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旭川地方裁判所 昭和34年(む)152号 判決 1959年6月04日

被告人 河合信雄

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する恐喝未遂被告事件について稚内簡易裁判所裁判官斎藤幸作のなした保釈請求却下決定に対し弁護人金森健二から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

本件準抗告申立の趣旨及び理由は右弁護人の準抗告申立書記載のとおりであるからこれをここに引用する。

当裁判所は勾留関係書類及び捜査記録を検討して次のとおり判断する。

一、弁護人は右保釈申請却下決定は第一に刑事訴訟法第八十九条第四号を理由としているが、本件は恐喝未遂の事案であり、今日既に捜査による証拠の蒐集を終り、これによつて明らかな如く、被告人は本件事実を一切認めており、もはや罪証を隠滅すべき何物もなく、その虞のないものであるというのであるが、被告人の検察官に対する供述調書、被疑者陳述録取調書等によれば、被告人は右事実に対し、被害者に財産交付の要求をしたことは認めているが、右について暴行、脅迫等の害悪を告知したことを否認しているのみでなく、本件と深い関連のある四名の相被告人の集団暴行事件について多数関係者があり、その犯罪の態様は複雑で、各被告人の行動、犯罪の全体的な状況把握は詳細な調査、審理を必要とし、このため証拠の保全につき万全を期さねば審理に著しい支障を招くのに対し、被告人は相被告人等と深い関係をもち、これらに対し、又本件関係者に対し事実上強い支配と影響を及ぼし得る立場にあることが一件記録上推認され、被告人に自由な行動を許すとすれば右影響、支配を利用して自己の犯罪事実のみでなく、これと関連のある被告事件についても不正に証拠に変更を加え、これを隠滅する虞は多大であるといわねばならない。よつて弁護人の主張は採用できない。

二、次に弁護人は前記保釈申請却下決定は同条第五号を理由としているが、被告人は現在まで終始稚内市内に居住し、同地の学校をおえ、同市に土地を所有し、妻、母親と生活し、親類も多く同市内に居住しておりか様な環境の下にあつて、同号所定のようないわゆる御礼参りの虞はあり得ないというのであるが、右の様な環境にあるからといつて直ちに弁護人主張の様に解されるものでなく、被告人は現在北都興業社と称する事業のマネージヤーをつとめているが、被害者伊藤儀郎の司法警察員に対する供述調書(告訴調書)等によれば、右興業社なるものは被告人及び相被告人小野寺正則、斎藤滸等のいわゆるぐれん隊によつて組織されたもので、被害者等関係業者に対し、その資金と称して再三多額の出損を要求し、これに応じないときはその多数配下を利用して客にいいがかりをつけ、器物を毀棄する等してその営業を妨害し脅迫に類する行為をなして司法警察職員に通報されることをも意に介しない言動を見せていることが推認されると共に、被告人は既に賍物寄蔵、窃盗などの罪を重ね、服役した経験をもつこと等の事情を考慮すれば、被告人は同条第五号所定の事由のあることは明らかであり、右条項はまさにかかる場合に対処するため設けられたものに外ならない。

従つて、この点についての弁護人の主張は全く理由がない。

三、なお、弁護人は本件第一回公判期日の追つて指定と(事実上一応昭和三十四年七月一日と予定)されており、約三月一度の公判も受けることなく、不当に長く勾留されており、この点からも当然保釈は許さるべきであると述べるが、本件事案及び捜査、審理の経過に照らすときは右勾留を以て、拘禁が不当に長くなつたものとはとうてい認められない。

四、加えて弁護人は、被告人が盲腸炎のため昭和三十四年四月五日稚内市立病院に入院の上開腹手術を受け同年五月九日退院し、現在なお慢性胃炎の症状を呈しているにかかわらず、退院後直に収監することは基本的人権を侵すものであるから保釈を許すべきであると主張するようであるが、検察事務官作成の同病院岩川医師に対する電話聴取書によれば被告人の場合手術後の経過は良好であり、一週間前後で全治し、特にそれ以上の療養は必要ない旨診断され、上記慢性胃炎についても、検察事務官作成の同病院園部医師に対する電話聴取書によれば特に通院を要するものでなく勾留にたえうる旨述べ、かような身体状況にある被告人の勾留を継続することは何等基本的人権を侵すものでないことはいうまでもない。

以上のとおりであつて、弁護人の主張はいずれも理由のないことに帰し、弁護人の保釈請求を却下した原決定は正当であるからこれが取消並びに保釈許可を求める本件申立は棄却さるべきである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 星宮克己 田中栄司 渡辺卓哉)

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