大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)1288号 判決 1966年9月22日

上告人(原告・被控訴人) 田中芳夫

右訴訟代理人弁護士 村田太郎

被上告人(被告・控訴人)

切山写真印刷株式会社

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人村田太郎の上告理由第一点、第二点について。

原審の事実認定は挙示の証拠により是認でき、その間所論理由不備の違法はない。そして、原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件手形の取得につき、手形法一七条但書の適用ある旨の原審の判断は正当であり、同法条の解釈適用を誤った違法も認められない。所論は採るを得ない。

同第三点について。

所論は、上告人が昭和三六年九月上旬本件手形上の権利を取得したものであることを前提として、原判決の法令違反、判例違反を主張するのであるが、原判決は、右事実を認めず、昭和三六年一一月二一日頃上告人が本件手形の裏書譲渡を受けた事実を認定しているのである。それ故、所論は原判示に副わない事実関係を前提とするものであって、採るを得ない。<以下省略>

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)

上告代理人村田太郎の上告理由

第一点原審は上告人が本件手形を取得するに際し、被上告人に対する害意があったものとして本訴請求を斥けているが、右原審の認定には理由不備若しくは法令の適用を誤った違法がある。

一、原審は、上告人は昭和三六年一一月二一日頃訴外大阪アルバム株式会社より本件手形を取得したのであるが、

(イ) 右訴外会社は同年一〇月二二日当時その店舗を閉鎖し、代表者宮本兼三郎は債権者の支払請求を避けるため所在をかくし、各債権者は同会社に対する債権の回収整理を図るべく集会を開き協議していた。

(ロ) 上告人を代表者とする訴外株式会社曙染工場も訴外会社に対し五二万八、三七〇円の債権を有し、上告人は同社の債務一切を整理し、宮本個人としての事業を始めるべく尽力していた。

との認定のもとに、上告人は本件手形を取得するに際し訴外会社の資産内容を熟知し、ひいては本件手形の原因関係たる被上告人と訴外会社間の売買が、売主たる訴外会社の不履行により結局解消されることを知りながら、害意を以て本件手形を取得したと言うのである。

二、然しながら上告人が原審に於て主張せる如く、上告人は昭和三六年九月上旬頃一旦訴外会社より本件手形の譲渡を受け、之を所持するに至っている。

然るに訴外会社代表者たる宮本が上告人に無断で本件手形を持帰り之を訴外大阪産業信用金庫に於て割引き使用せるため、上告人は宮本及び信用金庫と交渉の上本件手形を取戻し、手形上は一旦信用金庫より訴外会社に戻裏書の上上告人に譲渡の形式をとったものであって、叙上の経緯よりすれば、上告人は不法に持帰られた本件手形を取戻すに急であって、将来被上告人と訴外会社間の取引が解消されるかどうか等の点については格別の関心も有していなかったのである。

三、原審認定の如く、上告人は昭和三六年一一月二一日当時に於ては、訴外会社が営業を停止せる事実は知っている。

然し上告人に害意ありとするためには、訴外会社と被上告人間の売買が訴外会社の不履行により必然的に解消されるであろうとの認識が必要であるが、本件の場合に於ては全証拠を以てするも上告人が斯る程度の認識を有していたと認めることはできない。被上告人より売買解消の申出がなされたのは同年一二月上旬上告人と訴外宮本が同道して被上告人を訪れたのが始めてである。

寧ろ上告人は宮本を援助することによって被上告人との従前の取引を継続せしめるべく尽力していたのであるから、上告人が本件手形を取得するに際し害意があったとの原審の認定は理由不備若しくは手形法第一七条但書の解釈適用を誤った違法あるものと言うべきである。

第二点<省略>

第三点原審が害意の有無を判断するについて、昭和三六年一一月二一日当時の事情のみを判断の基準とせることは法令の適用を誤り、且最高裁判所の判例に反する違法がある。

一、原審は上告人が昭和三六年一一月二一日本件手形を取得せる際の害意の有無についてのみ判断し、上告人がそれ以前の同年九月上旬本件手形を全く善意で取得した事実を無視しているが、右は法令の適用を誤れるばかりでなく、最高裁判所の判例に反するものである。

二、本件の場合と事例を異にするが、最高裁判所の判決に於ては、書換前の旧手形を取得した際に人的抗弁事由を知らなかった者に対しては、書換後の新手形に対し悪意の抗弁を対抗し得ないとしている(昭和三三年(オ)第六三八号昭和三五年二月一一日判決)。

即ち右判決の趣旨よりすれば、害意の有無は旧手形取得の際に於て問題とされており、当該手形取得の時期についてではない。

右趣旨よりすれば当初上告人が訴外会社より一旦本件手形の譲渡を善意で取得した事実、並びに訴外右宮本が擅に持帰った事実が証拠によって明らかにせられている以上、害意の有無如何については形式的な手形上の権利を取得した時期に於る事情のみでなく、本件手形を取得するに至った事情一切を含めて認定すべきであって、原審が斯る事情を全く無視したのは不法である。

何となれば、訴外宮本の不法行為なかりせば何等人的抗弁を負担しない本件手形を所持する上告人が、宮本の不法行為により害意の認定を受くる如きは不当に上告人の利益を害せられることになるからである。

以上三点に於て述べた如く、原審が上告人が害意を以て本件手形を取得した旨認定し本訴請求を斥けたのは、理由不備若しくは手形法第一七条但書の適用を誤り、且最高裁判所の判例の趣旨に反するものであって破棄を免れぬものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例