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最高裁判所第一小法廷 平成10年(オ)529号 判決 2000年9月07日

②事件

上告人

右代表者法務大臣

保岡興治

右指定代理人

山崎潮

外一二名

被上告人

甲野太郎

外三名

右被上告人ら訴訟代理人弁護士

原田香留夫

津川博昭

木村清志

中西裕人

横内勝次

右被上告人ら(甲野太郎を除く)訴訟代理人弁護士

鬼追明夫

山下潔

小坂井久

海渡雄一

小橋るり

右被上告人ら(戸田勝を除く)訴訟代理人弁護士

戸田勝

右被上告人ら(木下準一を除く)訴訟代理人弁護士

木下準一

右被上告人ら(金子武嗣を除く)訴訟代理人弁護士

金子武嗣

主文

原判決中上告人敗訴部分を廃棄し、第一審判決中右部分を取り消す。

前項の部分に関する被上告人らの請求をいずれも棄却する。

訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

理由

一  上告代理人細川清、同河村吉晃、同石井忠雄、同内田博久、同西田俊一、同前田幸子、同山本和郎、同川西克憲、同林原信介、同宮川隆充、同後田雅弘の上告理由第二について

1  原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。

(一)  被上告人甲野太郎は、暴力団抗争に絡む殺人事件を犯した者として平成二年四月二六日から徳島刑務所において懲役刑の執行を受けている受刑者である。

被上告人甲野は、平成二年四月、国を被告として、徳島刑務所に移監される前に拘禁されていた大阪拘置所において、重篤な疾病が疑われる様々な病状が現われていたのに、精密検査を受診させなかった拘置所側の措置の違法を主張して国家賠償請求訴訟(大阪地裁平成二年(ワ)第三〇五四号。以下「大阪事件」という。)を提起し、同年八月には、国を被告として、徳島刑務所の管理部保安課職員から暴行を受けたり、身体的に苦痛を伴う無理な姿勢を強制されたりし、また、いわれのない懲罰処分を受けたと主張して国家賠償請求訴訟(徳島地裁平成二年(ワ)第三三二号。以下「徳島事件」という。)を提起した。

(二)被上告人戸田勝、同木下準一、同金子武嗣は、いずれも弁護士であり、大阪事件及び徳島事件における被上告人甲野の訴訟代理人である。徳島事件の訴訟代理人には、外に、津川博昭弁護士(以下「津川弁護士」という。)及び木村清志弁護士(以下「木村弁護士」という。)がいた。

(三)  被上告人戸田、同木下及び木村弁護士は、平成二年一〇月三一日付け面会許可申請書により、面会事由を、大阪事件について同年一一月二一日に行われる被上告人甲野の本人尋問の準備のため等として、同月七日における被上告人甲野との八〇分間の、かつ、刑務所職員の立会いなしの接見許可の申請をしたが、徳島刑務所長(以下「所長」という。)は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、被上告人戸田、同木下及び木村弁護士は、右同日午後三時二分から同三時四〇分まで三八分間にわたって被上告人甲野と接見した(以下「本件接見(1)」という。)。

(四)  被上告人木下及び同金子は、平成二年一一月一四日付け面会許可申請書により、面会事由を、大阪事件について同月二一日に行われる被上告人甲野の本人尋問の準備のためとして、同月二〇日における被上告人甲野との二時間の、かつ、刑務所職員の立会いなしの接見許可の申請をしたが、所長は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、被上告人木下及び同金子は、右同日午後三時四二分から同四時二二分まで四〇分間にわたって被上告人甲野と接見した(以下「本件接見(2)」という。)。

(五)  津川弁護士及び木村弁護士は、平成二年一二月二〇日付け面会許可申請書により、面会事由を、徳島事件に関して徳島刑務所における被上告人甲野の在監経過等事実調査及び打合せのためとして、平成三年一月九日における被上告人甲野との一時間の、かつ、刑務所職員の立会いないし接見許可の申請をしたが、所長は、保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可し、津川弁護士及び木村弁護士は、右同日、保安課職員立会いの下に被上告人甲野と接見した(以下「本件接見(3)」という。)。

