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新潟地方裁判所長岡支部 昭和42年(ワ)134号 判決 1970年2月19日

原告 国

訴訟代理人 林倫正 外六名

被告 須田要一 外一一名

主文

一、原告に対し、

(1)被告須田要一は金六二万四二二三円及びこれに対する昭和四〇年七月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を

(2)被告佐藤佐平次は金六八万四八九四円及びこれに対する同年同月同日から支払済まで年五分の割合による金員を

(3)被告村竹春芳は金二九万八七〇七円及びこれに対する同年同月同日から支払済まで年五分の割合による金員を

(4)被告井上庸二は金三〇万九八一一円及びこれに対する同年同月同日から支払済まで年五分の割合による金員を

(5)被告村竹久男は金二九万二五三一円及びこれに対する同年同月同日から支払済まで年五分の割合による金員を

(6)被告森山清作は金四二万六一五三円及びこれに対する同年同月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を

(7)被告須田清吾は金一七万四八〇円及びこれに対する同年同月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を

(8)被告田中辰三郎は金七万七五六五円及びこれに対する同年同月同日から支払済まで年五分の割合による金員を

(9)被告八木伊三郎は金二一万七四七二円及びこれに対する同年同月同日から支払済まで年五分の割合による金員を

(10)被告八木企義は金一五万一八六九円及びこれに対する同年同月同日から支払済まで年五分の割合による金員を

(11)被告中林保夫は金九万九四七円及びこれに対する同年同月同日から支払済まで年五分の割合による金員を

(12)被告中林弘介は金六七万九三一四円及びこれに対する同年同月同日から支払済まで年五分の割合による金員を

各支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告等の負担とする。

四、この判決は仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求める裁判

原告

「被告等は原告に対し、別紙第一記載の金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする、」との判決並びに仮執行宣言。

被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求原因

(一)原告(所管建設省北陸地方建設局)は、昭和三四年頃から、一級国道一七号線の改築及び修繕工事を施行したが、同工事の施行の障害となる物件につき、その所有者と物件移転等の補償契約を締結のうえ、当該物件を移転させて工事を進めていた。

(二)(1)訴外井上永松(以下訴外井上という)及び同星野永一(以下訴外星野という)は、別紙第二の(一)記載のとおり、同別紙当事者名欄記載の被告等及び訴外人等の氏名を使用し、右同人等を各甲とし、分任支出負担行為担当官北陸地方建設局(以下北陸地建という)上越国道工事事務所(以下工事事務所という)長外内孝を乙として右甲乙間に、昭和三九年七月一〇日(但し、吉田長司の分は同年八月七日)、甲等は、同別紙(一)各当事者名下の所有物件等を同年一〇月一〇日までに曳去移転(但し、吉田長司分は同年一一月六日までに解体移転)し、乙はこれに要する工事費その他一切の補償として同別紙(一)各当事者名下の補償金額を甲等に支払うものとする、旨の契約(以下別紙第二(一)の補償契約という)を締結した。然し、右契約は、右訴外井上及び同星野が、同別紙当事者名欄記載者等の氏名を代理権限なくして使用したものであつて無効である。

(2)仮にそうでないとすれば、同別紙第二の(一)当事者名欄記載の被告等及び訴外人と工事事務所長の間には、前記別紙第二(一)の補償契約は成立していない。

(三)(1)別紙第二(二)記載の被告等は、昭和三九年四月頃(被告須田要一については昭和三八年六月ないし七月頃)、同別紙代理人名欄記載の訴外井上または訴外星野に対し、原告との間の後記補償契約締結の各代理権を、訴外掘之内町農業協同組合(代表者組合長理事下村正文、以下堀之内農協という)に対し原告から被告等に支払われる補償金の各受領権限を、それぞれ授与した。

