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最高裁判所第一小法廷 平成8年(行ツ)47号 判決 1997年2月13日

広島市西区南観音一丁目三番四四号

上告人

田中務

右訴訟代理人弁護士

相良勝美

広島市西区観音新町一丁目一七番三号

被上告人

広島西税務署長 臼井公哉

右指定代理人

渡辺富雄

右当事者間の広島高等裁判所平成四年(行コ)第八号更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成七年一二月一二日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人相良勝美の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋久子 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

(平成八年(行ツ)第四七号 上告人 田中務)

上告代理人相良勝美の上告理由

原判決には、所得税法第二三四条第二項の解釈を誤った違法があり、この違背は、判決に明らかな影響を及ぼす。

一、本件更正処分の調査にあたって、広島国税局査察部の査察官らは、上告人に対する犯則事件が存在することの嫌疑を仮装した、国税犯則取締法にもとづく訴外広島県警察本部の強制捜査の結果得られた証拠蒐集を基礎として、これを事後的に利用し、本件更正処分理由の調査資料に引き継いだ事実は、確定された判断となっている。

一審判決(四一丁裏)は、このことに関し

「質問検査の権限を犯罪捜査のために行使したり、逆に犯則事件の嫌疑がないにもかかわらず、専ら租税の賦課・徴収を目的として国税犯則取締法上の調査の手段を用いるようなことは許されないと解される。」と一応の判断を示しつつ、

「しかし、そのことから直ちに同法によって得られた資料を課税処分を行うため事後的に利用することまで禁止されていると解すべき理由はない」との見解に立って結局「国税査察官が犯則嫌疑者に対して同法にもとづく調査を行った場合に、課税庁が右調査により収集された資料を右の者に対する課税処分や青色申告承認の取消処分を行うために利用することは許されるものと解するのが相当である。」とする見解を導き出している。

二、第二審においても、右の解釈を巡っての上告人からの違法事由の指摘は、当然一つの争点として争われたところであるが、原判決は前記引用の一審判示末尾の「相当である」の次に(最高裁昭和六三年三月三一日第一小法廷判決・訟務月報三四巻一〇号二〇七四頁参照)を加えて、その判断を支持した。

しかし、この判断は、明らかに、国税犯則法違反の嫌疑を前提とした犯罪捜査の手続きと、納税義務の適正な履行の確保を図るための所得税法の手続きとを、融通無碍に混同せしめ、憲法の定める適正手続の保障を危うくする結果を招来するものと言わねばならない。従って、右記引用の判例の言う

「収税官吏が犯則嫌疑者に対し、国税犯則取締法に基づく調査を行った場合に、課税庁が右調査により収集された資料を、右の者に対する課税処分及び青色申告承認の取消処分を行うために利用することは許されるものと解するのが相当である」とする、いわば無制限の流用許容税は、憲法第三一条の保障する適正手続を無視するものであって変更されるべき余地がある。

三、本件について一審判決の確定した事実認定によれば(同判決書三八丁表から裏にかけて)

「広島国税局査察部の査察官は、原告田中及び同原告が代表取締役をしている原告会社の所得税及び法人税の確定申告書の検討等により、原告らに所得税及び法人税につき脱税の嫌疑があると思料し、昭和四六年四月に右犯則事件の調査に着手し、約一年間にわたって調査を行ったこと、その結果、同査察官は原告らに右犯則行為があるとの結論に達したが、犯則金額、犯則内容その他の事情を総合的に検討した結果、原告らについては、国税犯則取締法にもとづく告発は行わないことになり、公訴提起もなされなかったこと」等の事実が認定されている。しかしながら、乙第一五九号証の一、二として提出されたスクラップ記事は、昭和四六年四月二三日と同年七月一〇日付の中国新聞のローカル版からのものであり、これを見るかぎり、本件更正処分の端緒が、いわゆる組織暴力団の資金源撲滅を企図した大がかりな別件逮捕押収捜索の警察活動に追随したもので、国税局査察部により、その後の資料検討、分析も、右違法な捜索手続により押収された「任意提出」された各資料にもとづくものであり、上告人本人との面接も、当時別件恐喝容疑で代用監獄に身柄の拘束を受けていた上告人との出会いからはじまっている事実を、査察官であった青木頼夫自身が認めているものである(一審第八回口頭弁論調書三二項)。

前述した一審判示の認定事実で査察部による調査の着手時期が昭和四六年四月からとあるのは、まさに、右記新聞報道にある如く、訴外の広島県警察本部による強制捜査の開始時期と一致するものであり、捜索差押えされた証憑書類等も、すべ右警察機関による一網打尽的蒐集によるものであった。その一方で、のちに本訴に至って上告人側から書証として提出された多くの貸金債務に関する不渡手形の存在等は、異議申立および審査請求手続の段階に至るまで、その存否は無視されており、到底、被上告人の主張する如く(原二審平成五年九月二一日付被控訴人準備書面(一))「広島国税局調査査察部の国税査察官が調査に着手し、その調査で得た資料を被控訴人が更に調査検討して行ったもの」と認め得る事実関係にはない。

右の過程において、法の趣旨を潜脱する違法な資料の流用があったことは明白であり、前記昭和六三年の最高裁第一小法廷判決とも、前提たる事実を異にするものである。

以上

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