・第三版』七七頁)。また、個々の条項の解釈に際しても、厳格な文理解釈が要求され、法規の文言や法文を通常の用語例より拡張した拡張解釈は、許されない(清永敬次『税法・改訂版』三八頁、中川一郎編『税法学体系・総論』八四頁。同旨田中二郎『租税法』八一頁、前掲金子一〇七頁)。例えば、法人税法施行令(以下『令』という)六九条一号に、a当該役員の職務の内容、b当該内国法人の収益の状況、c使用人に対する給与支払状況、d類似法人の役員報酬の支給状況、eその他、に照らして判断せよと明定されているに、ⅰ当該法人の売上金額の対前年比とⅱ売上総利益の対前年比だけで判断するが如き(原判決五頁が引用する一審判決三八頁)、本来的に許されない文理を逸脱した恣意的解釈を行うもので、課税要件明確主義に反することになる。

(2) 租税法律主義とその一内容である課税要件明確主義は、税法学上、刑法における罪刑法定主義及び更正要件明確主義(憲法上の根拠条文は三一条)とアナロージで論じられてきた(「疑わしきは被告人の利益に」と「疑わしきは国庫の不利益に」、法規の範囲を超えた拡張解釈・類推解釈の禁止、厳格解釈など)。これは、罪刑法定主義も租税法律主義もともに近代憲法になって採り入れられた原則であること、税法規定も刑罰規定もともに一般人を名宛人とする行為規範であること、ともに規範に対する違反行為には法的なサンクションが加えられるものであること等、両者に類似性・共通性が見られるからである。しかして、刑罰法規では、第一次的な名宛人は一般的であり、禁止されている行為を一般人に十分予告している必要があるから(構成要件明確主義、構成要件の自由保障機能)、「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめる基準が読み取れ」なければ、当該条項は、犯罪構成要件としての明確性を欠き、憲法三一条に反することになる(いわゆる徳島公安条例事件 最判昭和五〇年九月一〇日刑集二九巻八号四八九頁)。同様に、納税者の申告行為と直結した税法規定では、その第一次的な名宛人は納税者であり、課税の内容さらには各種加算税や税法上の処罰が課される場合か否かを納税者に十分予告している必要があるから(課税要件明確主義、租税規定の予測可能性保障機能)、通常の判断能力を有する納税者の理解において、具体的場合に当該税法規定の適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめる基準が読み取れないときは、当該条項は、課税要件明確主義に反し、憲法八四条に反することになる。

2 法四三条一項の『不相当に高額な部分の金額』は、「法の趣旨によりその意義を明確に」はなしえない。

(1) 原判決も、法三四条一項の『不相当に高額な部分の金額』が不確定概念であることやこの概念が申告時に納税者に判断可能なものでなければならないことは認める趣旨である(原判決が5頁で引用する一審判決二六・二七頁)。問題は、原判決が『不相当に高額な部分の金額』は「法の趣旨によりその意義を明確になしうる」と断じている点である。

(2) まず、法三四条一項の『不相当に高額な部分の金額』なる概念について、

<1> 被上告人は、「類似法人の役員報酬の平均支給額を超える金額」と、

<2> 原判決は、「上告人の売上金額の対前年比(約一・四三倍)を基本とし、これに売上総利益の対前年比(約二・二五倍)を加味して、前年度の役員報酬の一・五倍を超える金額」と、

<3> 上告人は、右条項の曖昧不明確さゆえ合憲限定解釈を施し、「明白かつ著しく高額な金額」と、

同じ法曹でありながら、三者が三様の解釈を展開した。この事実は、法律の専門職である者の間ですら、この概念が明らかでないことの重要な裏付けである。

(3) また、法三四条一項については、税理士側も、課税庁側も、その法文の抽象性ゆえ、それぞれがそれぞれの立場で困惑してきたことは、税務実務上、公知の事実である。例えば、税理士側の困惑については、川原証人が、「どの金額で否認されるか分からないから、税理士さんや納税者が困るんじゃないですか。」との間いに対し、率直に「実務としては困る点はあろうかと思います。」と述べている(川原証人三回九頁)。他方、課税庁側も、運用によって法三四条一項の不明瞭さを何とか補おうと昭和五七年に国税庁が統一的な算定方式を作成したが(甲二の一八〇頁参照)、これも通用性を有することなく挫折してしまっている。かのように、税理士の間でも、課税庁の中でも、どの程度の金額なら『不相当に高額』と言えるのか決め兼ねる状況にあり、この概念は、税務関係者の間ですら明らかではない。

