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最高裁判所第一小法廷 昭和62年(行ツ)99号 判決 1990年4月19日

東京都渋谷区桜丘町二四番八号

上告人

北中克已

右訴訟代理人弁護士

田倉整

水野正晴

東京都荒川区西日暮里五丁目三二番四号

被上告人

高橋工業株式会社

右代表者代表取締役

高橋保昌

仙台市宮城野区中野字葦畔一三一番地

被上告人

株式会社北一組

右代表者清算人

伊藤幹

右当事者間の東京高等裁判所昭和五七年(行ケ)第二六九号審決取消請求事件について、同裁判所が昭和六二年六月一八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田倉整、同水野正晴の上告理由及び上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 四ツ谷巖 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平)

(昭和六二年(行ツ)第九九号 上告人 北中克巳)

上告代理人田倉整、同水野正晴の上告理由

(はじめに)

以下に原審判決における違法な判断をした点についてこれを逐一申し述べることとするが、その前提として原審判決についての一般的感想を申し述べることをお許し頂きたい。

率直に言うならば、原審判決を一読してたいへんなショックを受け、再読して絶望的な気持に襲われたというのが、原審判決に対する偽らざる第一印象である。

とくに指摘しておきたいのは、上告人が原審において立論の基本とした事実関係について原審判決は、重大な疑問を投げかけていることである。

立論の基本となる事実関係に重大な疑問が投じられた以上、原審原告(上告人)の立論はその根拠を奪われたに等しい。

さらばこそ、原審において原審原告(上告人)は、事実関係について念には念を入れて詳細にこれを説明し、原告本人の陳述も詳細を極めた。

原審原告(上告人)が立証を尽すための最後の手段は出願代理人である渡辺勲弁理士からの事実確認のうらづけの証拠を入手寸ることである。

しかし、弁理士が出願依頼を受けてから、五か月も経過したのちにようやく出願の手配をすませたということは、弁理士としての職務違反の最たるものである。

出願代理人としてもっとも恥じるべき行為を本人を責めて事実確認を求めることは余りにも酷い。

原審原告(上告人)は弁理士本人からの事実確認の裏づけをとらなくても客観的事実として確認することは周辺の事情から十分裏づけできると確信して、その事実にいての主張立証を行なって来た(甲六二別紙五、中村対談記録参照)。

この点については、原審被告(被上告人)も十分に熟知していた。さればこそ、形式的には争点としていたけれども、実質的には見るべき反論も反証も提出していない。

原審裁判所だけが、前提となる事実関係について重大な疑問を投じたのである。

たしかに、原審判決も言うように、出願依頼から出願まで五ケ月余もかかることは異常である。本件でも早急な出願がなされていたならば、発明者である原審原告(上告人)はこれほど苦しまなくてもすんだ筈である。

異常であったからこそ生じた事件である。この点については、改めて法律的な観点から上告理由の一つとすることとするが、関係者一同原審判決を読んで、天を仰いで慨嘆し、言うべき言葉も見出せなかった。

原審における、これだけの訴訟活動によってもなお、裁判官を説得しえなかったと思えば、わが身の至らざるを慨くほかはないが、これだけ重大な疑問を投じられていることが分っていたならば渡辺勲弁理士についてさらに確認の資料を入手することもできた。

渡辺弁理士に対し、徹底的にその責任を追求することは可能であるが、原審原告(上告人)がその手を取らなかったことがかえって仇になったのかもしれない。

他人を責めるのは容易である。眼には眼を歯には歯をというのは、報復の手段であるかもしれない。しかし、仇に報いるに恩を以ってするのが善人の考えである。

訴訟活動は性悪説をもって行なうべきであり、性善説をとることは後れをとるだけであるというのが原審裁判所の哲学かとも思われるくらい、原審判決の認定は善人に厳しい。

どこまで立証したら、裁判所の心証を得ることができるか一〇〇点満点でなければ心証を取れないというのであれば、裁判に訴えることも無駄なことをすることに帰する。

とくに、信義に反する所為に出た被上告人髙橋工業株式会社代表者髙橋保昌の陳述にのみ信を措き、上告人本人の陳述を採用しなかった点は余りにも非条理である。

以上聊か過ぎたる表現があつたかもしれないが、原審原告(上告人)の意とするところをお汲み取り頂ければ幸いである。

以下、法律的観点から上告理由を申し述べる。

第一 上告理由第一点

原判決は無効審判制度における利害関係に関する法理論について、基本的な理解を欠き、結論を誤った違法があり、同時に審理不尽の違法がある。

一 無効審判制度は、もともと存在してはならない権利の登録を無に帰せしめようとするものであるが、何人がその手続を開始するかについて現行法はこれを専ら私人に委ねている。

かつての法制では審査官にも、無効審判を開始することも認められ(大正一〇年法第八四条)、公益的色彩が強く打出されていたが、昭和三四年法当初の第一五五条第一項が昭和六二年六月の改正によって審判請求は審理終結通知ののちは取下が許されなかった点が改められ、確定までは審判請求の取下が可能とされることとなったので、これまでの公益的色彩は姿を消し、私益のための無効審判制度であることが明らかにされたのである。

すなわち、私人間において、権利の有効無効が争われた場合には、特許庁の無効審判手続によって、公的判断を得ることが可能であるが、他方、私人間に争いがない場合には、無効審判手続を継続させておく必要もなく確定まで取下を可能とする途を拓いた今回の改正は無効審判制度を正視するものである。

二 他方、私人間に紛争が生じた場合であっても、その原因がもっぱら無効審判請求人の信義違反の行為に起因する場合には、無効審判請求それ自体その利益を欠くものとして却けちれなければならない。

まして、関係者のみが熟知している事項をタネとして無効審判請求をするが如きは、もっぱら私益的視点から判断すべきであって、同業の第三老が無効審判を請求した易合とは全く異なる見地に立って検討されなければならない。

三 本件では正しくこのような獅子身中の虫とも言うべき被上告人が、関係者なるが故に熟知している事実をタネとして競業機の製造販売を開始したため、上告人は自己防衛のための善後策として競業機の買取りを申入れたが、被上告人髙橋工業株式会社はこれに応じないばかりか、権利を無効にする旨の言動があったため、止むなく仮処分申請をし、上告人が代表者である北辰工業株式会社から不作為契約を理由とする差止請求を提起したのである。

原判決は、本件無効審判請求を仮処分申請への対抗策として位置づけているが、事実誤認も甚しい。事実関係からも明らかなように、上告人の発明の商品開発についての協力者であった被上告人髙橋工業株式会社が、上告人の承諾もなく競業機を製造し、被上告人茄子川組(現商号北一組)に販売し、不作為義務に違反するという信義に反する所為に出たため、上告人は、被上告人髙橋工業株式会社の代表者髙橋保昌を強く難詰したというのが真相である。

そこでは被上告人らが前記競業機を製造しないという不作為義務違反、そして、被上告人らの競業機が本件特許発明の技術的範囲に属するものであるかどうかは、上告人が仮処分申請に及んだ事由を根拠づけるものとして看過すべからざる事実関係であり、これを無視した原判決の判断は事の先後を誤ったものであって、審理不尽の譏りを免れない。

四 すなわち、原判決は、無効審判請求を仮処分申請と平面的に対置させるのみで、その基本となる事実関係には立入らない姿勢を明確にしているが、その背後にあるものこそ本件紛争の基本的な事実関係であり、この事実関係を糾明することなくして事案の真相に迫ることはできない。とくに中村氏との対談記録(甲一一、甲六二別紙五)によって、客観的事実を把握すべきであった。

これを法律的に言えば、審理不尽の違法があるといことに帰着する。

五 本件における事実関係を単純化して再確認をしておくと次の通りである。

先ず、上告人は掘削機の開発に心血を注いでいたが、その経過で生れた発明について、これを実施するための協力企業が被上告人髙橋工業株式会社であった。従って、被上告人は開発経過についてこれを熟知する立場にあった。特許出願をするについても、その図面作成に協力し、雑誌登載のための図面作成にも関与した。

そこで、一方では被上告人髙橋工業株式会社に機械の設計製造に当らせるとともに、他方、昭和四七年四月ころ、磯長特許事務所への出願の依頼をした。ついで、同特許事務所からの紹介で改めて渡辺勲弁理士へ出願依頼をしたのが昭和四七年四、五月ころであった。

結果としての事実としては、特許出願の日は昭和四七年一〇月一四日になってしまったが、上告人はすでに夏になる以前に出願も完了しているものと信じ込んでいたため、「建築技術」誌への取材にも応じたが、出願が公開される以前であったから、作用効果のみを強調し、図面も指示線も抹消し、明確な技術内容の開示にはならない工夫をしていた。前記中村対談記録(甲六二別紙五)九頁ないし一二頁にも、この間の状況が明らかにされている。

その後上告人と、上告人が代表する北辰工業株式会社および彼上告人髙橋工業株式会社との関係は緊密な協力関係にあったが、昭和五五年秋ころから、被上告人髙橋工業株式会社が競業機を製造販売を開始したため、両者間で紛争が生じた。

右の被上告人髙橋工業株式会社の競業機製造販売に端を発し、東京地方裁判所への仮処分申請、東京地方裁判所への特許侵害差止請求、他方、特許庁への無効審判請求、さらに東京地方裁判所への契約上の不作為義務に基づく差止および損害賠償請求事件へと紛争は拡大し、今日に至っている。

六 以上のように、本件紛争の発端は、緊密な協力関係が被上告人髙橋工業株式会社の競業機の製造販売という挑戦行為によって破れたこに起因するのであって、仮処分申請と無効審判請求とはその結果でしか過ぎない。

原判決は審理不尽の違法があることは明らかであり、無効審判制度の趣旨についても、その法理論に重大な誤解があり、破棄を免れない。

第二 上告理由第二点

審判請求の利益の存否の判断手法について、最髙裁判所の先例に反する違法がある。

一 以上のように、上告人被上告人の間の問題は関係者だけが知っている内部情報から「建築技術」を引っぱり出して、無効審判を請求することは、競業機の製造販売をしたという信義則違反に、さらに信義則違反を重ねるものであって、原判決が言うように、仮処分申請に対抗する策としての無効審判だから請求の利益があるという平面的なものではないのである。

のみならず、上告人がアンカーつき掘削機の先覚者であることは業界でも知られているところであり、このことは、被上告人髙橋工業株式会社代表者髙橋本人も法廷において認めている(甲九の二、三六頁、三七頁参照)から、いわば身内のものであった被上告人らによる無効審判請求は、純然たる第三者からの無効審判請求とは異なり、本件に限って言えば本件無効審判請求をもって信義則違反と断じても何らパブリックポリシーに違反するものではないし、無効審判制度の趣旨から見て、私益を優先させ、公益を背後においても何ら問題とならないケースである。

二 そして、このように判断すべきことは最髙裁判所の先例に添うことであり、原審判決は、最髙裁の先例に反す。

すなわち、最髙裁判所第三小法廷昭和五八年(行ッ)第三一号、昭和六一年四月二二百判決は、東京髙裁の判決の破棄差戻をした事例であるが、当事者間の和解によつて使用を許容した範囲内における商標使用がある場合に、混同を生じる使用を理由とよる商標登録取消審判を請求することは信義則に反すると判示した事例である。

これを本件に適用するならば、上告人は被上告人の無効審判請求は信義則に反すると主張しているのであって、信義則違反を理由とする審判請求が法律上の利益を欠くとの法理論については共通である。

そして、当事者間に(裁判上の和解であるかないかの点は相違するが)契約があつて、一方が他方に義務づけられた事項が存在することも共通である。

この点に関して原判決が、本件審判請求の利益の有無を判断するに当っては契約違反があるかどうか論点外であると却けてしまった点は正しく右最髙裁判所の先例に違反する。

しかも、審判請求が契約上の義務に違反する場合には信義則違反として、許されないとの考え方も共通に適用されて然るべき事案である。しかるに、右の最髙裁判所の事案では、信義則違反を認め、本件原審判決では信義則違反を認めていない。

三 原審判決が右最髙裁判所の先例に反することは明らかであるので、原判決を破棄し、差戻しの判決を頂きたい。

第三 上告理由第三点

複数の無効審判請求人のうち主導権を有する者と従属的地位にある者とを区別せず、審判請求の利益の存在を肯認し、実体についての判断を省略したのは判断遺脱の違法がある.

