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最高裁判所第一小法廷 昭和49年(行ツ)77号 判決 1977年2月03日

大阪市西成区山王町一丁目一四番地

上告人

北畑静子

右訴訟代理人弁護士

平山芳明

大阪市西成区千本通二丁目一七番地

被上告人

西成税務署長 奥野正則

右指定代理人

田端恒久

右当事者間の大阪高等裁判所昭和四六年(行コ)第一七号物品税賦課処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四九年五月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人平山芳明の上告理由について

古物営業法一条一項にいう古物であつても、法定の課税原因が発生する限り、物品税の課税を免れえないものであることは、当裁判所の判例(昭和四四年(行ツ)第七三号昭和四七年一二月一九月第三小法廷判決)とするところである。これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)

(昭和四九年(行ツ)第七七号 上告人 北畑静子)

上告代理人平山芳明の上告理由

原判決には、昭和二八年五月三〇日改正の物品税法及び昭和三七年三月三一日改正の物品税法第三条第一項の解釈適用を誤つた違法があり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、当然破棄さるべきである。

第一点 物品税の本質からみて、「古物」の販売に対する課税は二重課税となり、許さるべきではない。

一、物品税は、消費税であり且つ奢侈品税的傾向があるとともに物件税であつて、印紙税又は不動産取得税のような経済流通の事実を課税の対象とし、取引の各段階について、低率の課税を行う流通税とはその本質を異にし、物品の一販売の段階のみに課税することによつて、その目的を達成するものである。

従つて、旧物品税法(昭和二八年五月三〇日法律第四一号の改正法)及び物品税法(昭和三七年三月三一日法律第四八号の改正法)が、第一種物品については小売課税、第二種以下の物品については製造課税の方法をとつているが、その差異はあくまでも徴税上の技術ないしは便宜によるもので、その両者について物品税としての本質を異にするものでないこと明らかである。

ところで、製造課税の方法をとつている第二種以下の物品について、その課税が一回限りのものであることは、たとえその古物が何回に亘つて店頭販売されたとしても課税の対象とならないことから明らかである。このことは、その徴税方法を異にする第一種物品についても同様の理であつて、両者の間に本質的な差異のない限り、第一種の物品についても物品税としての課税は一回に限られるべきである。

二、旧物品税法及び物品税法のいずれについても、第二種又は第三種の物品については、製造者は「その製造に係る製造場から移出されたものにつき、物品税を納める義務があるのであつて、単に「所得の存在、租税力を顕示する使用、消費、これにつながる……移出又は取引行為」さえあれば、当然課税されるというようなものではなく、製造という新な価値――新商品を作り出しそれを流通過程にのす移出という行為によつて、初めて、課税原因が発生するのである。

従つて、製造課税(移出課税)方式をとる物品にあつては、それが移出行為までさかのぼらなければ、単に「事実上一回課税されるに過ぎないという」ようなことではなく、それが課税済の物品――古物であれば新な製造行為の加わらない限り、移出、小売の過程が何回繰返されるような場合であつても、物品税法上移出行為に対し、課税することはあり得ないのである。

したがつて、原審判決の如く、使用、消費につながるものとしての移出の機会があれば、それが何回繰返されようとその都度課税さるべきであるとの見解に至つては、法律無視も甚しい暴論であつて、徴税官といえども、到底このような見解はとり得ないところである。

三、さらに、実体法上物品税の本質を、前述の如く、製造行為によつて新しく作り出された価値――商品が移出によつて流通過程にのせられ、小売によつて消費者に渡る過程の中の一点、例えば、移出又は取引あるいは小売という時点をとらえ、これに課税されるもので、以降新たな製造行為の加わらない限り課税の対象とならないと解しない限り、課税上極めて不均衡な結果を生ずるのである。

すなわち、製造課税方式の物品については、原審判決のいう「所得の存在、租税力を顕示する使用、消費、これにつながる小売」が何回繰返されようとも「その都度課税される」ことはなく、一方小売課税方式の物品については、小売行為の存在する限り「その都度課税される」こととなり、両者の間には課税方式を異にする程度以上に、物品税そのものの本質を異にする程度の重大な差異を生ずるに至るのである。