(六)  徳島刑務所は、主として長期刑(執行刑期八年以上)で犯罪傾向の進んだ受刑者を収容する被収容者数六百数十名の刑務所であって、平成二年一〇月から平成三年一月当時、六室の面会室を有していた。接見を担当する職員は三名であったが、そのうち立会係は二名で、一人当たり一日八、九件を受け持ち、これらの接見を午前八時半から一二時、午後一時から四時半までの面会時間内に行わなければならず、かなり繁忙な状態であった。

(七)  被上告人甲野に対しては、徳島刑務所に移監後、月一回の親族との面会とは別に、大阪事件又は徳島事件等の訴訟代理人である弁護士との間で、原則として月二回の割合で一回三〇分の接見が認められ、本件接見(1)までの六箇月余りの間に右弁護士との接見が一三回許可されて、合計七時間以上にわたる接見が行われており、平成二年八月には一箇月に四回の接見が許可されたこともあった。

(八)  被上告人甲野は、大阪拘置所在監時から腰痛があるとか、自力で歩行できないなどと訴え、徳島刑務所に移監された後は、客観的にはそのような障害の事実を認め難いにもかかわらず、正常な姿勢で座れないなどと、主張して、居房内において床に寝ころぶような姿勢を長時間にわたって続け、また、職員に対して反抗的な態度を継続してたびたび懲罰処分を受けていた。

2  被上告人らは、接見事件の制限と刑務所職員の立会いを条件とした所長の接見許可処分によって接見を違法に制限され精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法一条一項に基づき、上告人に対して慰謝料の支払を求めており、原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、被上告人らの請求を一部認容すべきものとした。

(一)  大阪事件における被上告人甲野の本人尋問の準備のための打合せには三〇分以上の時間が必要であるから、本件接見(1)及び(2)につき接見時間を三〇分以内に制限した所長の処分には、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法がある。

(二)  徳島刑務所の職員の暴行等を内容とする徳島事件に関して被上告人甲野の在監経過等の事実調査を接見の目的とする場合には、当該刑務所の職員が立ち会って会話内容を知り得る状態で接見するのでは打合せに支障を来すから、本件接見(3)につき刑務所職員の立会いを条件とした所長の処分には、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法がある。

3  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(一)  監獄法四五条二項によれば、受刑者については親族以外の者との接見は原則として禁止され、刑務所長において特に必要ありと認める場合に限って例外的にこれを許すものとされている。そして、同法五〇条は接見の立会いなど接見の態様に関する制限を命令に委任し、監獄法施行規則(以下「規則」という。)一二一条本文は接見時間につき「接見ノ時間ハ三十分以内トス」と規定し、規則一二三条本文は接見の度数につき「懲役受刑者ニ付テハ一月毎ニ一回トス」と規定し、規則一二四条は「所長ニ於テ処遇上其他必要アリト認ムルトキハ前三条ノ制限ニ依ラサルコトヲ得」と規定している。また、立会いにつき、規則一二七条一項本文は「接見ニハ監獄官吏ニ立会フ可シ」と規定し、同条三項は「所長ニ於テ教化上其他必要アリト認ムルトキハ受刑者ノ接見ニ付立会ヲ為サシメサルコトヲ得」と規定している。刑務所における接見時間及び接見度数の制限は、多数の受刑者を収容する刑務所内における施設業務の正常な運営を維持し、受刑者の間における処遇の公平を図り、施設内の規律及び秩序を確保するために必要とされるものであり、また、受刑者との接見に刑務所職員の立会いを要するのは、不法な物品の授受等刑務所の規律及び秩序を害する行為や逃走との他収容目的を阻害する行為を防止するためであるとともに、接見を通じて観察了知される事情を当該受刑者に対する適切な処遇の実施の資料とするところにその目的がある。したがって、具体的場合において処遇その他の必要から三〇分を超える接見を認めるかどうか、あるいは教化上その他の必要から立会いを行わないこととするかどうかは、いずれも、当該受刑者の性向、行状等を含めて刑務所内の実情に通暁した刑務所長の裁量的判断にゆだねられているものと解すべきであり、刑務所長が右の裁量権の行使としてした判断は、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合でない限り、国家賠償法一条一項にいう違法な行為には当たらないと解するのが相当である。以上の理は、受刑者が自己の訴訟代理人である弁護士と接見する場合でも異ならないものと解すべきである。