一 被上告人茄子川組(旧商号、現商号株式会社北一組)は、被上告人髙橋工業と組んで無効審判請求人の一員として名を連ねているが、その実体はあくまでも傍役であり、主役は被上告人髙橋工業であるから、審判請求の利益の有無は主役である被上告人髙橋工業株式会社について判断きれるべきである。

二 のみならず、被上告人茄子川組(旧商号、現商号株式会社北一組)はすでに事実審の弁論終結時以前の昭和六〇年七月八日に解散しており、すでに清算に入っている。このことは上告状添付の登記簿謄本の記載によつても明らかである.

以上の客観的事実を前提とすれば営業を廃止して、清算手続に入った以上、他社の権利について、これを攻撃する無効審判請求をなすべき法律上の利益を消失していることは明らかである。

このことについて、上告人(原審原告)はすでに原審において甲六〇河北新報の記事を提出し、同時に、第七回準備書面、昭和六一年二月四日付において倒産の事実(当時は解散前であった)を主張しているところでもある。

三 原審判決は、以上の事実の真相について全く顧慮することなく、単に形式的に第三者であるから審判請求の利益ありとの判断を示したのは、審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない。

第四 上告理由第四点

無効理由とされた雑誌記事は、出願人の意に反する公表であったことについて、原審判決の判断は経験則に反する重大な事実誤認であり審理不尽の違法があり、破棄を免れない。

一 すでに上申したように、上告人が特許事務所へ出願依頼をしてから、現実の出願日まで五ケ月もかかったという異常事態で、本件紛争は発生した。

原審判決は、これだけの日数がかかったことについて重大な疑問を投じている。

二 しかし、重大な疑問を投じたまま、そのことを理由に出願人の言い分を却けてしまうことは、余りにも切捨て御免にも等しい判断手法である。

それだけ重大な疑問であったからこそ、上告人は事情を具申して事実関係を明らかにする努力を重ねて来た。

上告人の側で入手しうる資料はすべて提供した。

上告人はこれによって十分に裁判所の御理解を得ていると確信した。

原審判決によれば、右の「確信」は「軽信」であったことが判明した。

残された立証手段は依頼を受けた渡辺弁理士の側からの資料を入手することだけであった。

三 第三者からの資料入手は難しいが、不可能ではない。

前記中村対談記録にも第三者である中村滋の発言があるが、裁判所の御理解を得ていないということが示唆されているならば、裁判所に心証を得て頂くための努力を重ねることができたであろうとの憾みを残した。

四 これを法律的に言えば、社会常識に反するように見える主張について、上告人、出願人、原審原告の側の主張立証が十分になされているにもかかわらず、これを否定する判断を示すためには、積極的な否定資料が必要とされるというべきところ、原審判決は、事もなげに、上告人の主張を却けたのは経験則違反、審理不尽の違法があり、破棄されるべきである。

第五 上告理由第五点

無効理由とされた雑誌記事に発明が開示されているとは言えないのに、これが開示されていると判断した原審判断は経験則違背の違法があり破棄を免れない。

一 右雑誌記事(甲三)には全文中のどこにも木件特許であるアンカー使用の件には触れておらず、又揺動圧入すると言うようなアンカーを必要とする技術思想の発表もしていない.図面にアンカーが画かれているが、本誌の発表から完全孤立していて当業者といえども理解する事が出来ないようになっている。何故ならば図中のアンカーを除く総ての機械部分には指示線を入れ、各々その名称を加えているがアンカーに限っては指示線も名称も加えていないからである。文中にその思想が発表されていなく、図中孤立しているのであるから、第三者又は当業者には理解されないのである。

二 従って、単に図面が出願明細書付属図面と似ているからというだけで、これを同一技術思想が示されているということはできない。

三 原審判決は、結果を先行させるという判断手法をとっているが、本件については妥当しない。

原審判決には経験則違背の違法があり、破棄を免れない。

以上

上告人の陳述書

原告は原審判決を一読しまして、その事実認定の間違いの大きさと、審理の粗雑さ、裁判所の先入観的感情の偏在に只唖然とし、司法の権威について慨嘆するのみでありました。

例えば原被告の本人調書、原被告及び被告会社役員の中村滋氏との対談書証、その他の書証について、故意と思えるほど事実認定を誤っているとか、莫大な原告提出の書証内容と被告の尋問調書などの中の重要個所の見落としをしているとか、特許法第二九条の違反と云う問題の虜となって、それが相対関係を無視し、人間社会の組織の在り方について何の思考もなく法規を浮上させている姿勢などであります。

以上の三点について区分して陳述申し上げたいのでありますが、判決文の個条に従って、その個々の個条内で申し述べますからよろしく御勘考下さい。以下第二、請求の原因の項より指摘陳述致します。

三、 審決の理由の要点、中(判決文四頁末行より)・・・「引用例の発行日以後に出願されたものであるが、本件発明がその出願前引用例によって公知となったことについて、特許法第三〇条第二項の規定の適用を申請している訳でもない。」と云っておりますが、原告は渡辺弁理士の特許申請諸事務が終了しているものと思い、特許法第二九条第一項に違反しているなどとは毛頭思っていなかったので手続を取る必要を感ぜず、又手続きも取っていなかったのであります。

この引用例の公知が特許申請前であった事を原告が全く知らなかったことは、昭和五五年一〇月三〇日に被告髙橋工業株式会社の代表取締役髙橋保昌が原告の会社を訪れた時、原告と対談したときの録音テープにその事実関係が明らかに収録されおります。(甲第二六号証御参照)二頁、六行から、(髙橋)で、実は私もそのために来たのですが、社長のあの特許出願に関して、ちよっとした間違いがあるんですよ。と云い、(北中)何が間違いなの、と問うておりますが、髙橋は、二頁裹一行から(髙橋)そうすると結局それがですね、間違いと云うのは、出願前にですね、建築技術に公表しちゃっているんですよ。そうすると特許法、(北中)その相手が、(髙橋)いや、出願前なんですよ、等と対談しておりますが、原告は建築技術誌発表前に特許申請手続が終わっていたものと思っていたので、「何が間違いなの」などと聞き、髙橋保昌は「いや出願前なんですよ。」などと云っておりますが、これは原告に髙橋が特許出願前に建築技術誌が発表していた事を教えている対談であります。(又ある意味では仮処分申請と引き替えの取引の為に、こんな事もある、とちらつかせたものです)続いて、同二三頁裹(髙橋)の六行目からも・・・「結局、先程私が申し上げた件も、もう一度よく確かめて頂きたい」と念を押して原告が想像もしていなかったこの件を、髙橋保昌は原告に確認するよう教えております。この対談を見て頂いても昭和四七年六、七月の特許申請手続き完了を予定していた頃から、この時点昭和五五年一〇月三〇日迄八ケ年余にも亘って安心し切って、このような問題が起こるとは想像もしていなかった事がよくお分かりになると存じます。続いての判決文には建築技術誌の発表図面中のアンカーに対する説明もなく、部品名称も加えていなくても(五頁四行から)「それらの目的作用は当業者にとって自明のことであり」とか、(同頁八行から)「掘削機の目的作用からみて当業者ならば一目瞭然のことと認める。」とも云っておりますが、それは審判を求めた当業者とか、審決を求められた審判官とか、審決取消しを求められた裁判官などが、その特許権の有効、無効の決定とか、取り消し請求の裁決をする為に審尋、審査した立場の人が易々と云える事で、通常の当業者ではあの建築技術誌の記事、図面などで説明もないアンカーの効用、目的を判断する事は到底出来るものではありません。発表文に説明も加えず、部品に名称を加えていない点などは、それでも目的意図を秘匿する為に、原告が苦心したものであり、何人にも簡単に察知出来ず、模倣機を簡単に作られない様配慮したものであります。

裁判所は微に入り、細に入って調べ抜いて知り得ているものであるから、いとも簡単に事実に反した判断を下しているものと思います。これは裁判所の独善的判断だと思います。

この裁判所の判断に対し参考の為に日本の建築構造家、特に基礎工事工法、工学の権威者、数名の方に建築技術十月号のコピー(甲第三号証と同じもの)を郵送お届けしまして、その記事、図面によって「当業者ならば一目瞭然に判断をする事が出来ますかとお伺いしたところ、この記事、図面を見た限りでは直ちに発明の内容を察知する事は出来ないとの御返信を下さいましたので御参考までに提出致します。

注、別添一、の古藤田喜久雄先生は早稲田大学工学部の教授で日本建築学会の副会長、別添二の、山肩邦男先生は関西大学工学部教授で、(社)日本建築センターの基礎評定委員会委員長で両先生は東西の基礎工学会の雄として全国の学会の中心的存在にある先生です。

別添三、の掛貝安男先生は日本の代表的な設計事務所、株式会社久米建築事務所の常務取締役構造設計室長で日本建築構造家協会の生みの親で事務局長をされ全国的に有名で基礎工事の工学、工法を極められている実務家です。別添四、の笹目栄三先生も日本を代表する松田平田坂本設計事務所の取締役構造部長と云う要職にある方です。前二者の両先生は基礎工学、工法の日本を代表する御意見番的立場にありますが、山肩邦男先生の(社)日本建築センター基礎評定委員会の評定許可を得なければどんな機械でも、どんな工法でも日本国内では機械の使用、工法の応用が認められないと云うほど重要な役割を持っており、建設機械メーカー及び建設業者(基礎工事に関する)は総べてこのセンターの審査を得て、始めて機械の使用、開発した工法の運用をするのであります。

当業者はこれが許可を得る為右の委員会で、機械、工法の説明をし、審査されて許可を得て始めて業に服すのであります。このような專門家の先生方が御判断されても一見にして判明し得ないと云うものを裁判所が、一目瞭然と云う事を原告は独善的判断であると云いたいのであります。

裁判所が人間社会の総てであると云うような判断をしているのでないかと思う位違法な判断をしているのでないかと思う位であります。

更に、特許申請図面(乙第七号証)には第一図に、8としてケーシングチューブが黒く太丸で円状に画かれておりますが、問題の建築技術一〇月号甲第三号証にはケーシングチューブが画かれておりません。これは特許申請に際し申請図面に渡辺勲先生が被告会社が書いた図面にケーシングチューブを書き加えたものです。

特許庁の審査官でも、理解が難しいであろうとの渡辺先生の配慮の一点の表れです。その後被告が書いて来たものが建築技術誌のもの甲第三号証です。本件発明が特許出願前に公示されていない事が、このように両図面の相違、原告が発明効果の主目的を発表せず隠蔽していた事実で明らかであります。

第三、請求の原因に対する認否及び被告らの主張、の項について、

二、1、取消事由(一)について、(判決文一九頁六行より)

被告は、その九行目より(ただし、北辰工業も被告髙橋工業以外の機械メーカーに右掘削装置を発注することはできないという双務的な内容のものであった)と云っていますが、原告は開発者であって何処に発注してもよい立場にあったのですが、当初から協力して来た髙橋工業の立場を尊重して、髙橋工業に対し、北辰工業以外に本件機械、特にアンカー付の機械を製造販売をしないように約束して髙橋工業に製作させていたので双務的なものでありません。通常社会常識として開発、発注者が受注者と被告主張のような双務契約をするような事は絶対にあり得ない事だと思います。

若し被告が云うように、原被告の双務契約であったのであれば、被告が原告の修理に即応出来ないからと云って訴外鈴木技研に本件機械を二機作らす事を被告に相談した時、何故被告はこの双務契約と云うものを持出して阻止しなかったかと云う事です。そしてすんなり次の機械を被告会社が作ってゆくと云う事は双務契約がなく、一方的に原告が発注する立場にあった事を物語っているものであります。

