大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成12年(し)67号 決定 2000年4月21日

主文

原決定及び原原決定を取り消す。

本件を水戸地方裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告申立書には、具体的な抗告理由の記載がなく、抗告提起期間内に理由書の提出もない。

しかし、職権により調査すると、以下のような理由により、原決定及び原原決定は取消しを免れない。

一  記録によれば、次のような事実が認められる。

申立人は、平成九年五月一日、東京地方裁判所において覚せい剤取締法違反の罪により懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付きの判決の言渡しを受け、右判決は、同年五月一六日確定した。申立人は、右判決後、執行猶予者保護観察法五条の定める事項を遵守することを誓約し、これを守るため、覚せい剤に手を出さないことなどの具体的指示を受けた。

申立人は、その後、道路交通法違反、傷害、公務執行妨害、器物損壊、業務上過失傷害、覚せい剤取締法違反の各事件を犯したとして公訴を提起され、平成一二年一月二八日、水戸地方裁判所において懲役二年の判決の言渡しを受けた。申立人が右判決に対し控訴を申し立てたことにより、右事件は控訴審に係属中である。

水戸地方検察庁検察官は、東京保護観察所長の申出に基づき、同年三月一七日、申立人が保護観察の遵守事項に違反しその情状が重いときに当たるとして、刑法二六条の二第二号により、前記執行猶予の言渡しの取消しを請求した。水戸地方裁判所は、申立人に対し、右請求書の写しを添えて、「刑の執行猶予の言渡し取消し請求があったので意見を求める。なお、刑の執行猶予の言渡しの取消しに異議があるときには、具体的な意見を添えられたい。」旨記載した求意見書を送達したところ、申立人から、異議がない旨の意見書が提出された。そこで、同裁判所は、同月二三日、申立人が保護観察の遵守事項に違反しその情状が重いときに当たると認め、刑法二六条の二第二号、刑訴法三四九条の二第一項により、刑の執行猶予の言渡しの取消しを決定した。

右決定までの間に、同裁判所が申立人に対し刑訴規則二二二条の七第一項に定める手続を行ったとうかがわれる形跡はない。

右決定に対し申立人が即時抗告を申し立てたところ、原審裁判所は、理由がないとして、即時抗告を棄却した。

二  ところで、刑訴規則二二二条の七第一項は、「裁判所は、刑法第二十六条の二第二号の規定による猶予の言渡しの取消しの請求を受けたときは、遅滞なく、猶予の言渡しを受けた者に対し、口頭弁論を請求することができる旨及びこれを請求する場合には弁護人を選任することができる旨を知らせ、かつ、口頭弁論を請求するかどうかを確かめなければならない。」と規定している。右規定は、刑訴法三四九条の二が猶予の言渡しを受けた者に対して認めている口頭弁論を請求する権利及び口頭弁論を経る場合に弁護人を選任する権利につき、それらが防御のための重要な権利であることにかんがみ、その存在を知らせて行使の機会を手続的に保障しようとするものである。したがって、刑訴規則二二二条の七第一項に定める手続を経ることなく刑法二六条の二第二号により刑の執行猶予の言渡しを取り消すことは、猶予の言渡しを受けた者が刑訴法によって付与された権利を侵害することになるから、許されないものと解される。

三  そうすると、刑訴規則二二二条の七第一項に定める手続を経ることなく保護観察の遵守事項違反を理由として刑の執行猶予の言渡しを取り消した原原決定及びこれを是認した原決定には違法があり、これを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、刑訴法四一一条一号を準用し、同法四三四条、四二六条二項により、原決定及び原原決定を取り消し、本件を水戸地方裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎 裁判官 町田顯)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例