(二)  これを本件について見るに、所長は、本件接見(1)ないし(3)の許可申請に対し、特に必要ありと認めてこれを許すこととし、右に述べた接見時間の制限及び接見の立会いの趣旨、目的に照らした裁量的判断により、条件を付した許可処分を行ったものと解される。よって、以下その処分の適否を検討する。

(1) 本件接見(1)及び(2)について

前記1(七)に記載したとおり、被上告人甲野に対して、訴訟代理人である弁護士との間で原則として月二回の接見が認められており、親族との間で許可される月一回の接見を含めると月三回の接見が行われていた。これは、法令上は原則として親族に限り月一回とされた制限を大きく上回る回数の接見が、規則一二四条に基づく所長の裁量により許可されていたことになる(なお、被上告人甲野には、行刑累進処遇令六三条に該当する事由はない。)。また、月によってはそれ以上の回数の接見も許可されており、これらの措置を通じ、訴訟代理人との接見の必要性を考慮した接見の機会の付与が行われていたのもと解される(記録によれば、被上告人甲野と訴訟代理人である弁護士との接見は、平成二年四月二六日に徳島刑務所に移監されてから同八年一二月末までの間に約一八〇回に及んでおり、また、被上告人甲野から訴訟代理人である弁護士に対する信書の発信についても、訴訟代理人との通信の必要性を考慮した所長の裁量によって、規則一二九条一項の定める月一通を超えた発信が認められていたことがうかがわれる。)。他方、前記(1)(六)に記載した徳島刑務所の接見業務の運営状況や徳島刑務所の収容人数、収容対象等からすると、被上告人甲野に三〇分を超える接見を認めた場合には他の受刑者との間の処遇の公平を害し、他の受刑者から同様の接見を求められたとすると、接見業務に支障が生じ、施設内の規律及び秩序を害するおそれがあったというべきである。このような事情を勘案すると、本件接見(1)及び(2)が被上告人甲野の本人尋問の準備のための打合せを目的としたものであることを考慮しても、接見時間を規則の原則どおり、一回につき三〇分以内に制限した所長の処分が、いまだ社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえず、所長の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

(2) 本件接見(3)について

前記1(八)に記載した被上告人甲野の性向、行状等(なお、記録によれば、被上告人甲野は、徳島刑務所に移監後本件接見(3)までの間に、平成二年六月には職員に対する暴行ほか三件により、同年九月には診察拒否により、同年一一月には虚偽申告及び不正連絡により、同年一二月には反抗的言辞及び不穏当な言辞により、いずれも軽屏禁・文書図画閲読禁止の各懲罰処分を受けたこと、本件接見(3)以降も頻繁に懲罰処分を受け、また、処遇に対する不満から拒食をし、強制給養を受けたこともあることがうかがわれる。)にかんがみると、接見の相手方が訴訟代理人である弁護士であったとしても、接見時における不測の事故を防止するため、あるいは被上告人甲野の動静を把握してその処遇に資するために、刑務所職員を接見に立ち会わせる必要性は得に大きかったというべきである。また、右のように立会いを行う必要性が大きい本件においては、本件接見(3)の接見の目的が徳島事件についての事実調査であるとしても、立会いを行うことがいまだ社会通念上著しく妥当を欠くものということはできない。したがって、刑務所職員の立会いを条件とした所長の処分が、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

(三)  以上によれば、原審の前記判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。論旨は理由がある。

