大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(あ)1790号 判決 1970年7月16日

主文

原判決を破棄する。

本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理由

検察官の事件受理申立理由について。

本件集団示威運動等は、共同の意思、主張を有する多数の者が集団の気勢を示して、集団外の一般不特定多数の公衆に集団の意思、主張を訴えるために行なわれるものであるから、公権によるその規制は、一面憲法の保障する国民の集会、表現の自由を害しないように図るとともに、他面公共の安全を保ち秩序を維持するために行なわれなければならない。昭和三六年広島県条例第一三号集団示威運動、集団行進及び集会に関する条例も、右目的のために制定されたもので、同条例が集団示威運動等の規制を受けるべき場所を「道路、公園、広場その他屋外の公共の場所」としたのも、これらの場所は、集団示威運動等が有効にその意図する目的を達し得る場所であると同時に、反面集団示威運動等によって、公共の安全と秩序が危険にさらされるおそれのある場所であるからである。してみれば、同条例四条で集団示威運動等を行なおうとする場合に、あらかじめ、公安委員会の許可を受けなければならないとされた、同条にいわゆる「屋外の公共の場所」とは、そこにおいて集団示威運動等が行なわれると、公共の安全と秩序に対し危険が及ぶおそれのあるような、道路、公園、広場にも比すべき場所、すなわち、現実に一般に開放され、不特定多数の人が自由に出入し、利用できる場所を指すものと解すべきであって、一般公衆の使用に供することを、本来の、もしくは直接の目的として設けられた場所であることを要しないし、また、その場所が、官公庁の用に供され、官公庁の庁舎および構内管理権の及ぶ公用の場所であることも、同条にいう「公共の場所」であるとすることの妨げとなるものではない。その場所が官公庁の公用の場所であって、一般公衆の使用に供することを本来の目的として設けられた公共用の場所ではなくても、公用に供すると同時に、現実に不特定多数の人の自由な出入を許し、一般公衆の利用するにまかせているという状況が存在するかぎりは、その場所における集団示威運動等は、公共の安全と秩序に対し危険を及ぼすおそれがあるから、これを取り締まる必要があり、したがって、このような場所は、前記条例四条にいう「公共の場所」にあたるものと解すべきである。

しかるに、原判決は、本件広島県庁正面玄関前構内が右条例にいう「屋外の公共の場所」にあたるかどうかを検討して、広島県庁構内敷地について、「同敷地は、道路から截然と区別されて庁舎管理権者の庁舎管理権の及ぶ範囲を特定していることが明瞭である。なるほど、前記のごとく右官公庁の職員は勿論右官公庁利用者のため正面出入口のほか周囲に狭い出入口を設けてそこから出入し通行することを許してはいるが、それは一般の道路、公園、広場などと同様敷地内にある前記官公庁を利用する必要のない一般公衆の使用にも併せて供することを直接の目的として設けられているものではなく、仮に右のような一般公衆が使用しているとしても、右は単に管理者から黙認されているに過ぎないものというべきである。しかして本件県庁正面玄関前構内も県庁自体の用、すなわち県庁職員及び県庁を利用する者の使用に供することを目的として設けられたものであり、公共の場所ではなく、公用の場所であると解する。」とし、「叙上説示したとおりであるから本件広島県庁構内の通路は、集団運動について公安委員会の許可を必要とする本件条例第四条にいう道路ではなく、また、本件県庁正面玄関前構内広場も本件条例の定める公共の場所たる広場ではない。」と判断しているのである。

しかし、広島県庁構内が同県庁等の公用の場所であり、一般公衆の利用を本来の目的とする公共用の場所でないとしても、その場所が、現実に不特定多数の人が自由に出入し、利用できる状況にあれば、前記条例四条にいう「公共の場所」にあたるといいうること前記のとおりであるから、原判決の右判示が、右場所は公用の場所であり、公共用の場所でないことを理由に、前記条例四条にいう「公共の場所」にあたらないとしたものとすれば、原判決は右条例の解釈適用を誤ったものである。

また、もし原判決の右判示が、前記構内広場が不特定多数の人が自由に出入し利用できる場所ではないことを判示したものとすれば、原判決がその前提として、前記広島県庁敷地内の状況について認定したところは、「広島県庁は、東西の長さ二〇〇メートル、南北の長さ二〇〇メートルの正方形の敷地内の中央部に位置し、中庭を挾んで北側に本館、南側に南館が東西に長くコの字型に建設されており、右建物の西端に右本館と南館とに接続する玄関ホールがあり、同ホールの西側前面が玄関となっている。右敷地内の北西側に広島県議会議事堂、東北側に自治会館、同県庁南館の南側に広島県公共職業安定所、その東側に広島県税事務所の建物があって、前記敷地の周囲は、西側正面には高さ〇・五メートル、幅三・八メートルの石垣で囲んだフラワーベッドの上に一・一メートル位の潅木を植えこみ、その他にはおおむね高さ四五センチメートル位の土台を繞らし、該土台上には潅木を植えこんで生垣とし、外側道路と判然と区画し、その区画内は一見して前記県庁その他の官公庁の敷地であることが判別できる状態である。同敷地西側の鯉城通りの道路に面して中央に幅二八・八五メートルの出入口があり、高さ一・四メートル位の門柱が建てられて広島県庁の標識が施され、その他の西、北、南、東側にも数ケ所出入口があり、右敷地内にある官公庁の職員及びその利用者のため出入できるように通路が設けられてその利用に供していることが認められる。」との事実だけであって、右県庁敷地の正面出入口である鯉城通りの道路に面する出入口についても、その幅は二八・八五メートルもある広いものであるというのに、そこには一・四メートルの門柱があり広島県庁の標識が施されているとするのみで、そこに門扉または守衛所のようなものが存在し、一般人の出入を一応は規制しうる設備をそなえているかどうかを明確にしていないばかりでなく、右県庁構内の現実の利用状況については何ら確定していないのである。してみれば、本件広島県庁正面玄関前構内が、不特定多数の人が自由に出入し、利用できる場所といえるかどうかを決定できないものといわなければならない。しかるに原判決が、その確定した前記事実から、直ちに、前記広島県庁正面玄関前構内広場は、官公庁職員および官公庁を利用する者の通行だけを許し、一般公衆の通行は黙認されているに過ぎず、不特定多数の人が自由に出入し利用しうる場所ではないとしたことは、審理不尽、理由不備の違法があるものというべきである。すなわち、原判決は、前記条例の解釈適用を誤った違法があるか、または、法律判断の前提である事実の認定について審理不尽の違法があるもので、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よって本件事件受理申立の論旨は理由があるから、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため同法四一三条本文に従い事件を原裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

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