(4) 前述のように、『不相当に高額な部分の金額』なる概念は、法律に携わる者にとっても、税務関係者にとっても明らかでない。かかる概念が、素人である納税者によって「法の趣旨によりその意義を明確に」なしうる道理はない。専門家にもわからないものは、素人にもわからないのである。『不相当に高額な部分の金額』なる概念は、正にその適例である。

3 令六九条一号の「判断基準も客観的に明らか」とはいえない。

(1) 原判決は、六九条一号のa当該役員の職務の内容、b当該内国法人の収益の状況、c使用人に対する給与支給状況、d類似法人の役員報酬の支給状況、eその他、の「判断基準も客観的に明らかになっている」という。しかし、果たしてそうだうろか。

(2)<1> まず、a当該役員の職務の内容は、質、密度・能力・技術・創意・リスク・貢献度などをどう金額的に盛り込むのか不明瞭であり、判断基準として「客観的に明らか」とはいえない。

<2> 次に、b当該内国法人の収益の状況は、収益が「営業利益」「経常利益」「当期利益」「当期未処分利益」のいずれを指すのか、当該年度の利益金の「金額」をいうのか、「収益率」をいうのか、はたまた対前年比なのか、過去何年かにわたる増加率なのか、何一つ明らかでなく、判断基準として「客観的に明らか」といえない。

<3> c使用人に対する給与支給状況も、最高値をいうのか、平均金額をいうのか、分布状況をいうのか、同一勤務内容の者の金額と比較せよというのか、明らかでない。また、上告人のように、アルバイトしかいない社会ではどう適用されるのか全くわからない。したがって、この判断基準も「客観的に明らか」とはいえない。

<4> d類似法人の役員報酬の支給状況は、そもそも「類似法人」の選手基準が課税庁側ですら決まっていない。また、最高額をいうのか、平均値をいうのか、金額の分布状況をいうのか、明らかでない。もとより類似法人の役員報酬など一般に公表されておらず、素人の知る余地はない。以上のように、この判断基準も「客観的に明らか」とはいえない。

<5> eその他(注文では「等」)は、何をもってきてもよいわけだから、そもそも判断基準の体を成していない。原判決のように、いきなり法文にない「売上金額の対前年比」を出してくることさえ起こりうるのである。

(3) 以上のように、aないしeの各判断基準は、それぞれが判断者の裁量によりどのような内容を盛り込むことも可能な状態となっており、どれ一つ判断基準として「客観的に明らか」なものはない。加えて、これら複数の裁量材料から『不相当に高額な部分の金額』を推論するわけであるが、複数の裁量材料のどれがどれだけ金額に影響を与えるかについても客観的な公式は存在せず、ここも判断者の裁量に委ねられている。その結果、原判決のように「売上金額の対前年比(約一・四三倍)を基本とし、これに売上総利益の対前年比(約二・二五倍)を加味して、前年度の役員報酬の一・五倍を超える金額」などという文理から離れた解釈(実質的には立法)が飛び出すことになるのである。

4 まとめ

以上にように、法三四条一項の『不相当に高額な部分の金額』なる概念は、納税者が申告時に「法の趣旨によりその意義を明確に」することは困難であり、かつ、令六九条一号の各判断基準も判断者が裁量により何を盛り込むかこれを金銭的にどれだけと評価するか全く自由な内容となっている。すなわち、同条項は、課税庁の自由裁量を許し、納税者の予測可能性を裏切る不明瞭な概念を定めている。よって、同条項は、憲法八四条の課税要件明確主義に反している。しかるに、原判断は、この点に関する憲法解釈を誤っている。

第二 (上告理由 第二点)

法三四条一項につき、合憲限定解釈を施さない原判決には、憲法解釈の誤りがある。

一 原判決の判断

法三四条一項につき、合憲限定解釈を施さない原判決には、憲法解釈の誤りがある。

「法の趣旨によりその意義を明確になしうる」との前提のもと、同条項につき合憲限定解釈を施す必要性を否定し(原判決が五頁で引用する一審判決二六・二七頁)、同条項の『不相当に高額な部分の金額』を「明白かつ著しく高額な金額」と解する合理的根拠はないと断じた(同二八頁)。このうち、前半部分には憲法解釈の誤りがあり、後半部分には法令解釈の誤りがある。よって、ここでは前半部分の憲法解釈の誤りについて論ずる。

