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最高裁判所第一小法廷 平成2年(行ツ)1号 判決 1990年4月19日

静岡市日出町五番地の一

上告人

興和産業株式会社

右代表者代表取締役

磯西実

右訴訟代理人弁理士

田中宏

福井市三十八社町三三字六六番地

被上告人

フクビ化学工業株式会社

右代表者代表取締役

八木熊吉

右訴訟代理人弁理士

戸川公二

右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行ケ)第一三九号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年九月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田中宏の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 橋元四郎平)

(平成二年(行ツ)第一号 上告人 興和産業株式会社)

上告代理人田中宏の上告理由

原審判決には経験則に違反し、証拠の解釈を誤り、採証の法則に違反した違法がある。

一 原審判決は、第一引用例の第三欄一八行乃至三三行(訳文八頁一一行乃至一六行)を引用して、第一引用例のコーナー成形品は、その弾力性に基ずく復元力を利用していることが認められる旨認定している(原審判一九頁表六行乃至八行)。

しかしながら、第一引用例の引用箇所には、第一引用例のコーナー成形品が、その弾性にもとずく復元力を利用しているとは考えられない。

すなわち、原審判決が引用した第一引用例の引用箇所には、壁繰形材一三(本件考案の天井廻り椽に相当する)に切り目二一を設け、該切り目二一に、コーナー成形品の裏面にリブ部材一五を介して設けられている舌部材二十が嵌合し、これらが組み合わされてシユー繰形材一四と壁繰形一三とか固定されるのである。それ故第一引用例では「舌部材二十の厚さは、えぐり刳り貫いた切り目二一の深さを超えてはならず、また好ましくはピッタリ合った嵌め合いにすべくそれに近似した形であるべきである。」と記載しているのである(第一引用例二欄六四~六七行ほん訳文六頁七行~十行)。すなわち、第一引用例の引用個所はコーナー成形品の腕部と舌部材との間隙にシユー繰形材一四と壁繰形一三とが挿入され、同時に舌部材二十が壁繰形一三に設けられた切れ目二一に嵌り込む機構を述べているに過ぎないので、かかる機構は弾性に基づく復元力に無関係の機構である。

したがって、原審判決において、前記第一引用例の記載をもって第一引用例のコーナー成形品は、その弾性に基ずく復元力を利用した点は事実を誤誤したという外ない。

二 原審判決では、本件考案は、「コーナーパットは適宜な弾性を有する合成樹脂を用いて成形されたものであって、左辺と右辺とから成るものであり、その裏面は天井廻り椽の凸凹模様とほぼ同一形状であって、天井廻り椽の突き合わせ部に重ねてこれを押え」と規定しているのであって、右のほかに構成の限定はないことが認められるとしたと、裏面にリブ部材及び舌部材が存在することを必須要件としている第一引用例のコーナー成形品の場合も本件考案のコーナーパッドに含まれるといえるにすぎない旨判示している。

しかし、第一引用例のコーナー成形品の裏面にリブ部材及び舌部材が存在するのではなく、リブ部材及び舌部材は、腕部十一、十二の裏面に存在するのである。すなわち、第一引用例のコーナー成形品は、腕部、リブ部材及び舌部材を有することを必須要件としているのである。

したがって、本願考案の廻り椽に相当する第一引用例の壁部材及び床部材は、腕部材と舌部材との間隙に挿入されるのであって、コーナー成形品は、本願考案のように、壁部材及び床部材を押さえてはいない。

他方、本願考案のコーナーパッドは、原審判決が摘示した右の通りである。本件考案のコーナーパッドは、右構成によって課題を解決しうるものであって、課題を解決するために、右の構成のほかに他の部材は存在しないのである。このことは、本件明細書の「考案の詳細な説明」の欄における「該コーナーパッド一は左辺aと右辺bとによって構成するものであり、両辺a、bは九十度よりも三度程度大きな角度をないし、更にそれぞれの辺の端得緑三は面取りを施して薄くするものとし、特にこのものは適宜な弾力性を有する合成樹脂を用いて一ないし三ミリメートル程度の厚さに成形し、これを取付けるときは廻り椽に馴染んで変形してその端縁三が廻り椽の表面に圧接する様にするものである。」(本件公告公報三欄一一行~一九行)、「また、一般の建築物においては壁面五と壁面五とのなす角が必ずしも九十度ではないこと」(本件公告公報四欄一八行~一九行)、「該コーナーパッドは適宜な弾力性を有する合成樹脂を用いて左辺と右辺とを九十度よりやや大きな角度で交わるようにすれば、これを取付けたときは、コーナーパッドは第七図に示す様に廻り椽の形状に馴染んで変形し、その寸法誤差等を吸収してその表面に密接するのである。」等の記載からみて明らかである。

したがって、本願考案のコーナーパッドは、天井廻り椽の突き合わせ部に重ねて、これを押さえることによって、すなわち、コーナーパッドの裏面に天井廻り椽が、直接、接することによって、所期の目的を達成できるのである。

しかるに、原審判決では、本願考案のコーナーパッドは前記の構成の外に構成の限定がない故、本件考案のコーナーパッドは、右の構成のほかに、他の構成をも付加できるとした点は、本件考案の要旨を誤認してると言うほかないのみならず、本願考案とは全く解決手段を異にする第一引用例のコーナ成形品をも包含するとしたことは、経験則に違反した違法がある。

以上述べた如く、原審判決は、本件考案との対比において、引用例の解釈につき事実誤認を犯し、経験則に採証法則を誤って判断されたものである。

このような誤った採証法則をもって判断されたことは実用新案法第三条第二項の解釈を誤り、同法第一条に違背するものである。

右理由により原審判決は取消しを免れないものである。

以上

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