第二種以下の物品については「課税原因に二度以上遭遇することは少ない」ために「事実上、一回課税されるに過ぎない」とか、或いは、第一種物品は趣味・し好性が高く使用による価値の減少の少ないもの、第二種以下の物品は使用による価値の減少の大きいものという差異からみて、右のような不均衡性もやむを得ないとの見解がある。

しかしながら、右の如き見解は、物品税法の沿革からみても極めて皮相的な見解で、むしろ、物品税の本質についての誤りを糊塗するための弁解的・独善的結論といわなければならない。

第二点 物品税の沿革からみて古物の販売に対する本件課税の違法性について。(原審判決理由(二)(三))

一、物品税は、昭和一二年八月一二日、法律第六六号物品特別税法の制定によつて創設され、その後、数回に亘る改正を経て現在に至つたものである。

しかしながら、右数回に亘る改正によつても、物品税の本質については何等の変更もなく、それは課税対象、課税方法、課税率の変更を中心としたものである。

ところで、徴税方法としての小売課税と製造課税の差異は、徴税の合理化と課税の適正を期するためのもので、右いずれの方法をとるかによつて、物品税の本質に、何等の差異も存しないことは、原審判決も認めるところである。

すなわち、物品税の創設当時は、現行法と同様、物品によつて小売課税と製造課税の二方法をとつていたものであるが、昭和二一年八月三〇日、法律第一四号「所得税法等の一部を改正する法律」によつて、物品税については、徴税の手続を簡素化し、課税の適正公平を期するため、小売課税制度を、書画及び骨董を除き、すべて製造課税制度に改められた。

右課税制度は、その後七年にわたつて実施されて来たが、昭和二八年五月三〇日、法律第四一号「物品税法の一部を改正する法律」によつて、従来の第一種物品中、貴石、半貴石またはこれを用いた製品等の五品目について徴税の合理化と、課税の適正を期するため、創設当時と同様に、小売課税制度にかえつたが、このような徴税制度は、昭和三七年改正された物品税法及び現行物品税法にも踏襲されている。

以上の沿革から見ても明らかなとおり、小売課税制度をとるか、製造課税制度をとるかは、あく迄も徴税の合理化と課税の適正を期するためのもので、それによつて物品税の本質に何等の差異を生ずる余地は認められない。

しかるに小売課税の物品については、製造課税の物品とは異なり、製品が小売を通じて消費者に転輾する一つの段階に於いて課税するのみでは足らずに、その古物が転輾する過程に於ける、すべての小売について、その都度課税するが如き、不均衡不条理な徴税行政が本件の課税である。

ところで原審判決は、この点について「原告の右の見解は移出課税方式をとる物品が事実上一回課税されるに過ぎないということから、小売課税方式をとる物品についても、法律上一回に限らるべきであるという結論を導こうとするもので、物品税の小売課税方式の本質を誤まつて理解していることによるものと思われる」旨を判示している。

しかし、上告人が、右判断の如く皮相かつ単純な論拠に基づいて本件課税の違法性を主張しているものでないことは、前述の「物品税の本質論」で述べた通りである。すなわち、それを要約すれば、製造課税方式の物品の古物については、実体法上単に移出行為のみでなく新たな製造加工行為の加わらない限り課税されないにも拘らず、小売課税方式の物品の古物については、小売行為のみによつて、何故課税されるのかとの点の解明を求めているものである。

二、さらに前記改正の過程において、貴金属ないしは貴石等の製品についても、その一部はこれを製造課税としている。

すなわち、昭和二八年の改正に際し、第一種物品については小売課税方式をとるにあたつて、「貴金属製ノ時計及ビ同部分品並ニ金又ハ白金ヲ用ヒタル時計及び部分品」については、以然として従前同様の製造課税を踏襲している。

