大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 平成4年(オ)1260号 判決 1995年7月18日

上告人

木村丈治

右訴訟代理人弁護士

中田祐児

被上告人

満德寺

右代表者代表役員

中村龍光

右訴訟代理人弁護士

島田清

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人中田祐児の上告理由について

本件訴えは、宗教法人である被上告人から檀徒の地位を剥奪する旨の処分を受けた上告人が右の地位を有するとしてその確認を求めるものである。問題は、右の地位が具体的な権利義務ないし法律関係を含む法律上の地位ということができるかどうかにあるので、以下検討する。

宗教法人法は、檀徒等の信者については、宗教法人の自主性を尊重しつつその最終的な意思決定に信者の意見が反映されるよう、宗教法人の一定の重要な行為につき、信者に対して公告をするものとしている(同法一二条三項、二三条、二六条二項、三四条一項、三五条三項、四四条二項)が、信者と宗教法人との間の権利義務ないし法律関係について直接に明らかにする規定を置いていないから、檀徒等の信者の地位が具体的な権利義務ないし法律関係を含む法律上の地位ということができるかどうかは、当該宗教法人が同法一二条一項に基づく規則等において檀徒等の信者をどのようなものとして位置付けているかを検討して決すべきこととなる。

記録によると、所論の檀徒の地位に関しては、宗教法人法一二条一項に基づく被上告人の規則(宗教法人「満德寺」規則)等において次のような規定が置かれていることが明らかである。

(1)  被上告人の規則一六条は、被上告人の壇信徒につき、被上告人の包括宗教法人である「高野山真言宗の教義を信奉し、この寺院の維持経営に協力する者を壇信徒という。」と定める。

(2)  高野山真言宗の宗規中の被上告人に関係する条項が同規則三四条により被上告人にも適用されるところ、右宗規の一四一条一項は「寺院及び教会は、壇信徒名簿を備え付けなければならない。」と定め、また、その一四二条は壇信徒の除名について「壇信徒であって、左に掲げる各号の一に該当するときは、住職は管長の承認を得て壇信徒名簿から除名することができる。一 教義信条に反し、異議を唱うる者、二 宗団若しくは寺院、又は教会の維持経営を妨害する者」と定めており、これらの条項は被上告人において適用されている。

(3)  被上告人においては、宗教法人法一八条に基づく代表役員及び責任役員の外に、代表役員を補佐し、被上告人の維持経営に協力することを基本的職務とする総代六人を法人組織上の機関として設置している(同規則一七条一項、四項)ところ、壇信徒の地位にあることが総代に選任されるための要件とされ(同条二項)、総代であることが代表役員以外の責任役員に選任されるための要件とされている(同規則七条三項)。

(4)  被上告人においては、代表役員には宗教的活動の主宰者の地位にある住職の職にある者をもって充てることとされている(同規則七条一項)ところ、住職の選任に際しては総代の意見を聴かなければならず(同条二項)、また、被上告人の基本財産等の設定・変更や不動産、宝物の処分等(同規則二〇条、二二条一項)、予算の編成等(同規則二五条、二八条、三一条)、規則の変更及び合併(同規則三三条)に際しても総代の意見を聴かなければならないものとされており、さらに、総代は決算の報告を受けるものとされている(同規則三〇条)。

以上によれば、被上告人においては、壇信徒名簿が備え付けられていて、檀徒であることが被上告人の代表役員を補佐する機関である総代に選任されるための要件とされており、予算編成、不動産の処分等の被上告人の維持経営に係る諸般の事項の決定につき、総代による意見の表明を通じて檀徒の意見が反映される体制となっており、檀徒による被上告人の維持経営の妨害行為が除名処分事由とされているのであるから、被上告人における檀徒の地位は、具体的な権利義務ないし法律関係を含む法律上の地位ということができる。

そうすると、被上告人における檀徒の地位は宗教上の地位にすぎず、本件訴訟は具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争に当たらないとして、本件訴えを却下した原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

論旨は以上の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本案につき更に審理させるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官可部恒雄 裁判官園部逸夫 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告代理人中田祐児の上告理由

一、高松高裁の判断について

高松高裁は、上告人が被上告人の檀徒であった事実は認めながら、「檀徒は単なる宗教団体内の地位にすぎず、それ以上の法律関係を含むものとは認められないから、本件除名処分の効力の有無の紛争は、具体的な権利又は法律関係に関する紛争ということはできない」と判断して、上告人の訴えを却下したものである。

しかしながら、右判決においては、何故檀徒の地位が法律上の地位といえないのか、その地位の得喪をめぐる紛争が何故法律上の紛争といえないのかについて全く説明されておらず、この点についての高松高裁の判断には理解しがたいものがある。

