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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)245号 判決 1971年11月18日

上告人

小池清吉

代理人

田岡嘉寿彦

新堂賢二

被上告人

中沢雅勇

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田岡嘉寿彦、同新堂賢二の上告理由第一について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠関係に照らして是認するに足り、右認定の過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の違法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するにすぎないものであつて、採用することができない。

同第二について。

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、被上告人が、延滞賃料七万四〇〇〇円につき、上告人に対し、期間の定めのない催告をしたのち中二日をおいてした本件賃貸借契約解除の意思表示は、催告後相当期間を経過したのちの解除として有効である旨の原審判断および右契約の解除は信義則に反しまた権利の濫用となるものではない旨の原審の判断は、いずれも正当として是認するに足り、原判決にはなんら所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸盛一)

<原判決の理由中の判示(抄)>

三 次に本件一八坪の土地および本件(二)の建物に関する賃貸借契約解除の効力について検討する。

1 控訴人が昭和三二年一月一日から同三八年二月末日までの土地建物の賃料総計七四、〇〇〇円を延滞していたこと、被控訴人から控訴人に対する本件催告書および本件賃貸借解除の書面が控訴人に送達されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

2 本件催告書が昭和三八年三月三日に、本件賃貸借解除の書面が同年三月六日にそれぞれ控訴人に到達したことは、原審第二回口頭弁論期日において控訴人の自白するところである。

<中略>

5 次に控訴人は、本件催告には相当の期間が定められていないから無効でありまた催告から解除までの期間が不当に短いから契約解除の効力がない旨主張する。しかし、期間を指定しない催告といえども催告として有効であることはいうまでもなく、要は催告後契約解除までの期間が相当か否かによつて解除の効力が左右されるものと解すべきである。

本件において被控訴人のなした催告は昭和三八年三月三日に、契約解除の意思表示は同月六日にそれぞれ控訴人に到達しており、その間二日をおくにすぎないが、当審における被控訴人本人の供述によると、控訴人と被控訴人の住居は同町内にあつて徒歩約五分の近距離にあることが認められ、また成立に争いのない乙第一一号証によると、控訴人はその当時銀行に約五三万円の普通預金を有し、いつでも右延滞賃料程度の金員なら払戻を受けられる状態にあり、現に三月八日右延滞賃料と同額の七四、〇〇〇円の払戻を受けている事実が認められ、以上の事実に賃料の延滞が七四ケ月の長期にわたつていることを併せ考えると、本件契約解除は催告後相当期間を経過した後の解除として有効というべきである。

上告理由

第一、<略>

第二、本件土地一八坪及本件(二)の建物に関する賃貸借契約解除について

(イ) 原審は被上告人の昭和三二年一月一日より同三八年末日迄の土地建物の賃料総計金七四、〇〇〇円についての支払催告書が昭和三八年三月三日に本件土地建物の賃貸借解除の書面が同年三月六日に上告人に到達したことを認定した上、中二日間の支払期日をおくにすぎない契約解除であつても有効な解除である旨を認定している。

しかし乍ら本件の如き上告人及被上告人間における相当程度の交友関係、信頼関係のあつた事案の下においては原審挙示の事実のみにおいては中二日間の支払期日をおくのみで契約解除を有効なものと認容する原審の判断は明らかに経験則の事実誤認であるか、又は審理不尽の違法があるものと言わなければならない。

(ロ) 土地又は家屋の賃貸借契約解除については両者の信頼関係を破毀するに足るべき充分な賃借人の行為を必要とすることは従来よりの一貫した貴最高裁判所の判例である。土地又は家屋の賃貸借関係においては賃借人の立場は賃貸人のそれに比し甚しく不利なものであるのが社会通念上明な処であり、賃貸人よりの賃貸借契約解除はやゝもすれば賃借人の些細な行為に藉口して賃貸借契約の解除をなすことの多いことも又経験則に照しても明な処である。

本件被上告人がなしたる契約解除も又以上の例にもれない処である。

即ち、上告人及被上告人間の信頼関係を信じて被上告人の言うがまゝに甲一号証を作成し、原審において上告人が主張した各種の事実関係においてたまたま上告人の賃料弁済がその間土曜、日曜のあつたために供託日(昭和三八年三月十一日)が数日遅滞したことを理由としてなした被上告人のなした契約解除は明かに権利濫用と言わなければならない。

原審は上告人のなした信義則違反又は権利濫用の抗弁に対し本件全証拠によつてもこれを見出しがたいとしている。

しかし信義則違反又は権利濫用であるかの判断は被上告人が如何なる目的で土地家屋の明渡を求めるか否かの判断にかゝるものである。この点につき原審は審理不尽の違法がある。

被上告人は本件土地家屋を自ら使用する必要があるのか、又はこれを他に賃貸する目的であるか判断の重大な要件をなすものである。自ら使用するならば格別、他に賃貸する目的ならば賃料改正の申入れにてこと足りるべきものである。

被上告人は本件土地が南海線住之江駅東五〇米位の便利な希望者の多い処にあるのを利用し、新に賃貸建物を新築し従来より遙に大なる利益を得る目的で昭和三八年三月一日突如として上告人の本件土地上の小屋等の作業小屋を実力を以て撤去し、更に短時日の賃料支払を求めこれを理由として契約解除をなした特殊な事情がある。

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