二  同第三について

1  原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

津川弁護士は、平成三年一二月三日付け面会許可申請書により、同月六日午前一〇時における被上告人甲野との接見許可の申請をしたが、右申請書には、面会の目的として、徳島事件及び当時第一審に係属中であった本件訴訟に関する在監経過等事実調査及び打合せのためとの記載があるだけであった。当時、被上告人甲野に対して軽屏禁・文書図画閲読禁止の懲罰を執行中であったことから、徳島刑務所の保安課長であった黒岩喬(以下「黒岩課長」という。)は、同月五日、被上告人甲野に対して懲罰執行中であり、懲罰執行中に特に接見を許可すべき緊急性、必要性が認められない旨を、被上告人甲野の弁護団事務局として徳島刑務所との折衝の窓口となっていた被上告人木下に電話で伝えた。被上告人木下から連絡を受けた津川弁護士は、同日、面会申請補充書をファクシミリで刑務所に送付したが、それには、前記各事件の次回期日の準備のために是非とも現時点での面接が必要であるとした記載されていなかった。そこで、黒岩課長は、再度、被上告人木下に電話をし、許可できない旨を伝えた。被上告人木下から連絡を受けた津川弁護士は、黒岩課長に電話をしたが、同人が接見に関する窓口は被上告人木下であるとして十分話に応じてくれなかったため、明日徳島刑務所へ行ってもう少し詳しく説明すると言って電話を終えた。翌六日午前九時四五分ころ、津川弁護士は、徳島刑務所を訪れたが、黒岩課長も所長も会議中で、会議は午前一一時ころまで続く旨を聞かされ、そのまま退出したため、結局、被上告人甲野と接見できなかった。

2  被上告人甲野は、刑務所側が接見希望日当日に津川弁護士と面会しなかったことによって、接見の機会を違法に奪われ精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法一条一項に基づき、上告人に対して慰謝料の支払を求めており、原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して被上告人甲野の請求を一部認容すべきものとした。

黒岩課長は、接見希望日当日である平成三年一二月六日の午前中に会議が予定されていたのであれば、同月五日に津川弁護士に対して被上告人甲野の懲罰執行中に特に接見を求める緊急性、必要性の有無を確認すべきであった。しかるに、これを怠った上、津川弁護士が明日徳島刑務所に行って、説明すると言っているにも関わらず、会議があることを知らせもしなかったことは、実質的に被上告人甲野の接見の機会を奪うものであり、違法な行為というべきである。

3  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1記載の事実関係によれば、津川弁護士の接見許可の申請の理由は、補充書を含めて、形式的、抽象的なものにとどまり、所長は、これに基づき、平成三年一二月五日中に、被上告人甲野が懲罰執行中であり、特に接見を許可すべき緊急性、必要性が認められないとして右接見を許可しない旨の決定をし、これを黒岩課長において、被上告人木下を通じて再度同弁護士に告知したことが明らかである。右のとおり、申請書等の記載に基づいて判断し、既に不許可処分がされている以上、黒岩課長において、同弁護士に対して更に接見を許可すべき事情の有無を確認する必要はなく、また一方的に面会を求めて来所した同弁護士と会議を中断して面会すべき義務があると解することはできない。そうすると、これらの義務があることを前提として黒岩課長の行為について違法性を認めた原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。論旨は、この趣旨をいうものとして理由がある。

三  以上に述べた原審の判断の各違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決のうち、上告人敗訴部分は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、右に判示したところによれば、被上告人らの請求はいずれも理由がないから、右部分につき第一審判決を取り消して、被上告人らの請求をいずれも棄却することとする。

よって、判示一について裁判官遠藤光男の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

判示一についての裁判官遠藤光男の反対意見は、次のとおりである。

原判決は、本件接見(1)及び(2)につき接見時間を三〇分以内に制限した処分、本件接見(3)につき刑務所職員の立会いを条件とした処分を違法と判断したが、私は、多数意見とはその見解を異にし、原判決の右判断はいずれも是認することができると考える。

一  受刑者と受刑者を当事者とする民事訴訟事件関係人、とりわけ当該事件の訴訟代理人である弁護士との接見については、受刑者の管理に当たる刑務所長は、右接見目的の重要性にかんがみ、監獄法及び規則が定める接見条件を解除するか否かについての裁量権の行使に当たって、右接見の必要性を十分考慮すべきであり、刑務所長が裁量権を逸脱し、又は濫用してその解除を認めなかった場合には当該処分の違法性が認められることについては、平成一〇年(オ)第五二八号事件の判決中の私の反対意見において述べたとおりである。