このような取扱いはその後も拡張され、昭和三七年三月三一日の改正では、貴金属製品のみならず、「貴石若しくは半貴石、又は金、若しくは白金を用いた時計並びに……貴石若しくは半貴石、又は金、若しくは白金を用いた時計部分品」についても、製造課税方式をとることとなり、この立場は、昭和四一年三月三一日改正の物品税法に於いても、いぜん踏襲されている。しかも、現在市場に流されている時計品中には、貴金属、貴石、半貴石を使用したものが極めて多く、特に貴金属、貴石、半貴石等の価値を中心としたものと考えられるのも少なくない。

ところで、製造課税方式をとる貴金属、貴石等を用いる時計製品と、小売課税方式をとるその余の貴金属、貴石等の製品の古物の売買について、前者については課税原因たる移出行為(製造加工等を含めて)がないから課税対象とはならず、後者については課税原因たる小売行為があるから課税対象となるというような、物品税法上、両者の間にその本質を異にするような法解釈は、如何なる論拠から生ずるものであろうが、甚だ疑問と言わねばならない。

原審判決はこの点について、「小売課税方式をとるか、移出課税方式をとるかは、あくまでも立法政策上選択せらるべき課税技術上の手段方式の差異にすぎないものと言うべきであるから、ひとしく古物でありながら、原告主張の如く、一は課税対象とはならず、他は課税対象となる結果を生ずる場合があつても、これをもつて、直ちに物品税法上同一なるべき二者につき、理由なくその本質を異にするような法解釈をなす不当を敢えてするものと言うことはでき」ない旨を判示している。

上告人の主張するところのものは「物品税法上同一なるべき二者につき、理由なくその本質を異にするような法解釈」が、いかなる論拠に基づいてなされるのかについてたづねているのであるが、原審判決の右判示は、右疑問点に対して何等の解答も示していないものというべきで、このような態度は、最も重要な論点について、判断を故意に回避したものというほかはない。

三、なお、昭和一三年三月の改正法によれば、第一種物品として帽子、傘、靴、履物、家具、毛皮等使用による価値減少の著しいものを含み、昭和一五年三月二九日の改正法に至つては、果物、菓子等、明らかに一回の使用によつて当然費消され、再度の小売行為など到底考えられない物品が含まれている。さらに昭和三七年改正の物品税法においても、第一種物品として、貴金属等をメッキした製品(例えば照明器具、優勝楯その他これに類する賞品)、しつぽう製品、毛皮製品等使用による価値減少の著るしいものが含まれている。

このことはより一層、小売課税方式をとる物品といえども、法自体、その古物に対する再度の課税などということを全然予定していないことを示しているものというべきである。

第三点 原審判決の法解釈上の誤りについて

一、物品税法第三条第一項についての原審判決の誤りについて(判決理由(四)前段)。

物品税法第三条第一項は「第一種の物品の小売業者は、その小売した第一種の物品(課税物品に該当するものに限る)につき、物品税を納める義務がある」旨の規定をしているところからも、課税の対象となるものは、小売業者の小売をした第一種の物品のすべてではなく、その中「課税物品に該当するものに限る」ことは、法文上明白である。

ところで、「古物」については、既に物品税は課税済であつて重ねてこれを課することは、物品税の本質から見て違法なことは、詳述してきたところである。このような物品は法文上明示の除外規定が存在しなくても、当然第一種の物品であつても非課税物品に該当するもので、物品税法第一項の「課税物品に該当するもの」からは除外さるべきものである。

原審判決は「物品税法第三条第一項にいう課税物品とは……同法第九条の規定により、物品税を課さないものと定められている物品」である旨を判示している。しかしながら、原審判決の如く、非課税物品を同法第九条に規定された物品に限定すべき何等の合理的理由も存しないのであつて、物品税の本質からみて、右非該当物件中に「古物」を含ましめることも充分可能である。

二、物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条についての原審判決の誤りについて(判決理由(四)後段)。

