大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成7年(オ)261号 判決 1997年2月14日

上告人

株式会社靜基

右代表者代表取締役

原田義之

右訴訟代理人弁護士

三浦和博

上告人

河瀬知之

被上告人

水都信用金庫

右代表者代表理事

日本善雄

右訴訟代理人弁護士

亀田利郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人株式会社靜基の代理人三浦和博の上告理由第一について

本件訴訟は、本件土地の根抵当権者である被上告人が民法三九五条に基づき上告人らに対して本件土地の所有者である上告人河瀬と上告会社の間で本件土地について締結された短期賃貸借の解除等を求めるものであるが、上告人らは、本件土地上の新建物のために法定地上権が成立する場合であるから、右賃貸借が被上告人に損害を及ぼすものではないと主張した。

土地と地上建物を別個の不動産とし、かつ、原則として土地の所有者が自己のために借地権を設定することを認めない我が国の法制上、同一所有者に属する土地又は地上建物に設定された抵当権が実行されて土地と地上建物の所有者を異にするに至った場合、建物所有者が当該土地の占有権原を有しないことになるとすれば、これは、土地が競売によって売却されても、土地の買受人に対して土地の使用権を有しているものとする建物の所有者や土地の使用権があるものとして建物について担保価値を把握しているものとする抵当権者の合理的意思に反する結果となる。そこで、民法三八八条は、右合理的意思の推定に立って、このような場合には、抵当権設定者は競売の場合につき地上権(以下「法定地上権」という。)を設定したものとみなしているのである。その結果、建物を保護するという公益的要請にも合致することになる。それゆえ、土地及び地上建物の所有者が土地のみに抵当権を設定した場合、建物のために地上権を留保するのが抵当権設定当事者の意思であると推定することができるから、建物が建て替えられたときにも、旧建物の範囲内で法定地上権の成立が認められている(大審院昭和一〇年(オ)第三七三号同年八月一〇日判決・民集一四巻一七号一五四九頁参照)。また、所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した場合、抵当権者はこれにより土地及び建物全体の担保価値を把握することになるが、右建物が存在する限りにおいては、右建物のために法定地上権の成立を認めることは、抵当権設定当事者の意思に反するものではない(最高裁昭和三五年(オ)第九四一号同三七年九月四日第三小法廷判決・民集一六巻九号一八五四頁参照。なお、この判決は、所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した場合、民法三八八条の適用があるとするが、これは、抵当権設定当時の建物が存続している事案についてのものである。)。

これに対し、所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である。けだし、土地及び地上建物に共同抵当権が設定された場合、抵当権者は土地及び建物の全体の担保価値を把握しているから、抵当権の設定された建物が存続する限りは当該建物のために法定地上権が成立することを許容するが、建物が取り壊されたときは土地について法定地上権の制約のない更地としての担保価値を把握しようとするのが、抵当権設定当事者の合理的意思であり、抵当権が設定されない新建物のために法定地上権の成立を認めるとすれば、抵当権者は、当初は土地全体の価値を把握していたのに、その担保価値が法定地上権の価額相当の価値だけ減少した土地の価値に限定されることになって、不測の損害を被る結果になり、抵当権設定当事者の合理的な意思に反するからである。なお、このように解すると、建物を保護するという公益的要請に反する結果となることもあり得るが、抵当権設定当事者の合理的意思に反してまでも右公益的要請を重視すべきであるとはいえない。大審院昭和一三年(オ)第六二号同年五月二五日判決・民集一七巻一二号一一〇〇頁は、右と抵触する限度で変更すべきものである。

これを本件について見ると、原審が適法に確定したところによれば、上告人河瀬は、被上告人に対し、上告人河瀬所有の本件土地及び地上の旧建物に共同根抵当権を設定したところ、その後、旧建物は取り壊され、本件土地を賃借した上告会社が本件土地上に新建物を建築したというのであるから、新建物のために法定地上権が成立しないことは明らかである。のみならず、旧建物が取り壊された後、上告人河瀬及び被上告人は、本件土地を更地として四度にわたって再評価をして被担保債権の極度額を変更してきたから、新建物のために法定地上権の設定があったとする当事者の意思を推定することができず、したがって、その後に上告会社が上告人河瀬から本件土地を賃借して建築した本件建物のために法定地上権の成立を認めるべきものではない。したがって、本件建物に法定地上権の成立が認められないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は採用することができない。

同第二について

記録によって認められる本件訴訟の経緯に照らすと、原審が所論の措置を採らなかったことに違法はない。論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官尾崎行信 裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫)

上告人株式会社靜基の代理人三浦和博の上告理由

第一 原判決は、これまでの最高裁判所の判例に相反する判断をして、しかもそれには理由不備ないし理由齟齬の違法(民事訴訟法三九五条一項六号)があり、破棄を免れないものである。