二  原審が適法に確定した事実関係及び記録によれば、被上告人木下らは、本件接見(1)及び(2)についての面会許可申請書において、その面会事由として、本件接見(1)の面会日(平成二年一一月七日)の二週間後及び本件接見(2)の面会日(同月二〇日)の翌日である同月二一日に徳島刑務所内で行われる予定の大阪事件の原告(被上告人甲野)本人尋問の準備のため本件接見(1)につき六〇分、本件接見(2)につき二時間の接見を求め、特に本件接見(2)の面会許可申請書においては、右本人尋問の主尋問予定時間が一時間三〇分であり、その準備のため最低二時間が必要である旨が記載されていることが認められる。

大阪事件は、被上告人甲野が徳島刑務所に移監される前に拘禁されていた大阪拘置所において重篤な疾病が疑われる様々の病状が現われていたのに、精密検査を受診させなかったことなどが違法であるとして国家賠償を求めた事件であるが、事件の性質上、本件尋問の準備のため相当の打合せ時間を必要としたであろうことは容易に推測されるところである。

被上告人木下らは本件接見(1)より前にすでに数回にわたり被上告人甲野との接見を重ねていることが認められるが、相手方当事者である国側が被上告人甲野の主張を全面的に争っている以上、右本人尋問の際しては、争点の一つ一つにつき本人の記憶喚起を求めながら克明にこれを供述させていかなければならず、過去の打合せが直ちにこれに役立つものとは限らない。また、要領の良い本人尋問にまとめ上げるためには、一問一答のリハーサルを繰り返しながら慎重にこれを整理していく必要がある。これらの点を考慮すると、主尋問のみでおよそ一時間三〇分程度の時間が予想される場合、その打合せのためにその二倍程度の接見を求めることは決して不合理なものとは考えられない。

現に、同事件についての原告本人尋問調書を見てみると、同調書は速記録として五二丁(一〇四頁)にわたる膨大なものとしてまとめられており、このうち主尋問に関する部分が三九丁(七八頁)に達しているが、右調書内容によると、現実に行われた原告本人尋問は、主尋問に関する部分だけでも優に一時間三〇分程度に達していたことが推認されるのである。そうだとすると、本件接見(1)及び(2)については、少なくとも一回の打合せにつき三〇分以上の時間が必要であったことが認められるから、本件接見(1)及び(2)につき接見時間を三〇分以内に制限した処分を違法とした原審の判断は是認することができるものというべきである。

多数意見は、(一) すでに複数回の接見の機会が与えられていたこと、(二)信書によってその打合せも可能であったことがうかがわれること、(三) 他の受刑者との間の処遇上の公平を考慮しなければならないこと、(四) 他の受刑者から同様の接見を求められたとすると、接見業務に支障が生じ、施設内の規律及び秩序を害するおそれがあること、などを理由として、本件接見(1)および(2)につき接見時間を制限した所長の処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえないとするが、前記理由は、必ずしも正鵠を得たものではないように思われる。けだし、(一) 前述のとおり、過去の打合せをもって十分とすることはできないこと、(二) 微妙な点にわたる打合せは、信書の交換等により代え得るものではないこと、(三) 受刑者を当事者とする民事訴訟事件が明らかに濫訴と認められる場合はともかくとして、通常の民事訴訟事件が係属している場合には、実質上公正な裁判を受ける権利を担保する趣旨からみて、一般受刑者との間に多少の処遇上の較差が生じることはやむを得ないものであること、(四) 記録によると、本件訴えが提起されて以来、徳島刑務所は、被上告人甲野と同人を当事者とする民事訴訟事件の代理人弁護士との接見条件の解除につき、かなり弾力的にこれを運用するようになり、一箇月につき五回以上の接見又は一時間を超える接見を認めたことがそれぞれ数回に達していることが認められるが、このような運用が現実にされていることからみても、右接見が接見業務や施設内の規律及び秩序保持に重大な支障を与えているとは考えられないこと、などが挙げられるからである。

