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最高裁判所第一小法廷 昭和50年(行ツ)95号 判決 1978年2月09日

東京都杉並区天沼三丁目二三番一〇号

上告人

合資会社 大鐘不動産

右代表者無限責任社員

小林幸之助

右訴訟代理人弁護士

久能木武四郎

東京都杉並区天沼三丁目一九番一四号

被上告人

荻窪税務署長 垪和輝興

右指定代理人

扇沢義弘

右当事者間の東京高等裁判所昭和四七年(行コ)第一八号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五〇年七月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人久能木武四郎の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 団藤重光 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山亨)

(昭和五〇年(行ツ)第九五号 上告人 合資会社大鐘不動産)

上告代理人久能木武四郎の上告理由

第一、 村上商店は本件係争の土地について借地権を有していない。

株式会社村上商店は昭和三四年二月二五日当時本件係争の土地について借地権を有していなかつた。即ち原判決の認定した事実によると、

「別紙目録(一)記載の土地の内(一)は原告が所有し、(二)(三)は所有者大鐘正子から原告が賃借していたものであり、同土地上に存する目録記載の建物は村上商店が所有していたこと。昭和二一年二月一日右土地の旧所有者大鐘保全合資会社と村上利春との間において原告主張のような同土地の賃貸借契約が成立したこと(但しこれが一時使用の目的によるものかどうかの点を除く)。村上利春が右土地上にバラツクを建て、その後昭和二六年から翌二七年にかけてその増改築を行つたこと。このこと等を理由として大鐘保全合資会社が村上利春を相手方として昭和二七年一二月九日東京簡易裁判所に対し、家屋収去土地明渡の調停を申立て、昭和二八年一二月二四日原告主張のような調停が成立したこと、村上利春は右調停条項に基き、昭和二八年一二月末日までに支払うべき五〇〇万円を支払つたにすぎず、その余の履行をしない儘、昭和二九年七月一五日死亡し、原告会社が昭和二九年一月二五日に設立されたこと等の諸事情から、改て東京簡易裁判所において昭和三〇年一月三一日原告と村上商店との間で原告主張のような和解が成立したこと。村上商店が右和解条項に基き、昭和三〇年一二月三一日までに六、二〇〇万円の半額以上を支払うことができず、同日原告との間で原告主張のような約定が成立したこと。村上商店が右約定をも履行することができなかつた結果原告は同商店を相手方として当裁判所に対し、昭和三一年四月一七日別紙目録(一)記載の土地の明渡を求める訴を提出したが同事件はその後調停に付され、昭和三四年二月二五日原告主張のような調停が成立し」

たことを認定している。

而して

一、原告が主張している昭和二八年一二月二四日の調停条項は左の通りである。

「(1) 大鐘保全合資会社は村上利春に対し別紙目録(一)記載の土地を昭和二九年一月一日から六〇年間堅固な建物所有の目的で賃貸すること。

(2) 賃料は一ケ月七万二五一円とし毎月末日限り支払うこと。

(3) 村上利春は大鐘保全合資会社に対し右借地権設定の代償として六、七〇〇万円を次の方法により支払うこと。

(ア) 昭和二八年一二月末日五〇〇万円(保証金として支払最終日に六、七〇〇万円の一部に充当)

(イ) 昭和二九年六月三〇日三、二〇〇万円

(ウ) 昭和三〇年一二月三一日三、〇〇〇万円

(4) 村上利春が右六、七〇〇万円を昭和三〇年一二月末日までに支払わないときは右賃貸借は何らの通知催告なくして、直ちに解消し同人は右土地を返還すべきこと」

右調停条項(4)に村上利春が右六、七〇〇万円を昭和三〇年一二月末日迄に支払わないときは右賃貸借は何らの通知催告なくして直ちに解消し、同人は右土地を返還すべきことを原判決は認定しているのであるから村上利春は昭和二八年一二月二四日現在別紙目録(一)の土地について何らの借地権を取得していない事実を認定しているのである。

