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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1251号 判決 1949年1月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人中村栄治上告趣意第二點について、

原判決が被告人の殺意を認定したのは被告人の司法警察官に對する自白その他原判決舉示の證據によったものであることは第一點において説明したとおりであるから原審があたかも被告人の青酸加里を炊飯釜中に投入した事実のみを捕えて被告人の殺意を認定したかの如く獨斷前提して、原審のした殺意の認定をもって実驗則に反するもののように主張する所論は結局事実審たる原裁判所の裁量權にのみ屬する事実の認定を非難するに歸着し上告適法の理由とはならぬ。なお、所論は被告人の青酸加里を炊飯釜中に投入しただけでは、もともと殺人の目的を達することは不能であるから被告人の所爲は不能犯である旨の主張をするようでもあるが所論のように暗い所で食事を採ることは普通考えられないことでありまた青酸加里を入れて炊いた本件米飯が黄色を呈し臭氣を放っているからといって何人もこれを食べることは絶對にないと斷定することは実驗則上これを肯認し得ないところであるから、たやすくその主張を容認することはできない。しかのみならずかゝる不能犯の主張は行爲と結果との因果關係を不能なりとするものであるから行爲の外結果の発生を犯罪の積極的構成要件とする本件殺人罪においては結局罪となるべき事実を否定する主張に歸着する。されば舊刑訴第三六〇條第二項にいわゆる「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」換言すれば、犯罪構成要件以外の事実であってその事実あるがため法律上犯罪不成立に歸すべき原由たる事実上の主張に該當しない。それ故判決においてこれに對する判斷を示す要あるものではない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって舊刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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