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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(行ツ)115号 判決 1984年5月17日

上告人

東京都選挙管理委員会

右代表者委員長

岡田幸吉

右訴訟代理人

鎌田久仁夫

外二名

被上告人

銀林浩

外一一名

右一二名訴訟代理人

羽生雅則

木内俊夫

鈴木篤

滝沢幸雄

岡田弘隆

佐々木幸孝

被上告人

羽生雅則

右訴訟代理人

木内俊夫

鈴木篤

滝沢幸雄

岡田弘隆

佐々木幸孝

被上告人

木内俊夫

右訴訟代理人

羽生雅則

鈴木篤

滝沢幸雄

岡田弘隆

佐々木幸孝

被上告人

鈴木篤

右訴訟代理人

羽生雅則

木内俊夫

滝沢幸雄

岡田弘隆

佐々木幸孝

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鎌田久仁夫、同松本真一、同川辺一清の上告理由第一点ないし第三点について

論旨は、要するに、地方公共団体の議会の議員の定数配分を定めた条例の規定(以下「定数配分規定」という。)自体の違憲、違法を理由とする地方公共団体の議会の議員の選挙の効力に関する訴訟は公職選挙法(以下「公選法」という。)の予定するところでなく、同法二〇三条の規定による訴訟として本訴を適法とした原判決には、同条の解釈適用を誤つた違法があり、かかる訴訟において定数配分規定を是正する権限を有しない選挙管理委員会には被告適格がなく、また、右定数配分は高度の政治問題に属する事項であるから司法審査になじまず、以上いずれの点においても本訴は不適法として却下されるべきところ、これを適法とした原審の判断は違法たるを免れない、というのである。

しかしながら、定数配分規定自体の違憲、違法を理由とする地方公共団体の議会の議員の選挙の効力に関する訴訟が公選法二〇三条の規定による訴訟として許されることは、当裁判所の判例(昭和四九年行(行ツ)第七五号同五一年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二二三頁、昭和五六年(行ツ)第五七号同五八年一一月七日大法廷判決・裁判所時報八七〇号二頁)の趣旨に徴して明らかであり、本訴を適法とした原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第四点について

一論旨は、まず、都道府県議会議員については、たとえ定数配分規定を改正したとしても、次の一般選挙の場合でなければ改正規定に基づく選挙を行うことができず、選挙を無効としたところで、結局、当該選挙により選出された議員の任期満了等により全議員の資格が喪失される場合でない限り、再選挙を行うことはできないというに帰着するとして、地方自治法九〇条四項の規定を挙げ、公選法二〇三条の規定による訴訟の目的である効果的再選挙の実施が現行法上絶対に不可能であるから、本訴は訴えの利益を有しない、と主張する。

思うに、公選法二〇三条の規定による訴訟は、違法に施行された選挙の効力を失わせ、速やかに当該選挙に関する瑕疵を是正して改めて適法は選挙を行わせることを目的とするものであるから、当該選挙により選出された議員の任期内でなければその目的を達し得ないことはいうまでもなく、たとえ選挙に関する瑕疵(違憲、違法な定数配分規定)を是正しても、これに基づく選挙は任期満了等による次の一般選挙の場合でなければ施行することができないとすれば、もはや選挙の効力に関する訴訟として成り立ち得なくなるのであり、定数配分規定の違憲、違法を理由とした公選法二〇三条の規定による訴訟を認める以上、かかる背理が許されないのは当然である。

そして、地方自治法九〇条四項の規定は、定数配分規定が当該選挙の施行当時において既に違憲、違法であつたとされる場合にまで、次に施行される任期満了等による(公選法二〇三条の規定による訴訟とは無関係の)一般選挙の時期の到来に至るまでの間、旧規定による定数配分の結果を維持せしめようとする趣旨に出たものであるとは到底解し難く、定数配分規定の違憲、違法を理由として選挙を無効とする判決がなされたときは、これに従い、議会において速やかに違憲、違法の定数配分規定を改正した上、選挙管理委員会において改正規定に基づく適法な選挙を施行すべきが当然である。

論旨は、これと異なり、地方自治法九〇条四項の規定の形式をとらえて独自の見地に立ち、本訴を不適法とするものであつて、採用することができない。

二論旨は、次に、地方自治法九〇条四項が実定法として存する関係上、選挙を無効として定数配分規定を改正したとしても、これに基づく選挙は次の一般選挙の場合でなければ実施することができないから(違憲、違法の定数配分規定による選挙の結果も是正の機会がないまま次の一般選挙まで維持されることとなり)、結局、定数配分規定に瑕疵があつても選挙の結果に異動を及ぼす虞がない、と主張する。

しかしながら、地方自治法九〇条四項の規定は、定数配分規定が違憲、違法とされる場合にこれを是正して新たな選挙を行う妨げとなるものでないこと、前説示のとおりであるのみならず、そもそも公選法二〇五条一項にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」とは、仮に当該選挙において選挙の規定違反がなく、適法に選挙が行われたとすれば、その結果が現実に生じた結果と異なつた可能性のある場合を指すのであつて、一般に定数配分規定の違憲、違法が選挙の結果に異動を及ぼす可能性を有することは疑問の余地がないところである。よつて、この点に関する論旨も、採用の限りでない。

同第五点及び第六点について

論旨は、要するに、東京都議会議員の定数配分を定めた東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和四四年東京都条例第五五号。以下「本件条例という。)の規定(以下「本件配分規定」という。)が昭和五六年七月五日施行の東京都議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)当時において公選法一五条七項の規定に違反するものであつたとする原審の判断は、憲法一五条、九二条及び九三条並びに公選法一五条七項及び二六六条二項の規定の解釈を誤つたものである、というのである。

公選法一五条七項は「各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議会の議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない。ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる。」と規定しており、地方公共団体の議会は、定数配分規定を定めるに当たり、同項ただし書の規定を適用し、人口比例により算出される数に地域間の均衡を考慮した修正を加えて選挙区別の定数を決定する裁量権を有することが明らかである(なお、同法二六六条二項は、都の議会の議員の定数配分に関する特例を定めたものであるが、同法一五条七項ただし書の規定が存しなかつた当時に設けられた規定であつて、同ただし書の規定以上に広範な裁量権を都の議会に付与するものではない。)。そして、いかなる事情の存するときに右の修正を加えるべきか、また、どの程度の修正を加えるべきかについて客観的基準が存するものでもないので、定数配分規定が公選法一五条七項の規定に適合するかどうかについては、地方公共団体の議会の具体的に定めるところがその裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによつて決するほかはない。

しかしながら、地方公共団体の議会の議員の選挙に関し、当該地方公共団体の住民が選挙権行使の資格において平等に取り扱われるべきであるにとどまらず、その選挙権の内容、すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは、憲法の要求するところであると解すべきであり、このことは当裁判所の判例(前掲昭和五一年四月一四日大法廷判決)の趣旨とするところである。そして、公選法一五条七項は、憲法の右要請を受け、地方公共団体の議会の議員の定数配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求していることが明らかである。したがつて、定数配分規定の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいは、その後の人口の変動により右不平等が生じ、それが地方公共団体の議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや地方公共団体の議会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、公選法一五条七項違反と判断されざるを得ないものというべきである。

もつとも、制定又は改正の当時適法であつた定数配分規定の下における選挙区間の議員一人当たりの人口の較差が、その後の人口の変動によつて拡大し、公選法一五条七項の選挙権の平等の要求に反する程度に至つた場合には、そのことによつて直ちに当該定数配分規定の同項違反までもたらすものと解すべきではなく、人口の変動の状態をも考慮して合理的期間内における是正が同項の規定上要求されているにもかかわらずそれが行われないときに、初めて当該定数配分規定が同項の規定に違反するものと断定すべきである。