次に昭和三〇年一月三一日に成立した原告主張の和解条項は次の通りである。

「(1) 原告は村上商店に対し別紙目録(一)記載の土地を昭和二九年一月一日から向う六〇年間堅固な建物所有の目的をもつて賃料一か月九万四、一三五円毎月末日払の定めで賃貸中なることを認める。但し物価の騰落により地代の増減をなすことをうるものとする。

(2) 村上商店は原告に対し右借地権設定に対する代償として六、七〇〇万円を支払うこと。その支払方法及びその他の条件を次のとおりとする。

(ア) 内金五〇〇万円は保証金として原告が預つていることを認める。

(イ) 代償金から右保証金五〇〇万円を控除した残金六、二〇〇万円に対しては、昭和二九年七月一日から一か月五一万六、六六六円の利息を付すること。

(ウ) 右六、二〇〇万円中三、二〇〇万円に対する一か月の利息二六万六、六六六円は昭和二九年七月一日から毎月末日限り元金支払済に至るまで地代とともに支払うこと。但し昭和二九年一二月分までは支払済み。

(エ) 代償金残三、〇〇〇万円(保証金五〇〇万円及び右三、二〇〇万円を控除した残金)については一か月二五万円の利息二五万円宛を額面とし、昭和三〇年一二月三一日を満期とする原告宛の約束手形を振出しこれを原告に交付すること。

(オ) 代償金六、二〇〇万円は昭和三〇年一二月三一日支払うべきものであるが、村上商店が右期日までに右代償金の半額以上を支払いかつそれまでの利息を支払つたときは右期日現在の残額につきこれを手形債務に改め、その担保として村上商店の名義により別紙目録(一)記載の土地上に建築所有する建物全部を原告に差入れ手形の満期日を昭和三一年一二月三一日まで延期することを承認する。

右延期に係る金額については昭和三一年一月一日から毎月八厘五毛の割合により計算した利息の半額を現金で毎月末日支払い、その余の半額については手形債務とし昭和三一年一二月三一日を満期とする約束手形を毎月末日当月分を村上商店が振出しこれを原告に交付すること。

(カ) 村上商店が毎月支払うべき利息を二回以上怠つた場合代償金の半額以上を昭和三〇年一二月三一日までに支払わない場合及び残額全部を完済しないときは、原告から右賃貸借契約を解除し右土地の明渡を請求するも村上商店は異議なきこと。但し、原告は村上商店から既に支払を受けた代償金の返還をなすまでは右土地の明渡を実行しないこと。この場合村上商店は原告に対し右解除当時の時価をもつて右土地上の建物の買取を請求し得ること。

(キ) 村上商店が前記代償金六、二〇〇万円を利息と共に完済した場合は前記保証金五〇〇万円は代償金に充当し、金額六、七〇〇万円の支払を完了するものとする。

(ク) 村上商店が本和解条項に違背し、契約解除を受くる場合は、その損害金として前記保証金五〇〇万円を原告に没収されても異議なきこと。なお、原告は右契約解除による損害金は右保証金五〇〇万円を限度とし、その余の請求をしないこと。

(ケ) 借地契約解除、土地明渡しの場合は、その時までに原告が村上商店より受領している代償金は村上商店に返還するものとする。但し、支払済の利息及び利息の支払のため振出した手形は返還しないものとする。

(コ) 村上商店が昭和三〇年一二月三一日までに前記代償金の半額以上を支払つた場合は、村上商店が前記土地上に堅固なる建物を建築するため地主として原告の協力すべき諸般の手続については、村上商店の申出により原告はこれに応ずること。但し、村上商店が右建築に着工するには、前記代償金全額を完済した場合に限ること。

(サ) 原告は村上商店が建築した建物の一部を他人に譲渡することは異議なきも、建物全部を譲渡する場合は、村上商店は原告の承諾を要するものとする。

即ち原判決は前記「(カ)村上商店が毎月支払うべき利息を二回以上怠つた場合代償金の半額以上を昭和三〇年一二月三一日までに支払わない場合及び残額全部を完済しないときは原告から右賃貸借契約を解除し、右土地の明渡しを請求するも村上商店は異議なきこと。」と云う事実を認定しているのであるから本件係争の土地については昭和三〇年一月三一日現在において村上商店はこの和解による本件土地の賃借権以外に本件土地について何らの権利も取得していない事実を認定している。