一 民法三八八条所定の法定地上権の成立要件は、次のとおりである。

(一)抵当権設定当時、土地と建物とが同一の所有者に属したこと

(二)競売の結果、土地と建物が別の人の所有に帰したこと

本件において、被上告人が河瀬知之所有の左記の土地(以下、本件土地という)に抵当権をしたのは、昭和五〇年七月二九日であり、その旨の登記は同年八月四日に経由された。

堺市中百舌鳥町二丁一七八番

宅地 195.04平方メートル

これと同時に、本件土地上の、河瀬知之所有の左記の建物(以下、旧建物という)に対しても、被上告人のために共同担保として抵当権が設定された(乙第四号証)。

堺市中百舌鳥町二丁一七八番地

家屋番号一七八番

居宅 軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺屋建

床面積 67.02平方メートル

従って、被上告人のための本件抵当権設定時に、右法定地上権の成立要件(一)が充足されていることは明らかである。

また、今回の被上告人が申立てている本件土地に対する競売により、前記成立要件(二)が充足されることも明らかである。

二 右旧建物は、その後堺市副都心開発のための区画整理事業の対象となって取り壊され、平成元年に本件土地に代わる仮換地指定処分がおこなわれた(甲第三号証)。

そして、河瀬知之は、平成二年頃、上告人と共同してカラオケハウス専門ビルを建設することを計画して、平成四年に仮換地後の本件土地に新建物を新築したものである。

このように抵当権設定当時に存在していた建物がその後取り壊され、新たな建物が建築された場合には、法定地上権が成立するとするのが、これまでの確定判例であり(大審院昭和一〇年(オ)第三七三号同年八月一〇日判決・民集一四巻一五四九頁、最高裁判所第三小法廷昭和五二年(オ)第二八七号昭和五二年一〇月一一日判決・民集三一巻六号七八五頁、東京高等裁判所昭和六二年(ラ)第八〇九号昭和六三年二月一九日決定・判例時報一二六六号二五頁、大阪高等裁判所昭和六二年(ネ)第一二一九号昭和六三年二月二四日判決・判例時報一二八五号五五頁、京都地方裁判所昭和五九年(ワ)第一七八八号昭和六〇年一二月二六日判決・判例時報一二一九号一一三頁等)、通説でもある(我妻栄・新訂担保物権法三五三頁、柚木=植田・注釈民法(九)一八三頁等)。

三 しかるに、原判決は、法定地上権の成立につき、上告人が原審における平成六年四月七日付け準備書面五において、「本件においては前述のような事情から旧建物が取り壊され、新建物が建築されている。このような場合には、少なくとも旧建物が存在すると同様の法定地上権が成立すると解するのが確定判例である」と主張しているにも関わらず、「本件根抵当権設定当時新建物の建築を予定してなかったこと」、「被控訴人(被上告人)が新建物の建築を承諾していない」という理由で、法定地上権の成立を否定している。

右原判決は、上告人が「旧建物を基準とする」新建物のための法定地上権の成立を主張しているにも関わらず、右のような法定地上権の成立と無関係な理由を述べて上告人の主張を認めなかったものであり、理由不備、理由齟齬の違法がある。

旧建物が存在した場合と同様の内容の法定地上権が新建物のために成立するための要件は、抵当権設定時に取壊しが予定されていたか否かとか、新建物の建築を抵当権者が承認していたか否かを問わないはずである。

蓋し、旧建物を基準とする法定地上権が成立することは、抵当権設定時において、抵当権者たる被上告人が当然に予想できることであり、かつ予想すべきことだからである。

仮に、その後建物が取り壊されて新建物が建築された場合に法定地上権が成立しないとすることは、本来旧建物を基準とする法定地上権の負担付きの底地価格しか把握していなかった被上告人の本件土地に対する根抵当権が、現に建物が存在するにも関わらず、更地価格全体を把握することとなり、新建物所有者の法定地上権が成立するとの正当な期待利益、建物維持の利益を犠牲にして、被上告人に望外の不当な利益を与えるものであり、到底認められるべきではない。

原判決は、前述の大審院以来の判例に相反して、かつ、上告人の原審における右主張を誤解ないし曲解して、不当にも法定地上権の成立を否定したものであり、破棄を免れないものである。

本件において、法定地上権の成立が認められる場合は、本件土地に対する被上告人の有する根抵当権は、そもそも底地価格しか把握していなかったものであり、上告人と河瀬知之との間の本件土地の賃貸借契約が、被上告人の根抵当権を害するということもないのである。

従って、本件賃貸借の解除を認めた第一審判決を維持した原判決は、判例違反、理由不備、理由齟齬の重大な誤りがあるものと言わなければならない。

四 原判決は、その理由中において、被上告人の前権利者で、「根抵当権者である東洋信用金庫は、旧建物取り壊し後は、本件土地を更地としてその担保価値を算定して極度額の増額変更に応じてきたものであり」と判示する。

右の理由が原判決の結論といかなる関連にあるのか理解に苦しむところであるが、仮に、原判決が右極度額の増額をもって新たな根抵当権の設定と同視しているとすれば、民法三八八条に反する不当な解釈と言わざるを得ない。

蓋し、極度額の増額は、新たな根抵当権の設定ではなく、付記登記によってなされる従来の根抵当権の内容の変更だからである(東京高等裁判所昭和六〇年(ネ)第二七八一号昭和六一年一二月二五日判決・金融法務事情一一六六号三一頁参照)。右の点においても、原判決は民法三八八条の解釈を誤ったものと言わなければならない。

第二 <省略>

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