右代理人たる訴外井上及び同星野は、別紙第二(二)被告欄記載の各被告を甲とし、工事事務所長外内孝を乙として、右両者間において昭和三九年七月一〇日(但し、被告須田要一とは同年八月一七日)、被告等は同別紙(二)各被告名下の所有物件等を同年一〇月一〇日(但し、須田要一については同年一一月一六日)までに同別紙(二)各指定工法により移転等をなし、右工事事務所長はこれに要する工事費その他一切の補償として各被告名下の補償金額を同人等に支払うという旨の物件移転補償契約(以下別紙第二(二)の補償契約という)を締結した。

(2)仮に、右被告等が訴外井上又は訴外星野に別紙第二(二)の補償契約締結の代理権を授与した事実がないとしても、被告等は、昭和三九年三、四月頃、堀之内町役場において、訴外向田孝一を通じて、原告に対し、右契約締結の代理権を右訴外人等に授与した旨表示し、原告はこれを信じて右補償契約を締結したものである。

(3)仮に、右事実が認められないとすれば、同別紙第二(二)の被告等と工事事務所長との間に同別紙第二(二)の補償契約は成立していない。

(四)別紙第二(三)記載の被告八木企義、同中林保夫及び同中林弘介と工事事務所長との間には、いかなる形式であれ物件移転補償契約がなされたことはない。

(五)原告は、前記(二)及び(三)記載の契約が有効に成立したものと信じて別紙第二の(一)及び(二)記載の各補償金額を堀之内農協を通じて支出をしたが、被告等は、右金額のうちから別紙第二(三)記載のとおり各自受領している。即ち、別紙第二(二)記載の被告等は同表記載の正当な補償金額を超えて受領している金額を、その余の被告等は受領金全額を、それぞれ法律上取得すべき原因がないのに利得し、原告は同額の損害を蒙つている。

(六)被告等は、前記各不当利得金を法律上の原因なくして取得したものであることを知つていた。即ち、別紙第二(一)記載の被告等並びに同(三)記載の被告八木企義、同中林保夫及び同中林弘介は勿論当初から悪意であり、別紙第二(二)の被告等についても、補償金の受領権限を堀之内農協に委任する際、その委任状に正当な補償金額が明示されていたのであるから、右被告等は正当な補償金額の範囲を知つていたものである。また、補償金の受領権者であつた堀之内農協においても右の事情は熟知していた。

(七)従つて、被告等は原告に対し、別紙第二(三)記載の受領年月日から、前記各不当利得金に対して、民法所定年五分の割合による利息を支払う義務がある。

(八)ところで、前記のように、工事事務所長と別紙第二(一)の被告等間における同別紙物件移転補償契約は無効又は不成立であり、工事事務所長と同別紙(三)の被告八木企義及び中林保夫間には何等の物件移転補償契約もなされていないが、前記国道一七号線の改築及び修繕工事施行に伴い、森山清作は五万九〇七二円、須田清吾は二万三六一〇円、田中辰三郎は一万九四八〇円、八木伊三郎は七万三六六三円、八木企義は二三万六三一一円、中林保夫は五万四六二〇円各相当の損害を蒙つた(被告中林弘介は無し)。

従つて、原告は、別紙第二(二)記載の被告等に対しては前記不当利得返還請求債権中別紙第記載の請求金額欄記載の金額の範囲内で、その余の被告等に対しては、前記不当利得返還請求債権から前記の各損害額を控除し別紙第一記載の請求金額欄記載の金員の、各支払いを求める。

