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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(行ツ)139号 判決 1983年5月26日

広島市中区千田町一丁目四番一五号

上告人

有限会社 チュウドウ

右代表者取締役

中道秋夫

右訴訟代理人弁護士

椎木緑司

橋本保雄

椎木タカ

平見和明

広島市中区加古町九番一号

被上告人

広島西税務署長

藤村秀夫

右当事者間の広島高等裁判所昭和五五年(行コ)第二号法人税更正処分取消、源泉所得税の納税告知処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五七年六月一〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人椎木緑司、同橋本保雄、同椎木タカ、同平見和明の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができその過程に所論の違法はない。論旨は、原判決と異なる見解に立って原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 和田誠一 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 中村治朗 裁判官 谷口正孝)

(昭和五七年(行ツ)第一三九号 上告人 有限会社チュウドウ)

上告代理人椎木緑司、同橋本保雄、同椎木タカ、同平見和明の上告理由

第一点 原判決は法人税法第一三二条(同族会社の行為又は計算の否認)に対する解釈並びに適用を誤った違法があり、判決に影響を及ぼし、破棄を免れない。

一、原判決は理由中で第一審判決の理由の概く一部を訂正・補充する外は同判決該当欄記載のとおりであるからこれを引用するとしているので、以下原判決とするは第一審判決引用部分も含むものである。

中道秋夫は訴外瀬戸内養魚観光株式会社(訴外会社という)の主たる株主であったが故に、同会社の呉相互銀行からの借入保証人となっていたのである。その債務を昭和四一年一二月三一日の約定により、同人が同会社に有する総ての株券とゝもに上告人会社に譲渡し、上告人がこれを譲り受けた。

右上告人の無償による保証債務の譲り受け行為は、上告人が右中道秋夫と同族会社の関係にあるが故になし得た行為であり保証債務を無償で譲り受けることは通常の経済人は為さない行為であるとの理由をもって、被上告人は法人税法一三二条を適用して、当該譲受行為を否認し法人税額の更正をなし、原判決も概ねこれを容認する態度を示した。

然し中小規模の企業法人が銀行等から借入れをするに当り、その主たる役員や株主等が無償でその借入れの保証人となっているのが、一般的な社会の実情であり、逆に保証額相当額を借入れの法人が保証人に提供し、然る後に保証人を依頼するというような場合は皆無に近いのである。

そうしてみると、同一内容の保証債務が上告人に譲渡されたにも抱らず、中道秋夫が保証人となった時はその保証債務は無償であったものが、上告人会社が譲り受けたとたんに突然有償となるわけが無いので、被上告人が同条を適用した理由が全くないことは明白である。

現に被上告人は中道秋夫が瀬戸内養魚観光株式会社の当該借入の保証人となったとき、その保証債務額相当額を無償として容認しており、逆に有償であるべきだとして同会社に受贈益の更正などをしていない。

二、被上告人は昭和四一年一二月三一日の本件保証債務の無償譲受けについて、その譲り受けた行為及び無償計算行為を、法人税法一三二条の規定を適用して否認し、さらに上告人の昭和四四年三月二七日の当該保証債務の履行に伴う昭和四四年一二月三一日の求償権の貸倒損金計上についても同条を適用し、その計算を否認したとして上告人に対し、右否認額の法人税額等の更正をするとゝもに、右中道秋夫に対する認定賞与とする源泉所得税の納税告知をした。

そうしてこれに対し適法な抗告訴訟に対し、右を容認した原判決は以下述べるとおり著しく法人税法一三二条等の解釈適用を誤り、到底破棄を免れ得ないものである。

すなわち被上告人は実際には昭和四一年一二月三一日の保証債務の無償譲受けについての法人税法一三二条の適用による譲受け行為及び無償計算の否認や更正等の行為はとっていない。

しかるに被上告人が右の本件否認をなすためには是非とも、昭和四一年一月一日より同年一二月三一日に至る事業年度分の法人税の申告について同条を適用した否認及び更正をすることが前提であるのに、被上告人はその処分をしていないことからみても、明かに論理的にも矛盾しており、違法たることは明白である。

たとえ被上告人が昭和四四年一月一日より同年一二月三一日に至る事業年度に属する事実行為に対する更正処分をなしたとしても、そのことをもって過去の事業年度に属する昭和四一年一月一日より同年一二月三一日に至る事業年度に属する同年一二月三一日の保証債務の無償譲受けについての行為及び計算まで否認したことにはならないのである。

以上のとおりであるから、被上告人は現在に至るもなお上告人の本件保証債務の無償譲受けの行為と計算を容認しているといわなければならない。

三、被上告人が法人税法一三二条を適用して否認したという保証債務の履行に伴う求償権の行使が不可能となったことによる貸倒損金計上の計算は既に被上告人が当該保証債務の無償譲受けによるその行為と計算を前項二で述べたように税法上も容認しているのであるから、その譲受け約定の法的効果は昭和四一年一二月三一日の保証債務の譲受けの時から上告人に帰属し、主債務者が借入返済ができなくなったゝめ、上記の法的効果の受認義務として昭和四四年三月二七日に上告人が保証債務の履行をなしたことは至極当然なことである。

