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最高裁判所第一小法廷 昭和52年(あ)1732号 決定 1980年12月22日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人松枝述良の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、本件における賄賂である大津カントリークラブの個人正会員たる地位、すなわちゴルフクラブ会員権は、株式会社大和の経営管理するゴルフ場施設を優先的に利用することができる権利及び所定の条件のもとで入会保証金の返還を請求することができる権利並びに年会費等を納入しなければならない義務を内容とする債権的法律関係であつて、譲渡性を有する権利ないし法律上の地位ではあるが(最高裁昭和四九年(オ)第二四六号同五〇年七月二五日第三小法廷判決・民集二九巻六号一一四七頁参照)、それ自体は性質上没収することができないものであり、また、記録によれば、右会社の発行した所論入会保証金預託証書は、裏面に譲渡人と譲受人の氏名押印欄が設けられ、右ゴルフクラブ会員権と一体をなすものとして裏書によつて転転譲渡されることを予定しているようにみえるけれども、証書上からは右会員権の内容が明らかでないのみならず、指図文句の記載もなく、かえつて右ゴルフクラブの会員としての地位の譲渡についてはクラブの承認が必要とされ、その旨が証書上に記載されており、譲渡について右の制度が設けられているのは、クラブ会員たる地位の取得についてはその者の個人的適格性の有無の考慮が必要であるとされるためであると認められること等に照らして考えると、右預託証書をもつて前記ゴルフクラブ会員権を表章する有価証券として没収の対象となるものと認めることはできないとした原審の判断は正当であり、本件において、被告人らが本件ゴルフクラブ会員権を収受したことによつて得た利益を剥奪するためには、これを収受した時点における価格の全額を追徴すべきものとした原審の判断に所論の違法はない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する

この決定は、裁判官谷口正孝の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官谷口正孝の意見は、次のとおりである。

一 本件において、被告人らが収受した賄賂は、大津カントリークラブの個人正会員たる地位であり、収受の対象となつた原判示の入会保証金預託証書が右カントリークラブ会員権を表章する有価証券と解すべきでないことは原判決の説示するとおりであつて、この点について格別の意見はない。

二 私がここで言いたいのは、没収不能のばあい追徴すべき賄賂の価額の算定基準時についてである。

原判決は、右入会保証金預託証書が右会員権の一部としての入会保証金返還請求権を化体した有価証券ではないことを理由としてこれを没収の対象から除外し、賄賂としての個人正会員たる地位は没収不能であるからその価額を追徴すべきものであるが、その価額の算定基準時は被告人らがこれを収受した時点であるとして、その時点の価額(会員権買取価格に名義書替料を加算した金額)によるべきものとしているのである。

従来の大審院判例及び最高裁判所判例もこの点については同様に解してきた。

確に、この見解は賄賂罪における賄賂の没収・価額の追徴が犯人の収受した不正の利益をその手裡にとどめずこれを剥奪して国庫に帰属させるという制度本来の趣旨からすれば、犯人は賄賂収受の時に不正の利益を収めたわけであるから、収受の時点を基準としてその価額を算定するというのはよくその趣旨にかなつたものといえるようである。

しかし、私はこの点についてやはり疑問をもつのである。

賄賂罪における価額の追徴の趣旨はそうであつても、刑法の建てまえとしては、没収不能のとき初めてその代償処分として価額の追徴をすべきものとしているのであつて、没収が本来の処分であり、追徴は没収の一つの執行方法ともいうべきものであつて、価額賠償として没収に代用する処分として位置づけられているわけである。そうだとすると、賄賂の価額の追徴は、事実審裁判所が犯人の収受した賄賂の没収が不能と認定したとき初めて課せられるべき処分であるといわざるを得ないわけである。

そして、この没収不能の認定は事実審の口頭弁論終結の時点において決せられるわけである(価額の算定基準時を事実審の判決言渡時とする説も訴訟法的には右と同じ時点に求めざるを得ない)。従つて、追徴すべき賄賂の価額算定の基準時は、右の賄賂の没収が不能と認定されるべき時点即ち事実審の口頭弁論終結時と解するのが刑法の条規に即した解釈と考える。

このように考えると、賄賂の収受時と事実審の口頭弁論終結時において賄賂の価額に変動があつて、後者の時点における価額が前者のそれより低額となつたばあい犯人の収受した利益の一部を逸することになるのではないかとの反論もあろうが、それは先に見たように賄賂の価額の追懲が没収の代償処分であることを思えば解決のつくところと思う。

三 次に、原判決は被告人らの収受した原判示の入会保証金預託証書が有価証券に当たらないとして没収の対象とならないとしている。原判決が被告人らの収受した賄賂を大津カントリークラブの個人正会員たる地位であると認定する以上入会保証金預託証書は刑法一九七条の五の規定により没収できないことは原判決のいうとおりである。しかし、右預託証書は刑法一九条一項三号、二項所定物件として裁量的没収の対象となるものと考える。もつとも、原判決がこれを没収しなかつた措置をとらえて違法といえないことは当然である。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