二 上告の主張

1 合憲限定解釈

字義どおり解釈すれば憲法となる法文の意味を限定的に解釈し、法令の効力を救済する解釈手法を合憲限定解釈という(芦部信喜『憲法』二九五頁の脚注)。この解釈手法は、米連邦最高裁で定着した判例理論「憲法判断回避の準則(プランダイス・ルール)」の一準則として位置づけられている(前掲芦布施二九六頁の脚注、佐藤幸治『憲法・新版』三二八頁)。我が国の憲法の判例においても、これと同様の解釈手法を用いたと学説上評価されているものは多い[<1>地方公務員法三七条一項・六一条四号の争議行為のあおり行為に「二重のしぼり」をかけた都教組事件(最判昭和四四年四月二日刑集二三巻五号三〇五頁)、<2>福岡県青少年保護育成条例の「淫行」概念にしぼりをかけた最判昭和六〇年一〇月二三日刑集三九巻六号四一三頁)、<3>関税定率法二一条一項三号の「風俗を害すべき書籍・図画」の「風俗」を「性的風俗」に限定し、「猥褻な書籍・図画」に限定した最判昭和五九年一二月一二日民集三八巻一二号一三〇八頁)、<4>旧道路交通取締法施行令の自動車事故の報告義務を「運転者の刑事責任を問われるおそれのある事故の原因等を含まない」と限定解釈した最判昭和三七年五月二日刑集一六巻五号四九五頁]。したがって、この解釈手法は、我が国においても適用性を有するものと評価できる。

2 法三四条一項への合憲限定解釈の必要性

法三四条一項の『不相当に高額な部分の金額』なる概念が不明確であり、字義どおり解釈すれば憲法八四条の課税要件明確主義に反することについては、第一の二で述べたとおりである。したがって、同条項の効力を請求するとすれば、同条項への合憲限定解釈は必要不可欠である。そして、同条項につき合憲限定解釈を施すとすれば、後述のとおり、同条項に関する税法学界・税務事務家・立法者等の通説的見解に従い、『不相当に高額』とは「明白かつ著しく高額な報酬」と解釈すべきである。しかるに、原判決は、『不相当に高額な部分の金額』なる概念は「法の趣旨によりその意義を明確になしうる」と断じたことから(この点が誤りであることは第一の二の2で述べた。)、合憲限定解釈は不要とする憲法解釈の誤りを招いている。

3 まとめ

法三四条一項の『不相当に高額な部分の金額』なる概念が不明確であり、課税庁の自由裁量を許し、納税者の予測可能性を裏切る結果となっている。よって、同条項は、憲法八四条に違反しないように解釈するとすれば、合憲限定解釈を施さざるをえない。しかるに、原判決は、この点を不要と断し、憲法解釈の誤りをおかしている。

第三 (上告理由 第三点)

原判決は、法三四条一項・令六九条一号の解釈を誤っており、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背がある。

一 原判決の判断

原判決は、令六九条一号のa当該役員の職務の内容、b当該内国法人の収益の状況、c使用人に対する給与支給状況、d類似法人の役員報酬の支給状況、eその他、(等)の五つの判断基準につき、一応の判断を示しておきながら(原判決が五頁で引用する一審判決二九乃至三六頁)、これらの判断事項を『不相当に高額な部分の金額』の確定に全く反映させず、「勤務時間も考慮すべきところ(上告人の注 そう述べながらにこの判断事項は金額に反映していない)、その評価は」「原告の売上金額の増加(約一・四三倍)を基本とし、これに売上総利益の増加(約二・二五倍)を加味して」「前年度の一・五倍までの範囲で増額がされた場合には、相当な報酬の範囲内にある」と判示しており(同三八頁・三九頁)、実際には、売上金額の対前年比と売上総利益の対前年比だけで確定したことが明らかである。

二 上告人の主張

1 原判決は、厳格解釈が要求される税法規定を納税者に不利な形で恣意的に解釈し、納税者の予測可能性を裏切っている。

すなわち、

(1) 原判決は、令六九条一号がa当該役員の職務の内容、b当該内国法人の収益の状況、c使用人に対する給与支給状況、d類似法人の役員報酬の支給状況、eその他、(等)に照らして判断せよと命じているのに、これに忠実に従わず、条項にはない「売上金額の対前年比」と、bのうちの一要素にすぎない「売上総利益の対前年比」だけで判断し、文理を逸脱した恣意的解釈に陥っている。

