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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)673号 判決 1968年10月31日

上告人

昭南製紙株式会社

代理人

深田小太郎

被上告人

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人深田小太郎の上告理由第一、二点について。

物品税法(昭和二三年法律第一〇七号による改正前のもの)にいう「価格」とは、適正な市場価格または取引価格をいい、統制額の定めのあるものについては、その統制額を意味するものと解すべきところ(最高裁判所昭和二六年(れ)第二三三四号、同三一年五月一〇日第一小法廷判決、刑集第一〇巻五号六五四頁参照)、本件物品税の賦課処分および通告処分が統制額を基準としないで、実際の取引価格を基準とした点において、右処分等には同法にいう「製造ヨリ移出スル時ノ物品ノ価格」の解釈を誤まつた違法はあるが、課税当局が実際の取引価格によつて課税したことにも相当の根拠(原判決の引用する第一審判決判示参照)がある以上、右処分等の違法はいまだ重大かつ明白なものとはいえず、したがつて、本件物品税賦課処分中第一審判決添付目録(二)記載の和紙につき統制額を基準とした税額をこえる部分および同目録(三)記載の和紙につき課税した部分、本件通告処分の統制額を基準とする罰金相当額をこえる部分が法律上当然に無効であるということはできない旨、および右各処分が適式の手続にしたがつて取消されたことが認められないから、本件物品税賦課処分ならびに本件通告処分は結局全部的に有効というほかない旨の原判決その引用する第一審判決を含む。以下同じ)の認定判断は、原判決挙示の証拠および説示に照らして肯認できる。所論引用の各判例は事案を異にして本件に適切でなく、原判決には所論違法はない。所論はこれに異なる独自の見解であつて、いずれも採用できない。

同第三点について。

昭和二二年一一月三〇日政令第二四六号により物品税法施行規則の一部が改正され、価格一貫匁につき二〇〇円に満たない塵紙が非課税物件となつたが、第一審判決添付目録(三)記載の和紙が現実には一貫匁につき二〇〇円以上の価格で製造場より移出されたものであることは当事者間に争いのないところであるから、実売価格説にしたがえば、物品税の課税対象になるものとしてなされた本件物品税賦課処分も一応首肯できる理由があり、右処分はこの点で重大明白なかしを有するものではない旨の原審の判断は肯認でき、原判決には所論違法はない。論旨は採用できない。

同第四点について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯でき、原判決には所論違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。

同第五点について。

本件物品税の賦課処分および通告処分は、処分の前提において法律の解釈適用を誤まり、右各処分は違法であるけれども、右各処分に関与した公務員に右各処分をするにつき故意過失があつたことは認められない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠および説示に照らして肯認でき、原判決には所論違法はない。これと異なる論旨は、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

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