大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(あ)2892号 判決 1970年7月16日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大蔵敏彦、同内藤功、同雪入益見の上告趣意第一点は、憲法違反を主張するが、公共企業体等労働関係法一七条一項が憲法に違反しないことは、当裁判所大法廷判例(昭和三九年(あ)第二九六号、同四一年一〇月二六日判決、刑集二〇巻八号九〇一頁)の明らかにするところであるから、所論は理由がない。

同第二点のうち、判例違反を主張する点は、引用の裁判例のうち、地方裁判所および同支部の各判決は、刑訴法四〇五条二、三号にいう判例にあたらないし、当裁判所第二小法廷判例(昭和二五年(れ)第一八六四号、同二八年一月三〇日判決、刑集七巻一号一二八頁)については、原判決はなんら右判例に相反する法律判断をしているものではなく、また、その余の各判例は、いずれも本件と事案を異にして適切でないから、判例違反の論旨はその前提を欠き、その余の論旨は単なる法令違反の主張であつて、すべて適法な上告理由にあたらない。

同第三点および第四章(第四点)は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて適法な上告理由にあたらない。

よつて、刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官長部謹吾の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官長部謹吾の意見は、次のとおりである。

わたくしは、多数意見と結論を同じくするものであるが、公共企業体等労働関係法一七条一項は、公共企業体等の職員が業務の正常な運営を阻害する一切の争議行為をなすことを禁止しているのであるから、これに違反してなされた争議行為は、すべて違法であつて、正当な争議行為というものは存在しないものと考える。したがつて、このような争議行為には、労働組合法一条二項の刑事上の免責規定の準用ないし適用の余地はないものと解すべきである。その理由の詳細は、前示当裁判所大法廷判決における裁判官奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外三裁判官の反対意見と同趣旨であるから、ここにこれを引用する。そして、この見解によれば、本件被告人らの行為が威力業務妨害罪の構成要件に該当するものである以上、同罪が成立することは、明らかであるといわなければならない。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

(原審認定の罪となる事実)

被告人木村忠一は国鉄動力車労働組合中央執行委員、被告人椙山東は同組合中部地方評議会事務局長の地位にあつた者で、昭和三六年三月の同組合と国鉄当局との間における労働争議に際し、被告人木村は中央闘争委員として同椙山はその補佐としていずれも同組合静岡地方本部浜松支部へ派遣されて来ていたものであるが、同組合の組合員ら約二〇〇名と共謀の上、昭和三六年三月一五日午前二時三五分頃日本国有鉄道浜松駅構内上り本線に東京行第二四列車(急行瀬戸号)が到着するや、同組合員らとともに集団をもつて同列車機関車直前の進路軌道上およびその付近に立ち塞がりなおスクラムを組み笛を吹きながら「ワッショイ、ワッショイ」と大声を発するなどの挙に出でて、同駅当務駅長助役岩井博および同列車乗務員高梨敏雄、同杉浦武幸らに対し威勢を示し、本来所要の準備を終え直ちに発車すべき予定であつた(少くとも右到着後五分位して発車するつもりであつたと思われる)右列車の発進を同日午前二時五三分頃公安職員による実力排除が終るまでの間妨げ、もつて威力を用いて日本国有鉄道の輸送業務を妨害したものである。

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