(2) また、原判決は、売上金額・売上総利益・役員報酬の「対前年比」だけ論じているが、「対前年比」という判断基準は、令六九条一号の法文からは直接出てこない特異なものであり、条項に書かれていないものを条項から読み取ることはもはや解釈の枠を超え、裁判所が「立法」を行ったと評されても仕方ないものである。

(3) 加えて、法三四条一項・令六九条一号につき、裁判所が条項にない「売上金額の対前年比」と、bのうちの一要素にすぎない「売上総利益の対前年比」だけで判断するというようなことは、納税者が申告時に予測することは困難である。上告人側には、三名の弁護士と七名の税理士が関与しているが、現に、誰一人として、裁判所が同条項につきかかる新説を披瀝するとは予測できなかった。

2 原判決は、法三四条一項につき、税法学界・税務実務家・立法者等の通説的見解と異なる見解を採っている。

上告人は、法三四条一項が憲法八四条の課税要件明確主義の要請を充たしていないことを重視し、

(1) 元来、法三四条一項の「不相当」なる概念は、相応の非難、すなわち私的自治(役員報酬額の自主決定の原則)の領域でも「ゆるされない」という非難を含んだ概念であり、かなりの許容幅が予定されていること(文理解釈)、

(2) 法三四条一項・令六九条の前身たる旧法人税法施行規則一〇の三第一項(以下「旧規則」という)は、昭和三四年の改正により、「多額」から「不相当に高額」と、幅を持つ概念に変更されたものであること(沿革的理由)、

(3) 右改正時の通達は、旧規則の「不相当」を「個々の役員に大して支給した報酬の額が、その役員の職務の内容に照らして明らかに過大」な部員と解していたこと(昭和三四年直法一-一五〇通達一九)(改正時の行政解釈)、

(4) 当時の実務レベルの解説においても、旧規則が適用されるのは「予定突飛な額を支給している場合に限られるだろう」と論じられていたこと(好川栄一「法人税法通達改正の概要」『税』・昭和三四年一一月一二日)(改正時の税務実務家の解釈)

(5) 税法学者も同条項の『不相当に高額』を「明白かつ著しく高額な報酬」と解していること(税法研究所編『法人税法コンメンタール』(1)二五二三頁〔清永敬次京都大学名誉教授執筆部分〕(現在の税法学者の通説的解釈)、を論拠に、法三四条一項の『不相当に高額』は「明白かつ著しく高額な報酬」と合憲限定解釈すべきであると主張した。ところが、原判決は、この点について、単に「法及び令の文言にない『明白』とか『著しく』といった要件を付加すべき合理的理由はない」との一文だけで片づけてしまっている(原判決が五頁で引用する一審判決二八頁)。しかし、いかに法令の判断は裁判官の専権に属するとはいえ、まずは税法学界・税務実務家・立法者等の既存の見解に対し謙虚に耳を傾けるべきである。そして、これら既存の通説的見解がどうしても採用しえないというのであれば、誠実に論拠を示して自説を論証すべきである。原判決は、さしたる理由も論ずることなく、法三四条一項に関する。原判決は、さしたる理由も論ずることなく、法三四条一項に関する税法学界・税務実務家・立法者等の通説的見解と異なる見解を採っているのであって、この点においても、法令解釈の誤りがある。

3 まとめ

原判決は、令六九条一号の各判断基準を実質的に無視し、同条項に明示されていない「売上されていない「売上金額の対前年比」と「売上総利益の対前年比」だけで『不相当に高額な部分の金額』を確定した。しかし、これは、厳格解釈が要求される税法規定を納税者に不利な形で恣意的に解釈し、納税者の予測可能性を裏切るものであり、法三四条一項・令六九条一号の法令解釈を誤っている。また、法三四条一項の『不相当に高額』については「明白かつ著しく高額な報酬」と解するのが税法学界・税務実務家・立法者等の通説的見解となっており、これに従わない点においても、原判決は法令解釈の誤りをおかしている。しかして、これらの誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

第四 (上告理由 第四点)

法の趣旨により法三四条一項の『不相当に高額な部分の高額』の意義が明確になる、令の判断基準も客観的に明らかになってるとの判示部分は、経験則・論理法則に反し、かつ、著しい理由不備である。

一 上告人の主張

1 原判決は、法の趣旨により法三四条一項の『不相当に高額な部分の高額』の意義が明確になるというが、税務実務上公知の事実にも反しているし、これが理由付けもなされていない。