被告は判決文一九頁の裏八行目から二〇頁裏三行目までの間で、原告から融資を受けたのでないとか、部品代だったとか、七五〇万円に減額して引き取ったなど綴方的作文的主張をしておりますが、本件の争いは仮処分申請が昭和五五年一〇月一四日で、その後被告が昭和五五年一一月一三日に審判請求をし、訴訟中に被告が対策上虚構を練りながら綴り上げて来た主張です。これは時間的余裕を持って、良心的人間でなければ誰でも出来る事です。

ところが、この件に関し、本件発生の生々しい時期、昭和五五年一〇月三〇日に被告会社代表の高橋保昌自身が原告の会社に来た時の対談で、高橋保昌は原告の問いに対し、融資を受けていたと云う事を明白に原告に答えているのです。即ち、甲第二六号証の二〇頁(北中)六行目から「・・・私は本当にあんたと、鞄を下げて青い顔して、(原告注、高橋のこと)ここへ坐り込んで、俺出したんと違うの、(原告注、金を出してやったのと違うか、と問うたところ、)(高橋)そうです。出しました。」と答えております。その他同二〇頁の裏二行から、原告が、・・・・「誰か今迄に貸してくれたことあるの。・・・」と原告以外に誰か金を貸して呉れた人がありますかと被告に尋ねたところ、被告会社の高橋は、(高橋)・・・・と何も答えておりません。これは原告会社から融資を受けたが他の人からは誰からも金を貸して呉れた事がなかった、と云う対談です。

本件発生事の生々しい時期には原告から融資を受けた事をこのように認めております。若し被告が云うように融資を受けたのでなかったとか、部品を値切られて引き取られていたのであれば、この時点にハッキリと否定すればよかったのでないでしょうか、生々しいこの時点に認めていたものを時間を経て虚構をもって覆そうとした被告の言を採用した裁判所の判断が粗雑であり、誤ちが大きいと原告が陳述する所以であります。

この件については同じ頃昭和五五年一一月四日に被告会社の取締役であり、本件機械の設計などをして本件に深く関与していた中村滋氏が原告会社に来た時も、原告と対談して、原告の融資によって被告会社が救われたと証言しているのであります。

即ち、甲第一一号証の、北中克巳(北辰工業社長)中村(高橋工業社員)対談、の一二頁六行から、(北中)・・・・「あんたん所は(原告注、被告会社の事)うちで生きているんと違うか。仕事は別としてもね。救済した金額(原告注、被告会社が経済的に苦しい時救済した、五〇〇円万、一〇〇〇万円を差して云った)前渡金(原告注、何時ものように前渡金を渡してやっていた)」と云ったところ、中村氏は、(中村)結局倒れるのを、起きなけりゃ続いていないわけですからね、起き上がってなきゃあ続いてないわけですからね、やっぱり、そこで起き上がったということはやっぱり・・・」と云って倒産寸前に近かった被告会社を原告が融資をして救済してやった事を明白に認めております。これらは本件発生時の生々しい証言事実ですが、昭和六一年六月九日に右の中村滋氏が原告会社を再訪した時にもこの融資問題を確認したところ、甲第六二号証の五の対談記録にあるように、その六頁裏七行で(北中)それで、一〇〇〇万貸したのでしょう。(中村)はっきり言って(原告注、はっきり云って借りたと云っているのです)(北中)五〇〇万貸したでしょう。あん時だけでも、青い顔してきてね。前渡金で貰ったいうの、あん時、仕事なんか注文していなかったのに、ほら、これ見てごらん。ね、(原告注、甲第六八号証の救済融資の実態を見せる)(中村)それは、私は殆ど総て知っていますから、あまり、(原告注、あまり云わないで下さいと云っている事です。)と対談をしております。このように総てを知っていて、本件に深く関与した被告会社の取締役が原告の純然たる救済融資であった事を本件係争では第三者的立場で明白に証言しているのであります。

この件の他の細かい事は証拠関係において更に詳しく詳述致します。

被告は判決文二〇頁の裏四行から、建築技術記事掲載の連絡をうけなかったとか、掘削装置の仕様は右雑誌に掲載するものである旨の説明はなかった。などと云っておりますが、甲第六二号証の五の中村滋氏来社と云う右の被告会社取締役中村滋氏が原告会社に来た時の対談の四頁から六頁一行までに被告会社に原告が相談をし、合意の上で建築技術一〇月号に掲載した事を明白に認めております。

即ち、四頁一行(北中)・・・「それで建築技術の図面だってあんたが書いたんだもん。そうだろう。これ、(中村)そうです。と原告が建築技術一〇月号を「これ」と云って見せたところ中村氏は、「そうです。」と明白に認めております。(中略)七行目で(中村)これは、私が書いた、(北中)これは、あんた書いたやろ。(中村)うん。と中村氏は建築技術の図面を見ながら答えています。(中略)四頁裏一〇行から、(北中)だけど、これ、この図面だって、あんたが書いてくれたんだ、事実な、(中村)これ私が最初計画した時に、一号機ですよ。これは、(北中)そうそう、そうなんだ。それで、これ、建築技術に出す時に、どこかまた、ほら(原告注、乙七号証の特許申請図面原図に対し、建築技術誌に出す為に甲第三号証のように中村滋氏が書き加えた点などを示す)(中村)書いていますよ。高橋工業何とかと、(原告注、図面に書き加えています、と云い、高橋工業とかと、は文章にもある、と云う意味です。)

判決文二〇頁の裏七行から被告は、・・・「また、右記事に記載されている掘削装置の仕様は、それ以前に同被告が原告の要求に応じて提出したものであるが、右提出の際、右雑誌に掲載するものである旨の説明ななかった。」と云っておりますが、乙第七号証の特許申請用図面には甲第三号証の建築技術誌の図面のように、隅角部、壁際などで施工が出来うと云う事を表明する為の点、線引とか、間隔表示数字とかを入れておりません。これは特許申請委任後、建築技術社の取材に応じて更めて中村滋氏に建築技術誌に掲載する為の図面であるからと説明し、隅角部、壁際でも施工が出来ます、と云う事を原告と中村氏が相談しながら点、線引、数字で示すよう作図して貰ったものであります。

この図面の相違点を見て頂けば、特許申請時に被告に図面を書いて貰い、建築技術社の取材に応じて再び図面を書いて貰った事とか、原告が被告に建築技術に掲載する旨を相談していた事実が明瞭となります。裁判所はこの重要な両書証中の図面の事実関係を見落としているから粗雑でないかと思うのであります。

続いて、被告は原告から建築技術を交付されていない、抜き刷の交付は受けたと云い、台東区谷中の清秋堂書店で本件雑誌を購入した、と云っており、乙第五号証の領収書を提出していますが、原告は俄にこれを信ずる事は出来ません。何故ならば甲第九号証の一、の三七頁の六行かち三九頁末行及び二の高橋保昌本人調書の一九頁一〇行からのように、購入書店名を三転四転して変更している事とか、領収書印が乙第五号証のものと乙第二〇号証のものとでは丸囲い部の太さが違い、書店の所在地、店名字が細かいなど領収印としての同一価値が無いからであります。その上甲第一五号証の三、の清秋堂書店調査報告書にあるように、原告が清秋堂に建築技術を売っておりますか、との問いに対し、その一〇行で、「・・・売っておりません。」とか一五行で「売った事はありません、私のところは古本屋ですから。」などと建築技術を売った事がない、と云っております。又二頁一〇行で「・・・少し字が細いし違うように思いますね。」とか一七行から「・・・少し字の太さが違いますね。」(原告注、字と云っているのは町名、番地、清秋堂名の印字のことです)と云って清秋堂の主人は二七行で「この領収印は違いますね。」と断言しております。その他以下の対談によると高橋の主張、及び領収書を信用することは出来ません。この事について原告は昭和六二年八月一一日に更めて、前記の対談メモ記録を送って清秋堂様に対談内容に間違いがなかったかどうかを確認したところ、別紙五のように「書類につき回答致します。第一回、第二回の対談内容に間違いがありません。八月一六日、清秋堂書店、」と云う返信を下さっております。

高橋保昌の本人調書から始まって、この八月一六日の清秋堂様の返信に至る一連の書証を見る限りにおいて裁判所が乙第五号証を信じている事に対し原告は当事者以外、しかもその直接関係ある清秋堂様の証拠を無視する事について、判決文の中でその乙第五号証を認めた理由を具体的に説示して貰いたかったと思うものであります。

原告が領収書の違いがあると反証を挙げているにも拘らず、被告は印鑑の鑑定提出もせず、裁判所も又之を求めようとしないで乙第五号証を認めた判決はずさんそのものであります。

特に原告がこの件で判決の主体性を誤っている事を強く指摘しておきますが、被告は「抜き刷りの交付を受けた」と認めております。ここで建築技術誌の交付問題を一応おいておいても、抜き刷りの交付を受けた事は、建築技術誌の交付を受けた事と本質的に何の変わりもありません。その理由は、建築技術誌の一〇月号の本件記事と抜き刷り記事の内容には何の変わるところもありません。抜き刷りを建築技術誌の発行前後に原告が被告に交付した好意的な行為にも変わりがありません。

例えば、被告が購入したと主張する建築技術誌は、原告が交付した抜き刷りによって、その存在を知ったと云うのであるから抜き刷りな交付していなければ被告が建築技術を購入していなかった筈です。本件係争のもととなった審判請求はこの建築技術の一〇月号の「記事」にあるもので、それが抜き刷りであれ、完本であれ何等その価値において変わるところがありません。たとえばこの抜き刷りのコピーを特許庁へ審判請求の具として出しても、完本のコピーを特許庁に出しても、その求める目的も、決定を下す内容の価値においてもそのどちらを利用しても同じ価値があると思うからであります。裁判所がこの両者の本質的価値の判断も出来ず、原被告の論争に徒に時間を費やさせた後、同価値であると思われる抜き刷りのみを交付した様に認定して、その内容と価値の評価を置き去りにして誤った判断を下している事は実に未熟な裁定だと思うものであります。

内容が同一で、価値が同じものを、どちらにせよ原告が被告に対し愛情と好意をもって交付したものを自己の不法利益追求の為に利用した事が不信義であり人間社会の基本原則に反していると原告は主張しているのであります。(二)の判決文二一頁の七行から二二頁二行までの件については、北辰工業が一方的に被告会社に注文する立場にあって、双務契約的のものでなかった事は本文前述三頁一二行から説明しました通りであり、鈴木技研に発注するに当たって被告会社代表者高橋保昌に相談した件、再び高橋工業が本件機械を原告の会社の為に製造した事などについては本件の随所で原告が陳述した通りであり、これに対し甲第六八号証の一及び二などを証拠として提出している通りであります。

被告は判決文の二二頁三行から、・・・北長工業と被告の合意対象となったのはインゴットの配置を特定した所にあり、アンカーが装着されている掘削装置と云うような広い範囲のものでなかった、と云っていますが、インゴットの利用法は広く過去のあらゆる機械に利用されていて新規性は全くありません。機械の本体を貫通して反力を取る目的でアンカーを打ち込む方法は、在来のあらゆる機械に利用された例を見ない新規性があります。特許願の、詳細説明に、本件機械の部品名とか、それが個々の役割を説明していても、それぞれの部品、役割、インゴットに至るまで総てがが新規性の無いものばかりです。

ここで登場した新規性のある前述アンカーが、その説明された総ての新規性のないものでは求める事の出来なかった答、即ち揺動圧入に対する側圧による反力を取ること、それ故に今迄の機械には求める事の出来なかった強力なケーシングチューブの押し込み、引き抜き力が生まれた、よって在来の機械では求める事の出来ない利益を産業界に齋したと云う事になっているのです。であるから、被告の云う、広い範囲のものでなかった。でなく、ここにおいて本件機械等に止めを刺すに価するアンカーであった事がお分かりになると思います。