原審判決は物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条の規定について、「右各法条が課税物品という用語を用いるに当り、特に古物を除外する旨を断わつていることは、その文言、規定の方式自体から明らかであるから、右各法条は、古物が物品税法上課税物品として取り扱われていることの根拠にはなつても、右各法条から古物が全般的に物品税法にいう課税物品に含まれていないとの結論を引き出すことは出来ない。」旨を判示している。

ところで、原審判決の右見解は右各法条を如何なる趣旨に理解し、その論理の帰結として右の如き結論を引出したかについては理解に苦しむものである。

(一) 物品税法第一六条第一項は、所謂第一次製品と第二次製品について、二重課税のなされた場合の調整関係を規定したものである。

すなわち通常第二次製造業者が、その製造のための材料又は原料とするため、第一次製造業者から課税物品を購入するときは、右第一次製造業者から課税物品の移出については物品税の課税が免除され(第一七条第一項一号)第二次製造業者が、保税地域より課税物品たる第一次製品を引き取る場合も右同様物品税は免除され(第一八条第一項一号)、第二次製造業者が加工のうえ、これを第二次製品として移出するとき、一括物品に対する課税がなされるものである。

ところが、何等かの理由により、右のような第一次製造業者からの移出乃至は保税地域からの引取りに際し、既に第一次製品に対し課税がなされている場合――第一次製造業者が物品税を納めていない場合には、第一六条第一項の規定により、第二次製品に対する物品税額(第二次製造業者が支払う)から、第一次製品についてすでに徴収済の課税金額相当が控除されることとなる。

ところで、第一六条第一項にいう「古物」の除外とは、第二次製造業者が、その材料又は原料としてこれを使用し又は消費した場合「古物」についても、前記の課税済第一次製品と同様課税済であつても、第一六条第一項にいう第二次製品に対する課税金額から、右課税済税額は控除されない趣旨を明確にしたものである。

このことは、既に述べて来た通り、「古物」については課税済ではあるが、既に最終の担税義務者たる消費者の段階まで流通したものであり、新たな加工行為が加われば、新しい価値として市場に流通することとなるのであつて、「古物」そのものに既になされた課税と、これを含む第二次製品に対する本来の課税との間に、二重課税の問題を生ずる余地が存しないことから、これを法第一六条第一項の適用から除外している当然の規定である。

したがつて原審判決がいう「古物が物品税法上課税物品として取り扱われている」との趣旨が、過去において課税済の物品であるとのことを意味するものであれば、正しい見解というべきであり、法第三条一項にいう課税物品の意味で述べているものとすれば、いかなる根拠からそのような結論になるのか、理由自体極めて曖味である。さらに原審判決の「前記各法条の括弧書の如き規定は、そもそもその必要がない」との見解に至つては、法第一六条一項をどのような趣旨に理解した結論によるものか、それこそ判断に苦しまざるを得ない。すなわち古物を課税物品と解しようと否とにかかわらず、前記除外規定がなければ、古物についても既に課税済である限り、第二次製品の税額算出にあたつては、当然前記課税済の税額が控除されることとなり、第二次製造業者は不当に課税を免れる結果となるからである。

(二) このことは第二一条一項、第二四条についても同旨のことがらといわなければならない。

すなわち、第二一条第一項は製造業者が課税物品を輸出以外の目的で当該製造に係る製造場から移出し、かつ当該製造場以外の場所で販売のため所持するもの(右移出の段階で当然物品税が課税徴収されている)を輸出した場合には当該物品につき納付された又は納付されるべき物品税額として政令で定めるところにより計算した金額をそのものに還付する趣旨である。

しかし、右輸出物品が既に最終の担税義務者たる消費者の段階まで流通した古物である場合、第二一条第一項の規定によつて、右物品についてまでこれを非課税物品として製造業者に右納付済の物品税を返還することは、製造業者として右金額を不当に利得せしめることとなるため、古物については、右法条の適用を除外している。