そこで、本件条例の制定及び改正の経過並びに昭和五六年七月五日に行われた本件選挙当時における定数配分の状況について見ることとする。公選法一五条七項は当初、本文の規定のみであつたところ、東京都議会議員の選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和二二年東京都条例第三一号。以下「旧条例」という。)は、同項の規定に基づき、東京都議会議員の選挙区別の定数を人口に比例して定め、その後の人口の変動に合わせて右定数を改めてきた。そして、昭和三五年一〇月実施の国勢調査の結果による人口に基づき、特別区の区域を区域とする一部の選挙区においてその定数を増減することが必要となつたが、昭和三七年法律第一一二号により公選法二六六条二項の規定が新設されたため、右の改正は行われずに終つた。更に、昭和四〇年一〇月実施の国勢調査の結果による人口によれば、旧条例の定める選挙区別の定数は、特別区の区域を区域とする一部の選挙区においてのみならず、特別区の存する区域以外の区域を区域とする一部の選挙区においても、人口に比例しなくなつたところ、昭和四四年法律第二号により地方自治法九〇条二項及び公選法一五条七項ただし書の規定が新設されるに及び、同年三月三一日に旧条例の全部を改正する本件条例が制定された。本件条例制定当時の本件配分規定は、特別区の区域を区域とする各選挙区については、既に一部の選挙区で人口に比例しなくなつていた旧条例当時の定数をそのまま引き継ぎ、特別区の存する区域以外の区域を区域とする各選挙区については、ほぼ人口に比例した定数を定めたものであつた。その後、昭和四八年東京都条例第五七号により昭和四五年一〇月実施の国勢調査の結果による人口に基づく本件配分規定の一部改正が行われたが、台東区選挙区及び品川区選挙区の各定数を一人減じ、練馬区選挙区の定数を一人増加するものにすぎず、右改正後においても、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は、全選挙区間で最大一対5.47(以下、較差に関する数値は、すべて概算であり、また、地理的に極めて特殊な状況にあつて定数が一人の島部選挙区は、比較の対象から除外する。)、特別区の区域を区域とする選挙区間で最大一対3.56を示し、人口の多い選挙区の定数が人口の少ない選挙区の定数より少なくなつているといういわゆる逆転現象も一部の選挙区間で見られた。また、昭和五二年東京都条例第四九号により昭和五〇年一〇月実施の国勢調査の結果による人口に基づく本件配分規定の一部改正が行われたが、町田市選挙区の定数を一人増加するものにすぎず、右改正後においても、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は、全選挙区間で最大一対7.66、特別区の区域を区域とする選挙区間で最大一対4.54を示し、いわゆる逆転現象も一部の選挙区間で見られた。更に、昭和五六年東京都条例第五号により昭和五五年一〇月実施の国勢調査の結果による人口に基づく本件配分規定の一部改正が行われ、本件選挙から施行されたが、定数一人の南多摩選挙区から分区された日野市選挙区に一人の定数を新たに設定するものにすぎず、本件選挙当時において、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は、全選挙区間で最大一対7.45、特別区の区域を区域とする選挙区間で最大一対5.15、右人口が最少の千代田区選挙区と被上告人らの属する江戸川区選挙区との間で、一対4.52に達し、いわゆる逆転現象も一部の選挙区間において依然として残つていた。以上は、原審の適法に確定した事実及び関係法令の制定経過から明らかである。

選挙区間における本件選挙当時の右較差は本件条例制定の前後を通じた人口の変動の結果にほかならないが、前記のとおり、選挙区の人口と配分された定数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされる地方公共団体の議会の議員の選挙の制度において、右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、地方公共団体の議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたというべきであり、これを正当化する特別の理由がない限り、選挙区間における本件選挙当時の右投票価値の較差は、公選法一五条七項の選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものというべきである。そして、都心部においては昼間人口が夜間常住人口の数倍ないし十数倍に達し、それだけ行政需要が大きいことや、各選挙区における過去の定数の状況を考慮しても、右の較差を是認することはできず、他に、本件選挙当時存した選挙区間における投票価値の不平等を正当化すべき特別の理由を見いだすことはできない。

また、本件配分規定の下における選挙区間の投票価値の較差は遅くとも昭和四五年一〇月実施の国勢調査の結果が判明した時点において既に公選法一五条七項の選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものというべく、右較差が将来更に拡大するであろうことは東京都における人口変動の経緯に照らし容易に推測することができたにもかかわらず、東京都議会は極く部分的な改正に終始し、右較差を長期間にわたり放置したものというべく、同項の規定上要求される合理的期間内における是正をしなかつたものであり、本件配分規定は、本件選挙当時、同項の規定に違反するものであつたと断定せざるを得ない。

以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に公選法一五条七項及び二六六条二項の規定の解釈を誤つた違法はない。所論違憲の主張はその実質において単なる法令違反の主張にすぎないところ、原判決に法令違反がないことは、右に述べたとおりである。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官藤﨑萬里の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官藤﨑萬里の反対意見は、次のとおりである。

私は、多数意見と異なり、本件訴えは不適法として却下すべきものであると考える。その理由は、次のとおりである。

最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号同五八年四月二七日大法廷判決(民集三七巻三号三四五頁)及び同昭和五六年(行ツ)第五七号同五八年一一月七日大法廷判決(裁判所時報八七〇号二頁)の各反対意見において、私は、国会両議院議員の定数配分規定の違憲を理由としてその選挙の効力を争う訴訟は、公職選挙法二〇四条の規定による訴訟に当たらず、他に準拠し得べき法条もないのであるから、不適法なものであり、また、憲法には国会両議院議員の定数を各選挙区の選挙人数又は人口に比例して配分することを命ずる規定は存しないから、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の不均衡から違憲の問題を生ずることはなく、したがつて、違憲の状態を是正する途を開くという憲法上の要請のために右のような選挙の効力を争う訴訟を公職選挙法二〇四条の規定による訴訟として許容しなければならないということもない、と述べた。

右の趣旨は、地方議会の議員の場合にも、そのまま、当てはまることである。けだし、地方議会の議員の場合は、公職選挙法一五条七項がその定数を原則として各選挙区の人口に比例して配分すべきことを規定している等、国会両議院議員の場合とは趣を異にするところはあるが、それは上述のような憲法や公職選挙法の関係規定(地方議会議員については国会両議院議員の選挙に関する前記二〇四条と同旨の規定が二〇三条に置かれている。)に基づく不適法論の考え方の基本に影響をを及ぼすようなことではないからである。

(角田禮次郎 藤﨑萬里 谷口正孝 和田誠一 矢口洪一)

上告代理人鎌田久仁夫、同松本真一、同川辺一清の上告理由

第一点 原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな点に関し、判断を遺脱し、理由を付さない違法がある。

被上告人らが請求の原因として主張するところは、「東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例」(昭和二二年条例三一号、昭和五六年条例五号最終改正

以下「定数条例」と略称する。)に基づく議員定数配分規定は憲法前文、一四条一項、一五条一項、同三項、四四条但書、九三条一項及び公職選挙法(以下「公選法」と略称する。)一五条七項に違反するから、その効力がなく、かかる効力なき条例に基づき施行された昭和五六年七月五日執行の東京都議会議員選挙・江戸川区選挙区の選挙は無効であるというのみであつて、当該選挙区にかかる選挙の管理執行上の瑕疵は全く無効事由として主張していない。