原判決がいう「法の趣旨」とは「租税回避防止」のことであるが、「租税回避防止」と言ったからといって直ちに『不相当に高額』がいくらと決まる関係にはない。したがって、「法の趣旨」により『不相当に高額』が明確になることは論理的にありえない。むしろ、法三四条一項の『不相当に高額』の概念については、本訴ですら被上告人・原判決・上告人が三者三様の解釈を展開しその内容が帰一しないこと、税理士側も課税庁側もこの概念にはそれぞれがそれぞれの立場で解釈に困惑を感じており、この点は税務実務家にとって公知の事実であること、法曹にも税務関係者にも明らかでない概念は素人たる納税者には一層明らかでないことなどはすでに詳述したとおりである(本書の第一の二の2)。しかるに、原判決は、税務実務家にとって公知の事実に反し、「法の趣旨」により『不相当に高額』は明確だと述べるのである。しかしながら、このような見解は、見えもしない幻影を見ると強弁するようなもので、明らかに常識に反しており、論理の辻褄が合っておらず、典型的な経験則違反・論理法則違反である。しかも、原判決は、明確だとする理由を何一つ述べていないのであって、著しい理由不備である。

2 原判決は、令の判断基準が客観的に明らかになっているともいうが、この点も税務実務上公知の事実に反し、これが理由付けもない。

令六九条一号の各判断基準が、それ自体曖昧であり、判断者の裁量によりどのような内容を盛り込むことも可能な状態となっており、どれ一つ「客観的に明らか」とはいえないことについては、本書の第一の二の3で詳述したとおりである。課税庁側が類似法人の役員報酬の平均支給額で処理したがるのは、それ以外の判断基準をどう適用したらよいかわからないからであり、また、税理士側がセントラルマネジメントに頼るのは令六九条一号の全判断基準をどう適用したらよいかわからないからである。すなわち、税務実務上、これらの判断基準はほとんど機能していないのである(現に、原判決も、どう機能させてよいかわからないから、「売上金額の対前年比」と「売上総利益の対前年比」だけで判断することになったのである。)。このように見てくると、令の判断基準が客観的に明らかになっているとの判示部分は、明らかに常識に反しており、理論の辻褄が合っておらず、典型的な経験則違反・論理法則違反である。しかも、原判決は、この点についても、明らかだとする十分述べておらず、著しい理由不備である。

二 まとめ

以上のように、法の趣旨により法三四条一項の『不相当に高額な部分の金額』の意義が明確になる、令の判断基準も客観的に明らかになっているとの判示部分は、税務実務上の公知の事実に背弛するものであり、経験則・論理法則に反し、かつ、著しい理由不備である。

第五 (上告理由 第五点)

「当該役員の職務の内容、当該法人の収益及び使用人に対する給料の支給の状況という判断基準は納税者自身において把握している事柄」であるから、『不相当に高額』は「申告時において納税者においても判断可能」との論旨は、経験則・論理法則に反し、かつ、著しい理由不備である。

一 上告人の主張

確かに、納税者は、役員として自分がどのような仕事に就き、自分の会社の当期利益がいくらであり、使用人の給与の最高額がいくらであるといったことは把握している。しかし、a当該役員の職務の内容の中に質・密度・能力・技術・創意・リスク・貢献度などはどう金額的に盛り込まれるのか、b当該法人の収益の状況は、収益が「営業利益」「経常利益」「当期利益」「当期未処分利益」のいずれを指すのか、当該年度の利益金の「金額」をいうのか、「収益率」をいうのか、はたまた対前年比なのか、過去何年かにわたる増加率なのか、c使用人に対する給与支給状況も、最高額をいうのか、平均金額をいうのか、分布状況をいうのか、同一勤務内容の者の金額と比較せよというのか、は何一つ知らない。しかも、これらの各要素がどれがどの程度『不相当に高額』の決定に響くのかも全くわかならない。すなわち、判断基準適用の前提たる素材がわかっても、判断基準の意味内容や適用の仕方がわからなければ、『不相当に高額』は予測できないのである。このことは、ヒラメやレタスやバターといった材料の素材はわかっても、その調理方法がわからなければフランス料理ができないのと全く同じことである。原判決の論旨は、判断基準の意味内容や適用の仕方といった論理則の中間項をすっ飛ばし、素材を知っているから『不相当に高額』も予測できるというもので、明らかに経験則・論理法則に反している。加えて、原判決は、この点についても、理由を何一つ述べておらず、著しい理由不備である。