さらに、第二四条は、製造業者が既に移出に際し、課税済の物品を販売のため所持している場合、これを第二二条規定の特殊用途に供するものに販売した場合、当然物品税が免除されることとなり、既に納付され又は納付さるべき金額が還付される趣旨である。しかし、この場合も第二一条一項と同様に、右物品が既に最終担税義務者たる消費者まで流通した「古物」である限り、これに対し第二四条によつて製造業者に納付税金を還付することは、製造業者として還付金相当を不当に利得せしめ結果となるため、これを除外しているものである。

三、物品税法施行令第五二条「記帳義務」についての原審判決の誤りについて(判決理由(五))。

(一) 施行令第五二条第四項には次の通り規定されている。

「課税物品の販売業者は次に掲げる事項を帳簿に記載しなければならない。ただし第二号中買受人又は返還者に関する事項については、当該販売し又は返還を受けた課税物品が古物(……省略……)に該当するものである場合及び次項の規定に該当する場合を除き、課税物品の製造者若しくは販売業者、又は課税物品を材料若しくは原料とする他の物品の製造業者が買受人又は返還者である場合に限る。

一、購入した課税物品の号別及び品目ごとの品名、並びに品名ごとの数量、購入の日時並びに売渡人の住所及び氏名又は名称。

二、販売し又は返還を受けた課税物品の号別及び品目ごとの品名並びに品名ごとの数量、販売又は返還の日時並びに買受人又は返還者の住所及び氏名又は名称。

ところで右規定の趣旨は、第一に課税物品の販売業者に対し、購入した課税物品(第一号)及び販売した課税物品(第二号)のそれぞれについて、詳細な事項にわたる記帳義務を課し、課税物品出入りの明確化をはかつている。

第二に販売した課税物品については、買受人が製造業者若しくは販売業者等で、課税対象とならない場合に限り特に買受人の住所及び氏名又は名称までの記載を要求し、その他(最も多い消費者に対する小売行為等も含めて)については、買受人に関する右詳細な事項についての記帳を免除している。

次に第三として、古物(法第一六条第一項に規定する古物とは、古物営業法第一条第一項に規定される古物の意味)についての販売及び施行令第五二条第五項(例えば相手方が輸出免除、特殊用途免税、学校等の購入による免税等に該当するもの)の規定に該当する者に対する販売については、いずれも但書の規定に関係なく、買受人に関する事項――その住所及び氏名又は名称の記帳を義務づけているものである。

これを要するに、施行令第五二条第四項の規定は、販売業者の課税物品の販売についての記帳義務中、その買受人が製造業者又は他の販売業者である場合、施行令五二条第五項の免税該当者である場合、及び販売の対象物が古物である場合等に限つて、特に買受人の住所及び氏名又は名称までの記帳を義務づけている。

右の買受人に関する詳細な記帳義務の認められている場合は、いづれも右販売行為によつて、販売業者に納税義務の生じない場合、いいかえれば、販売物品が第一種の物品であつても、それが課税物品に該当しない場合である。(その他の場合について、買受人に関する事項について詳細な記帳義務を免除しているのは、課税対象となる売買については、この段階において課税が行われることから、当該物品の行先までを明確にする何等の必要がないからである)

したがつて「古物」の販売について、施行令第五二条第四項二号に規定された全事項について記帳義務が要求されていることは、単に古物営業法との関連で規定されたというようなものではなく、「古物」の販売が課税対象から除外されることを、法規自らが明確化しているものと言うべきである。

(二) 原審判決はこの点について、施行令第五二条第四項において、前記(ロ)の如き記帳義務を定めた理由は、専ら古物営業法第一七条に定める古物商の記帳義務を、右施行令によつて排除することのないようにするためである旨、判示している。

ところで、原審判決は物品税法施行令に於いて、古物についての販売業者の記帳義務を規定しておかなければ、古物営業法第一七条の古物営業者の記帳義務が排除されるというようなことを真に考えているのであろうか。もしそうだとすれば、法と命令との関係はもとより、施行令第五二条第四項に規定される販売業者の記帳義務が、徴税技術上いかなる意味を持つ規定かについての無知も甚だしい見解と言わなければならない。