本件の如き定数配分規定そのものの違憲、違法を事由とする訴訟については、もし、配分規定それ自体に瑕疵があつたとしても選挙管理委員会の権能をもつては是正不可能なことであり、権限ある行政庁のみに被告適格が与えられる行政争訟の原理原則からみても、この種訴訟に関し選挙管理委員会に被告適格がないことは明らかといわなければならない。原判決は公選法が選挙訴訟につき一般的に被告を選挙管理委員会としていることから当然に選挙管理委員会に被告適格があるものとして、肝腎な何故に是正権能を全く有しない者を被告となし得るのかの点に関し、何程の判断も示していないものであつて、判断遺脱も甚しいといわなければならず、右が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第二点 原判決が被告人らの本件訴を適法としたのは、公選法二〇二条及び二〇三条の解釈適用を誤つたものであり、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一 そもそも公選法二〇二条及び二〇三条に基づく選挙訴訟は、当該選挙の管理執行上瑕疵があつた場合、これを無効として早期に改めて適法な再選挙を実施せしめることを目的として規定したものであり、被告を当該選挙管理委員会としていること及び短期間内の再選挙を予定していること(公選法一一〇条)からしても右は明らかなところといわなければならない。従つて、たとえ選挙を無効としたとしても公選法の規定する期間内の再選挙の実施が困難であつたり、仮に再選挙を実施するとしても、その瑕疵を是正することができないことが明らかなような場合までも対象とした規定ではなく、かかる論拠の正当な所以は、行政事件訴訟法(以下「行訴法」と略称する。)五条及び四二条において、公選法に規定される訴訟は民衆訴訟の一種として、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起されるものに限り、しかも法律に定める事項に限り許されるものと明定されており、加えて、公選法二一九条をもつて行訴法三一条の事情判決の規定を殊更排除している点に鑑みて明らかなところといわなければならない。

しかるに、原判決は、「右二〇三条に基づく訴は、選挙の管理執行上の瑕疵によりその効力を失わせるべき場合を念頭において制定されたものであり、当該選挙の基礎となつた条例の違憲、違法を理由として選挙の効力を失わせることまでは予定していなかつたとも解することができる(理由(以下においてこれを省略)一丁裏八行目以下)」としながら「しかし、選挙の基礎となつた条例自体が違憲、違法であることは、当該選挙の効力に関し、選挙の管理、執行上の瑕疵以上に重大な瑕疵で現行法上、右二〇三条以外には選挙の効力を争うべき訴訟を定めた規定は存在せず、これを右二〇三条の訴の対象外とするときは、これについて司法的救済、是正の途をとざすというきわめて不当な結果となる」との理由により、「選挙人は、これを選挙無効の事由と主張して右二〇三条の訴を提起することができると解すべきである。」と判示している。

右のように、原判決は条例自体の違憲・違法を理由とする選挙無効の訴は、もともと公選法二〇三条の予定しているところでないとしながら、かかる訴の途をかざすのは「きわめて不当な結果となる」との政策的理由によつて、いわば超法規的に、同条の訴訟形式をかりた訴を創設(立法)してこれを許したものである。

しかしながら、右は、公選法二〇三条の解釈を誤り、同条の訴訟形式を不当に拡張するものであつて、司法審査権の限界を超えた違法な政策的見解であるといわなければならない。

何故かなら、典型的民衆訴訟に属するといわれている選挙訴訟は本来の司法審査の対象となる法律上の争訟の場合に該当せず、特に法律に定められた場合、その規定の範囲においてのみ裁判所にその裁判権が付与されるに過ぎないものであるからであり(裁判所法三条)、又、行訴法四二条によれば「民衆訴訟は法律に定める場合において法律に定める者に限り提起することができる。」と規定されており、本件の如き訴が右に基づき制定されている公選法二〇三条の訴に該当しないことは明らかといわなければならないからである。要するに選挙訴訟は個人の権利救済を目的とするものではないし、又、裁判所は立法府とは異なり法創造権能を有しないし、その審査権限にも自ら限界が存するものである。

二 なお、原判決が事情判決をしている点について付言すれば、昭和四十七年執行の衆議院議員選挙に係る昭和五一年四月一四日大法廷判決に示された天野武一裁判官(昭和五八年四月二七日大法廷判決藤崎万里裁判官も同意見)の次のような意見こそまことに適切で、本件訴に対しても、当然同様に解すべきものであり、原判決は実定法無視も甚しいといわなければならない。

「多数意見は、本件選挙の無効を主張する本件訴えに対し、右選挙が憲法に違反する公選法に基づいて行われたという一般性をもつ瑕疵を帯び、その是正が法律の改正なくしては不可能であることを述べつつ、しかもなお、右に記したとおり、殊更に公選法がその二一九条において行訴法三一条の準用を排除することを定めた選挙訴訟の規定である公選法二〇四条に準拠して本件訴えを律しうるとする見解に立ちながら、一転してその行訴法三一条の法理を本件の場合に用いる手法を採つて怪しまないのである。このような論理の運び方は、それが「憲法の要請」、「高次の法的見地」という視座に由来するものであるにしても、公選法二〇四条を籍りた訴えに対する裁き方として、およそ忠実な法解釈であるとすることはできない。思うに、多数意見をして事ここに至らしめたゆえんは、投票価値の不平等をいう違憲状況、すなわち、具体的な選挙に際し、選挙人、被選挙人は又は選挙管理委員会のいずれかの責に帰しうる瑕疵とは全く異質の、当該選挙法規自体の違憲性を指摘して提起した選挙無効の訴えに対しても、現行の実定法下で打開の方途を見出すべきであるとする命題を定立してこれに固執し、公選法第二〇四条をここに導入したことにある。」(民集三〇巻三号二二三ページ)

第三点 本件訴は高度の政治問題に属する事項を請求の目的としているものであるから、司法審査になじまないものとして却下すべきところ、原判決は法解釈を誤り、訴を受理した違法があり、右違法は当然判決に影響を及ぼすことが明らかである。

即ち、高度の政治問題は司法審査の対象とならないものであるところ、議会主義を採用する現憲法下においては、その議会構成因子たる議員定数、選挙区、選挙区別定数等は地方公共団体にとつて高度の政治的課題であり、本件訴の如き議員定数配分問題は歴史的、社会的事情等を踏まえ、時代に適応するよう政治ないし立法の分野で解決さるべき性質の問題であつて他の機関が濫りにこれに介入すべき筋合のものではない。

司法には違憲立法審査権が付与されている。従つて、たとえ政治問題として地方公共団体の議会の専権事項とされている事項についても、司法はその違憲の有無を審査し得るものであるとの見解が成り立ち得る。しかしながら、政治問題として地方公共団体の専権事項とされた事項につき、司法権が介入し得る場合は、その司法的決定のために満足すべき規準が存在する場合に限られ、右以外の場合は司法判断不適合として、司法審査を抑制しなければならないものである。

これを本件についてみると、ある選挙区の議員一人当りの人口を他の選挙区のそれと比較した場合において、その較差がいかなる数値を超えれば、選挙権に極端な不平等を生ぜしめたといえるか、もともと人口差以外の諸要素も総合勘案の上決せられなければならない問題であるから、何人にとつても一見明白な規準など存しないというほかはないのである。

公選法一五条七項は選挙区別定数につき人口比例の原則をかかげながらそのただし書において事情によつては人口比例の原則によらないことも容認している。従つて、地方公共団体は、人口以外の各種の諸要素を勘案し、これを決定し得るものといわなければならず、つねに一見明白な規準に基づき定数配分がなされるはずのものではないのである。

