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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)171号 判決 1959年6月11日

主文

原判決を破棄する。

本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人弁護士明石日吉の上告理由第二点について。

按ずるに原判示によれば、被上告人は判示経緯の後上告人らの不法行為に因つて本件手形の所持を失い、その額面金額相当の損害を被つたものであるというのであり、そして一方本件手形が上告人の手中に存することは原審において上告人から右手形が乙第一号証として提出されている事実に徴し明らかなるところである。

してみれば被上告人は本件手形上の権利を喪失しているわけのものではなく、ただその所持を奪われているに過ぎないのであるから、もし被上告人においてその所持を回復するが為めに費用を要したものとすれば、それが上告人の被つた実損額となるは格別として、右のように手形の所持を失つたということだけでは未だ以て手形額面金額相当の損害を被つているとは解するを得ないものとすべきであり、そして右のように損害を被つているものと理解するが為めには、手形が善意で且つ重大な過失のない第三者の手中に帰したとか(手形法一六条二項参照)、あるいは紛失ないし転々して所在が不明になつたとか、焼失したとか、汚損等によつて一片の反古紙に化したとか(但しこのような場合でも除権判決を得て手形債権を行使し得るときは別論である)、あるいは右のように所持を失つている間に手形債務者が全く支払能力を失つたとかいう事実の存在することを必要とするのである。然るに原審はそのような点には更に考慮を運らした形跡がなく、ただ漫然と被上告人において上告人らの不法行為により本件手形の所持を失わしめられたから手形額面金額相当の損害を被つたものだと断定したのは、審理不尽のそしりを免れないものであつて、論旨は結局理由あるに帰し、原判決はこの点において到底破棄を免れないものである。

よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し民訴四〇七条一項に従い裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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