そして保証債務の履行額について、主債務者に求償権を行使することができないため、昭和四四年一二月三一日に税務計算上貸倒損失に計上したことは、国税庁長官の公開通達である法人税法基本通達9―6―2(回収不能の貸金等の貸倒れ)を遵守したものであり、同族会社であるが故に貸倒損金計上を否認される理由は毫もない。

四、原判決の引用する第一審判決理由三は概要(1)本件引受契約時たる昭和四一年一二月三一日の現況においても事業経営が困難かつ不安定であったこと、同社は漁業所得者であって経済的危険性もあり、所得の変動も大きいことなどを考えると、引受の時点で上告人には保証債務の履行を余儀なくされること、及び求償権の行使ができなくなることの予測が十分できた。(2)そして右引受がなかったならば中道個人が右保証債務を履行し、その求償権行使の不能についての負担を自ら負うべきであったにも抱らず、上告人が右引受をしたゝめに同人は右負担を免れることになったのであるから、前記金一一一万六〇〇円は上告人のその代表者右中道に対する法人税法三五条四項括孤書にいう「経済的な利益」の供与であって、これは臨時的な給与すなわち賞与の支給と認められるので同条一項により上告人の所得の金額の計算にあたって、これを損金の額に算入することは認められない(同法三五条一項)。(3)また右貸倒れを損金として計上することを認めると、上告人の法人税の負担を不当に減少させる結果となるので、被上告人が法人税法一三二条の規定を適用して上告人の求償権の貸倒損金計上を否認したのも止むを得ない旨判示する。

しかし前記認定及び解釈は、昭和四一年一二月三一日の現況において、上告人の保証債務の無償引受けから発生するであろう事実を予測判断し、その認定するところにより、上告人の保証債務の無償引受けによる行為及び計算を否認し、法人税額を更正しようとする作意的企図を容認するもので、著しく日常経験則に違反し客観性を欠く違法なものである。

その結果保証債務に対する求償債権の貸倒金計上相当額を上告人会社から中道秋夫に対する社外流出とし法人税法三五条四項括孤書該当の「経済的な利益」の発生として、その金額を認定賞与としたものである。

右認定賞与が同条項に云う経済的な利益であると云っても、その前提は保証債務の無償引受けによるその行為及び計算を法人税法一三二条で否認更正することを要することは申すまでもない。

従って保証債務の無償引受けが容認される場合は、右法人税法三五条項四項の前記「経済的な利益」の発生の余地は無く、中道秋夫に対する認定賞与の課税はあり得ないのである。

五、上告人の昭和四一年一二月三一日の保証債務の無償譲受けによる行為及び計算を容認すると上告人の法人税の負担を不当に減少させる結果となることの予測が昭和四一年一二月三一日で十分為し得ると云うのであれば、被上告人は法人税法一三二条の規定により、当該行為及び計算のなされた前記昭和四一年税務年度における上告人の法人税の申告について、当該行為及び計算を否認したうえ更正をすべき筋合であるが、これがなされていないことは前記のとおりであって、昭和四一年一月三一日の保証債務の引受の時点で、上告人が保証債務の履行を余儀なくされ、又は求償権の行使ができなくなることの予測が十分できたとの前記認定は矛盾し違法である。

要するに右予測が十分なし得たと云うのは、被上告人が約二年有余の期間を経過し、昭和四四年三月二七日の上告人の保証債務の履行がなされたその事実を見て、諸般の事情を被上告人の主張に強引に符合させようとした極めて不公平な偏見であり、客観性を欠くものである。この点原判決は、

「なお成立に争のない甲三号証によれば、本件保証債務引受と同時になした貸付金譲受について、被告(被上告人)が当時においては不良債権ではなかったと認め、本件保証債務と異なる判断をなしたような事実がうかゞわれるが、被告が不良債権ではないと判断した根拠も明かでないうえ。いずれにしてもこれをもって前認定を左右するものではない」

旨判示指摘していることもその態度の顕著な一例であり、著しく偏見に満ち公平性・客観性を欠き、誰しも納得せしめ得ない理由不備の判示である。

六、甲三号証「昭和四五年二月六日付法人税の異議申立に対する決定書謄本は「別表のとおり、本税および過少申告加算税にかゝる原処分の全部を取消します」とし、その決定理由は、

「異議申立人は、更正処分における雑損金一五〇万円は瀬戸内養魚観光(株)に対する貸付債権を、昭和四一年十二月三一日に代表者個人より肩代りしたもので、この時点では決して不良債権ではなく、その後業況が悪化し、回収不能のため、債権放棄せざるを得ない状態になったものであると主張されますが、調査した結果、雑損金一五〇万円の計上については、異議申立に理由があることが認められたので、本税及び過少申告加算税にかゝる原処分の全部を取消します」

