大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)1167号 判決 1952年5月22日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人千葉長の上告趣意第一について。

所論は、結局原判決に対する単なる訴訟法違反の主張に帰するから、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、記録によれば、被告人は、原審公判廷において、第一審判決の認定事実はその通り相違なく、他に申述べることはない旨答えて、その事実について、何等不服がなかったことを認めることができる。それにもかかわらず、原審は、被告人の尋問及び証拠調をしていることは所論のとおりである。従って、原審は、旧刑訴法事件の控訴審等における審判の特例に関する規則五条にいわゆる「事案の真相を明らかにし被告人の権利を保護するため必要と認め、」重ねて、被告人を尋問し証拠調をしたものと認めざるを得ない。そして、かような場合に控訴審の有罪判決の事実摘示及び証拠説明をするには、同規則八条の外旧刑訴四〇五条、三六〇条一項等の原則規定に遵拠すべきものであって、同規則六条の特例によるべきものでないことは同規定の明文に照し疑を容れない。しかるに、原判決は、「事実及び証拠」として、所論のごとく同規則六条に則り「当裁判所において認定した事実は、原判決の認定した事実のとおりであって、右は被告人等に不服のないところである。」と判示したのは、失当たるを免れない。しかし、原判決の右判示は、認定した犯罪事実として第一審判決に示した事実を引用したものであること明らかであるから、旧刑訴四〇五条に適合するし、また、その事実は原審公判廷における被告人の自白により認定した趣旨であることも明らかであり且つ当該審級における公判廷の被告人の自白は、憲法三八条三項にいわゆる本人の自白に含まれないものであることは、当裁判所屡次の判例であるから、原判決の前記判示は、旧刑訴三六〇条一項所定の証拠説明としても欠くるところないものといわなければならない。されば、原判決には結局理由不備の違法ありとなし難く、従って、同規則が憲法に違反し無効であるとの論旨に対し判断を与えるまでもなく、所論は、刑訴四一一条一号所定の職権発動理由としても採用することはできない。

同第二について。

所論は、量刑不当の主張であるから、刑訴四〇五条の上告理由に当らないし、また、本件では同四一一条を適用すべきものとも認められない。

よって刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例