例えば被告は甲第九号証の二の本人調書の一四頁六行から「・・・・杭を打つという事は機械屋としては余りにも泥くさい方法なんで、社内では杭を打てばこの問題は一番簡単なんだけど杭を打つわけにはいかんなという話しをしておりました。」といっておりますが、機械屋と自任する高橋が、その「泥くさい」と侮辱した杭を何故これほどまでに原告と争ってまで利用せねばならないのでしょうか、それは理屈抜きでこのアンカーに優る反力の取り方がないからでないでしょうか。(原告はこの点を特に裁判所に注目して頂きたかったのですが、判決文を見る限りにおいては粗雑に、見落として、ここに判決の誤ちの岐路が出来たものと思います。)

この件について、被告は別件の本人尋問に際し、甲第九号証の一の本人調書の七八頁からの裁判長の質問に対し、次頁の裁判長の問い、・・・「それを、そういう条件を全部はずしまして、そのインゴットを置くだけよりはアンカーを付けた方が圧入能力は優れるということは一般的に言えますか、」と質問したところ、高橋は、「ええ一般論としては言えます」と答えております。

続いて裁判長が、「それは言えますでしょう。」と高橋に尋ねたところ、高橋は「はい」と答えております。このように裁判長の問いに対しアンカーを打ち込んだ本件機械がアンカーを使用していない在来の機械より効力が増大している事を自認証言しております。

又高橋保昌本人調書甲第九号証の二の三六頁裏一一行からの原告代理人弁護士田倉整先生の質問に対し、「北中さんと取引が始まって始めてアンカーつきの揺動装置のものが出たんじゃないですか。」との問いに対し、高橋は、「いわゆる初めから杭を打つ部分を設けた機械は多分あれが初めてだと思います。」と答えていますが、「出たんじゃないですか」とは世の中に始めて出たんじゃないですかと聞いたものど思いますが、高橋は、「・・・多分あれが初めてだと思います」とアンカー打ち込みが世の中に始めて出たもので、全く新規性のあるものであった事を認めているのです。それでは、この問題で原告が後にこのアンカー使用をしてはならないと云う仮処分申請をしても争う原因は全然ない筈です。

被告高橋工業はその代表者がこのように明らかに新規性があり、在来機械では見る事の出来なかった機械(アンカー使用)であったと証言しておきながら、二二頁裏一行からのように・・・「すなわちインゴットをチャックの両側に配置した掘削機を開発し、」これを茄子川組に販売したところ原告が仮処分申請をして来たので、原告の仮処分申請に対抗する為被告らはやむを得ず本件無効審判請求をしたのである。と云っていますが、それでは前述した別件裁判長の問いに対する答えとか原告の代理人の問いに対する答えはどう云う意味を持っていたのであろうかと思います。原告は原告が開発したアンカーの使用さえしなければ、インゴットがどこにあろうがそんな事は御自由にして下さい、と仮処分申請時から云い続けているのです。そして仮処分は飽迄も仮の処分であって原告の訴訟目的は遂行しているものでないと云って現在に至っているものです。特許の中身を裁判所までが充分究明せずこのように変則的な主張をする被告の主張に眩惑されているところの判決が違法であると原告は云いたいのであります。

ところが被告は右のようにこのアンカーの新規性と効用の大きな所を利用して模造機を作って販売していたのであります。原告がこの販売事実を知って被告に買い戻しをして貰い、平和円満に解決したいと望んで買い取り資金の提供まで提示したのでありますが(甲第一四号証の一、二御参照)被告は販売先はブローカーが介在しているので不明だと虚偽の答えをして応じて呉れないので、この無法行為を阻止する為に仮処分申請に及んだものでありました。

判決では原告が仮処分申請をしたから被告が審判請求をしたと安易に判断していますが、その間に原告がこのような努力をした善意を見落としています。

原告はその後、昭和五七年三月九日に、昭和五七年(ワ)第三一二六号事件として東京地方裁判所に対し、特許権侵害差し止め請求をしたのでありますが地裁で、「別件高裁で審決取り消し請求をしているようであるからそれが決定まで中止をし見合わせてはどうか」と云う申出が地裁からあったものですから、昭和五八年三月一一日期日を最後に現在まで中止している状態であります。この仮処分問題となった本件右の事情等が完全解決していない事をよい事として、被告が不信義な行為を、あの手、この手と続けているにも拘らず本件裁判においても真実が究明されていないものであるからこのような判決が下されたものと思います。蓋し、上級裁判所は下級審とか本件のような特許庁の決定をつまびらかに再審するところに意義があるものと思いますが本件においてはその跡が見られません。本件機械の特許の中身の分析が充分になされ、仮処分申請に至る道程をもう少しつまびらかに検討されておればこのような判決に至らなかったものと原告は信じます。原告が本件判決文を一読して慨嘆した第一の理由は裁判所が第三者の証拠を無視するとか、これを無視したが故に審理が粗雑になっており、真実が追求されていないと思ったからであます。

被告は判決文の二二頁裏一〇行から、被告らは原告のした仮処分に対抗する為やむを得ず、法律上の利害関係を有するものとして、無効審判請求をしたものでその適格性を有する事は明らかである。と云い無効審判請求は信義則に反するものでなく、原告が仮処分申請をしたから信頼関係が破壊されたのである。と主張張しておりますが、前述しましたように高橋保昌自身が、「アンカーに新規性がある」とか「アンカーの開発は原告が始めてである」とか「アンカー利用の機械が今までの機械より能力が優れている」などと証言している事については疏明番号を記述しながら陳述した通りであります。このように被告自身が認めている本件特許の中心であり目玉的商品であるアンカーを盗用されれば当然の事として仮処分申請をするのは当たり前であります。

その上原告は前述しましたようにこの盗用に対してさえその初期には平和解決を求めて模倣機械の買い取りをその資金を提供してまで求めるという温情を示しましたが被告はこれを拒否しております。(甲第一四号証の一、二御参照)被告が請求人適格性を欠ぐという事は前述してありますように、本件機械を協同的意志の元で開発に協力し、そして特許申請に対しても、又建築技術発表に際しても共同歩調を取り、それが為に必要な図面などは被告会社で作図して呉れていますが原告も又被告会社の経営窮状時には何時も援助し融資などによって救済してやっておりました。にも拘らず原告が好意的に交付した、建築技術乃至その抜き刷り(前述してありますのでここではその争点は一応おいておきます)を利用して審判請求をしたと云う事にあります。

云うならば被告は内輪の人間で本件に関しては情を知り尽くし、自身が関係していた問題を自身の手によって破壊しようとしているのであります。被告自身がと云う事は以前から立証していたのでありますが、更めて立証しますと、たとえば甲第一一号証の北中克巳中村対談、は本件発生時、被告が審判請求をしようとする直前に被告会社の役員である中村滋氏が原告会社に来た時のものでありますが、(中村)、まあ、私が一番残念な事はですね、一応まあいろいろやって、特許・・・が設計して、それが触れて、それが潰れてしまうそりゃわかりませんけど、やってみてね、それが一つ残念なんです。と云っておりますが、(原告注、この中村発言は、「私が一番残念なことはですね、一応まあいろいろこの機械の開発に関係して特許まで得たのであるから、その設計までしておいて、それが特許違反に触れて、それが失権してしまうと云う事は裁判をやって見ないと分からないが残念です。」と云っているのです。)被告会社の役員である中村氏が、「いろいろやった」と云って開発初期に原告といろいろ相談して本件機械が出来上がったと云い、「・・・が設計して」と中村氏が被告会社の設計者として本件機械を設計したと明白に対談しているのです。原告が(北中)そりゃ技術屋としてな、やっぱり、と技術屋の立場に立ては一生懸命に設計をして、開発に関係していたのだからやはり残念だろう、と云ったところ、中村氏は(中村)折角・・・そう気持ちがあったもんですから。と云って高橋保昌との中を取り持つ為に来たとの意志表示をしているのです。明らかに被告会社は本件に関しては内輪であり、身内であり、自分自身であると云える所以です。

前述して来ました様に、又後述致しますが、原告は被告に対し一点の疚しい事もしておりません。本件は被告の原告に対する裏切りそのものであります。原告の温情と、原告との契約に反して、原告が好意的に交付してあった建築技術を悪用して審判請求をしているのですからこれ以上の不信義はありません。そしてこれ以上に人間社会の基本原則を無視した行為はないと思います。この事を順を追って冷静に反省せず北辰工業の仮処分申請が信頼関係を破壊したのが原因である、と云うに及んでは被告の主張は正気の沙汰ではないと云うものであります。

少なくとも裁判所が、審判請求の証拠として提出した建築技術乃至その抜き刷りの出所の過程と原因、そしてこれが性質の究明を充分にすれば建築技術を被告がこのように悪用する性質のものでなかった事が理解される筈であると思います。

仮に被告がどうしても審判請求の必要があると思うのであれば、被告自身が原告の為に作図提供した建築技術一〇月号を使用せず、第三者の資料を引用すべきであると原告は断言します。このような手段を取った被告に請求人適格性がないと云う事は理の当然でありますが、このような手段に出た被告の行為を容認した判決も又不法であると思います。

被告は二三頁七行から同頁裏七行までにおいて、請求人適格性の欠陥理由が契約関係の存在を前提とする限りにおいては、被告茄子川組が被告高橋工業と立場を共通にしているということはあり得ないと云って、被告茄子川組が請求人適格性を欠ぐものでないとの主張をしておりますが、原告は契約関係の存在理由のみをもって適格性の有無を論じているものでありません。

被告高橋工業に審判請求の適格性がないという理由は次の順序で発生しております。本件機械開発の協同的立場にあった当事者であった(開発事情を知り尽くしている)。特許申請、建築技術誌発表が原被告合意のものであり、その必要両図面を高橋工業が作図して原告に提供された。高橋工業は北辰工業との本件機械製作に対する契約を破壊して、原告の開発した、本件機械のアンカーを盗用して販売した。審決請求の具とした建築技術乃至抜き刷りは原告が高橋工業に好意的に与えていたものである、その図面は高橋工業が書いたものであり純然たる第三者でない。などの理由で契約関係の存在理由のみが請求人適格性を欠ぐと云うものではありません。被告茄子川組は原告

開発の本件アンカーが特許品である事を知りながら高橋工業から本件機械の模造機を購入して高橋工業と同じ立場にたって原告の特許権を侵害していたのであります。

茄子川組はこの建築技術一〇月号の記事のある事は知らなかったが、高橋工業が茄子川組を、審判請求の第三者を装わす為に引き入れたのであります。高橋工業が茄子川組を第三者を装わす為に引き入れた事情は茄子川組がこの訴に対し全然関心を示さず高橋工業が訴に対応する総てを支配している事で分かります。又七年間に及ぶ長い本件訴において一度も茄子川組は出廷した事がなく、又被告の提出した答弁書、準備書面の全部を通じて茄子川組の意志表示が全然なされていない事は茄子川組自身が法律上の利害関係を有している事を認めてない姿勢の表れであります。しかもその上特にこの事を立証するかのような問題は茄子川組が昭和六〇年七月八日に倒産し、昭和六〇年七月八日に会社を解散しているにも拘らず、本件訴においてこの事の手続は一切せず何の表明もしなかった事は本件の被告が高橋工業のみと見てよく、茄子川組は高橋工業の不法行為の具として利用されていたに過ぎませんから請求人適格性を欠いでいると云うものであります。

判決文中二三頁裏九行から、原告の取消事由(二)の主張は、本件無効審判の段階で審理の対象となっていなかったのであるから本訴において右の主張をする事は許されないと云っていますが、上級審に向かって主張の不備、審理不備を更めて提起再審理を求めるのは訴訟行為の常道であってこのような論理の展開には全く意味がありません。二四頁から二五頁裏三行までの被告の主張に対し、本件発明が原告の意に反して公示されていた事と引用例が特許法第二九条第一項第三号の規定に該当するに至っていなかった事は続いての(2)項と共にその事実関係を明らかに致します。

