大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1570号 判決 1951年4月12日

本籍

埼玉県北足立郡大久保村大字五関二一一番地

住居

同県同郡与野町大字下町三二〇番地

植木職

友光義一

大正一一年五月一〇日生

右に対する恐喝被告事件について昭和二五年七月四日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人並に原審弁護人公文貞行から上告の申立があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人名尾良孝、同松永東の上告趣意について。

論旨は原判決判示(三)の事実摘示によれば「被告人等は相手方ライフアン工業株式会社社長笹沼源之助に対して害悪の通知とみらるべき言葉は述べていない。害悪の通知なるものが被告人の主催する辰美家一家を背景とする威力であるとしても辰美家一家なるものは常に不法なる威勢を与野町一帯の住民に示していたかは何等客観的に明らかにされていない」と主張する。しかし、恐喝取財罪の成立するためには、所謂相手方に対する害悪の告知として必ずしも明示の言動を必要とするものではなく、自己の経歴性行及び職業上の不法な威勢等を利用して財物の交付を要求し相手方をしてもしその要求を容れないときは不当な不利益を醸される危険があるとの危惧の念を抱かしめるような暗黙の告知をなせば足るものといわなければならない(昭和二四年(れ)九〇八号同年九月二九日当小法廷判決参照)。そして原判決がその事実認定の資料とした証拠、殊に笹沼源之助に対する検察官及び司法警察官警部代理の各聴取書中の同人の供述記載並びに被告人に対する検察事務官の昭和二二年七月二六日附聴取書中の供述記載には、被告人が新井三郎その他数多の若者を輩下に擁して辰美家なる名のもとに興業師をしていたものであるとの事実及び被告人自らも右源之助に対し判示のような申出をなすことにより、会社としても世間態が悪いので多少の金は持つて来るものと予期しており、また被告人からかかる申出を受けた源之助においても会社として又は社長として責任を痛感する一方不良連中の集団である辰美一家のこととて後難を怖れ個人の資格で金一万円を被告人に交付した旨の事実を肯定するに足る資料が存在しているのである。これを要するに、原判決判示(三)の事実、すなわち被告人が笹沼源之助に対し判示の如き言辞を弄して辰美一家を背景とする威力を示し暗に金員の交付を求めて同人を脅し同人を畏怖させて判示のとおり現金一万円を交付させたとの事実は、原判決挙示の証拠を綜合すればこれを肯認するに足るものと認められるのである。原判決には所論のような違法はなく、論旨は畢竟事実審たる原審の裁量権に属する事実の認定を非難するに帰着し上告適法の理由とならない。

よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

検察官 安平政吉関与

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 澤田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例