よつて、本件のような選挙区別定数の是非については、司法権がこれを決定する明白な規準を持ち合せていないことは明らかであるから、司法は立法を尊重し、その判断を抑制しなければならない。

第四点 原判決には次の諸点につき、理由不備並びに理由齟齬の違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一(一) 上告人は議員定数の変更は一般選挙の場合でなければできないものであり(地方自治法(以下「自治法」と略称する。)九〇条四項)、選挙区別定数の変更も又、当然右の場合に該当し、仮に本件請求を江戸川区選挙区に限定される議員定数問題と解したとしても、その増員を求めるものであることに変りがないから、議員定数の増加を必要とするものであり、同法九〇条四項の適用を免れない。従つて、たとえ右にそうように条例を改正したとしても、次の一般選挙の場合でなければ改正された定数配分規定に基づく選挙を行うことができず、結局選挙を無効としたところで当該選挙にかかる議員の任期満了等により、全議員の資格が喪失されたときでない限り再選挙ができないということに帰着せざるを得ないのであるから、選挙を無効とすること自体無意味というほかなく、従つて、訴の利益を欠くと主張したのである。これに対し、原判決は「条例改正等により定数を是正することが絶対に不可能であるかどうかについては原告の主張するようになお検討の余地があるばかりでなく、このような理由から直ちに訴の利益を欠くとの結論を導き出すことは本末転倒の不当な議論というべきで採用することができない」と全く的はずれの判示をしているに過ぎないのである。

(二) 定数条例等の改正の難易も当然本件において問題となるところであるが、上告人はそのことより、仮に条例等の改正が可能だとしても、自治法九〇条四項の適用を免れず、選挙無効請求事件の目的である効果的再選挙の実施が現行法上は不可能であることを指摘して、訴の利益がないといわざるを得ないと主張しているのである。しかるに上述したところで明らかな如く、原判決は上告人の右主張を単に本末転倒の議論という乱暴な言辞を弄して排斥するのみでこの肝腎な点に関し全く理由を示さず、且つ、判断を怠つているものであり、明らかに理由不備、審理不尽の判決というほかないものである。

(三) 選挙訴訟が係属中に任期満了、解散等により一般選挙が実施されれば右訴訟は訴の利益を欠くに至つたものとして却下されることは公知の事実である。そうして本件においては選挙無効としたところで次の一般選挙の場合でなければ再選挙が出来ないと法定されているのであるから、かかる効果的再選挙の途がない訴は、右同様訴の利益を欠くと主張しているのを、どうして理由も示さず本末転倒の議論というような暴論によつて排斥し得るのか全く理解し得ないものである。

(四) 原判決は「条例等の改正により定数を是正することが絶対不可能であるかどうかについてはなお検討の余地がある」と判示している。もとよりかかる漠然とした抽象的摘示が理由の態をなさないものであることは、あえて上告人が主張するまでもないところであり、原判決がその理由を示さないので上告人がこれを勝手に憶測するほかないが、若し原審が法定数の上限が一二八人であり、現在条例定数が一二七人なので、江戸川区選挙区に関し一人増員の定数是正をすることはさして難かしい問題ではないと解したのだとすれば、理由齟齬も甚しいといわなければならない。何故かなら、原判決は定数配分を一体不可分とし、定数条例全部を無効としている(一二丁表六行目以下)のである。従つて、定数是正については全選挙区に関し再配分することを義務付けているものといわなければならないのであつて、江戸川区選挙区のみ一人増員として処理することは不可能なことといわなければならないのである。更に、無効な定数条例に基づき選出された全都議会議員の議員資格の問題があり、仮に、当該選挙区以外の議員の議員資格は奪われないと解したとしても、少くとも当該選挙区の議員は全部不存在となることは明らかであつて、かくなつては、折角議員の増員を目的として選挙無効訴訟を提起してもその結果は当該選挙区の議員零という状態で改正を論ずるという正に本末転倒の結論となつてしまうのであつて、定数是正を目的とする訴は全くその意義を失う結果となるのである。原判決はかかる不合理な結果を回避し、しかも効果的定数改正の方法が現行法上可能である根拠につき、具体的手続とその理由を全く示さないものである。若し、それらの点に関し法律を改正し、あるいは条例を新設すべしとするのであれば、それは既に立法政策に属する問題であつて、司法権の立法ないし行政に対する不当介入というほかない。違憲である条例を除いては現行法に基づきその措置を論結すべきことであつて、これこそ正に司法に課せられた命題といわなければなるまい。

(五) 要するに、選挙訴訟が前述したとおり限定的規定として設けられた所以は、「選挙法の実体規定を違憲とする判決が下れば、選挙は全部無効となり、議員は失格し、議会の権能は止まり、収拾し難い結果を生ずる。たとえ本件の如き事案につき提訴の途を開かなかつたことにより仮りに投票権の結果価値につき不平等(かかる不平等は人権侵害ではないが)という結果が生じたとしても、議会の機能喪失その他収拾し得ない事態の発生に比すると軽重の差があまりにも明白である」(ジュリスト、一九七八年一二月一五日号(六八〇号)八九頁以下「国会議員の定数配分規定の違憲問題の基本点について」青木一男 要旨抜すい)との立法時における判断に基づくものであつて、決して、議会ないし行政府の怠慢によるものではない。そうして、この解釈は、地方公共団体の議員選挙においても全く同様にあてはまるものである。

国会の場合は、衆議院が解散しても、参議院の緊急集会により法律審議は形式上可能であるが、地方公共団体においては、議会はいわゆる一院制であり、仮に定数配分規定が違法とされ選挙が無効となつた場合には、本件選挙に基づく議員すべては失格し、議事機関たる議会そのものが存在しないことになり、従つて、再選挙を実施するための必須条件たる定数配分規定の改正それ自体の審議が不可能となる。しかるが故に、定数配分規定の違法を理由とする選挙無効の如き訴は地方公共団体の制度上予想し難い状況を招来する結果となるので、立法者の採用するところとならなかつたと解すべきである。

以上のように、本件の如き訴は、公選法二〇二条及び二〇三条の規定に適合せず、且つ、このような訴を是認する実定法規が制定されていない以上は、不適法の訴として却下されるほかないというべきである。

二 公選法二〇五条によれば、選挙の規定に違反しても、選挙の結果に異動を及ぼす虞れがないときは選挙を無効とすることができない。

仮に、原判決のいう如く、前項の上告人の主張が本件訴の却下を求める理由とするに足りないとしても、前述した如く自治法九〇条四項が存在する関係上、選挙無効とし定数条例を改正したとしてもこれに基づく再選挙は次の一般選挙の場合でなければ実施することができないものであるから、選挙の規定違反があつても選挙の結果に異動を及ぼす虞れがないことがまことに明らかというほかなく、従つて、少くとも、本件請求はその理由がなくこの点から考えても本訴請求は棄却を免れないとすべきものである。

しかるに、原判決はこの点に関し、全く論及することなく、いわゆる事情判決に飛躍してしまつたことは理由不備、審理不尽の違法があるものといわなければならず、この点から考えても原判決を破棄し、更に、相当な判決がなされなければならない。

第五点 原判決は憲法一五条、九二条及び九三条の解釈を誤り、公選法一五条七項を正解しない違法なものであつて、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一 地方公共団体の議員選挙制度と憲法

(一) 地方公共団体の組識及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づき法律で定めることとされ、その議決機関たる議会の議員の選挙制度についても、当該地方公共団体の構成員たる住民が直接選挙によつて議員を選出すると定める以外に憲法上特段の制約事項はない(憲法一五条、九二条及び九三条)。

