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旭川地方裁判所 昭和33年(モ)19号 判決 1958年3月28日

債権者 赤坂正夫 外二名

債務者 旭川小型タクシー株式会社

主文

債権者らと債務者との間の昭和三二年(ヨ)第一三六号仮処分申請事件について、当裁判所が昭和三二年一二月二八日にした仮処分決定は、これを認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

債権者ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その理由としてつぎのとおり陳述した。

債権者赤坂正夫は、昭和三〇年一一月一二日債務者に雇傭せられ、昭和三〇年一二月一〇日から配車係として旅客自動車の配車事務を担当してきたもの、債権者小森直己は、昭和二七年七月六日債務者に雇傭せられ、昭和二八年五月一日から運転手として旅客自動車の運転事務を担当してきたもの、債権者藤村昇は、昭和二八年一一月七日債務者に雇傭せられ、同日から配車係として旅客自動車の配車事務を担当してきたものである。

そして、債権者らは、債務者の従業員で組織する申請外旭川小型タクシー労働組合(昭和三〇、二、四設立)(以下組合という)の組合員であつた。ところが、組合は昭和三二年一一月一五日の大会で債権者らを除名し、債務者は、組合との間に昭和三一年九月一四日に締結した労働協約第三条の「会社の従業員はすべて組合員でなければならない。会社は組合を除名されたものは解雇する。」との定めによつて、昭和三二年一二月二日債権者らに対し、昭和三二年一一月一六日にさかのぼつて解雇する旨の意思表示をした。しかし、昭和三二年一一月一五日の組合大会での債権者らの除名は、つぎの理由によつて無効である。すなわち、(一)組合の規約によると、組合員の除名は大会で決めなければならず(第一一条八号)、大会は組合員の三分の二以上(委任を含む)の出席をもつて成立し、議決は成立人員の過半数をもつて決定する(第一〇条)との定めである。しかるに、右大会は、当時の組合員四一名の三分の二すなわち二八名以上が出席しなければ成立しないところ、二一名しか出席していないから、定足数を欠き大会は成立していない。しかも、大会招集の通知は組合員全員に対してしなければならないのに、組合員六名に対しては、その通知をせず、かつ、大会招集の通知には債権者らの除名の件を議案とすることを明らかにしなければならないのに、これを明らかにしなかつた。したがつて、右大会での債権者らの除名決議は無効である。(二)組合員を除名するには、条理上、除名される組合員に対し、大会で一身上の弁明をする機会を与えなければならない。しかるに、債権者らに対し、右大会で一身上の弁明をする機会を与えなかつた。したがつて、組合の除名手続は条理に反する無効のものである。(三)組合の債権者らに対する除名通告書によると、組合規約第二五条(組合員で組合規約に反し義務を怠り組合の名誉を傷つけ組合員の体面をけがし、又は組合に重大なる損害を与えたものは別に決める懲罰規則により処罰することがある)によつて債権者らを除名したというのである。しかし、組合は「別に決める懲罰規則」をいまだ決めていないから、組合規約第二五条により組合員を除名することができない。したがつて、組合規約第二五条に基く債権者らの除名手続は無効である。(四)かりに、懲罰規則の定がなくても、組合員を除名できうるとしても、債権者らは組合規約第二五条に該当する行為をしていない。したがつて、組合の債権者らに対する除名は、除名権の濫用であつて無効である。したがつて無効な除名を前提とする債務者のした債権者らの解雇も無効といわなければならない。

以上のとおりであるから、債権者らは、債務者に対し、債権者らに対する前記解雇が無効であることの確認を求めるため、本案訴訟を提起するとともに、債権者らは債務者から支払われる給料のみによつて生活を維持してきたものであり、解雇せられた現在無収入であつて最低限度の生活を維持することも困難で本案判決の確定をまつていては回復できない損害を受けるので、「債務者が債権者らに対し、昭和三二年一一月一六日付をもつてした解雇の効力を停止する」旨の仮処分命令を求める次第であり、さきにこの申請を容れてなされた、その旨の主文第一項表示の仮処分決定は、これを認可せらるべきものである。

債務者の主張に対し、「組合の昭和三二年一一月一五日の大会で、他の組合員から大会で組合員として一切の権利を行使する代理権を授与された組合員が、委任状等によりその代理権限を証明しなかつたから、委任代理による出席者は認められない。」と述べた。

債務者訴訟代理人は、「債権者らと債務者との間の昭和三二年(ヨ)第一三六号仮処分申請事件について、当裁判所が昭和三二年一二月二八日にした仮処分決定は、これを取消す。債権者らの本件仮処分申請を却下する。」との判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。

債権者らが、その主張の日時に債務者に雇傭せられ、その主張の日時からその主張の事務を担当してきたこと、債権者らが債務者の従業員で組織する申請外小型タクシー労働組合の組合員であつたこと、組合が昭和三二年一一月一五日の大会で債権者らを除名したこと、債務者が組合との間に昭和三一年九月一四日に締結した労働協約第三条によつて、昭和三二年一二月二日債権者らに対し、昭和三二年一一月一六日にさかのぼつて解雇する旨の意思表示をしたことは、いずれもこれを認めるが、その余の債権者ら主張の事実を否認する。昭和三二年一一月一五日の組合大会当時の組合員は四〇名であり、大会の出席者(委任を含む)は二九名である。(疎明省略)