そこで、以下に主として被上告人の寺院規則を中心に検討しながら、檀徒が被上告人にとっては重要な構成要素というべきであり、檀徒の地位が法律上の地位であり、その地位の得喪をめぐる紛争が法律上の紛争である理由を明らかにする。

二、被上告人における檀徒の地位について

1、宗教団体は、自らの信奉する宗教を宣伝し、布教するための物的施設として寺院、神社、教会等の不動産を所有しているだけでなく、その活動を支える人的組織として住職、宮司などの代表者のほか、責任役員、総代や一般の檀徒などを有しているものである。檀徒は、当該宗教を信仰するという宗教的側面のほか、初穂料等の名目で毎年一定額の寄附を行なうだけでなく、寺院の改築の場合に特別の寄附をして財政的に宗教団体を支えており、総代や責任役員に選出されて宗教法人の運営に参加することさえ少なくないのである。

このように、檀徒は、様々な側面を持っているものの、当該宗教団体の最も重要な構成要素であり、寺院等の物的施設を持たない宗教団体はあっても、檀徒等のいわゆる信者を持たない宗教団体は存在しないのである。

2、被上告人の寺院規則(甲第五号証)によれば、「高野山真言宗の教義を信奉し、この寺院の維持経営に協力する者を壇信徒という」と定められており(一六条)、壇信徒の中から総代が選定され(一七条)、総代の中から責任役員が選定される(七条)こととなっている。

総代は、「住職を補佐し、この寺院の維持経営に協力するもの」とされるほか(一七条)、基本財産もしくは特別財産の設定又はその変更をしようとするとき(二〇条)、不動産の処分、借入、主要な建物の新築等を行なう場合(二二条)、規則を変更する場合(三三条)にそれぞれ総代の意見を聞くこと、決算の報告を総代に行なうこと(三〇条)が義務づけられているのである。

また、責任役員は、当該宗教法人の事務を決定し、その場合議決権はそれぞれ平等とし、その過半数で決することとされている。(一〇条)

さらに、当該宗教法人の運営の根幹にかかわる場合、すなわち、

(一)、不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること

(二)、借入又は保証をすること

(三)、主要な境内建物の新築、改築、増築、移築、除去又は著しい模様替えをすること

(四)、境内地の著しい模様替えをすること

(五)、主要な境内建物の用途若しくは境内地の用途を変更し、又はこれらをその寺院の主たる目的以外の目的のために供すること

については信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならないこととされている。(二二条)

このように、被上告人の寺院規則上も壇信徒は、寺院運営を行なう責任役員やその運営を監督し、意見を述べる総代の選出母体として重要な役割を果しており、不動産の処分等寺院運営の根幹的な変更の場合には当該事実を公告される対象とされ、そのことの当否について意見を述べる機会が与えられているのである。

このような壇信徒の地位は、被上告人にとって、その法人としての運営につき極めて重要な役割を果すものというべきであって、そうであればこそ高野山真言宗宗規(乙第一号証)においても壇信徒名簿を備えつけること、これを宗務所に届出ること(一四一条)や教義信条に反し異議を唱える者や宗団もしくは寺院又は教会の維持経営を妨害する者については除名し得ることを定めているのである。(一四二条)

従って、以上の点を踏えて考えるならば、本件の場合、壇信徒は法律上の地位というべきである。

三、判例の考え方

最高裁昭和三五年六月二日判決(川合寺事件)は、「寺院の壇信徒の法律上の性質については議論がないでもないが、寺院の建立、維持並びに発展が壇信徒なくしては考えられないが故に、壇信徒は、特別の場合を除いて、寺院の基本財産、僧侶と共に寺院の構成分子を成す」と述べ、法律上の地位を有することを認めている。

また、高松高裁昭和四三年二月二二日判決も「檀徒が宗教法人法にいう信者その他の利害関係人に該当し、単なる宗教上の事実関係に止らず、法律上の地位であり、争いがある以上、訴えによりその確認を求める利益がある」と判断しているのである。

その他の判例上も檀徒が寺院帳簿等の閲覧権を有するかどうかにつきその権限を否定されたようなものはあるものの、檀徒の地位そのものは法律上の地位であることを認めるのが一般的であり、本件判決はそのような中では特異なものと言わなければならない。

四、結論

すなわち、高松高裁判決は、以上述べた理由により、檀徒の地位が法律上の地位であり、その得喪を争う紛争が法律上の紛争であるのに、いずれもこれを否定した点において裁判所法第三条に違背し、また、最高裁昭和三五年六月二日判決及び高松高裁昭和四三年二月二二日判決にそれぞれ違背するものであって破棄を免れないものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例