三  次に、原審の適法に確定した事実関係によると、被上告人木下らは、本件接見(3)についての面会許可申請書に、その面会事由として、徳島事件についての被上告人甲野の在監経過等事実調査及び打合せのためである旨を記載するとともに、右訴訟事件が徳島刑務所内における被上告人甲野の処遇を訴訟対象としている事件であるので、同事件の実質上の当事者である同刑務所関係者の立会いがないよう求めてきたことが認められる。

徳島事件は、被上告人甲野が徳島刑務所に収監された平成二年四月から同年七月に至るまでの約三箇月の間、同刑務所職員から多数回にわたり殴る、蹴る、頭突きをされる、顔面や首、背部腰部等をコンクリート壁に押しつけられる等の暴行を加えられたことを請求原因とする国家賠償請求事件であるから、実質上の被告は徳島刑務所自身とみてよい。いかに、受刑者がその身柄を拘束されている目的及び行刑施設としての物的、人的制約等を考慮しなければならないとしても、このような事件についての打合せを実質上の相手方当事者ともいうべき徳島刑務所の職員の監視の下で行わせるということは、誰の目から見ても余りにも不公平であることは明らかであり、これを容認するとすれば、公正な裁判を受けさせるという理念は完全に没却されてしまうことになる。したがって、本件接見(3)につき刑務所職員の立会いを必要とした所長の処分を違法とした原審の判断は十分是認することができるものというべきである。

多数意見は、被上告人甲野の性向、行状等にかんがみ、接見時における不測の事故を防止し、あるいは、被上告人甲野の動静を把握してその処遇に資するため、刑務所職員を接見に立ち会わせる必要性が特に大きかったことを理由として前記処分の裁量権逸脱等の違法がなかったとするが、そうだとしても、監視のみを可能とし、かつ、接見内容の聴取を不能とするような施設を設置することによってこれらの要請に対応することもできたはずであるから、必ずしも決定的理由とはなり得ないものと考える。

以上のとおり、右の各点に関する原判決の判断はいずれも是認することができるので、右部分に関する上告は棄却されるべきである。

(裁判長裁判官大出峻郎 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄 裁判官町田顯)

上告代理人細川清、同河村吉晃、同石井忠雄、同内田博久、同西田俊一、同前田幸子、同山本和郎、同川西克憲、同林原信介、同宮川隆充、同後田雅弘の上告理由

<省略>

第二 監獄法施行規則一二四条及び一二七条三項並びに国家賠償法一条一項の違法についての解釈適用の誤り(第一ないし第三事実について)

一 原判決の判断

原判決は、受刑者とその民事事件の訴訟代理人である弁護士との接見について、原則として許されるべきであるとした上、その接見時間に関し、「当該事件の進捗状況及び準備を必要とする打合せの内容からみて、具体的に三〇分以上の打合せ時間が必要と認められる場合には、相当と認められる範囲で時間制限を緩和した接見が認められるべきであ」(原判決二五ぺージ一行目から四行目)り、さらに、「接見を必要とする打合せの内容が当該刑務所における処遇等の事実関係にわたり、刑務所職員の立会いがあって会話を聴取している状態では十分な打合せができないと認められる場合には、その範囲で刑務所職員の立会いなしでの接見が認められるべきである。従って、三〇分以上の打合せ時間の具体的必要性が認められる場合に、相当と認められる範囲で接見時間の制限を緩和しなかったとき、また、接見を必要とする打合せの内容が当該刑務所における処遇等の事実関係にわたり、刑務所職員の立会いがあっては十分な打合せができないと認められる場合に、刑務所職員の立会いなしの接見を認めなかったときは、裁量権の行使を逸脱ないし濫用したものと解するのが相当である。」(原判決二六ページ一行目から一〇行目)と判示する。

以上のように、原判決は、接見時間に関しては、三〇分以上の打合せ事件が必要と認められる場合には相当な範囲で制限を緩和することを刑務所長に義務付け、また、刑務所職員の立会いについても、接見を必要とする打合せの内容が当該刑務所における処遇等の事実関係にわたり刑務所職員の立会いがあっては十分な打合せができないと認められる場合には、立会いなしの接見を認めることを義務付けるものであって、かかる場合に制限の緩和を認めなかったときには、直ちに裁量権の逸脱ないし濫用となるとの基準を示し、この基準に基づいて第一ないし第三事実を検討し、徳島刑務所長の行為は違法であるとしたものである。

