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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)2068号 決定 1952年12月18日

本籍

秋田県雄勝郡西成瀬猿半内中村

住居

苫小牧市大町 磯部旅館内(札幌刑務所在監中)

ゴム靴修理業

関貞次郎

大正元年一一月二四日生

右に対する窃盗被告事件について昭和二五年七月一〇日札幌高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人本人の上告趣意について。

所論は、事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の上告適法の理由にならない。

弁護人加藤勝蔵の上告趣意一、二について。

所論は、要するに原判決には審理不尽の違法があり重大な事実の誤認があるというに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原判決は判示事実をば所論の証拠だけで認定したのではなく、原判決挙示の爾余の証拠をも総合したものであつて、これによれば、判示事実認定を肯認することができるのである。

しかのみならず所論の捜査報告書添附の図面の記載並びにその作成者たる司法警察員大元秀計、司法巡査夏井正美の供述は、何れも実験した事実の記載又は供述とこれらの事実から推測した事項の供述であつて、単純な意見であるということはできないし、そのゴム靴の跡が通常用いられる大きさのものであるにしても、それだけで証明力に疑があるということもできない。而も右の書証については差戻前においても差戻後においても弁護人はこれを証拠とすることに同意しているのである(記録十三丁表、一〇六丁表参照)。従つて原審が破棄自判するに当りこれらの証拠に基いて事実の認定をしたところで所論のように証拠能力のない資料を証拠とし又は採証の法則に違反したということはできない。また、所論の松本倉松につき原審が証人として取調をしなかつたとしても、原審が必要と認めない証拠まですべて職権で取り調べなければならないものでないことは、いうまでもない。(被告人、弁護人は右松本或は高橋三郎について証人尋問の請求をしていない。)されば、原審には所論のような違法又は誤認は、認められないから、同四一一条を適用すべきものとも思われない。

同三、について。

所論は、原判決に影響を及ぼさない訴訟手続違反を主張するに帰し、刑訴四〇五条の上告理由ではない。

しかのみならず新刑訴においては、逮捕状、勾留状等法律又は規則によつて提出を要する書類を除いて、証拠上必要と認めて当事者が提出した書類の外記録に編綴されないのであるから、勾留に際して陳述を聴いた書面も編綴されていないのがむしろ普通である。されば、この書面が記録に見当らないことを理由とする憲法第三四条違反の主張は、その前提を欠き採用の限りでない。

よつて刑訴四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

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