このような規定のあり方は、地方自治が民主主義の実現のために不可欠なものであると同時に、本来地方公共団体は、その構成員たる住民の自由で濶達な自治意識によつて運営されるべきものであることを認識させるものであり、そのためには法の制約は、必要最小限にとどめて、住民、具体的にはその代表者である長(即ち、知事及び市町村長)並びに議会の意思決定によつて地方公共団体が自主的に運営されるべきであるとの崇高な自治の理念が示されているものである。

ところで、憲法は国政に関し、議院内閣制を採用し、しかもこれに対応する議決機関としては衆議院と参議院の二本立とした上、参議院地方区に関しては衆議院における人口比例の原則によりつつも、それ以上に、地域代表的性格を加味する選挙制度も公正且つ効果的代表制度として許容されるものとしている(昭和五八年四月二七日言渡・昭和五四年(行ツ)第六五号最高裁大法廷判決)。一方地方公共団体については、首長、議員とも住民の直接選挙によると定められている(憲法九三条二項)。これは、首長に関しては国政レベルとは異なり、いわゆる大統領制を採用し、首長が直接住民の意思を汲み取り行政を施行する途を開いたものであり、同時に、これに対応する議員の選出については、同じ直接選挙とはいつても、直接選挙の範囲内において右首長に対等に対応するにふさわしい選出制度を決定すべきことを要請しているものと解すべく、首長の直接選挙に対応するにふさわしい議員選挙制度としては地域的まとまりのある選挙区を設定し、その地域代表的性格をも保有せしめる制度とするのが最も好ましい方法であつて、これは、地方自治の本旨にも合致した公正且つ効果的代表選出制度であり、憲法の前記要請にもかなうものといわなければならない。なお地域性を論議するまでもない程度に狭小な地方公共団体については、首長と同様に選挙区を設けない直接選挙制度を採用する以外にない。従つて、憲法は地方公共団体の議員の選挙制度に関し、人口比例の原則を絶対とせず、実質的な均衡を重視してこれを緩和し地域代表的性格を加味する選挙制度の採用をも許容しているものといわなければならないのであつて、人口比例の要素は勿論尊重されなければならないが、各種議員選出制度に応じた公正且つ効果的代表制度の確立こそ憲法上の普遍的原理といわなければならないのである。そうして現行法制は右の憲法の精神にのつとり、法律は一定の基準を設定するにとどまり、各地方公共団体の議会は右基準に基づき自由に総定数、選挙区及び選挙区別定数を決定する裁量権限を与えられているのである。従つて、前記憲法の趣旨にのつとり制定された法律(自治法・公選法)に基づき地方公共団体が制定している議員定数条例は、住民全体の意思が十分都道府県の政治・行政に反映しうるような公正且つ効果的な代表制度を確立すべく、当該地方公共団体の議会が、その裁量権を行使してこれを決定した所産というべきものであるから、その条例は、合理性・合法性の推定を受けるものと解すべく、結局、定数条例の適否の問題は憲法一四条の平等条項との関係上、誰れもが容認する明確な基準に照らしてそれが極端に不平等である場合は格別、それ以外は常に立法政策の当否の問題に留まり、違憲問題を生ずる余地はないといわねばならない。

(二) 公選法は右憲法の要請に従い、都道府県の議会の選挙区は郡市の区域による(同法一五条一項)と規定し、地域性の基礎をなす選挙区の基準を確定した上、議員一人当り人口の半数以下の人口の都市に対してのみ隣接の他郡市との合区を命じ(同条二項)たのみで、その余の議員一人当り人口にみたない都市の合区の有無は当該都道府県の裁量に一任した。戦後間もない昭和二二年当時においては、これが右程度で十分地域間の均衡を得た地域の利益代表的性格も確保された制度であるという立法府の考え方であつた。しかしながら、戦後復興に賭けた国民の努力がみのり、経済の高度成長と共に何人も予想し得なかつた大都市への人口集中、郡部人口の減少、都市内部における都市中心部の昼間人口の増加、これに反比例する夜間常住人口の減少並びに周辺部にみられるこれと逆の現象の発生、更には、社会活動の広域化に伴う人口流動性の高まり等から、常住人口と行政需要とが必ずしも対応しない状況となり、人口数のみに依拠する定数配分はかえつて実情に反し、地域間の均衡をそこなう結果となるとみられるようになつた。そこで、前述した地域間の均衡を得ることこそ憲法の要請する公正且つ効果的代表制度確立の精神に合致するとの観点から、順次歴史的沿革、社会事情、行政区画、面積の多寡、行政需要等の諸要素を加味する定数配分を可能とする立法措置が採られるようになつた。即ち、

1 昭和三七年法律一一二号による公選法二六六条二項及び同法二七一条二項の新設

2 昭和四一年法律七七号による右二七一条二項の改正

3 昭和四四年法律二号による公選法一五条七項ただし書及び自治法九〇条二項の新設

4 昭和五二年法律四六号による右九〇条二項の改正

であつて、右は前述した如くあくまで定数配分に関し地域間の均衡を図り得る裁量権を都道府県の議会に認めた特別規定であるから憲法上許容されるところであり、右諸規定に憲法違反はなく、右法律を適用して制定された条例につき違法はあり得ない。しかるに原判決は以下に記述するように、前記憲法並びにこれに基づく法律の精神を正解せず、定数条例を違憲としたものであつて破棄を免れないものである。

二 都道府県の議員選出制度についての原判決の考え方

原判決は、地方公共団体の議員の選出制度に関する前記憲法の要請を正解せず、形式上の投票価値の平等を重視し過ぎて、地域間の均衡を図ることこそ公正且つ効果的代表制度確立の途であるとの理を無視したため、違法な判決をしてしまつたのであるが、それでも公選法一五条七項についての一般的解釈においては、「投票価値の平等といつても議員定数を人口に比例させることが唯一絶対の基準であるとまではいえず、むしろ投票価値の平等は、議会が選挙制度、代表民主制の原理からみて正当に考慮することができる他の政策目的との関連で調和的に実現されるべきものであり、定数配分にあたつて、形式的に人口のみを基準としたのでは、いわゆる公正かつ効果的な代表という見地からみて不相当である場合もあり得、このような場合にそれぞれの具体的な特殊事情を正当に考慮して地域間の実質的な均衡をはかるために、人口比例からある程度はずれた配分をすることも、投票価値の平等という憲法上の要請に反しないものというべきであり(六丁裏三行目以下)」とし、又同項のただし書の特別の事情の解釈にあつても「何をもつて同項但書にいう特別の事情とみるか、それをどのように考慮するか、いかなる状態をもつて地域間の均衡がはかられているとみるかといつた点については、一義的で客観的な基準を見出すことは困難であり、各議会がこれを議決するにあたつては、地方自治の本旨に照らして、種々の政策的判断を含む相当な裁量権を行使することが考えられ、議決にあたつてその裁量権を合理的に行使したものとして是認することができるか否かによつて、当該定数配分規定が同項に違反するか否かを判断すべきである(七丁表一〇行目以下)。」と一応地域代表的性格保有の選出制度を是認しているが、右解釈論における誤りは、当然のことながら都道府県議会が議決したところは前記法律の規定に基づきその裁量権を正当に行使したものとして合理性並びに合法性が推定されるにも拘らず、この理を明確に摘示しなかつたことであり、そうして原判決の何よりの誤りは一般論としては上記理論を展開しながら、後述するように、いざ実際の適用の場に至るや、人口比例の原則に固執し、折角都議会が地域間の均衡を図るべくなした定数条例の改正の合理性を推定せず、更には、その裁量権の行使をも正当に評価しないものであつて、論旨に一貫性を欠き、理由に齟齬を来しているものである。

