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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)69号 判決 1957年9月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人ら代理人弁護士大家国夫の上告理由について。

原判決の引用した第一審判決によれば、昭和二一年一二月一三日本件物件について、判示の売買契約が成立し、買主たる被上告人は売主たる上告人ら先代に対し代金三〇万円の内金三万円を支払い、次いで残代金二七万円について、その支払日である昭和二二年一月一三日上告人ら先代に対し登記と引換に代金の支払方を申入れたが、その応ずるところとならなかつたので、同月二〇日重ねて右取引方を通告の上、被上告人は右残代金を準備し判示場所において上告人ら先代の来会を待ちうけたが、なお、その応ずるところとならなかつたので、同月二二日上告人ら先代に対し判示催告並びに条件附契約解除の意思表示をなした結果、本件売買契約は適法に解除されたこと、従つて上告人ら先代は本件契約について違約の責を免れないものと判断したものであることは、右第一審判決の判文によつて明らかであり、また右に対し上告人らは、右残代金の支払日の到来前である昭和二一年一二月二九日上告人ら先代は訴外八谷某から本件不動産に対する処分禁止の仮処分命令を受け且つ右仮処分は直ちに登記を経由されたから、上告人ら先代の本件不動産に対する登記義務はその責に帰すべからざる事由によつて履行不能に帰したものであつて、従つて上告人ら先代には本件契約について、違約の責はないとの趣旨を主張したことは右判文及び本件上告理由に徴し明らかである。思うに、債務者所有の不動産につき債務者の処分を禁止する仮処分命令のあつた場合に、債務者は右不動産の処分を為し得ないものではなく、ただその処分が仮処分に抵触する範囲内において、仮処分債権者に対抗し得ないに過ぎないものと解するを相当とする。されば、原判示の場合において、上告人ら主張のような仮処分命令があり、且つその登記があつたからといつて、判示売買契約に基づく上告人ら先代の本件不動産に対する所有権移転登記義務はその履行を禁じられるものではないから、右仮処分命令によつて上告人ら先代の為すべき登記が不能になつたものとはいい得ない。原判決は右と同一趣旨の理由の下に、上告人らの前示主張を排斥したものであつて、その判断に所論の違法ありというを得ない。論旨は右と異る独自の見解に立脚して原判決の右判断を非難攻撃するものであつて、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、八九条、九五条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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