被告は二五頁裏四行目から、原告が渡辺弁理士に委任したのが昭和四七年四、五月であると主張していますが、特許事務の手続き上から昭和四七年一〇月五日までも要した事は特許事務手続の上で判断すると甚だ不自然である、と云っていますが、この事情については後述しますが二六頁の三行から「本件発明の内容が雑誌に掲載された事を知って、慌てて本件特許出願手続を渡辺弁理士に委任したものと推認せざるを得ない。」と云っておりますが被告は総べての件でこのように自己の前言を忘れて詭弁を弄するとか虚構を構築すると云う事を自ら立証しているのであります。

原告は先にもこの件についてて触れておりますが、甲第二六号証の、「高橋北中対談の」録音テープ反訳分の二頁六行から、(高橋)・・・社長のあの特許出願に関して、ちょっとした間違いがあるんです。とか、同頁裏五行から(高橋)いや、出願前なんです。とか、二三頁裏四行からの高橋の言七行目から、結局先程私が申し上げた件も、もう一度よく確かめて頂きたいと云っております。原告は渡辺弁理士の申請手続が遅れて、建築技術の発表が先になっていた事をこの対談当日昭和五五年一〇月三〇日まで知らなかったのですが、この対談当日高橋保昌に教えられて始めて知った事がこの対談内容に右のように表れたものです。

建薬技術発表が昭和四七年一〇月一日でありますから、この対談日昭和五五年一〇年三〇日まで実に八年一ケ月を経て高橋保昌本人から原告が教えられている右のような事実があるにも拘らず被告は、「本件発明の内容が雑誌に掲載された事を知って、慌てて本件特許出願手続きを渡辺弁理士に委任したものと推認せざるを得ない。」と云っているのです。理屈と云うものはこのように後からはどんなにでもつけられるものか知りませんが、事実に反している事を云っておりますとこのように化けの皮が剥げるものです。裁判所も人間の権利を追及審判しているのでありますから折角提示されている書証などを見落とさずこのような点まで微に入り細に入って審理して頂き一点たりとも疎かにせず当事者の訴訟目的の根源に迫って頂きたいものと思います。

さて渡辺弁理士の件ですが、被告の主張を聞くまでもなく、弁理士事務所の形体の確りしている所であれば、委任者から以来を受ければすくなくとも一〇日前後で申請手続は終了します。現に現在原告が特許申請手続を依頼している杉村萬国特許事務所などはその通りでありスピードある事務処理に原告は満腔の敬意と感謝を持ってお願している位であります。渡辺勲先生は当時都営住宅のような所にお住みになっておられ、事務員は一人も居らず、奥様が留守番をしてその自宅を渡辺弁理士事務所と名乗っていました。(表札のみで看板も何もありませんでした。)その上大阪の久保田鉄工所の顧問弁理士をしていて忙しいと聞いていたのですが、渡辺先生には失礼ですが当時原告はこんなみすぼらしい弁理士事務所に日本を代表する久保田鉄工が何故渡辺先生を顧問弁理士にしているかと奇異に思った位でした。

本件機械の私のアンカー装着に大変興味を持って来た被告高橋工業に昭和四七年の三月頃に「やって見よか」と最後の決を下したところ、高橋も非常に喜び愈々具体的な構想を練り、何回となく製作図を書き替えて(中村滋氏が設計を担当していました)製作に進んでいたのでありますが、これほど価値のある大型機械を作るには原被告の様な零細機業では、まして町工場に過ぎない高橋工業の技術では具体案が完成して製作図面が出来上がるまでに、どうしても三ケ月間位を要したのであります。この間見通しもついて来たので、昭和四七年の四月の下旬か五月に渡辺先生に、こんなものを考えているので特許申請をしたいと思いますがよろしくお願しますと口頭でお願し、五月末に正式の設計図も出来上がり愈々本件機械の製作に入ったので、六月に入って高橋工業の設計者中村滋氏に特許申請用の図面を書いて貰い渡辺先生に申請のお願に行ったのでありますが何しろ留守が多く、奥様が、不在です、と云うだけで事務的に取りつく(お願いする)何もありませんでした。そのうち機械の完成も間近かに近づいたのですが七月頃にやっと渡辺先生に正式にお願しまして、白紙委任状をお渡ししたのであります。その渡辺先生の多忙な合間を見ながら二、三回お会いし私が説明し先生が申請手続案を何回にも亘って書き上げ、中村滋氏の図面に前述のケーシングチューブを書き加えたりしたのであります。

特許願のタイプなども、タイプもない、事務員もいない渡辺先生手書の原稿を原告が会社に貰って来てタイプしたものです。このように僅かな所にも時日の消費が御理解されるものと思います。

事務員も居らず一人でボツボツ仕事をされていた事は乙第一〇号証の意見書、乙第一一号証の手続き補正書等を見て頂けば余り上級な弁理士事務所でない事が充分お分かりになると存じます。被告の云うように又、裁判所が判断するようなそんな立派な形体を持つ立派な弁理士事務所でなかった事や、これでは事務処理が遅れるであろう事が一目瞭然御判断出来るものと思います。

杉村事務所のように完備した事務所へ、特許事務専従者を置く(課、部を置く会社も多い)会社などが急を要する申請願いを出せば一日か二日で出来る事は被告の説明がなくても通常の常識人であれば誰でもが知っている事であります。

原告は四月の下旬か五月初旬に初めて渡辺先生宅を尋ね、こんな機械を作ろうと思っておりますと口頭でお願し、八月初旬機械の出来上がるまでと思って七月に白紙委任状をお渡しして何回もお願いに上がって留守に合っていたのであります。白紙委任状をお渡しし一〇月一四日まで三ケ月も四ケ月もに亘って手続が出来ていなかったとは思いもよらなかった事です。乙第六号証の委任状の日付け一〇月五日は渡辺先生が記入したものです。それが一〇月一四日に特許願いを出したからと云っても、たとえば渡辺先生が一〇月六日に特許願いを出す心積りで五日の夜自宅で日付けを記入しても六日以降一四日まで特許庁へ行けなかった事情があったかも知れません。(事務員などがいないから)右の渡辺事務所の形体としては充分あり得る状態であります。

白紙委任状に渡辺先生が記入した日付、その他の文字と乙第一〇号証の日付、文字、乙第一一号証の日付、文字を照合して頂けば全く渡辺先生同一人のものである事が充分理解されるものと思います。

裁判所は原告がこの事について反論陳述してあるのでありますが右の各乙号証の照合はしていない様な判断をしているように思う判断を下しております。

原告は右のように努力し、法規に叶う手順を踏んでいたのでありますが、右のように弁理士の選択を誤っていた事が原因で不測の過失を招いていたのでありますから善意に解釈して原告の意に反していたものと解釈され特許法第二九条第一項第三号で厳しく責められるべき性質のものでないと思います。(この六、七月に渡辺先生にお願をしてあった事は甲第六二号証の五の中村滋氏と原告の対談文の二三頁五行から一〇行までで、中村氏が手続が、三、四ケ月遅れた事を認めておりますので原告の主張と一致しております)被告は二六頁の六行から、なお本件発明を雑誌「建築技術」へ掲載する事及び本件発明の特許出願について、被告高橋工業は、事前に原告より一切知らされていなかった。と云っておりますが、先にも述べてありますようにこの事については高橋工業の中村滋氏が甲第六二号証の五で、原告との対談で明らかに原告から相談を受けて図面を書いたと云う事を証言しております。(同対談の四頁一行、七行目、四頁裏一〇行、御参照、特許申請の件については、同対談の二三頁の七行で中村氏が、「そうです。もう、時間的に云うと、全然、あれしているはずなんです。」と云って原告が特許申請をする事を高橋に相談した事、中村氏が図面を書いたものであるから、時間的に云うと特許願いの事務手続きは済んでいた筈だ、と云っているのです)このように特許申請についても、建築技術掲載についても、逐一高橋工業と相談をしてやっていた事が充分判明致します。

被告は二六頁九行から(3取消事由(三)について)引用例には本件発明の技術的思想が開示されていない旨の原告の主張は争う。と云っておりますが、原告は建築技術誌に本件発明の内容については説明しておらず、アンカー名を入れておらず図示もしておりません。特にこの建築技術にはその技術思想を開示するに最も必要な「掘削要領」と云う項で、アンカーの存在、アンカーの効用などを謳っておりません。又第二図、第三図、第四図ともその施工の要領図にはアンカーの所在を図示するとかGL下にアンカーを記載しておりません(この図面は原告が書いたものであります。原告がアンカーの効用を秘匿していた思想がお分かりになると思います)又この記事を見る大方の読者が関心を持って見る図面は、図2の掘削要領と図3、図4の施工要領にあると思います。この施工要領と説明文は一致しておりますが、この雑誌の中にはアンカーの存在とアンカー使用による反力の取り方は全然記載しておりません。であるとすれば大方の読者にはこの蚊帳の外におかれた機械図面の核心を掴む事は出来ていない筈です。従って発明の意図するところも判明するものとは思いません。

この記事の内容について、被告は、引用例には、本件発明の少なくとも構成要件のすべてが記載されているから、原告の右主張は理由がない、と云っておりますが、本件特許の主目的であるアンカーは特許願には重要な個所として記載されていますが、建築技術にはこの重要な個所について意図的に全然触れておりません。このように両記載文章は本質的に大きな相違を持っているのであります。被告及び裁判所が、図一を見れば当業者であれば誰でもがアンカーの持つ性質が一目瞭然に判明すると云っている事は被告がこの機械の作図、設計、製作者である当事者であったと云う事を忘れている事と、裁判所も又この訴に携わって長年の間この問題を審理して充分弁えていたと云う事を忘れているからでないでしょうか、この件については本文二頁七行から三頁三行までで前述した通りであり、そのような判断が公平でないと云う事は別添一、二、三、四で夫々の学界、業界の権威者の判断を求めて答えた通りであります。うっかりしていた事ではありますが原告が被告にこの事の責任を問うならば、原告が被告にこの図面を書かす時、何故中村氏がアンカーを書き入れたかと思う事です。設計者は一応機械の構図を忠実に書くであろうが、ここで隅角部、壁際などの点、線を入れるとか、間隙の数字を入れる事に気を取られてアンカーが記入されていた事を見落とした事であると思います。この問題を追及するならば、むしろ図面の作図の依頼を受けた審判請求者である被告高橋工業側にこそその責任があると言える位であります。

又特許法を善意に解釈するならば本件雑誌記事の工事は試験工事であったので試験と見做されてもよいのでないかと思います。特許法第三〇条の第一項に、特許を受ける権利を有する者が試験を行い。と記載され、その場合、同項各号の一に該当するに至らなかったものとみなす。となっております。大企業、大機械メーカーであれば製作機械の試験はその所有する工場敷地などでし、その結果が成功した時に製品として販売するが、原告のように零細企業(当時は)や高橋工業のような町工場では乙れが試験をする場所もなければ、試験に要する費用も惜しまねばなりません。(試験には機械の搬入出、掘削費、残土処理費、杭の掘り出し、搬出費、埋め戻し費などで約二、〇〇〇万円位を必要とします。)このぶっつけ本番の博打のような工事は試験そのものであり、通常こうした工事は「試験工事」と云っているのであります。若しこのぶっつけ本番の試験工事に失敗をすれば、問題の建築技術誌に掲載されていなかったのです。この試験工事の成功に興味を持った建築技術社が取材に来て、この施工内容の一部を発表したものであります。事実この試験工事は試験でありましたから、被告髙橋工業の代表者である髙橋保昌とか、設計者である中村滋とか、吉川と云う社員が毎日のように来て機械の調子を見るとか欠点、改善個所の追及をしていたのであります。別添六の写真四葉は髙橋保昌がこの試験工事をしている現場で本件機械の調子を見るとか、改善個所の発見に努めている所の写真であります。基礎業界では、新しい機械を使用する場合は大メーカーの自社内試験済の機械を販売し、買い取った業者がこれを初めて現場で使用する時でも「試験工事」と見做し、そう呼んでいるのです。そして機械、工法を新しく採用する時の杭造成は「試験杭工事」と呼んでいるのです。何故かと云いますと通常の機械の場合は工場試験で充分ですが、土工事の機械、特に基礎杭構築用の機械は、地下水とか、砂礫の土壤状態が未知の不特定要素を持っている所へ、何抬米も掘削して未知の世界に挑むからであります。工場で計算、設計、製作したものを持込んでも、成功しない例とか、不満足の結果が出る場合が多いのでありますから、原被告のすうな零細企業に取っては特に試験そのものでありました。