すなわち、施行令第五二条第四項において、販売業者に買受人に関する詳細な記帳義務を認める趣旨は、一つには未課税物品(非課税物品ではない)についての、その転輾(業者間売買等)の経緯を明確にし、これを課税の対象となる小売過程まで追求することによつて、脱税を防止しようとするものであり、他方、古物(上告人主張の非課税物品)についてまで、その購入、販売についてまで詳細な記帳義務を要求するのは、それによつて、課税物品(所謂新品)を古物と称し販売することによつて課税を免れようとするものに対し、その購入経緯はもとより、その販売先を明確にすることによつて、これを防止しようとする徴税行政上の必要から規定されているものである。

四、法律第四一号施行規則第七項についての原審判決の誤りについて(判決理由(二)の後段)。

原審判決は、昭和二八年五月三〇日法律第四一号施行規則第七項について「附則第七項にいう「最初に小売した場合において……物品税を免除する」との規定からは、当然その反対解釈として、その次の小売からは物品税を免除しない旨の解釈が成り立つ」旨、判示している。

しかしながら、右附則第七項は独立の項として規定されているものではなく、附則第四項以下の関連条項として規定されているもので、右条項の解釈は、当然第四項以下との関連において理解さるべきものである。

すなわち、貴金属、貴石等が、昭和二八年の改正により製造課税から小売課税へと移行した結果として、既に製造移出に際し課税済の第一種物品中、販売業者の所持する物品についての取扱いを規定したものが、右附則第四項ないし第七項の規定である。

第四項は、右物品を所持する販売業者の申告義務を、第五項は右物品を他の販売業者に販売したとき、右取引先の販売業者に対し、申告済を記載した書類の交付義務を、第六項は販売業者が右物品を販売した際の申告義務を、それぞれ規定したもので、右各規定を受けて、前述の第七項の規定が存するものである。

以上の点から、附則第四項ないし第七項の一連の規定は、製造課税済の物品が小売される場合はもとより、業者間売買で転輾される場合をも含めてその手続を規定しているもので、第七項はそのような場合において、最初に小売された場合にのみ免税措置がとられることを、注意的に規定したものというべきで、右第七項の規定から、前述の如き、原審判決のいうような旧物品税法の解釈は到底ひき出し得ないものというべきである。

さらに、原審判決が述べるが如く、旧物品税法第三条第一項にいう小売が、本来「古物」の販売をも意味するものであれば、わざわざ附則第七項で「最初に小売した場合」という曖味な文言で表現する迄もなく、当然課税対象となるのであつて、それこそ右規定は、当然のことを補足的に規定したものといわなければならない。

第四点 税率からみても二重課税は違法である(判決理由(七))。

物品税法上第一種第一類の物品の税率は物品の価格の一〇〇分の二〇である。

ところで、製造課税物品は生産者価格を基準として課税されるのに対し、第一種物品は小売課税であるため、当然生産者価格は、中間の販売業者のマージンを加算した小売価格を基準として課税するため、製造課税率と対比するとき、消費者の実質負担額の率は相当な高率となるのである。

例えば、販売価格一〇、〇〇〇円の第一種第一類の物品を購入すれば、内二割に相当する二、〇〇〇円の税額を負担することとなる。一方、これを製造課税とすれば、右物品の生産者価格を五、〇〇〇円ないし六、〇〇〇円程度とみて、二、〇〇〇円の税額負担は、製造課税に換算して四〇%ないし三三%強となる。

このような高率の負担税額となる第一種の物品について、二重あるいはそれ以上の課税を認めることになれば、その流通回数に比例し、莫大な物品税を徴収する結果となることは明らかである。

およそ流通税又は取引税として現存するものは、取引の各段階について、それを課税の対象とする反面、課税率は極めて低いものであることは、吾人の常識とするところである。およそ前述の如き高率の税額を、しかも小売取引の都度これを課するというようなことは、現行税法の体系上からも、到底首肯することの出来ないことは明らかと言わなければならない。

以上

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