理由

債権者赤坂正夫が、昭和三〇年一一月一二日債務者に雇傭せられ、昭和三〇年一二月一〇日から配車係として旅客自動車の配車事務を担当してきたこと、債権者小森直己が、昭和二七年七月六日債務者に雇傭せられ、昭和二八年五月一日から運転手として旅客自動車の運転事務を担当してきたこと、債権者藤村昇が、昭和二八年一一月七日債務者に雇傭せられ、同日から配車係として旅客自動車の配車事務を担当してきたこと、債権者らが債務者の従業員で組織する申請外旭川小型タクシー労働組合(昭和三〇、二、四設立)(以下組合という)の組合員であつたところ、昭和三二年一一月一五日の組合大会で債権者ら三名を除名する旨決議されたことは、いずれも当事者間に争がない。

債権者らは、昭和三二年一一月一五日の組合大会での債権者らの除名は無効であると主張するので、まず、この点について考えてみる。

(一)成立に争いのない甲第一号証、同第三号証、証人佐々木三千夫の証言によつて成立を認められる乙第六号証、同証人および証人遠藤芳男、同大平悦久の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、組合規約に組合員の除名は大会で決めなければならず(第一一条第八号)、大会は組合員の三分の二以上(委任を含む)の出席をもつて成立し、議決は成立人員の過平数をもつて決定する(第一〇条)との定めがあり、右大会当時の組合員は四〇名で、その三分の二以上にあたる二九名(委任を含む。なお、受任者は大会で口頭または書面で代理権限あることを明らかにした。)が出席して大会が成立したこと、又組合規約によれば、大会は執行委員長が招集する(第一〇条第一五条第一号)との定めがあるが、その招集手続について、なんらの定めがなく、従来組合員に対する大会招集の通知は、大会の約二日まえごろに会社の運転手控室の掲示板(組合員が会社に出勤したとき、すぐ目につくところにある。)に掲示して行つたので該慣行にしたがつて右大会も当時書記長であつた佐々木三千夫が昭和三二年一一月一三日午後四時ごろ、右掲示板に「今般一一月一五日第四回臨時大会を労働会館において開きます。議題三名(赤坂、藤村、小森)に関して全員は午後三時までに労働会館に集合して下さい。」と掲示して組合員に対し大会招集の通知をしたことが、疎明せられるので大会は一応瑕疵なく成立したものということができる。しかも、大会招集の通知に代る前示掲示には右認定のとおり一応議案も記載せられていたのであるからして、大会招集の通知には議案を明らかにすべき旨の組合規約もない本件においては議案を明確に表示しなかつたからといつて大会が成立しないとはいえない。(二)債権者らは、大会で一身上の弁明をする機会を与えられなかつたから、組合の除名手続が条理に反して無効であると主張する。しかし、除名されるものに大会で一身上の弁明をする機会を与えることは望ましいことであるが、その機会を与えなかつたからといつて、その除名手続を無効とする条理があるとはいえないから、債権者らの右主張を採用しない。(三)成立に争のない甲第一、三号証、および証人大平悦久の証言を総合すると、組合は、債権者らの行為が組合規約第二五条の「組合員で組合規約に反し義務を怠り組合の名誉を傷つけ組合員の体面をけがし又は組合に重大なる損害を与えたもの」に該当するものであるとして、組合規約第一一条第八号に定める手続によつて債権者らを除名したものであることが、疎明せられる。したがつて、組合規約第二五条に定める「別に決める懲罰規則」が定められず、したがつて同規則によらない除名手続は無効であるとの債権者らの主張も採用できない。(四)証人大平悦久の証言によつて成立を認められる乙第二、五号証、成立に争のない乙第三号証、および証人高崎正、同大平悦久の各証言ならびに債権者三名本人尋問の結果を総合すると、組合が昭和三二年九月二日組合員斎藤某をかるがるしく除名したことに対し、組合ことにその執行部の慎重さを欠く態度に平素から批判的であつたもと組合副執行委員長債権者藤村昇、もと組合書記長債権者赤坂正夫、もと組合執行委員債権者小森直己は、組合の現状に不満を感じていたところ、同じ考えをいだく高崎正の誘に応じ昭和三二年一〇月ごろから数回高崎正宅等で会合し、債権者らが主張するように組合の民主化についてであるか、はたまた証人大平悦久の供述するように第二組合結成のためかはともかくとして少くとも組合のあり方について協議したことが疎明せられる。しかし組合においては債権者らの右行為が前示組合規約第二五条に当るとして前述のとおり組合大会において債権者ら三名を除名したため、債務者が組合との間に昭和三一年九月一四日締結した労働協約第三条の「会社の従業員はすべて組合員でなければならない。会社は組合を除名されたものは解雇する。」との定めによつて、昭和三二年一二月二日債権者らに対し、昭和三二年一一月一六日にさかのぼつて解雇する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争がないところであるからして、債務者がした債権者ら三名の解雇は組合の債権者らの除名が一に有効かどうかに掛つているものということができる。

しかるところ債権者三名本人尋問の結果と弁論の全趣旨とを総合すると、債権者らは債務者から支払われる給料のみによつて生活を維持しているものであることが疎明せられるので、いまもし債権者らが失職し収入の道を絶たれるにおいては人道上由々しき事態の惹起をも懸念せられない訳ではないから、現状維持の建前から本案判決(旭川地方裁判所昭和三三年(ワ)第一〇七号解雇無効確認請求事件として係属審理中なることは当裁判所に顕著なところである)確定まで本件仮処分決定を維持するのを相当とする。

よつて、当裁判所が昭和三二年一二月二八日にした仮処分決定を認可し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 猪瀬一郎 村瀬泰三 竹田国雄)

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