このように原被告が試験的な考え、試験工事と思って取り組んで施工している所は飽く迄も「試験行為」であります。これは明らかに「試験」と見做されてよいものでありますから前記特許法第三〇条の第一項の適用を受けるべきだと思います。

第四、証拠関係

二、1、取消事由(一)について(二八頁裏六行から)

(一)の裁判所の判断は根本的に誤っています。

二九頁裏二行の1で裁判所は走行キヤタピラ等が邪魔になって、とか、(以下略す)三〇頁四行から、隅角部の奥深く突入させることはできないというような欠陥があるとの「知見」に基き、(以下略)三〇頁裏一行から、二つの壁によって形成された隅角部の奥に突入させて杭打孔を掘削することができる軽量小型の掘削装置を発明した。と云っておりますが、この知見という判断にそもそもの間違いがあります。原告は本件機械を開発するに当ってその当初から、必ずしも隅角部に突入さすとか、軽量小型の機械を作ろうと考えていたものでありません。先ず購入価格の問題でした。購入機械の安いものが欲しい、(当時三菱ベノトを購入すると付属機器を含めて約七、五〇〇万円と別に三五屯のクローラクレーン三、五〇〇万円を併せると約一億一〇〇〇万円となり、平林製作所のパワージャッキが一、六〇〇万円、付属機器を含めると三、〇〇〇万円以上となりクローラクレーン三五屯、三、五〇〇万円を加えると六、五〇〇万から、七、〇〇〇万円となります)と、零細企業が一億以上ものベノト機を買うことは容易な問題ではありません。そこで噂によると平林製作所に小型掘削機があり、機械代金も安いと知人の蛭間一郎君と云う人から聞き、一度その機械を見せて貰えないかと相談したところ、パワージャッキの施工現場を見せて呉れたのであります、ところが、小型なだけが取り得でベノトに較べて価格は半分以下であるが施工能力は<省略>の価値もない、と見ている中に、アンカーの打ち込みの構想が浮かび始めたのであります。隅角部突入とか、小型強力とかキヤタピラが不要と云う答えはアンカー着想の結果試験工事によって表れた完全な答えであります。始めからこのような理想的な構想など浮かぶ筈がありません。

確か本件請求事件の一つとして、被告等に適格性がないと云う論点にこの件が入っていなかったかも知れないが、この裁判所の裁定するところのものは、原告の本件機械開発目的の二次的に表われた構想であり、本件機械開発の根本的な目的でなかったのであります。以下にも散見しますが本件判決には根本を捕えずその枝葉末節のみを追っているところがあると思いますのでこの件原告は主張しておくものであります。

本件機械の一号機は、帳薄に一二、一〇二、五〇〇円と記されております。(付属機器、クローラクレーンを加えて約六、〇〇〇万円余りで整います。)そしてその掘削能力はペノト機を遙かに凌駕し、その上隅角部に完全突入とか壁際でも完全に偏芯しないと云う大成功を収め、その結果の答えで知り得、宣言出来たのが、隅角部突入とか小型軽量と云う謳い文句となって表れたのです。

このような問題はそれほど本件で重要と思われない事ではないかと思いますが以下に続く判決文がその考え方の総てにおいて右のように主客転倒しているとか、独善的な判断が多いのでここでその誤った考え(判断)を指摘しておくものであります。

(2) (三〇頁裏四行からについて)

原告は裁判所がこの項で判断しているような、被告髙橋工業の代表取締役髙橋に対し本件発明の「内容」を説明しておりません。そもそも髙橋に相談をした時点では本件機械の「内容」など原告自身が持っていなかったからであります。

平林製作所のパワージャッキを見せて貰った直後から、このような単一機械でもアンカーを装着すれば揺動装置が付けられ地圧によって反力が取れるのでないかと思い、髙橋に対し、アンカーを装着すればペノト機に代わる掘削機械が出来ると思うがどうだろうか、やって見ようではないか、と相談したものです。

裁判所が「内容」を相談したと云う所に判決の誤ちが生じて来たものと思います。原告はアンカーを着想し、ここから髙橋工業と相談をして本件機械の開発に取り組んだものであります。アンカー以外の本件機構の「内容」は在来機器をアンカーを中心に、アンカーの働きを助ける為に髙橋工業と原告が相談をしてその後に出来上がったものを指すべきです。この事は本件において非常に重要な問題であります。何故ならばこのような事情の元にあった髙橋工業が、協同開発者としての身内であったと云う事と、本件機械の特許の中心がアンカーであったと云う事を主張する原告の主題であるからであります。原告が髙橋工業にアンカー着想について相談し、本件機械の「内容」を充実して実用化さす為に働いた事は甲第九号証の二の髙橋保昌本人調書の中の一四頁六行から「・・・杭(原告注、アンカーの事)を打つということは、機械屋としてはあまり泥くさい方法なんで社内では・・・」と云っておりますが、これは、杭、(アンカー)を着想して掘削機を作りたいが、と云って原告が髙橋に相談した直後に髙橋工業社内で相談した模様を法廷で答えたものであります。アンカーを自分(髙橋)が発案したとか、アンカーは特許でないとか、髙橋は主張し続けておりますが法廷でこのように証言をしていた事を忘れております。裁判所もこのような重要な証拠を見落としているから原告が被告髙橋工業へ、本件発明の「内容」を説明した等と本件機械開発の出発点に誤った判断を下したのであります。アンカーを着想してやって見まうじゃないかと相談をかけた事と「内容」を説明したには大きな差がありこの裁判所の判断、裁定の誤りが本件判決の不当判決へと繋がって行く元となっておりますので強く反論しておきます。

又一〇行からの(ロ)北辰工業は被告髙橋工業以外の者に右掘削装置を発注してはならず、同被告は北辰工業以外の者のため、また、自己の営業の為右掘削装置を製造してはならない、という合意が成立した。とも裁定していますがこれも誤りであります。何故ならば右に述べた事情のようにアンカーの発案が原告のものであり、それによって本件機械の新規性を生もうとした原告がこの様な双務的契約をする必要のなかった事は誰が判断しても判然とすることであります。原告がアンカーの使用は他に絶対にしない様にして貰いたいと髙橋に求め、注意することは開発者の権利であり、為すべき行為であります。本件訴訟中にも縷縷陳述した通りであります。

裁判所の判断の誤ちと、独善性を持った判決は「自己の営業のため右掘削装置を製造してはならない、・・・」と言っている所に如実に表われております。何故ならば原告が右の事情の元で被告にアンカー装着の機械を作りたい、作ろうではないかと相談をかけた時、まさか機械メーカーが「自己の営業の為に本件機械乃至この模造機を作って営業するなど」とは夢にも思っておりませんでした。それであるから本件訴中にも、自己の営業の為作ってはならないと言ったと原告は云っておりません。何故裁判所はこの事実に全然関係のない事まで作文して判決を下さなければならないかその理由を聞かせて頂きたいものであります。

(3) 項の末尾、三一頁の裏三行から・・・北辰工業は右掘削装置を東京都目黒区青葉台所在の某国大使館工事現場に搬入して掘削工事を行った。と云っておりますが、これは建築技術の記事そのものでありますから争いませんが、実際には大使館でありません。別紙7のように杉商事株式会社の社有マンションの建築工事の基礎工事でありました。何故建築技術の記事にこう掲載されたかと云いますと原告が余り第三者に試験工事中の機械を見られたくないと思い、その場所を一般に知られたくないと思って適当に誤魔化しておいたからであります。原告はこのような考えを持っておりましたので建築技術の記載記事、図面にも当業者といえども理解する事は出来ないと、原告は確信を持っていたものであります。この工事中常に付ききってて機械の調子などを見ていた(別紙六の写真の通り)被告髙橋工業の髙橋保昌は、毎日のように現場を見に来ていた杉商事社長とも面識を得ていて、この建物が杉商事のマンションであった事を充分理解していた筈です。この項は原告がこのように新規性ある試験機械の試験工事の内容を秘匿する為の努力の跡を御説明するものであります。

(5) 三二頁四行目から、について、

この髙橋保昌が購入したと云う建築技術購入法、領収書の出所などについて裁判所が全然不審感を抱かず、乙第五号証の一片を直ちに証拠採用している所に大きな矛盾があります。出所についても本訴及び別件の被告の準備書面などに記載された内容と甲第九号証の一の髙橋保昌本人調書の三七頁六行から三九頁の末行までと、甲第九号証の二の同、一九頁一〇行から二一頁裏七行目までのように悉く反転に反転を繰り返しております。

この異常なまでの誤った法廷証言について裁判所はその否認の心証について何も説明を加えておりませんがすくなくとも原告が甲第一五号証の三のような第三者、それも領収書を発行していたと云う清秋堂書店の書証をもつて、乙第五号証に疑問を投げて反証を挙げているのでありますから判決に対し右の説明を加える義務があると思います。(この詳述は前掲五頁一五行目から同頁裏末行までにありますので御再読下さい。)全く一方的な独善的判決であると思います。

今回も別紙五のように清秋堂書店から右について再確認をして、別紙五として提出してありますから被告の提出している乙五号証の領収書と乙二〇号証の領収書の原告が指摘する相違点を御調査下さい。そして原告は両領収書の鑑定結果を求めたいと願っております。

又本件訴においてこの建築技術の完本と抜き刷において、その価値と使用目的、効果に変わるところのない事は同じく前掲の本文六頁の二行から同頁一六行迄に陳述してありますから御再読頂き、如何に価値なき論争を本件裁判がさせていたかを御判断下さい。原告は信ずるがままに建築技術を被告に交付したと云っていたのでありますが、被告が前述しましたように虚偽の陳述による準備書面を提出するとか、法廷における証言においてまでも三転四転する偽証言をするからその結果が価値もない論争となったものです。

裁判所が本論の価値判断を速やかに、正確にしていればこの無価値な論争に長い時間もかける事もなく、このようなつまらない判断を下さなかったものと原告は思います。

(6) について(三二頁一一行から)

裁判所は本件特許願い(乙第七号証)に記載された特許請求の範囲、(以下略)を乙第一一号証によって「特許請求の範囲を本件発明の要旨記載のとおり補正した。」と云っており、これが補正が認められた為に本件特許が下りたと認めているようでありますが全くナンセンスであり、このような判断を下す髙裁へ何故提訴しなければならなかったか阿呆らしくなる思いがするものであります。何故ならばこの乙第七号証の請求範囲と乙第一一号証の補正内容を比較して見ましてもその主張、目的、効果、特にそれらを支配する機器部材の名称においても何の変わったところも認めることはできません。(機器は四点のみです)変わったところと云えば乙第七号証の請求範囲の機器部品名インゴットがその説明文の四番目に記載されてあるものが、乙第一一号証の補正内容では三番目に順序が変っているに過ぎません。裁判所はこの手続補正の6、補正の内容1特許請求の範囲を次のように訂正する。と書いた渡辺弁理士の「訂正」と云う文字のみを鵜呑にして訂正の無などの内容を調べず、適当に裁定したものと思います。原告はこの手続補正書を出した当時渡辺弁理士に、これでは何にも変わったところがありませんが大丈夫ですか、と質問をした記憶があります。そしてこれが特許された時特許庁も随分無駄な事をするものだと思い、特許なんてこんなものかとその行政を卑下したものですが、今この判決文を見て同じ思いに馳せられ、本陳述書の冒頭で「司法の権威について慨嘆するのみであります。」と記した事に間違いはなかったとの思いを深めております。