二 まとめ

納税者は、令六九条一号の判断基準適用の前提たる素材を多少認識しうるが、同条項の各判断基準が明確でないため、その意味内容や適用の仕方については全く理解できない。このため、納税者は、『不相当に高額』を予測することができない。原判決は、素材がわかるから『不相当に高額』もわかるというが、これは論理則の中間項をすっ飛ばすもので、明らかに経験則・論理法則である。また、理由を述べない点は、明らかに理由不備である。

第六 (上告理由 第六点)

類似法人の役員報酬の支給状況を、甲四、五、乙一五、二四の一ないし三から「ある程度認識できる場合がある」との判示部分は、経験則・採証法則に反し、かつ、理由不備である。

一 原判決の判断

本件訴訟は、納税者及び納税代理人たる税理士が、類似法人の役員報酬の平均支給額を知りうる資料を物理的に入手できないのに、課税庁側が右平均支給額を過大報酬を画する指標としようとしたことから、全国的の納税実務に与える影響が甚大であるとの判断のもと提起されたものである。しかるに、一審判決は、類似法人の役員報酬の支給状況は「入手可能な資料からある程度な資料」とは具体的に何をいうのか、と問うことになった。これに対し、原判決は、類似法人の役員報酬の支給状況は「入手可能な資料からある程度認識できる場合があり(甲四、五、乙一五、二四の一ないし三により認める)」と表現を多少改めた(原判決四・五頁)。

二 上告人の主張

原判決が「入手可能な資料」として引用する祥子は、結局のところ、上告人が異議及び審査請求の段階で用いたセントラルマネジメント誌の賃金ハンドブックのことである。しかしながら、同書掲記の役員報酬額は、業種の違いを無視した統計値であって、ここから類似法人の役員報酬の支給状況を知ることはできない。したがって、類似法人の役員報酬の支給状況を知りうる証拠資料として、甲四、五、乙一五、二四の一ないし三を引用しているのであれば、明らかに採証法則の誤りがある(なお、原判決五頁が引用する一審判決三五頁は、セントラルマネジメント誌は類似法人の役員報酬の資料として妥当でないと断じているのであって、原判決の判決内容そのものが論理的矛盾をおかしている)。また、業種を無視した統計値から類似法人の役員報酬の支給状況をある程度認識できる場合があるとの部分は、偶然両者が合致していたとしても、合致しているかどうかは同書から検証不能である。したがって、このような場合であっても、同書から類似法人の役員報酬の支給状況を認識したことにはならない。このような事実認識は、明らかに経験則違反である。また、甲四、五、乙一五、二四の一ないし三から類似法人の役員報酬の支給状況を認識できるという理由も説示されておらず、理由不備である。

第七 (上告理由 第七点)

法三四条一甲、令六九条一号に関する左記のごとき原判決の解釈には、判決に影響を及ぼすべき法令の解釈を誤った違法がある。

一 原判決の判断

先に、原判決は「売上金額の対前年比」と「売上総利益の対前年比」をもって「不相当に高額な部分の金額」を確定したとして、その解釈の不当性を明らかにしたが(本書第三)、更に本件事案に則してその解釈論を検討してみるに、畢竟原判決は、法三四条一項、令六九条一号につき「売上金額の対前年比」のみをもって相当報酬額を決定し得るとの特異な解釈をしているものと断ぜざるを得ない。

二 上告の主張

左記の検討より原判決の右解釈の違法性は明らかである。

1 原判決の解釈によれば、例えば法人設立の初年度は売上比は存在しないため、相当報酬額を決することができない。

2 また、原判決に従えば、売上が前年度の一・五倍であるのに役員報酬額を例えば二倍とした場合、原則として、一・五倍で超える部分を否認されるということになろうが、これは不当である。

原判決のように役員報酬額の上昇率を売上の上昇率と連動させる以上、売上の上昇率に比例して役員報酬を引き上げること自体は、法三四条一項、令六九条一号の趣旨から、もとより問題はないはずである。

すなわち、もともと前年度の一・五倍の役員報酬額は当然に認められる増額であって、右各法令の趣旨からは、一・五倍より更にどの程度多ければ不相当に高額であるとして否認されるのかが検討されなければならない。

3 原判決は、「ある役員の役務の対価として相当と認められる金額は一定額に限られるものではないから、ここにいう額は、その性質上、相当と認められる金額中の最高額を意味することになる」としている。

上告人も、「うり二つの法人間はこれ(役員報酬額)が同一であるべしという命題は存在しない」(甲第二号証一八八頁)との立場から、相当額に幅を認め「明確かつ著しく高額な」報酬部分のみが否認されるべきであると解しているので、この点においては両者の見解に大きな差異はない。

