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最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)3011号 判決 1950年7月19日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人坂井一治の上告趣意、並びに弁護人杉崎安夫の上告趣意第一点について。

(一)憲法三五条は個人の住居、書類、及び所持品について濫に侵入、捜索、押収を受けることのない権利を保証し、捜索又は押収をするには正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する裁判官の令状を必要とする趣旨を宣明した規定であって、適法な令状によって押収した物件の換価その他の処分について規定したものではない。また捜索及び押収について裁判官の令状を要件としていることから押収物の換価処分は検事又は司法警察官には全く許されないものであって必らず裁判所のなすべきものであると解しなければならない理由もない。それゆえ押収した物件の換価処分を規定した旧刑訴一六五条の規定を同一七四条で検事又は司法警察官の為す押収に準用し、検事又は司法警察官も亦押収物の換価処分をができるとしても前記憲法の規定に違反するものではない。然らば右旧刑訴の規定が違憲であるとの論旨及び押収物の換価処分は裁判所でなければできないと主張する論旨はいずれも理由がない。

(二)本件において捜索、差押はそれぞれ適法な裁判官の臨検捜索許可状(記録第三八丁)並びに差押許可状(記録第四〇丁)によってなされているのである。そして本件記録に存する捜索差押書(記録第六九丁)には、経済調査官下奈志武雄と札幌市警察署巡査坂井仁が共に署名捺印しているのであって、札幌地方裁判所判事矢吹幸太郎の許可状により警察官吏坂井仁を同行して本件物件を差押えた旨を記載してある。ところで経済調査庁法二〇条第五項によると経済調査官が裁判官の許可状に基き調査をするときは許可状の執行に従い且つ差押及び身体についての捜索をする所轄警察官又は警察吏員を同行しなければならないのであり、またその六項によると差押と身体についての捜索は警察官又は警察吏員に限りこれをすることができるのであって、本件における差押は右規定に従い同行した警察吏員坂井仁がしたものであることが前示捜索差押書の記載から認めることができるのである。また本件記録に存する買上書(記録第七三丁)によれば、本件物件は司法警察官たる札幌警察署長が換価処分をしたことが認められるのであるから、本件差押及び換価処分は共に適法である。

(三)本件押収物は被告人の犯罪行為を組成した物であるから、そのうち被告人の所有に属する物はこれを没収することができるのである。そして本件押収物が適法に換価され金銭に代わった場合には右換価金のうち何れが被告人の所有物を買った分であるかは不明であるがその割合は判明しているのであるから、その割合に相当する金額を没収することは適法であって何等違法とはいえない。

弁護人杉崎安夫の上告趣意第二点について。

原判決は被告人がゴム長靴を統制額を超えて販売する目的で即ち物価統制令第三条に違反して取引する目的で所持した事実を確定しこれに同令一三条の二を適用処断しているのであって、その販売せんとした価格は一足一、二〇〇円以上というのであるから、ゴム長靴の卸売統制額をも小売統制額をも遥に超過した額である。従って本件を物価統制令一三条の二違反の罪に問擬するにあたって被告人の販売せんとした価格が卸売か小売かを確定する必要もなく、またその統制額を判示する必要もないのであるから、原判決には所論の如き審理不尽その他の違法があるとはいえない。論旨はその理由がない。

よって旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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