三 都道府県議会議員の定数配分に関する法律の規定

都道府県議会の議員定数配分については、地方自治の基本法たる自治法において、議員定数の上限を定め(同法九〇条)、公選法において、議員を選出するについての選挙区の決め方及び各選挙区に対する定数の配分方法を定めている(同法一五条、二六六条及び二七一条)。

即ち、

(一) 都議会議員定数の上限

自治法九〇条の規定によれば、直近の国勢調査(昭和五五年一〇月一日現在)における人口に基づいて算出される都議会議員定数の上限は、一二八人である(この限度の下に都議会は本件選挙における議員の総定数を一二七人と定めた。)。

(二) 選挙区の決め方

公選法によれば、議員の選挙区は郡或いは市の区域による(同法一五条一項)が、郡市の人口が当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員定数をもつて除して得た数(以下「議員一人当り人口」と略称する。)の半数に達しない場合には、隣接の郡市と合せて一選挙区を設けなければならない(強制合区規定、同条二項)。

これに対して、人口が議員一人当り人口の半数以上あつてなお議員一人当り人口に達しない郡市については、独立した選挙区とするか或いは隣接する他の都市と合せて選挙区を設けるかの選択を全く当該都道府県議会の裁量に委ねている(任意合区規定、同条三項)。

更に、合区選挙区を設けるに当り、どのような郡市をもつて合区選挙区とするかもまた議会の裁量による(同条四項及び六項)。

(三) 議員定数の配分方法

公選法は、議員定数の配分方法について、次のとおり定めている。即ち、各選挙区に対する定数配分は、原則として人口比例とするが、特別な事情がある場合には地域間の均衡を考慮して人口以外の諸要素をも総合勘案して行うことができる(同条七項)。

又、同法二七一条二項が設けられ、強制合区の対象となる選挙区についても議会の裁量により独立選挙区とすることができ、更に東京都に関する特別規定として同法二六六条二項が存在し、二三区を一選挙区として取扱うことができる旨規定されている。

これらの規定は、全国的な傾向となつた近年の激しい都市部への人口集中化現象に伴い、都市中心部では、昼間人口が著しく増加し、それに反して夜間常住人口が減少するという状況が生じ、周辺部はこれと逆の現象を呈するようになり、更には郡部においてみられる急激な人口減少等に起因して、常住する住民数と地方公共団体の行政需要とが必ずしも一致しない状況が顕在化してきた状況をふまえ、もともと都道府県の役割は市町村を包括する広域の地方公共団体として市町村行政の補完及び広域にわたる行政を推進することにあるから、その公正円滑な運営を期するため各選挙区に対する定数を機械的に人口に比例して行うのではなく、人口比例原則に特例を設け、それぞれの地域の特性に応じて均衡のとれた配分を議会の裁量により可能ならしめようとの理由に基づくものであるから、前記地域間の均衡という憲法の要請に合致しており、合憲であつて違法性はない。

(四) 公選法における地方公共団体の議員選出制度に関する人口比例の概念は、議員定数の選挙区別配分を人口比例で行うことを原則としているが、もとよりそれは、公正且つ効果的代表選出制度である地域間の均衡との兼ね合いの概念であつて各選挙区の議員一人当り人口の完全な一致を意味するものではない。法の規定からして議員一人当り人口の間に次のような差が生ずるのは自明のことであり、また当然、法が予定しているところである。即ち、当該都道府県の議員一人当り人口の平均を一とした場合、それに対する指数0.5以上1.0未満の郡市については、隣接の郡市と合せて一つの選挙区(合区選挙区)とせずに、当該都市のみをもつて独立の選挙区とすることができる(同法一五条三項)。従つて、仮にこのような郡市が多数存在し(このような事例は特異なものではなく常に存在しうる。)、これらの郡市をそれぞれ独立選挙区としようとすれば、そのそれぞれに定数一人を配分しなければならず、必然的に議員の総定数が、法の上限を超えてしまうことになり、特定の選挙区において、定数の減数が必要となる。例えば、前記指数2.0を超える選挙区の定数を一人とするようにである。

その結果、指数0.5で定数一人を配分された選挙区と指数2.0を超えてなお定数一人の選挙区との間では、議員一人当り人口には「一対四以上」のひらきが生じることとなる。これは、公選法が明文をもつて許容している選挙区間の議員一人当り人口のひらきである。

いいかえるならば、法のいう人口比例の原則とは、一対四程度のひらきが生じても、なおこれをその概念に内包するものといい得るのである。かてて加えて、公選法一五条七項ただし書及び同法二六六条二項の規定の趣旨に鑑みるならば、議員一人当り人口のひらきが前記一対四程度に留まらず、それ以上のひらきが存在しても、それが特別の事情に基づくものと議会が裁量するものであれば、法はそれを許容範囲にあるものとして、当然に有効と想定しているということができるのである。

従つて、議員定数配分に当り公選法が原則とする人口比例は、厳密な算術的な意味のものでないことは当然であり、更に前述法改正の趣旨を併せ考慮するならば、選挙区に定数を配分する際、議会は極めて広い裁量権を持つものといい得るのであつて、選挙区間の議員一人当り人口にひらきがあるからといつて、それのみをとらえ、直ちに違憲違法と判断するのは誤りであつて、特別事情をも較量してその結論を示すべきにも拘らず、これをなし得なかつた原判決は誤つており原判決の法解釈は、人口比例のみに偏した独断的解釈論として排斥を免れない。

因みに全国四七都道府県議会議員の定数配分規定について昭和五五年国勢調査人口を基に調査した結果によれば、総定数について自治法九〇条一項に定める限度を下廻るいわゆる定数減少条例をもつ都道府県数は四七団体中二九団体に及んでいる。次に選挙区別定数配分についてみると、公選法一五条七項ただし書を適用して、選挙区別定数を定めている都道府県数は四七団体中三〇団体の多きにのぼり、同じく二七一条二項の規定についても一一団体がこれを適用して選挙区別定数を定めている実態がある(別表一のとおり)。又、前記の一五条七項ただし書及び二七一条二項の規定を適用しない極めて例外的な府県に属する神奈川県の議員定数配分規定に基づき試算すると選挙区別の議員一人当り人口は、最大最小選挙区間で1対2.60の比率を示している(別表二のとおり)。このような定数配分の実態に基づくならば、原判決の如き人口比例に固執する法解釈は地方自治に関する憲法の精神並びに法の現実を無視した独断的判断というほかない。

なお、本件選挙における各選挙区間の議員一人当り人口を、直近の資料である昭和五五年国勢調査による人口(夜間常住人口)について検証する。特別区の存する区域の議員一人当り人口は八一、八五五人であり、最大人口を示す西多摩選挙区のそれは二〇四、二三九人であり、この両選挙区間の比は1対2.50を示すにすぎない。この程度のひらきは、前記神奈川県の例に徴し明らかなように特別の事情を云々するまでもなく当然に法の容認するところであつて、問題とするに足りないところといわなければならない。この点からも原判決が実情を無視し、いたずらに人口比例の原則に固執し過ぎたことが論証されているといわなければならず、この点に関し違憲違法を論ずる余地は全くない。

第六点 原判決には公選法二六六条二項及び同法一五条七項ただし書の解釈を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一 昭和二二年自治法の施行に伴い同年都条例三一号として定数条例が成立した。しかして、この際は人口比に基づき区、郡、市の行政区画別に議員定数が決定された。総定数一二〇人のうち二二特別区配分議員数は一〇二人(その後板橋区から練馬区が独立し二三区となつた。)であつた。戦後間もない時期であり、右人口比に基づく配分をもつて地域間の均衡が図られているとの考え方であつた。なお、その後昭和二五年公選法の公布施行に伴い自治法中の選挙関係規定はそのまま公選法に引き継がれ現在に至つている。

