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最高裁判所第三小法廷 平成元年(オ)65号 判決 1990年4月17日

上告人

岩月厚人

右訴訟代理人弁護士

三浦和人

宮道佳男

被上告人

旧商号株式会社中央相互銀行

株式会社愛知銀行

右代表者代表取締役

小出眞市

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人三浦和人、同宮道佳男の上告理由一について

所論の点に関する原審の措置は、記録にあらわれた本件訴訟の経緯に照らし、正当として是認することができる。また、原判決が第一審判決を引用して理由を付していることは明らかである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同二ないし五について

商法二六三条二項によれば、株主は、会社の営業時間内であれば、いつでも株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができるが、株主名簿の閲覧又は謄写の請求が、不当な意図・目的によるものであるなど、その権利を濫用するものと認められる場合には、会社は株主の請求を拒絶することができると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、(一)上告人は、もといわゆる総会屋で、「企業情報」と称する新聞を発行し、また、弟の主宰する出版社発行の月刊雑誌「時局」の販売に携わり、昭和五一年六月頃以降、被上告人から右新聞、雑誌の購読料の名目で定期的に金員の支払を受けてきた、(二)被上告人は、昭和五七年一〇月一日から改正商法(昭和五六年法律第七四号)が施行され、株主権の行使に関する利益供与が禁止されることとなるのを機会に、上告人との間の従来からの金員の授受等の関係も打ち切ることとし、同年八月から九月にかけて、上告人に対し、同年一〇月以降右新聞等の受領を一切取り止め、従来行ってきた金員の支払を一切しないこととする旨通告し、右通告どおり金員の支払を止めた、(三) 上告人も、被上告人から昭和五八年三月分まで購読料を受領していた右雑誌を同月まで送付したほか、被上告人に対する右新聞等の提供を止めた、(四) 上告人は、その頃まで被上告人の株式を保有したことはなかったが、同年三月に至り、被上告人の株式一〇〇株を取得し、同月一七日、名義書換手続を了したうえ、同月三一日、被上告人方を訪れ、被上告人の社長との面会を執拗に要求し、これを拒否されるや、「国龍会(上告人が副会長を務める政治結社)の街頭宣伝車で社長の自宅に会いに行く方法もある。」「株主総会までに会えなければ総会で会おう。」などと申し向けた、(五) そして、上告人は、被上告人に対し、同年四月一四日、株主名簿の閲覧及び謄写を求め、同月二三日、改めて株主名簿の謄写を請求した、(六)上告人は、被上告人から株主名簿を謄写する理由を問われ、同年五月七日、「株主の資産状況」と「株主の動向」とである旨回答した、(七) 被上告人は、上告人の請求の全部又は一部の撤回を求めて交渉をした、(八) 上告人は、被上告人の担当者に対し、「他社にも同じような請求をしたが、勘弁してくれというところは勘弁してやった。」「お宅ら、手ぶらでよう来たなあ。」「自分らなら、バランスシートだけでも株主総会を八、九時間はやれる。」などと申し向け、昭和五七年一〇月以降被上告人が上告人との間の金員の授受等の関係を打ち切ったことを難詰する趣旨の発言をし、「うちの街頭宣伝車を社長宅へ回しますよ。」「一つ頼むと土下座でもすれば、勘弁するつもりだった。」などと述べた、(九) 上告人は、株主名簿謄写の理由として右(六)の事由を示したが、その具体的内容を示したことはなく、右の目的のために、何らかの活動をしたということは全くなかった、(一〇)しかして、上告人の被上告人に対する株主名簿の閲覧及び謄写請求は、株主としての権利の確保等のためではなく、右新聞等の購読料名下の金員の支払を再開、継続させる目的をもってされた嫌がらせであるか、あるいは右金員の支払を打ち切ったことに対する報復としてされたものと推認することができる、というのである。

右の事実関係のもとにおいては、上告人の被上告人に対する株主名簿の閲覧及び謄写の請求は、その権利を濫用するものというべく、これが許されるべきものでないことは明らかである。上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結局、右と同旨をいうものにほかならないから、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官坂上壽夫 裁判官安岡滿彦 裁判官貞家克己 裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎)

上告代理人三浦和人、同宮道佳男の上告理由<省略>

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