ところが、このようにいっておきながら、原判決は、売上の一・五倍という基準を用いて、相当額になんらの幅を持たせず、一定額を相当額としているのであり論旨が一貫しない。

右各法令が相当額に幅を認めているとの前提にたつならば、以下のごとき解釈論が展開されるべきである。

(1) 課税庁によって許容される最下限は常に〇円であり、これとの幅をいっても全く無意味である。この「幅」とは、うり二つの法人が複数仮定できるとして、その間の許容されうる役員報酬額の聞きと解すべきである。

(2) もっとも、実際にはうり二つの類似法人を見つけることはできないが、抽出された類似法人は被上告人及び原判決において「類似」しているとされ、しかも、いずれも課税庁側によってその役員報酬額が認容されている以上、これら類似法人間の役員報酬額の聞きは当然に許容し得るはずである。つまり、右類似法人の役員報酬の最高額と同額の報酬は当然に容認されなければならない(なお、役員退職金について、類似法人の役員の最高功績倍率を採用した東京地裁昭和五五年五月二六日判決参照)。

(3) しかし、抽出された類似法人の最高報酬額がただちに相当額の上限を画することにはならない。なぜなら、このような類似法人が実際に存在するということは認められるとしても、他に課税庁によって容認されているさらに高額の類似法人がないという照明はされていないからである。

また、仮に他により高額の類似法人がなかったとしても、その報酬額が理論上許容される最高報酬額とはただちにはいえないこと、したがって、理論上の相当報酬額の上限はさらに高額の可能性があることはもちろんである。

(4) ところで、恒夫らの職務の内容は最高報酬額を支給した類似法人の役員のそれを凌罵しているから、この点からも類似法人の最高報酬額をもって両名の報酬額としたとしても未だ十分であるとはいえない。そこで、原判決は、類似法人の最高報酬額よりさらにどの程度が認められるかの認定をすべきであった。

4 仮に百歩譲って、「対前年度売上比」に依拠するとしても、右各法令の趣旨からは、これにより係争年度の役員報酬額の上限を画する以上、その前提として前年度の恒夫らの役員報酬額が相当額の上限でなければならないはずである(前年度の役員報酬額が相当額の上限に達していない場合、特に上限から著しく低い水準であった場合に、これに「売上対前年度比」を乗じて算出された金額をもって当該年度の役員報酬額の相当額の上限となし得ないのは、火を見るより明らかである)。

(1) ところで、恒夫らの前年度の役員報酬額は著しく低かったのであり(甲第一一号証二四頁参照)、とうてい前年度の相当報酬額の上限といえるような金額ではなかった。

(2) また、恒夫らの前年度の報酬額は、前年度の類似法人の平均報酬額を明らかに下回っているため、いかに少なくとも前年度の類似法人の役員報酬額の平均値が前年度の相当報酬額の上限であり、その一・五倍が係争年度の相当報酬額の上限となるべきはずである。

(3) さらに、不十分ながらも相当額の上限により近い報酬額としては前年度の類似法人の報酬額の最高額が基礎とされ、この一・五倍の金額が認定されてもしかるべきであった。

第八 (上告理由 第八点)

原判決二は判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反が存する(民訴法三九四条)から、原判決は破棄されるべきである。

一 原判決の判断

1 原判決は、「本件係争事業年度においては、恒夫らの役員としての職務内容における最大の変化は、ラックコートの大量の注文を処理するため勤務時間が著しく長くなったという点にあり、その質において前年から基本的な変化があったとすることはできない(原告は、昭和五九年からラックコートを売り出しており、昭和六〇年には約二万枚を製造販売しているのであるから、恒夫らの職務が昭和六一年になって質的に大きく変化したとすることはできない。また、昭和六一年三月以降に製造販売したラックコートは、同年一月の時点ですでに約一〇万枚の注文があったのであるから、恒夫らが本件係争事業年度においてその新規注文をとるために特別の働きをしたとすることができない。)。」(原判決が五頁で引用する一審判決三六、三七頁)と判示した。

2 そして「恒夫らは、株式会社の取締役であるから、一般の従業員とは異なり、その超過勤務時間に応じて給与を支給すべきものではないが、その報酬の決定に当たっては、勤務時間も十分考慮すべきところ、その評価は、右の態様の職務内容からして」とその質的な変化を否定したことにより、「恒夫については、平均報酬額に基づく六二〇万円が相当額の上限、さだ子については前年の報酬を一・五倍した四五〇万円が相当額の上限と認めるのが相当である」(同三八、三九頁との結論した。