(7) 三三頁一行より、

この項で裁判所は、・・・昭和五一年一一月ころ被告髙橋工業が納入した掘削装置の修理をめぐって両者の関係は円滑を欠くに至り、・・・、と云っておりますが、円滑を欠いだ、と云うのは被告髙橋工業の一方的な言いがかりに過ぎず本件裁判所がこれを一方的に認めているに過ぎません。何故ならば原告はこの後においても五〇〇万円、一、〇〇〇万円と云う金員を被告髙橋工業に救済融資をするとか(甲第六八号証の一)同甲第六八号証の二のように被告髙橋工業へ機械器具の修繕を続けていたのであります。円滑を欠いだと云う両者が何故円満にこのような行為が続けられるのでしょうか、他所から見れば若し円滑を欠いた人間同志がこのような事をしていれば馬鹿でないかと思うのでないでしようか。

このことについて更に原告と髙橋保昌の主張の違いといずれが偽証していたかを各書証で検討して見ます。

原告は甲第八号証の三二頁の四行から三四頁の六行までで別件法廷おおいて、鈴木技研に一、二台作らす事を髙橋保昌の了解を得た事を包み隠さず申し述べております。

髙橋工業は甲第九号証の一の本人調書の一九頁末行で原告代理人の、「これは、いつ、どういうふうにして中断したんでしうか。」と云う問いに対し、髙橋は「これは昭和五一年七月ごろだったと思いますが、北辰工業が参議院会館の新築工事現場で、・・・と、二三頁の三行まで続いて、参議院会館の杭工事のトラブルが原因で原告との契約が中断されたと云い、更に同証三九頁の続き頁六行からの代理人の問いに対しても四二頁末までのように参議院会館の工事のトラブルが原因で契約が中絶したと主張し、甲第九号証の二の本人調書の一頁二行から八頁七行までにも原告代理人の質問に対して参議院会館の工事のトラブルが原因で中絶していたと主張し、原告代理人に追いつめられ、虚偽の証言をしていた事が判明しております。

結局参議院会館の工事のトラブルが原因で両者の円滑を欠いだ、と云う事は被告の準備書面中にもあり、このように別件法廷でも証言しているのであります。ところが原告は参議院会館の工事など五一年の七月ごろにした事もなく、参議院会館は原告が会社を創立した昭和四〇年以前からあったと記憶していたので、原告が会社の工事経歴書を調べて見たところ、甲第七一号証の一の二頁には髙橋が云う昭和五一年の七月を中心に六月から九月の間には参議院の工事はしておりませんでした。その経歴書の前頁の説明文のように参議院の事務局に調査した結果は参議院会館は昭和三八年一〇月に竣工した事が判明しました。しかもこの件に対し、甲第四号証の二で鈴木技研に、髙橋工業に代わって、一、二台作らす交渉をした過程を立証し、甲第六号証のように糟谷俊秀氏の別件証人調書(二五頁七行からを御参照)、東京産業の石井経敏氏の別件における証人調書(一八頁裏九行から一九頁裏二行までと、三四頁裏一〇行から三五頁の裏までを御参照)などで充分立証している筈です。法廷における本人調書において原被告にこれほどまでの相違があり、明らかに被告髙橋工業の髙橋保昌の証言が偽証である事が判明し、その他第三者の法廷における証言とか書証がこれほど整っているのに何故裁判所が一方的にその証拠を無視して「北辰工業は同被告に対し、爾後掘削装置の発注はしない旨通告した」などと裁定するのでしようか、これでは原告が一方的に惡者にされた観があり甚だ不本意であります。

それでは法廷における証言などはなくてもよい、要らない、と云う事になります。

又法廷での宣誓の意味も何の為かと疑うものであり、原告がこれまた冒頭陳述しました様に、「・・その他の書証について、故意と思えるほど事実認定を誤っている・・・」と云っている事も、このように故あるからであります。

(8) 三三頁裏一〇行より、

この項で裁判所は、・・・被告髙橋工業は、北辰工業より金五〇〇万円の融資を受けたが、被告はその見返りとして同額の手形を振り出し、その後右振り出しの手形は決済した。その間約八五〇万円相当の部品を北辰工業へ担保提供していたが北辰工業はその部品を七五〇万円に減額して引き取ったなどと云い、原告が被告髙橋工業救済の為融資してやっていた一、〇〇〇万円についても、修理代金と相殺したなどと迄言っていますが、これは被告の準備書面における主張とか、甲第九号証の一の別件法廷における髙橋保昌の原告代理人の質問に対する証言を裁判所が鵜呑みにして、被告の代弁をしているに過ぎません。この五〇〇万円の融資についても、融資をしても倒産寸前と判断していた高橋工業の借用証では倒産した時意味がないから少しでも債権の権利を確保する為に見返り手形を貰っておく方がよいとの経理担当者の意見で手形を預かったものであります。また修理部品を預かったのも、若し被告高橋工業が倒産した時他の債権者に部品を持ち去られては、原告が機械の修理を必要とした時直ちに間に合わず、部品の発注者(高橋工業)が代わって新しい機械メーカーと相談などしながら部品の発注などしていればすくなくとも二、三ケ月以上を要するので原告の営業上の打撃が余りにも大きくなるから北辰工業の倉庫に預かっていた方が安全であると高橋保昌と相談の結果北辰工業の倉庫に引き取って預かっていたものであります。当時高橋工業が何を、何個持って来たかの員数の立会もしない位にして預かっていたので、原告は預かった品物の員数位正確にしておきなさいと北辰工業の倉庫担当者と高橋保昌に注意した位であります。裁判所は五〇〇万円の融資に五〇〇万円の見返り手形を切らし、その上八五〇万円相当の部品を担保に取ったと云う常識では考えられないような判断を下し、まるで原告が悪質な高利貸しででもあるかのような印象を受けさしますが、こんな条件を被告高橋工業が受ける事のない事も常識で判断出来ます。もう少し全訴に表れた内容を充分検討するとか、甲第一一号証、甲第六二号証の五とか甲第四号証の一、二、その他膨大な第三者の書証などをつぶさに検討をする必要があったのでなかったかと思います。まして八五〇万円相当のものを七五〇万円に減額したなどと立証のない事実に対し何故裁判所が断定しなくてはならないのでしょうか、裁判所は特許法第二九条違反と云う一点を見詰めて何が何でも原告の主張を認めたくないと云う姿勢を貫いているようですが、それではこのような事実に反してまで多くを語らない方がよいのでないでしようか。

被告高橋工業は甲第九号証の一の高橋保昌自身の証言で、その二七頁九行から、・・・私共は前渡金で処理してあるんで融資とは違います。と云っておりますが、同被告が融資金に対する支払い能力がないから修理費とかその他に当てて処理してやった原告の厚意をこのように逆用しているのであります。又高橋は同調書の二六頁六行から、五三年一〇月ごろに、6番という機械の大修理の依頼を受けたわけです。・・・と云い、二七頁三行から五四年六月頃に全部機械を乗せ替えた、と云っておりますが、これが詭弁の符合の材料としての言である事は、大修理を必要とする機械が八ケ月間も修理をせず稼働する筈がありません。又反対に三ケ月で本件機械の製造が完成する機械の修理に八ケ月間と云う長い修理期間を必要としない事も自明の理です。これは原告が提示した融資明細書とか修理代金の明細書その他で符合を合わせようとした偽策を物語っている証拠です。(尤も符合も合っておりませんが)それよりもこんな問題に争いのない証拠、甲第一一号証と甲第六二号証の五を裁判所が何故採用しないかと云うところにこそ大きな問題があります。この証拠対談者中村滋氏は被告会社の役員であり、本件機械の設計者であります。この重要な立場の人が原告との対談において、本件発生の生々しい昭和五五年一一月四日の対談で、その一二頁から、原告が、・・・金を貸してやり、・・・救済してやったのと違うか、との問いに対し中村氏は一二頁九行から、・・・倒れるのを、起きなけりゃ続いていないわけですからね、やっぱりそこで起き上がったと云うことは、やっぱり・・・と云って倒産寸前にいた被告会社に原告の会社、北辰工業が救済をして呉れたので倒産を免がれ立ち上がったと証言をしているのです。

又原告が高橋工業に一、〇〇〇万円を融資したことについても中村氏は昭和六一年五月二六日に原告の会社に来た時に(甲第六二号証の五御参照)その対談の中の六頁裏七行からも原告が高橋工業に融資した事についての質問で、原告が、・・・それで一、〇〇〇万貸したのでしょう。と云ったところ、中村氏は、「はっきり云って」とはっきり救済融資された事を認めております。中村氏は続いて、九行目からの原告の質問・・・あん時仕事なんかしていないのに、ほら見てごらん。ね、と本件訴状においての必要箇所と、北辰工業が被告高橋工業への融資明細書とか支払明細書、修理費の支払い明細書などを見せて確認したところ、中村氏は、「それは、私殆んど総べて知っていますから、あまり」と答えております。中村氏は、その事は総べて知っていますから余り云わないで下さい。と云っているのです。高橋工業の役員であり、本件に最も深く関わっていた中村滋氏のこのように歴然とした証拠があるにも拘らず何故裁判所は無視するのでしょうか、これだけの証拠を提出している原告に対し、それが採用の出来ない理由も開示せず、手形を決済して返済したとか、部品の減額をしたとか、融資金は修理代金と相殺した。などと判定する事は公平な裁判所のあるべき姿勢でなく当事者を冒しているものであります。

原告の年商は当時昭和五三年度は七一六、二八九、三三七円、同五四年度は一、二九二、六三二、一八〇円と云う小企業に過ぎませんでした。にも拘ららず五〇〇万円とか一、〇〇〇万円と云う多額な金額を倒産寸前の高橋工業に融資をして救済しているのです。これほどまでの愛情に対し報いたのが本件であります。切々たる大量の原告のの陳述書とか、夥しい証拠提出をしてあるにも拘らず理解されず、このような誤った判決を見る時原告は只天を仰いで嘆息するのみでありました。

(9) 三四頁裏五行から

被告らは本件機械に対し被告らが製作、使用している機械はインゴットの配置が異なっているので本件発明の技術的範囲に属さないと云っていますが、本件機械の特許願にも手続き補正書にも、ケーシングを挾持するチャック、該チャックに挾持されたケーシングチューブを往復回動さすチャックを設け、それぞれの目的でインゴット、アンカーを装着するようになっていると云う機器数と作用を示しています。それによって特許されたのであればこの四点を具備した機械であればインゴットを何処に積載しようが、この四件の権利を無断で利用している事に何の変わりもありません。(原告はアンカー以外の三点は在来の機械に利用しているものでその新規性は認めておりません)被告らの模造機のインゴットの使用が原告の本件機械と変わる事なく設計きれ、杭工事施工現場で変わることなく実施されている例は甲第一七号証の一、二の工事現場写真、甲第一七号証の三、四の現場写真、甲第一八号証の一~八までの現場写真、甲第六六号証の一、二のタイヨウビル見取図で説明している通りであります。そしてこのアンカーに新規性があり本件機械の特許の中心的存在である事を高橋保昌が認めている証言もしております。

甲第九号証の二の三七頁三行で、「・・・初めてだと思います。」とその新規性を認め、甲第九号証の一の七九頁裏六行では別件裁判所の裁判長の問いに対し、一般論としては、アンカーを付けた方が、アンカーを付けない機械より能力が優れていると証言しております。このように整理をすれば本件機械のアンカーは本件機械開発の中心的存在にあり何人と雖も特許権者の許可を得ず本件アンカーを無断で使用する事は出来ません。

(10) 三五頁六行より

本項について高等裁判所が下級審に等しくそれに右へ習え的な判断を下している事について説明を致します。

先ず仮処分の決定及びこれの高裁の判決で、被告らの特許侵害行為に対する問題が総べて終結しているかのように本件裁判所が判断、誤認している所に大きな錯誤があります。(特許法第二九条違反問題は一応おいておく)原告は仮処分申請中に担当裁判官の審尋に対する理解に乏しい事に業を煮やし(長くかかり過ぎたので)どうでもよいから早く進めて貰いたい、等と云って審尋が充分されていなかった事は、訴の難しさを知った現在反省している問題であり、人格も高潔で立派に見受けられた裁判官にこのような事を云った事の報いでもあると思いますが、それにしても本訴が始まってこれほどまでにアンカーの存在価値に迫り、様々な証拠が表われているにも拘らず、仮処分問題とこれが別件高裁問題に拘って安易に開眼しようとしない所に問題があります。ここでは裁判の独立性を全然見る事が出来ません。本訴においてはアンカーの価値とその特許されえ意義が厳然と表われているにも拘らず、仮処分から審決取消請求事件の本件に至るまでの順序を列記するのみで公平な第三者の証言、書証を信じようとしないかたくなな思想を持っているから被告の偽証、証言のみを採用する結果となっているのであります。

