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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(オ)331号 判決 1965年6月17日

主文

なし

理由

上告代理人光石士郎、同土屋賢一、同橋本和夫の上告理由について。

消費貸借成立のためには、必ずしも貨幣の授受を必要とするものでなく、経済取引上貨幣の授受と同等の価値ありと認められるものの授受があれば足りるのであるから、約束手形の振出交付によつても、当事者間にこれにより消費貸借を成立せしめる意思があるときは、かかる契約が成立し得るのである。しかし、何等現実の商取引なきにかかわらず、約束手形を振出交付し、受取人をしてこれをもつて他より金融を得せしめようとする融通手形の場合、振出人と受取人との間において、受取人が事実上その支払の責に任じ振出人がその責に任じないことを約したときは、かかる融通手形の授受のみによつては、当事者間に未だ消費貸借が成立したものとは認められないものと解すべきである。けだし、当事者にかかる契約を成立せしめる意思を欠くからである。しかして、原審の事実認定は挙示の証拠によつて肯認し得、その認定の事実関係の下において、上告人が大阪単式印刷株式会社をして資金の融通を得しめるため、同会社に対し融通手形たる約束手形を振出交付したことによつて、上告人の右会社に対する消費貸借上の債権が成立しないものとした原審の判断は正当である。しかして、その他原審の判断の過程には何等所論の違法はない。所論は畢竟原審の認定に副わない事実を前提として原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用に値しない。

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