二 経験則違反

1 職務の質的な変化とは

(1) 一般的に、取締役が新規事業を開拓したり業態変更のために社内体制を変革するなどの課題に取り組む場合には、從來と同じ業務を続ける場合に比べて、非常な困難を伴い特別に苦労するから、このような場合には職務の質的な変化が認められる。原判決もこれと同じ考え(一1の括弧)のようである。

(2) このような取締役の職務は、必ずしも一事業年度の途中から開始するものでも、途中で終了するものでもないし、抜本的な変革であればあるほど数事業年度に及ぶことは経験則上明らかである。したがって、原判決(一1の括弧)のように取締役の職務内容を前事業年度とだけ比較したのでは、その質的な変化を見逃してしまうことは往々あることである。

2 恒夫らの職務の質的な変化

(1) 上告人は昭和五九年からラックコートを売り出し、昭和六〇年度に約二万枚を製造販売したが、この年度は、まだまだ従前からの枕カバーの製造が中心であった。恒夫らと外注先の一部がラックコートの製造に従事することにより消化できた枚数であったから、恒夫らは朝九時ころから夕方五時ころまでの間執務し、日曜祭日その他の休日はゆっくりと休んでいた。すなわち、恒夫らは、昭和六〇年度以前は、相当時間的なゆとりをもって、社会設立以来の枕カバーの製造に従事していた。

(2) しかしながら、本件係争事業年度は、枕カバーからラックコートへの業態及び社内体制を全面的に変更した。すなわち、恒夫らは、その製造能力をはるかに超える一〇万枚の注文を処理するために、自ら必死に製造販売をしながら、新たに約一五台のラックコート製造用ミシンを購入して外注先に貸与するなどし、上告人の製造の大部分を担っていた外注先を手取り足取りして製造技術を習得させるための教育指導をしたり、ラックコート製造の新たな外注先を確保するために奔走した。

(3) 具体的には、恒夫の執務時間は、昭和六〇年度は約一八六五時間であったものが、本件係争事業年度は約四九〇〇時間と実に約二・六三倍(乙第一五号証二二頁参照)となるなど執務時間の飛躍的な増加それ自体が職務の密度を一変させたし、枕カバーからラックコートへの製造技術の革新に伴う社内及び外注体制を構築するなどの激務を執行した。

3 質的な変化の把握の仕方

(1) 本件係争事業年度における職務の質的な変化の有無を判断するには、相当期間にわたる職務の内容を比較検討することが不可欠である。

継続的契約の事情変更による対価の増減額請求(資料の増減額請求等)においては、前回の改訂以後における事情の変更の有無や程度が判断基準となるから、継続的(準委任)として類似する取締役の職務の質的な変化についても同様に考えるべきである。したがって、恒夫らの取締役報酬を増額(恒夫の増額一年につき二〇万円、恒子の増額一年につき二八万円。一審判決添付の別紙三。)した昭和五九年三月一日以降における、その職務の質的な変化の有無と程度が検討されなければならない。

(2) 取締役が新しい事業を興したり業態を変更したり社内体制を変革することにより、売上金額や売上総利益が増加するなどの成果が現れるには、種を蒔いてから果実を刈り取るまでに歳月を要するのと同じように、特段の事情がない限り、経験則上相当の長時間を要とする。したがって、原判決が、特段の事情を指摘することもなく、本件係争事業年度の恒夫らの職務の質的な変化を前年度の職務内容との比較だけで否定したことは、このような経験則の適用を誤ったものである。

(3) 要するに、恒夫らの報酬の不相当性が問題となっているのであるから、前回の報酬改訂時において、枕カバーからラックコートへの製造販売という大変革に伴う職務の質的な変化を報酬に反映させるなり折り込んでいたのか、それともこれを考慮していなかったかが問題の核心である。

恒夫らの報酬は、昭和五九年度から前記のとおりわずかに増額されて以來、本件係争事業年度まで据え置かれてきた。恒夫の年額三六〇万円、さだ子の年額三〇〇万円の各報酬を鑑みれば、特段の事情のない限り、本件係争事業年度にかかる前記のような職務の質的な変化が折り込まれていないことは、経験則上明らかである。

4 よって、職務内容の質的な変化を否定したことにより恒夫らの報酬をが不相当に高額であるとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反がある。

以上

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