大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成元年(行ツ)170号 判決 1990年4月17日

三重県亀山市本町二四五番地

上告人

マス商事株式会社

右代表者代表取締役

新庄哲三

右訴訟代理人弁護士

冨島照男

中山信義

宮澤俊夫

同弁理士

桜井守

岡山県倉敷市西阿知町一三二〇番地の五

被上告人

ペガサス・キヤンドル株式会社

右代表者代表取締役

井上定夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和六三年(行ケ)第一七二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年八月一六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人冨島照男、同中山信義、同宮澤俊夫、同桜井守の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 安岡満彦 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克已 裁判官 佐藤庄市郎)

(平成元年(行ッ)第一七〇号 上告人 マス商事株式会社)

上告代理人冨島照男、同中山信義、同宮澤俊夫、同桜井守の上告理由

第一 原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな重要事項について理由に齟齬がある。

一 原審は、理由二の1の中で、

「さらに、前記甲第七号証及び甲第八号証の一、二によれば、本件登録意匠の正面図にあたる図面代用写真により計測したキャンドルホルダーの高さは、キャンドル支持体のハート形の下端の尖り部の先端からハート形上部の盛り上がり部の上端までの見かけの高さの約二七分の一、座板の底部からキャンドル支持体のハート形上部の盛り上がり部の上端までの見かけの高さの約三五分の一であること、同様にして計測したキャンドルホルダーの直径は、キャンドル支持体のハート形の幅の約五五分の一であることが認められる。

以上の事実によれば、両意匠のキャンドルホルダーにおける前記差異点は、しょく台の意匠全体を構成する一構成物てあるキャンドルホルダーの主として先端にかかるものであって、全体に占あるキャンドルホルダーの大きさが小さいものであり、キャンドルホルダー事態の細部の形状よりは、むしろ、ハート形棒状のキャンドル支持体にほぼ等間隔、垂直状に一九個設けたキャンドルホルダーの配列が看者の注意を惹くものと認められる。これと同旨の本件審決の認定判断は正当であり、右認定判断を誤りとする原告の主張は失当である。」

と判旨している。

右判旨の理由とするところは、例えば、甲第八号証の一で計測すると、キャンドル支持体のハート形の下端の尖り部の先端からハート形上部の盛り上がり部の上端までの高さが約一三・八センチメートルであること、キャンドルホルダーの花びらから底部までの長さが約〇・五センチメートルであること、座板底部からバート形上部の盛り上がり部の上端までの高さが約一七・五センチメートルであること、キャンドルホルダーの直径が約〇・三センチメートルであること、キャンドル支持体のハート形の幅が約一六・四センチメートルであることをもって算出した数字であると推定される。

しかるに、キャンドルホルダーとキャンドル支持体及びハート形枠との比較においては、対比の仕方に明らかに誤りが存するといわねばならない。

すなわち、本件登録意匠と甲号意匠のキャンドルホルダーを比較する場合、そのハート形枠との接触形態が甲号意匠においては円錐状となった底部が、直接接しているのに比し、本件登録意匠では、平坦な底部からさらに細い支持体がハート形枠との間に存し、一体となってキャンドルホルダーを構成しているのである。

従って、キャンドルホルダーの大きさをキャンドル支持体及びハート形枠と比較する場合には、キャンドルホルダーの高さ(約〇・九センチメートル)との比較において検討されるべきであった。

また、ハート形枠とキャンドルホルダーの比較においても、本件登録意匠が甲号意匠との比較において花びら状になっている点が類似の意匠であるか否かを判断する上で問題としているのであるから花びらの大きさ、幅(約〇・五センチメートル)と比較して判旨してしかるべきであった。

ちなみに、右によれば、約二七分の一のところが約一五分の一、約三五分の一のところが約一九分の一、約五五分の一のところが約三三分の一となる。

従って、原審判旨は、自己の結論を正当化すべく、ことさら本件登録意匠のキャンドルホルダーを小さくみせようとしたものといわざるをえない。

右判旨は、理由二の3で、

「全体に占めるキャンドルホルダーの大きさが小さいものであり、・・・・・キャンドルホルダーにおける差異点は、両意匠の認否判断に影響しない微差である」との認定、

また、理由四の3において、

「全体に占めるキャンドルホルダーの大きさが小さいものであり・・・・・、キャンドルホルダーにおける差異点は、両意匠の認否判断に影響しない微差であることは、前記3に判断したとおりであり」

との各認定に影響を及ぼしており判決自体に影響を及ぼすことは明らかである。

二 原審は、理由四の2において

「成立に争いのない甲算三号証によれば、名称を「装飾用キャンドル」とする発明の公開特許公報(昭和五七-一二四六一八号、出願人被告)である同号証の第1図には、同発明の実施例についての図面として、結婚披露宴における公知の大型装飾用キャンドルに針金、プラスチック等でハート形に形成した支持体を装着し、該支持体に二~一五センチメートルの間隔で設けられたホルダーに二九本の小型キャンドルが取り付けられている状況が図示されていることが認められ(但し、ホルダーは発明の詳細な説明中にはあるが図では省略されている。)、成立に争いのない甲第九号証によれば、名称を「装飾用のキャンドル」とする発明の公開特許公報(昭和五八-一九一〇号、出願人被告)である同号証の第2図には、同発明の実施例についての図面として、大型のメインキャンドルに金メッキした鉄の丸棒をハート形に形成した支持体を装着し、該支持体に七~九センチメートルの間隔で設けられたホルダーに二三本のバースデイキャンドルが取り付けられている状況が図示されていることが認められる。