二 昭和三五年の国勢調査の結果、東京都への人口集中化現象が顕在化した。特に周辺地域において、その現象が著しく、都心部の夜間常住人口は相対的に減少した。更に都心部においていわゆる昼間人口が激増した。このことから、議員定数配分を夜間の常住人口に比例して行うということが、歴史的沿革、社会事情並びに行政需要の実態等を考慮するならば、必ずしも地域間の均衡が保たれた定数配分とはいえない状況となつた。この状況をふまえ、昭和三七年法律一一二号により所要の規定改正が行われた。

(公選法二六六条二項の新設)

東京都における議会の議員定数配分について同法一五条の人口比例原則の例外を設けた。すなわち、特別区にあつては、その存する区域を一市と看做して他の郡市との間に定数配分を行い、これにより得た特別区全体の定数を各特別区を選挙区としてそれぞれに配分する。更に各区に定数を配分する場合には、必ずしも人口比例によらなくともよいとした。

ところで、この時点においては、公選法一五条七項ただし書のいわゆる特別事情に関する規定が存在していなかつたから、右規定は後に都道府県全体に一般化された一五条七項ただし書規定の先駆をなす特別規定の創設というべきものであつて、都の実情に鑑み都議会に対し憲法上の要請に基づく地域間の均衡を図り得る途を明示したものである。その後昭和四四年法律二号に基づき一般法である同法一五条七項ただし書が設けられ、併せて、その際自治法九〇条二項を新設し、総議員定数一二〇人の上限規定の枠を超えて特別区の人口一五〇万人に付き一人の割合による定数を増加し得る規定を新設し、二三区間並びに二三区とそれ以外の郡、市間の定数配分の均衡を図つた。次いで昭和五二年に右を特別区の人口一〇〇万人につき一人の割合による定数を増加し得ると改正した結果二三区間の現議員定数が確保されることになつた。このように都に対し、特別区の人口を根拠として特に議員定数増加を認めている趣旨に徴すれば、前記公選法二六六条二項は、二三区と二三区外の郡市との間の定数配分については、人口比による定数配分を義務付けないため設けられた特別規定であることが明らかであつて、その根底には二三区現議員定数を確保せしめるのが都全体としての地域間の均衡のとれた定数配分であるとの立法意思が表明されているものといわなければならない。従つて、その結果議員一人当り人口比において二三区対西多摩選挙区につき1対2.50程度の較差が生じているとしても、右をとつてもつて一概に不合理なものとはいい得ないのであつて、まして第五点三(四)で明らかにした如く、特別事情を考慮せず、人口比例のみに基づく定数配分をなしたとしても、選挙区間の議員一人当り人口に1対2.60程度の較差は当然に生ずるのであるから、原判決のこの点に関する法解釈はいづれの点からも明らかに誤つているというほかない。

三 又、公選法二六六条二項は二三区内定数配分に関しても必ずしも人口比によらないことを認めた規定と解せざるを得ない。

(一) 何故かなら、若し、原判決にいう如くきびしく人口比例の原則が適用されるものとすれば、そもそもかかる規定自体の創設の必要性が全く存在しないからである。本項は従前の二三区の議員定数並びに各区別配分定数を維持することが二三区の歴史的沿革、社会事情、行政需要等に照し地域間の均衡を得る特別事情とみなし、新設されたものなのである。原判決は二三区が都全体としてみた場合一都市を形成しているという事実に眩わされ、右二三区において各区がそれぞれ独立し、それぞれに特有の歴史的沿革を有する事実を見忘れてしまつているものである。二三区は全体として一都市を形成すると共に長い歴史的経過によりそれぞれ各区独立の存在なのであつて、単純な人口比例のみに基づく合区規定の適用など論外というほかない。(原判決は、合区を考慮すれば足りる如き論述をしているが、かかる判示は、議会のこの点に対する裁量権を正視していないものであつて、まさに立法に対する不当介入というべく、絶対に許さるべきことではない。)即ち、原審で上告人が明らかにしている如く、特別区は、明治一一年の郡区町村編成法外二法の制定により東京府下に神田等一五区が設置され、右一五区が東京府の中核となつたことに始まる。その後、明治二二年の市制施行によりこの一五区をもつて東京市が成立(現在の千代田区、港区、台東区、中央区の全域及び新宿区、江東区、墨田区の一部がこの区域内である。)し、名実とも首都東京の中核体となり、政治、経済、商業、教育、文化等の全国的中心地となつた。昭和七年東京市の市域拡大により周辺五郡八二町村が東京市に編入され、この区域をもつて新たに二〇区が設置され三五区(今問題とされる江戸川区、葛飾区、足立区、練馬区、板橋区、世田谷区等はすべてこの編入区に属する。)となり、これがそのまま東京都制に引きつがれ、戦後の昭和二二年三月統廃合が行われた結果二二区(後に板橋区から練馬区が分離独立した。)となつたが、もともと首都の中核をなすものとして一五区が中心となつてやがて二三区の都市化に発展したものであり、右一五区の地域は昭和二二年の統合により七区とはなつたが、各区とも首都の中心として、それぞれに国内における政治、文化、経済、商業、教育等のいづれかの中心として各区独立した全国的に著名な存在体となつているのである。従つて、千代田区、中央区、港区、新宿区等については前記の歴史的沿革、社会事情並びに後記行政需要の増大等を加味した場合、人口数の如何に拘らずそれぞれ独立の選挙区とし、且つ、歴史的に付与されて来た定数を確保することこそが二三区間の地域間の均衡上必要欠くべからざるところなのである。しかるに、原判決はかかる特別事情を全く無視し正解しないものなのである。

(二) 人口の都市集中化傾向がもたらした結果として、都市部においては過密化現象、郡部においては過疎化現象をひきおこした。とりわけ都市化が最も進んだ東京都においては、特別区及びその周辺部への人口集中と交通至難な島部町村における急激な人口減少という両極現象が同時に顕在化した。それと共に、前述した郡部から都市部に流入した人口は、都市の比較的周辺地域の夜間常住人口を形成し、更に、このうちの大部分は就学就業の機会を首郡機能・中枢機能及び諸々の情報の集積する都心地域に求めるところから、この地域における昼間流入人口の増大化を併せて促進させることとなつた。このことは、特に都市中心部において、上下水道、清掃、道路等に代表される多種大量の行政需要を発生させると同時に、この地域における夜間人口の減少により生じたある意味での過疎化現象もまた老人対策、福祉などの新たな行政需要を発生させることになつた。

人口集中の実態を特別区の存する地域についてみると、昭和三五年の時点で夜間常住人口が八三一万人もあつたのに対し昼間人口は八九六万人であり、その差六五万人、昭和五〇年においては、夜間常住人口八六五万人に対し昼間人口一、〇七三万人であり、その差二〇八万人(因みに、これは同年における長野県の人口二〇二万人を優に超える規模である。)、とりわけ、都心区の千代田区、中央区においてはその差が特に著しくなつた。(昭和五〇年においては、昼間人口が夜間常住人口に対して、千代田区一五倍、中央区七倍にも達した。)

当然ながら、都心区における行政需要は他特別区のそれと比較した場合、負担増となり、これら事情は議員定数配分における特別の事情形成の一要素として考慮されてしかるべきものである。

