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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(オ)755号 判決 1982年11月25日

上告人

國仲寛

右訴訟代理人

本永寛昭

被上告人

合資会社

丸筑自動車商会

右代表者無限責任社員

下地博

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人本永寛昭の上告理由第一点について

約束手形の振出人において銀行取引停止処分を受け支払を停止した場合に手形所持人が手形法四三条後段二号の準用により裏書人に対し満期前の遡求をするために必要な振出人に対する支払呈示は、振出人の営業所又は住所においてすべきものと解するのが相当である。これと同旨の原判決は、正当である。論旨は、独自の見解に基づいて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

本件記録及び訴訟の経緯に鑑みれば、原判決に所論の釈明権不行使、審理不尽の違法があるものとは認め難い。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 谷口正孝 和田誠一)

上告代理人本永寛昭の上告理由

第一点 原判決には判決に影響を及ぼすべきこと明らかなる法令解釈の誤りの違法がある。

一 原判決は、上告人が本件約束手形(原判決目録二の手形)を満期前に支払場所に呈示したことに関し、それが裏書人に対する遡求の条件を具備するかどうかについて、次のとおり判断している。

「約束手形の振出人が支払停止処分を受けた場合には、手形所持人はその満期前であつても手形法四三条後段二号に準じて遡求が許されるものと解すべきところ、裏書人に対し遡求するためには振出人に対し該手形を呈示することが求められているところである。」

「しかして、右振出人に対する支払呈示は振出人の営業所又は住所において呈示すべきものといわなければならない。けだし、約束手形の支払場所の記載は、支払呈示期間内の呈示について効力を有するに過ぎないものと解すべきであるからである。」

「しかるに……控訴人は本件二の手形を……支払場所である株式会社琉球銀行宮古支店に呈示したに止まり、振出人の営業所又は住所においてこれを呈示しなかつたことが認められる。そうすると、控訴人は本件二の手形については遡求権保全の要件を備えていないものといわなければならない。」

二 しかしながら、満期前の支払呈示場所についての原判決の右判断は、法令の解釈を誤つた違法のものといわなければならない。

満期前の支払呈示であつても、支払停止処分を受けているような場合は、破産等の場合に準じて遡求要件が満たされたものと解してよいというのは、破産とか支払停止処分を受けた場合にまで支払呈示期間内にせよと要求することが取引界の実情にそぐわないからである。法は目まぐるしく動く手形取引の実情を考慮して、画一的であるべき手形行為に一定の便法を認めたのである。

しかし、それ以上に、満期前の呈示の場合、振出人の営業所又は住所においてしなければならないことまでは要求していない。

原判決は、支払場所の指定は支払期間内にのみ効力を有するというが、そのように解しなければならない必然性はなにもない。振出人が取引を銀行等としている場合、支払場所を銀行等と指定することが手形取引の当事者双方にとつて便利であるがゆえに支払場所の指定という制度が生れたのであつて、これは手形行為が有効である限り変更さるべきではないといわなければならない。本件満期前の支払呈示も手形法上有効な遡求のための行為である以上、その呈示は支払場所に対してなさるべきであり、振出人の営業所又は住所においてなす必要性はないものというべきである。

かりに然らずとすれば、満期前に倒産し、夜逃げした振出人に対しては、いずこに支払呈示をなすべきか。振出人が去つたあと旧住所や従業員も誰もいない営業所に出向くべきなのか。その場合、呈示したという証明はどのようになすべきか。

原判決のような解釈をとると手形取引の定型性に異質なものを持ちこみ、手形取引を混乱させることになる。法律を熟知しない商人に対し、法律の明文にない要件を要求することは不都合であり、これによつて遡求の権利を全く失わせてしまうのはあまりにも酷である。

原判決の法令の解釈は誤つている。

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすべきこと明らかなる審理不尽の違法がある。

本件では第一審以来被上告人が本件手形の裏書の成立を争い、一審では被上告人の主張が認められて、上告人が敗訴し、控訴審では、もつぱら本件手形の裏書が偽造かどうかが争点となつて争われた。

その結果、本件手形の裏書は偽造ではなく、真正に成立したものであるという判断が下つた。

しかし、意外にも争点外だと思われた「満期前の支払呈示場所」の法解釈のために、上告人は再び一部敗訴した。

実情を述べると、上告人は本件二通の手形を株式会社琉球銀行宮古支店に呈示した昭和五五年二月一三日、支払が拒絶されたので、その足で振出人である合資会社正勇建設に赴き、「どうしてくれるか」と手形を呈示しているのであり、またその帰りに被上告人のところにも寄つて善後策を相談しているのである。

もし、法律が、満期前の支払は振出人の住所又は営業所になすべしと規定しているならば、上告人はその要件を満たしたことを原審でも主張し立証したであろうが、法律にはそのような明文はない。単なる法解釈によつて、要件事実が変つてきているのである。

もし、原審が前記のような法解釈をとり、それによつて要件事実が変つてくるのであれば、原審はこの点について上告人に釈明を求めるべきであつた。争点が「裏書の偽造かどうか」に集中しているケースであるからこそ、原審が主たる争点ではない「満期前の支払場所」で勝敗を決めるのであればその点を明らかにさせ、審理を遂げたうえ判決をすべきであつた。沖縄の復帰後初めて約束手形というものを手にした素人の上告人に対し、遡求要件を具備していないとして請求を棄却する判決を下すからには(またそれが上告人に対し経済的に大きな打撃であるからには)、裁判所は不意打ち的な判決をするのではなく、釈明権を行使して争点について当事者双方に主張立証の機会を与えるべきであつたと考える。その点では原審に審理不尽の違法があるというべきである。

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