しかし、右事実のみから、本件登録意匠及び甲号意匠に共通するところの、周囲に複数のキャンドルホルダーを設けたハート形枠状のキャンドル支持体の形状及びキャンドルホルダーを等間隔に設けた点の形状が、この種のしょく台におけるありふれた構成であるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。」と判旨している。

右判旨では、甲第三号証第1図示についても、甲第九号証第2図についても、いずれも、ハート形枠に、複数のキャンドルホルダーが設置されていること、しかも、各キャンドルホルダーが等間隔に設けられていることを認定している。他方原審においては、被告(被上告人)からはハート形のしょく台について右キャンドルホルダー設置と異なるものを示すなどの反証は何らなされていない。

しかるに、判旨では、「この種のしょく台におけるありふれた構成であるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない」としているのは、論理矛盾であり、理由に齟語があるものと考えざるをえない。

以上、いずれも判決に重大な影響を及ぼすものといわざるをえない。

第二 原判決は、次の点で判決に影響を及ぼす法令違背が存する。

一 原審は、理由二の2において、

「さらに、両意匠はしょく台に係るものであるから、キャンドルを支持することを目的とし、その使用形態は、キャンドルホルダーにキャンドルを嵌挿支持させるものであることは自明である。したがって、キャンドルをキャンドルホルダーに嵌挿したり抜き取る際に、使用者の注意がキャンドルホルダー、特にその先端に向けられることは当然であるが、キャンドルを支持し、さらにはそのキャンドルに点火されるというしょく台の使用形態を想定すれば、両意匠においては、ハート形枠状のキャンドル支持体及びこれにほぼ等間隔、垂直状に一九個設けたキャンドルホルダーの配列及び個数こそが第一に看者の注意を惹くものであり、かつ、その注意を惹く程度は、キャンドルホルダーの細部の形状が注意を惹く程度よりも遙かに大きいものと認められる。」

と判決旨する。

ちなみに、運搬用容器につき判例(東京高裁昭和四八年(行ケ)第九三号、昭和四九年六月二六日判決、最高裁昭和四九年(行ツ)第九三号、昭和五二年六月七日判決)は、

「本願意匠にかかる物品は、常に底面の全部または一部を確認し得ない程度に収容した状態に置かれるものとは限らず、もとより底面が見られるのは使用時の一瞬にすぎないと速断し得るものではない」

と判旨している。

ところで、本件しょく台において、キャンドルをキャンドルホルダーに嵌挿したり抜き取ることは、本件しょく台が結婚式場での使用を想定していることから当然頻繁に行なわれるものといえるのである。

右観点からすれば、キャンドルホルダーの形状については、当然看者の注意をひくものとしてその差異は類似判断においては重要な要素と考えるべきである。

右判例からすれば、本件しょく台についても、キャンドルホルダーの差異は、無視しえない要部と考えられ、原審判旨はこの点法令違反がみとめられると考えざるをえない。

二 また、原審は、理由二の2において、

「前記甲第五号証及び乙第一号証によれば、甲第五号証(乙第一号証)七頁記載のメロディーキャンドルートH六五センチメートルとは座板の底から小型キャンドルを立てた最上端までの高さが六五センチメートルである趣旨であることが認められる。

そして、本件登録意匠のものの大きさについては限定されていないが、甲号意匠と同程度の大きさの場合をも含むものと解することができる。その場合には、キャンドルホルダーの大きさも甲第七号証、甲第八号証の一及び二の写真上に表れた大きさよりも大きく、キャンドルホルダーの形状の細部が看取しやすくなることは当然であるが、意匠全体の大きさに対する、各構成部分の大きさの割合は変わるわけではないから、両意匠のキャンドルホルダーにおける差異点は、しょく台の意匠全体を構成する一構成物であるキャンドルホルダーの主として先端にかかるものであって、全体に占めるキャンドルホルダーの大きさが小さいものであり、キャンドルホルダー自体の細部の形状よりは、むしろ、その配列が看者の注意を惹くものと認められる旨の前記判断を左右するものではない。」

と判旨し、

また、前記第一の二で引用したごとく、理由四の2では、甲第三号証及び甲第九号証のみでは、周囲に複数のキャンドルホルダーを設けたハート形枠状のキャンドル支持体の形状及びキャンドルホルダーを等間隔に設けた点の形状が、この種のしょく台におけるありふれた構成であるということはできない旨判旨している。

ちなみに、保温着が問題にされた事件(東京高裁昭和四八年(行ケ)第三号、昭和五〇年一〇月二〇日判決)では、「審決が認定した両意匠の基本的形態や意匠の支配的主要部というものは、いすせれも保温着の用途、機能にともなう必然的形状というべきものであるから、これが一致するということだけで、他の点の意匠的工夫、創作を考慮することなく両意匠の類否を決定するのは正当でない」と判旨している。

ところで、本件しょく台は、いずれもしょく台の中央にメインキャンドルを置く形の結婚披露宴用のものにほかならない。

結婚披露宴用のしょく台としては、本件登録意匠及び甲号意匠にあるようにハート形枠、キャンドルホルダーが複数個配列されていることは、その用途、機能からして必然的形状ともいえるものである。ちなみに、原審も、甲第三号証第1図について「結婚披露宴における広知の大型装飾用キャンドルに針金、プラスチック等でハート形に形成した支持体を装着し」と説明している。

よって、しょく台の大きさについて、単に「意匠全体の大きさに対する、各構成部分の大きさの割合はかわるわけではないから」との理由で、キャンドルホルダーの形状よりもその配列を重視したり、また、「この種のしょく台におけるありふれた構成であるということはできず」との判旨は、個々の意匠の用途、機能に伴う必然的形状を無視したものとして違法といわざるをえない。

以上

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