而して昭和三〇年一二月三一日に成立した原告主張の協定は左のとおりである。

「(1) 村上商店は、昭和三〇年一二月三一日までに六、二〇〇万円を支払うことができないため、原告から前記賃貸借契約を解除され、前記土地の明渡請求を受けたことを認める。

(2) 村上商店は原告に対し右土地上の建物の買取を請求し、原告は昭和三〇年一二月三一日現在の時価で買取るものとしてその代金は右建物の所有権移転登記を受けると同時に支払うこと。

(3) 原告は村上商店に対し、右建物を賃貸すること。

(4) 村上商店が原告に対し、昭和三一年一月三一日までに原告から支払を受けた建物買取代金を返すとともに、前記六、二〇〇万円のうち五、二〇〇万円を同月二〇日限り残金一、〇〇〇万円を同月三一日限り支払つたときは、同商店は右建物を買戻し且つ前記土地の借地権を取得することができる。

(5) 村上商店が昭和三一年一月三一日までに右の支払を了して原告との間に新規の借地契約を締結することができないときは、同商店は前記建物を買戻し、借地権を取得る機会を永久に失う。」

即ち原判決は右事実を認定しているのであつて村上商店が別紙物件目録(一)記載の土地について昭和三〇年一二月三一日現在別紙目録(一)記載の土地につき借地権を有していないことを認定している。

従つて昭和三四年二月二五日東京地方裁判所において調停が成立した際村上商店は別紙目録(一)記載の土地について何らの借地権を有している事実を認定していない。而るに原審東京高等裁判所の事実認定によると、

「右一億円は、本件建物の立ちのき料でもなければ村上商店の営業補償費でもなく、前記のとおり、村上商店が本件土地の借地権を有するか否かに関する同商店と控訴人との多年にわたる紛争を解決し右借地権(昭和三四年二月二五日の調停で村上商店が取得することとされた新築予定のビルデイングの地上一階全部の賃借権及び地下一階の所有権は、右借地権が形を変えたものと解すべきである。)を消滅させるためにこれを控訴人が同商店から取得することの対価として支出されたものである。」としていて昭和三四年二月二五日の調停の際、村上商店が本件土地についていつ取得したどの様な内容の借地権を有しているかを認定していないばかりでなく、前述のように原判決は上告人主張の昭和二八年一二月二四日の調停条項、昭和三〇年一月三一日の和解条項、昭和三一年一二月三一日の協定条項を認定して村上商店に別紙目録(一)の土地について借地権のないことを認定しておきながら、前述のように一方において村上商店の別紙目録(一)の土地の借地権が昭和三四年二月二五日現在存在するかの如き事実を認定しているのは理由不備及び理由齟齬のあるものとして破棄を免がれないものである。

二、即ち、昭和三四年二月二五日現在村上商店に別紙目録(一)記載の土地の借地権が存在したかどうか、が本件係争の一億円が土地の取得価格に算入すべきか、繰延資産か、あるいは損金として処理すべきかの分岐点となるものと考える。上告人はこの点書面においても何回となく被上告人に釈明を求めたが昭和三四年二月二五日現在村上商店が別紙目録(一)記載の土地の借地権について、いつ取得したか、どのような借地権を有していたかを明らかにしなかつたし、原審においてもこれを不問に付したものである。この点は被上告人が主張し立証すべき事実であると信ずるし、上告人はこれに対する反証を挙ぐべきものであると信ずる。

以上

(別紙)

目録(一)

(一) 東京都中央区日本橋室町一丁目五番二

宅地 四〇三・四七平方メートル(一二二・〇五坪)

(二) 同所同番四七

宅地 四四・九九平方メートル(一三・六一坪)のうち、二八・三三平方メートル(八・五坪)

(三) 同所同番三六

宅地 四四・九九平方メートル(一三・六一坪)のうち、一三・八一平方メートル(四・一八坪)

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