とあり、譲受けた貸付債権一五〇万円の放棄と同様、保証債務の履行引受についても、契約の時点では、将来必ずその履行が発生するとの予測もなし得ない状況にあったことは、右雑損金一五〇万円否認取消の被上告人の右理由開示によっても明白であり、専門官署である。独特の調査権限を持つ被上告人が調査の結果、異議申立に理由があると認めたこと、つまり昭和四一年一二月三一日当時決して不良債権ではなく、その後業況が悪化したもので当時それを予測できなかったものと判断し措置したことに責任を持たせ、少くともこれに反する主張を禁止する禁反言の原則を確立する必要があるのに、原判決はその不都合の部分を益々カバーし、力のバランスを益々崩していることは裁判の公平の原則上も誠に由々しき問題で、是非とも破棄されなければならないと信ずる次第である。

何れにせよ昭和四一年一二月の約定になる保証債務の無償譲受による行為及び計算についてその事実の属する前記昭和四一税務年度分の上告人の法人税の申告に対し法人税法一三二条を適用しその行為及び計算を否認する法人税額の更正が被上告人によってなされていないのであるから、それを前提とする法人税法三五条四項の「経済的な利益」に該当するものとしての中道秋夫に対する認定賞与の課税はあり得べからざることである。

七、仮に賞与と認め課税するとしても、その時期は本件保証債務を無償で引受けた昭和四一年一二月三一日の属する昭和四一事業年度分とすべきであって、いやしくも右事業と関係のない昭和四四年度分とすべきではない。

原判決の引用する一審判決はこの点

「税法上所得金額の算定にあたっての帰属年度の決定は、損金あるいは益金となるべき事実関係が単に生じたというにとゞまらず、一定の経済的利益の変動が金額、安定性等の面で課税適状にあるとみられる程度に「確定」した段階に至った時期によるべきものと解されるところ、本件保証債務引受については、原告から中道えの一定額での経済的利益の付与(賞与)として「確定」するに至った時期、つまり原告の右代払(昭和四四年三月二七日)後にその求償権も貸倒れ(債権放棄)として処理されるに至った時期(同年一二月三一日)の属する年度(昭和四四年本件事業年度分)の所得として算定すべきもので、この点の被告の措置にはなんら誤りはない。」

旨判示し、被上告人も亦「昭和四一年一二月三一日の時点では、主たる債務者である訴外養魚会社のその後の履行如何により上告人の保証人としての責任の範囲が変動するので、右時点においては貸倒金すなわち中道が受ける経済的利益も確定し得ないから、右時点の事業年度(昭和四一年度)ではなく、右確定した時といえる貸倒金として帳簿上処理した昭和四四年度において、右貸倒損金計上の行為を否認し賞与と認定したものであるから被告の処分は正当である」旨主張している。

しかしながら前述したように一方では「契約時たる昭和四一年一二月三一日の引受の時点で上告人には保証債務の履行を余儀なくされること及び求償権の行使ができなくなることの予測が十分にできた」と認定しながら、他方では右のように上告人の保証人としての責任が変動するとか、確定した時点とか云って三年も後に時期をづらせることは論理的に相反矛盾である。

八、被上告人は約定による保証債務の無償譲受けによる行為と計算を容認し、上告人に帰属した法効果の事実結果を俟って課税しようとするものであるから、受忍義務による保証債務の履行があり、求償債権の行使ができないため、その金額を貸倒の損失に計上することは、原因行為である無償譲受けを容認している以上正当なことであり、不当に法人税を減少させたことにはならない。従って法人税法一三二条の適用は無く、貸倒損金計上を否認する余地は全く無い。

然るに他方では被上告人は、保証債務の無償譲受けについてその行為及び計算を認めると不当に法人税を減少させるものと認定し、その行為及び計算を否認して法人税額等の更正をなそうとするものであるから、前記判示及び被上告人の事実判断は前段と後段では全く相反し矛盾する。又後段の場合の法人税法一三二条の適用と云うのは、昭和四一年一二月三一日の保証債務の無償譲受けによる行為及び計算を否認してなす更正であるから、その事実行為と計算がなされた昭和四一事業年度の上告人の法人税の申告に対しなす更正である。

そうしてその場合の課税標準は被上告人の認定によりなされるものであるから、後日事実の確定を俟って、その事実から計算した課税標準によるものではない。そうすると三年も経過した時期を俟たなければ認定した課税が計算できないとしたのも矛盾であり強引附合で不合理である。

九、以上についての詳細は原審で提出した準備書面(六)において詳細に記述したところであるから、本準備書面に添付しこれと一体をなすべきものとして控訴人を上告人、被控訴人を被上告人と読替えこれを援用する。

そうして前記事業年度の問題については同様準備書面(五)に詳細に記述してあり、その他全般について原審提出の準備書面全部を援用する。

第二点 原判決(一審引用)は日常経験則違背、論理矛盾、理由不備の違法があり到底破棄を免れない。

この点については第一点について述べたところと同一であるのですべてこれを援用する。

以上

(添付書類省略)

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