しかるに、原判決はこの点に関し「選挙人に対する選挙権は住所地すなわち夜間常住地で与えられるものであつて、通勤、通学場所で選挙権を行使しうるものではない以上、昼間人口が多いことが行政需要の増加要因であることは否定しがたいとしても、他地域で選挙権を行使する昼間人口者のために郡心区の住民(選挙人)が他の区の選挙人の数倍の投票価値を有する選挙権を行使することが合理的であることは到底是認しがたいところといわざるをえない(二四丁表一行目以下)」と判断して憚らないのである。

(三) 右のような判示は、公選法二六六条二項並びに同法一五条七項ただし書の新設の趣旨を全くといつてよい程解しないばかりでなく、単に形式的人口比のみを根拠とする理由付に終始しているに過ぎない。原判決のいうとおり、夜間常住区を選挙権付与の基礎とし、その上地域間の実質的均衡を図るための措置を講ずれば当然のことながらいわゆる選挙区間の投票価値に差が生ぜざるを得ない。しかしながら、本来投票権の平等とは一人一票の原則が確保されているか否に存するものであり、一人一票の原則が確保されている限り、前述の諸事情を衡量し二三区間における実質的均衡を図るという特別事情に基づき定数決定がなされて、その結果たまたま最大区と最小区の較差が一対五程度存するとしても、公選法二六六条二項並びに同法一五条七項ただし書の規定を正しく理解すれば著しく不合理というには足らず、いまだ立法政策の問題に留まり、それは都議会における裁量権の手中に存するものである。しかるに、原判決は人口比に偏し、これを違憲と即断したものであつて、違法であり、当然破棄を免れないものである。

第七点 結語

これまでるる述べてきたように東京都は、他の都道府県と全く同一には論じられないところであり、選挙法制上も都の特殊性を配慮して、議員定数並びにその配分に関し各種の特例規定(公選法及び自治法)が設けられ現在に至つているのであつて、都議会は、右特例規定の精神に則り選挙区別定数配分についても、その裁量権を行使して適宜適正な条例改正を行つてきたものである。従つて、本件選挙の基礎をなす定数配分条例に違憲違法はないから原判決を破棄し、然るべき判決をすべきである。

別表一

昭和55年10月1日国勢調査の結果に基づく都道府県議会議員定数条例に関する調べ

昭和58年9月20日

(東京都選挙管理委員会事務局長作成)

定数減少条例制定状況

公職選挙法

第15条第7項

ただし書適用の

有無

同法第271号

第2項適用の

有無

制定の有無

参考

法定数

条例定数

比較

北海道

111

110

△ 1

青森

53

52

△ 1

岩手

52

52

宮城

61

59

△ 2

秋田

49

49

山形

49

49

福島

60

58

△ 2

茨城

68

65

△ 3

栃木

57

55

△ 2

群馬

58

57

△ 1

埼玉

109

94

△ 15

千葉

99

79

△ 20

東京

128

127

△ 1

神奈川

120

115

△ 5

新潟

66

65

△ 1

富山

47

47

石川

47

47

福井

41

40

△ 1

山梨

42

42

長野

61

61

岐阜

59

50

△ 9

静岡

80

78

△ 2

愛知

120

106

△ 14

三重

55

54

△ 1

滋賀

47

46

△ 1

京都

67

63

△ 4

大阪

120

113

△ 7

兵庫

105

91

△ 14

奈良

48

45

△ 3

和歌山

47

47

鳥取

40

40

島根

41

41

岡山

58

57

△ 1

広島

70

69

△ 1

山口

54

54

徳島

42

42

香川

45

45

愛媛

53

53

高知

42

42

福岡

96

89

△ 7

佐賀

43

42

△ 1

長崎

54

54

熊本

57

56

△ 1

大分

49

48

△ 1

宮崎

48

47

△ 1

鹿児島

57

57

沖縄

47

47

適用有

とする

団体数

29

3022

2899

△ 123

30

11

別表二

県議会議員選挙区別定数試算表

(総定数を115とし、法令上合区しなければならない区域を合区した場合)

(昭和57年9月30日現在)

選挙区名

昭和55年

国調人口

配当率

新定数

現定数

増減

議員1人当り人口

横浜市

(2,773,674)

(46)

(46)

鶴見区

231,477

3.8443

4

4

57,869.25

神奈川区

201,794

3.3514

3

4

△1

67,264.67

西区

80,539

1.3375

1

2

△1

80,539.00

中区

121,476

2.0174

2

2

60,738.00

南区

192,020

3.1890

3

3

64,006.67

港南区

185,964

3.0885

3

3

61,988.00

保土ヶ谷区

179,860

2.9871

3

3

59,953.33

旭区

210,887

3.5024

3

4

△1

70,295.67

磯子区

156,588

2.6006

3

3

52,196.00

金沢区

154,687

2.5690

3

2

+1

51,562.33

港北区

265,506

4.4095

4

4

66,376.50

緑区

289,766

4.8124

5

4

+1

57,953.20

戸塚区

401,986

6.6762

7

6

+1

57,426.57

瀬谷区

101,124

1.6794

2

2

50,562.00

川崎市

(1,040,802)

(16)

(18)

(△2)

川崎区

199,148

3.3074

3

4

△1

66,382.67

幸区

138,585

2.3016

2

3

△1

69,292.50

中原区

185,283

3.0771

3

3

61,761.00

高津区

141,400

2.3483

2

4

70,700.00

宮前区

142,616

2.3685

2

71,308.00

多摩区

140,977

2.3413

2

4

70,488.50

麻生区

92,793

1.5411

2

46,396.50

横須賀市

421,107

6.9937

7

7

60,158.14

平塚市

214,293

3.5589

4

3

+1

53,573.25

鎌倉市

172,629

2.8670

3

3

57,543.00

藤沢市

300,248

4.9865

5

5

60,049.60

小田原市

177,467

2.9473

3

3

59,155.67

茅ヶ崎市

171,016

2.8402

3

3

57,005.33

逗子市・三浦郡

86,838

1.4422

1

1

86,838.00

(逗子市)

(58,479)

(0.9712)

(三浦郡)

(28,359)

(0.4709)

逗子市に合区

相模原市

439,300

7.2959

7

7

62,757.14

三浦市

48,687

0.8085

1

1

48,687.00

秦野市

123,133

2.0450

2

2

61,566.50

厚木市

145,392

2.4146

2

2

72,696.00

大和市

167,935

2.7890

3

3

55,978.33

伊勢原市

70,052

1.1634

1

1

70,052.00

海老名市

77,496

1.2870

1

1

77,496.00

座間市

93,503

1.5529

2

1

+1

46,751.50

南足柄市

39,919

0.6629

1

1

39,919.00

綾瀬市

65,080

1.0808

1

1

65,080.00

高座郡

36,417

0.6048

1

1

36,417.00

中郡

57,152

0.9491

1

1

57,152.00

足柄上郡

58,535

0.9721

1

1

58,535.00

足柄下郡

55,306

0.9185

1

1

55,306.00

愛甲郡

33,412

0.5549

1

1

33,412.00

津久井郡

54,955

0.9126

1

1

54,955.00

県合計

6,924,348

115

115

60,211.72

1 選挙区別の昭和55年国勢調査人口は、現在時までに知事告示により変更された人口があるときは、変更後の人口である。

2 選挙区別の配当率は、選挙区別人口を議員1人当り人口で除して得た数であるが、具体的には次の算式となる。

3 備考欄の数字は、配当率が1を超える選挙区の小数点以下の端数処理に当り、切り上げられる順位である。

川崎市麻生区0.5411以上切り上げ

横浜市旭区0.5024以下切り下げ

4

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