弁護人松枝述良の上告趣意

一、原判決は、被告人坂口兼吉から余三〇〇万円を追徴し、同池本英男から全三二三万八、六〇〇円を追徴する旨判示しているが、右追徴は違法である。

二、本件で贈賄の対象となつたものは、ゴルフの会員権であり、ゴルフの会員権は、株式会社における株式(商法第二〇四条の二の譲渡制限を受けた株式に酷似)と同様、相場があり、その相場は、時々刻々変動し証券会社に類似した仲介業者によりその取引がなされている。

三、そして、右会員権の取引は、入会保証金預託証書が、株式会社における株券と同様の役割を果し、プレー権を行使するには、入会保証金預託証書(実際にはその代用としての会員証)が必要であり、会員権の譲渡には、入会保証金預託証書の交付が必要とされており、預託金返還請求権を行使するにも同証書の呈示が必要であるから、同証書は有価証券の性質を帯有するに至つている。

四、右証書が譲渡性を有することは、同証書の表面の記載に「本証は当クラブの承認なくしては譲渡又は質入できない」と記載されていること(このことは、承認により譲渡されることを本則とすることを意味する)又、同証書の裏面には「譲渡人、譲受人」の欄が設けられ、順次譲渡されることを予定していると同時に本証が会員権の取引の手段として用いられることを要請しているものである。

このことは、とりもなおさず、本証がゴルフ会員権を表象している証拠であり、一般取引においても証書の譲渡をもつて、会員権の移転があつたと観念されている。

五、原判決は、入会保証金預託証書自体に譲渡制限文言が記載されているばかりでなく、右証書の授受は通常会員権の譲渡に伴うものに過ぎないのであつて、(1)同証書自体は一般に会員権と別個独立の取引対象とされるわけのものではなく、しかも(2)会員権を取得するためには、単にこの証書を入手しただけでは足りず、会社取締役会の承認を必要とするうえ、(3)会社に対し、名義書替料を支払つて、その氏名の登録を受けることが要件とされているため、右証書は、会員権の所在を示す資料としての証拠証書の域を出ないとの趣旨の判示をしているが、(1)右証書自体が、一般に会員権と別個独立の取引対象とされないのは、株券が、株式と別個独立の取引対象とされないのと同様に、右証書が、会員権を化体するが故であり、むしろ、右証書の有価証券性を示すものである。

また(2)会員権取得のためには、証書入手の他に、取締役会の承認を必要とされていることも、株式の譲渡制限が定款で定められている場合の株券と対比してみると、何等有価証券性に反するものではない。

更に、(3)名義書替料が必要である点も、名義書替料の支払は、証券の交付に附加された要件であり証券の交付に代わるものでないから、証書が権利を化体し、権利の譲渡、行使には証券が必要であるという有価証券の本質に何ら矛盾しない。従つて、右証書は、単なる証拠証書でなく、会員権を化体する有価証券と考えるべきであり、刑法一九七条の五によつて、被告人らが本件ゴルフクラブの会員権を入会保証金預託証書により収受したことにより得た利益を剥奪するためには、右入会保証金預託証書を没収することが出来、且つそれで十分である。

六、仮りに入会保証金預託証書が、厳格な意味で有価証券と言えないとしても、刑法一九七条の五、の没収の対象となるか否かについては、私法上の観点のみでなく、刑法の立場から検討が必要であるが、刑法一九七条の五の趣旨は、収賄者に不法な利益を保持させないことにある。ところで、本件被告人らが収受した不法の利益は、ゴルフ会員権である。

このゴルフ会員権は施設利用権(プレー権)、入会保証金返還請求権、これらの権利を他に譲渡する権利が含まれるのであるが、前記三で指適したように、これらの権利を行使するために、入会保証金預託証書又はその代用としての会員証が必要であるところ、入会保証金預託証書及び会員証を没収されゝば、被告人らは本件ゴルフ会員権に関するすべての権利を喪失するのであるから、これにより収賄者に不法の利益を保持させないという刑法一九七条の五の目的は必要且つ十分に達成されるのである。

七、原判決は、入会保証金預託証書を没収せずに、会員権の収賄時の取引価額を追徴すべしとしているが、ゴルフ会員権のように投機の対象となつている場合、将来取引価額が高騰することも十分予想されるので、収賄時の取引価額を追徴するのであれば、高騰した場合は、その差額を、被告人らは不当に利得することになる。これは不当な結果である。一般人の意識とすれば、贈賄したのは、会員権そのものであり、会員権を没収することによる衡平が維持される。

八、よつて、原判決は、入会保証金預託証書の法律的性質の理解を誤り、また刑法一九七条の五の解釈適用をも誤つた違法があり、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、到底破棄を免れないものと思料する。

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