二 原判決の法令解釈の誤り

1 監獄法四五条一項は、「在監者ニ接見センコトヲ請フ者アルトキハ之ヲ許ス」と規定するが、同条二項本文は、「受刑者……ニハ其親族ニ非サル者ト接見ヲ為サシムルコトヲ得ス」と規定し、受刑者については、原則的には相手方や必要性等のいかんを問わずに接見が許される未決拘禁者とは異なり、親族以外の者との接見を原則として禁止した上、そのただし書において、「特ニ必要アリト認ムル場合ハ此限ニ在ラス」として、例外的に特に必要ある場合にこの禁止を解除できるものとしている。

また、同法五〇条の委任を受けた同法施行規則一二一条は、「接見ノ時間ハ三十分以内トス」と定め、同百二十四条は、刑務所長が「処遇上其他必要アリト認ムルトキ」にのみ例外的にそれ以上の接見を許すことができるものと定めている。

さらに、同規則一二七条一項は、「接見ニハ監獄官吏之ニ立会フ可シ」として接見には職員が立ち会わなければならない旨規定し、同条三項で刑務所長が「教化上其他必要アリト認ムルトキ」には立ち会わないことができると定めている。

このように、法は、①受刑者と親族以外の者との接見が許される場合でも、接見時間は原則として三〇分以内とし、かつ、刑務所職員が立ち会わなければならないとした上、②例外的に必要性が認められる場合にのみ、かかる接見時間の制限を緩和し、職員の立会いを付さないことができるとしている。

そして、このような例外を認めるための要件である「処遇上其他必要アリト認ムルトキ」(監獄法施行規則一二四条)、「教化上其他必要アリト認ムルトキ」(同一二七条三項)に当たるか否かの判断は、「所長ニ於テ……必要アリト認ムルトキ」との文言及び事柄の性質上、刑の執行の任に当たる刑務所長において、かかる例外を認めるべき受刑者側の要請とともに、犯罪への応報、受刑者の改善・更生といった懲役刑の制度目的の実現や、刑務所内部の秩序維持、管理運営上の制約等諸般の事情を総合考慮したなされるべきものである。

しかして、このような刑務所長のする判断の内容及び右監獄法施行規則の規定振りからすれば、刑務所長の前記例外的な許可をすべきか否かの判断は、施設の実情及び受刑者の処遇に精通し、直接その任に当たる刑務所長の専門的・技術的裁量にゆだねられていると解される。

そして、受刑者がその民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見をするに当たり、その接見目的、打合せの内容等受刑者側の事情が、監獄法施行規則一二四条あるいは同一二七条三項の「必要アリト認ムルトキ」に当たるかどうかを判断する際に考慮される重要な事情であることを否定することはできない。しかし、右事情があるからといって、その一事をもって直ちに「必要アリト認ムルトキ」に当たるものと解するのでは、「処遇上」(同一二四条)あるいは「教化上」(同一二七条三項)の必要性が判断事情とされている文理を無視することになる。

したがって、前記のような諸般の事情を総合的に考慮して右「必要アリト認ムルトキ」に当たるか否かを判断すべきである。そして、このようにしてされた判断については、右判断の基礎となる事実の認識に誤りがなく、その判断に合理性が認められる以上は適法なものとして是認されるべきである(東京高裁平成五年七月二一日判決・判例時報一四七〇号七一ページ、東京高裁昭和六三年二月一九日決定・判例タイムズ六八〇号二三五ページ、東京地裁昭和五〇年三月二五日判決・判例時報七八八号四一ページ)。

しかるに、原判決は、民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見については、刑務所長の有する裁量の範囲を極めて限定的なものとし、受刑者の事情のみで必要性の存否を判断すべきであると解したものであって、法令の解釈を誤ったものであることが明らかである。

<省略>

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