この仮処分問題を別件高裁で放棄したのは別件本訴を以て解決したいと思ったまでで原告は真実追求を放棄していたのではありません。それが証拠に昭和五七年三月九日に、特許権侵害差止請求を昭和五七年(ワ)第三一二六号事件として起こしているのであります。その事は前述しました様に東京地裁が、本件解決を見るまで中止をして見合わせてはどうか、と云う申も出があったので、現在中止しているにすぎません本件の成り行きに合わせて継続するかどうかは判断する事になりましようが真実の追求とはそのようなものです。

ところで本件訴中に裁判の独立性と法運用の手加減について大きな疑問を原告が感じた事は東京地裁が本件と基本が同根で争っている別件において、和解を勧告した第一〇回期日、第一一回期日、第一二回期日、第一三回期日、第二三回期日、第二四回期日の中、第一三回と第二三回、第二四回の期日において、準備室で裁判官が、和解を勧告する時に、若し本件(地裁事件)に和解の意志があれば、別件高裁で審決取り消し請求事件を取り下げさしますが、(?と云うような事)を云われた事です。原告はこの時、原告の代理人弁護士に対し、「裁判も随分いい加減なものですね、被告が申し出たか、裁判官の勧告に被告が納得したのか知らないが、それではこの特許法第二九条違反と云う訴訟問題は被告の利潤追求の具として法規を悪用しているに過ぎないではありませんか」と話しをしましたが、裁判官が善意に原被告の円満解決を考えて、仮に進めたのであったとしても、被告がこれに応じて和解しようと想う考えを披瀝しなければ裁判官が原告にこのような事を勧告すると云うような事は有り得ないと思います。であるとすればこの特許法第二九条違反と云う問題は被告が完全に悪意に出てて、これを悪用したものであるから直ちに原告の訴を認めるべきであると思います。上告審においては最高裁の権威を以ってこの事実関係を明らかにし本件判決を破棄差戻しし、特許法第二九条を取引の具とした事を戒めて頂きたく願うものであります。(この特許法を取引の具とした事は被告会社高橋工業の高橋保昌が原告の仮処分申請と共に原告会社に来訪した時から既にその意志表示を明確にしております。甲第二六号証の二頁一行、六行、裏一行、五行などがそのかけ引きに来た言葉です。)

(二) 三七頁二行から三九頁七行までについて

判決では三九頁三行から・・・これに対し、被告らは本件特許権にこれを無効とすべき瑕疵があると主張しているのであるから、被告らは本件特許の無効審判請求をするについて利害関係を有し、その意味で無効審判請求の請求の人適格を有するものと認めるのが相当であると言っておりますが、これは被告の主張を一方的に採用した判決であります。この被告主張の瑕疵について原告はその事実関係について延々切々と陳述し、あらゆる手段をもって疏明をして来ているにも拘らず、この第三者の証拠さえも裁判所は一顧もせず、聞く耳を持たぬ式でこれを採用しておりません。審理不備、事実誤認も之に勝るものはないとまで呆れる判決であります。

(三) 三九頁八行より

四〇頁八行末よりの判決文中、・・・一時期取引が中断されたことはあったものの、やがて取引が再び継続され・・・と云っておりますがこのように肝心な所でも事実認定を誤っております。何故ならば信義則を計る上で重要な個所であるからであります。

被告高橋工業はこの間のことを原告が同被告に無断で訴外鈴木技研に鞍替えをして本件機械を発注製造させたかの様に陳述して原告に信義がなくなっていたかのように主張して原告の立場を不利に陥れようとした問題であるからです。ところが原告が鈴木技研に本件機械製造さす間においても高橋工業へ本件機械の修理工事をさせていた事とか、救済融資をしてやった事は前述した通りで判決の云うように中断しておりません。甲第六八号証の一及び二、甲六五号証で疏明した通りであります。裁判所がこのように大切な事に対しその判断を誤って行くと結果がこの判決のように誤判に導くものであります。このように重要な問題を、事もなげに判定する姿勢は、審理に不熱心で、特許権問題のみの先入観念によって本件の審理に意を尽くす考えがないからでないかと思います。

続いて裁判所は、四一頁の八行から、・・・同被告が原告のした仮処分申請に対する防禦方法の一つとして、・・・中略、・・・本件審判請求に及んだこと自体は信義則に違反するものであるとは認め難い。と云っておりますが、原告は被告らが原告の特許を侵害した行為に対し防禦の一方法として仮処分申請をしたものであります。

本件裁判所は結果のみを見詰めて判断しておりますが、それでは全く苦労のいらない審理であると思います。仮処分の意味するもの、その中味の特許の性質などを判断して、審判請求に至った価値があるか如何などを公平に判断する事を課せられたのが本件高裁の任務であると云う事を忘れた判断であります。

しかも本判決においては、四一頁裏三行から、八行にかけて三点の問題を揚げた後、・・・本件無効審判請求が信義則に違反するものであるか否かと直接的な関連を有するものでなく、本件において判断すべき限りでない。と云っておりますが、ここに至るまで長々とその判断をし、原告の陳述、証拠を無視した上で一方的に信義則に違反するものであるか否かを直接的な関連を有するものではなく、と云う事は余りにも大きい矛盾を露呈した放言であり、法を独占した切り捨て御免の姿勢を見せつけたものであります。

又続いて四二頁の一行から、以上のとおりであって、本件無効請求が信義則に違反することを前提として、被告高橋工業は請求人適格性がないとする原告の主張は理由がない。に及んでは、裁判官が自ら民法の基本原則を否定するものであります。裁判官は特許法内において狭義にに解釈した信義則を民法の基本原則における信義則と関係がない様に判断しているようでありますが、人間の社会構成における信義則は民法の基本原則に凡て従うものであって個々に遊離すべきものではありません。

従って被告らが民法の定める信義則に従わず、原告に不信行為を為し続けて来た行為は信義則に違反するものであって、被告らに請求人適格性がないと云うものであります。

又本項の末、四二頁九行から判決は、被告茄子川組は、被告高橋工業と同様の立場でなかったので信義則に違反しないことは明らかで請求人適格性があると云っておりますが、本件は前述してありますように原告は契約問題だけを理由としたものでなく、契約に至るまでの行為が不信義の原因であって契約違反した事がその決定であると主張しているもので契約に至る迄の茄子川組の行為その他茄子川組が請求人適格性のない事における説明は本文の九頁裏八行から一〇頁の一二行までにその理由を述べております。

判決文四三頁の末行二項で裁判所は原告の甲第八号証、第一〇号証の供述と、渡辺弁理士に委任したのは出願日より三ケ月位前であるとも供述して、原告の供述にくい違いがある。成立の争いのない乙第六号証によれば委任日時が昭和四七年一〇月五日と記載されていることが認められていること、と云っておりますが、原告の供述には一点の喰い違いもありません。その事については前述本文の一一頁六行から一二頁裏二行までで詳しく陳述してある通りです。又乙第六号証に争いがないと云っておりますが、原告が渡辺弁理士に白紙委任した事に申請事務上の誤ちが発生した事を原告の意に反した特許願であると主張しているにも拘らず乙第六号証と乙第一〇号証、乙第一一号証、などの検討もせずこのような判断を下しておりますが、裁判所は高橋保昌の建築技術購入問題にからむ反転を繰り返した喰い違い(偽証言さへ)に対し何の意見の開示もなかった事をどう釈明しますか説明を求めるものであります。

その上本項の四三頁裏八行で、・・・右供述を裏付ける的確な証拠はないばかりか、・・・と云っておりますが、証拠を無視する裁判所は甲第六二号証の五の、北中、中村対談のような原告に取って有力な第三者の証言を完全無視してヌケヌケとこのような放言をしております。(同証の二三頁五行から八行まで御参照)

その他3取消事由三についての項、四五頁二行からについては本文の二頁七行かち三頁三行までと、一二頁五行から裏一行までに充分な説明を加えておりますから、本件判決の本項における裁判所の判断が間違っている事が判明するものと思います。

むすび

本件判決文を一読しまして裁判所が何故原告の証拠をこれほど迄に無視するかについて驚きましたが、その理由は前述陳述した通りであります。

そこでもう一度この判決の誤ちの最も大きな原因は何であっただろうかと考察して見ますと、第一に裁判所が特許法第二九条に違反していると云う事を念頭においてその事の観念の元のみで審理を始めたところにあると思います。(これは全判決文で察知するものです)従って原告が、特許法に該触していた事は不用意であったが、このような理由によるものであると云う事と、この様な理由によって請求人には適格性がないと説明をしても耳をかさなかったところにあります。

その証拠は、裁判所が原告の提示した証拠を全然採用していない事で歴然としております。特に甲第一一号証とか甲第六号証の五等は被告会社の現役取締役であり(乙第三一号証、高橋保昌の陳述書御参照)被告高橋工業においては本件機械開発の為の中心人物であります、そして原被告間においても重要な役割を示していた事は高橋保昌の同陳述書の通りであります。高橋保昌は同陳述書の中で、甲第六二号証の五は中村氏が営業活動の一環として原告に追従したかの様な表現をしておりますが、それでは本件発生と共に中村氏が昭和五五年一一月四日に原告の会社に来て、原告と対談した時の甲第一一号証の中村氏の発言をどう解釈し、説明が出来るのであろうか、裁判所はこれが判定をしていないと思います。

それではこのように重要な立場にあった中村滋氏が、どのような発言をしていたかを拾って上告審、審理の参考にして頂きたいと思います。中村滋氏は甲第一一号証の中の一九頁七行で、「・・・同罪で・・・」と本件の被告高橋工業の行為が罪悪的であるから経営参加者として、又重要な役割をした責任者として「同罪」だと云っているのです。この一語においても本件は解決せねばならない程の重要な発言であります。(その他は御精読下さい。)

それでは甲第六二号証の五には何と云っているのでしようか、同証の一六頁裏六行で、原告が(北中)・・・そんだってあんた悪いじゃないか、元凶じゃないか、と云ったところ、中村氏は、(中村)だから元凶ですと云っているのは、もうそうなんです。・・・(その他御精読下さい)と答えております。原告が特許法に牴触している事を中村氏が調べそれをタネとして審判請求したのであるから、中村氏が悪の元凶です、と自ら認めているのです。「悪」即ち、信義を無視してこのような事をしたのは「悪」い事であったと認めているのです。その上中村滋氏は、その甲第六二号証の五の二五頁の一三行から(中村)だけど、結果がね、だけど、そこに書いてある結果を今見ればね、それは社長が言っているのは、正しかったということになるでしよう。と云い、続いて裏三行で(中村)要するに、歴史がずっともの語っているというか結論から、と云って原告の主張が正しかった事を認めております。被告らに審判請求の資格の無い事などは、自分達の不信行為によってこの中村氏と云う被告会社の現役取締役が自ずからこのように認めております。

被告らがこのように、「罪」と「悪」を認め原告の云っている事が総べて正しいと云っているにもかかわらず裁判所が認めないのはどう云う事でしようか、どこにその認められない理由があるかを原告は満天下にその理由を求めたくなるくらいです。

泥棒をした人間が、捕まえた人間に罪深い事をしました、とか悪い事をしました。と云っているのに警察が、いやそれは罪でもない、悪い事をしたのでもないと云って泥棒に味方しているようなもので原告はこのように有力な証拠を提出しているにも拘らずこれを認めない判決を下した裁判に対し、因果関係(相対性)を無視して、法規を浮上させた判決であると冒頭陳述したものであります。

以上の理由でありますから速やかに原判決を破棄し差戻しの判決を求めるものであります。

以上

(添付書類省略)

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