三、被告等の答弁及び抗弁

(一)請求原因中、(一)の事実は認める。同(二)(1) の事実中、工事事務所長と別紙第二(一)記載の被告等及び訴外人等の代理人と称する訴外井上及び同星野との間に、原告主張のような物件移転補償契約が締結されたことは不知、右訴外井上及び同星野が同別紙(一)の被告等から代理権を授与されておらず、従つて代理権を有していなかつたことは認める。同(二)(2) は認める。同(三)(1) は否認する。別紙第二(二)の被告等が工事事務所長との間の契約締結の代理権を授与した相手は、訴外堀之内町(町長森山政吉)であつて、原告主張の訴外井上及び同星野ではない。また、同被告等が工事事務所長との間で締結した補償契約は、原告主張の契約とは異る全く別個の補償契約であつて、その内容は後述三(二)(2) 記載のとおりである。同請求原因(三)(2) の事実は否認する。同(三)(3) は認める。同(四)は認める。但し、被告八木企義、同中林保夫及び同中林弘介と工事事務所長との間には後述三(二)(2) 記載の補償契約が締結されたものである。同(五)中、被告等が、堀之内農協を通じて原告主張の各金員を受領していることは認めるが、その余の点は否認する。被告等は、後述のとおり、原告主張の補償契約とは別個の原告との間の正当な補償契約に基いて右各金員を受領しているものであつて、被告等の右金員の取得と原告主張の原因との間に、因果関係はない。同(六)及び(七)の点は否認する。同(八)中、原告主張の国道工事により、その主張の被告等が、少くとも原告主張のような損害を蒙つたことは認めるが、その余の点は争う。

(二)(1)仮に、原告主張のとおり被告等に不当利得があつたとしても、被告等は、原告との間の移転補償契約に基き、家屋の移転、改造等に原告より受領した金員を費消し、被告等にはもはや利益は現存していないから、被告等には原告主張の各金員を返還すべき義務はない。

(2)被告等と工事事務所長との間には、原告主張のような各契約とは異る次のような全く別個の補償契約が締結された。即ち、被告等が原告に対して当初要求していた補償金額は、別紙第二(三)記載の各受領額より多かつたのであるが、前記堀之内町長森山政吉または同助役星野永一を介して、原告の代表者である上越国道工事事務所用地課長の訴外向田孝一と数次交渉した結果、同訴外人との間で別紙第三記載の各補償契約(以下別紙第三の補償契約という)が締結されるに至つた。

仮に、右訴外向田孝一に原告を代表し前記契約を締結する権限がなかつたとしても、同訴外人は、被告等との間に前記物件移転補償契約締結の前提となる交渉の権限を付与されていたのであり、被告等は、右訴外人に原告と被告等との間の前記補償契約締結の権限があるものと信じ、かつそう信じたことに過失はなかつたのであるから、民法第一一〇条によつて、原告はその責を負うべきである。即ち、原告のなした従来の用地買収や補償契約は、その他の地域においても、前記工事事務所の用地課長と交渉のうえ締結されているものであり、被告等は、右事実によつて右用地課長であつた訴外向田孝一を原告の代表者と信じて、前記契約を締結したものである。

従つて、被告等に原告主張のような不当利得があつたとしても、被告等は原告に対し前記原告主張の契約とは別個の右補償契約に基く補償金債権を有しているので、被告等は昭和四三年四月二日の口頭弁論期日において、右債権をもつて原告の本訴請求債権と対等額において相殺する旨の意思表示をした。

(3)仮に、右訴外向田孝一につき、補償契約締結権限も表見代理も認められないとすれば、工事事務所の用地課長たる前記訴外人が、自己に移転補償契約締結の権限がないにもかかわらずそれがあるとして、被告等をして前記(2) の物件移転等補償契約が有効に成立したものと信じさせ家屋の移転又は改造等の行為をなさしめた。右により、被告須田要一は二四〇万円、同佐藤佐平次は一〇一万二七六〇円、同村竹春芳は五一万八五五七円、同井上庸二は二六万九二七四円、同村竹久男は四九万五〇〇〇円、同森山清作は一三四万五六一四円、同須田清吾は一九万四九〇〇円、同田中辰三郎は一一万六二九五円、同八木伊三郎は四四万六五八〇円、同八木企義は八一万七〇〇〇円、同中林保夫は一五万八〇〇円、同中林弘介は五〇万円の各損害を蒙り、被告等は原告に対し右損害賠償請求債権を有するから、被告等は昭和四三年九月二日の口頭弁論期日において右債権をもつて、原告の本訴請求債権と対等額において相殺する旨の意思表示をした。

四、抗弁に対する原告の答弁

被告等の抗弁はすべて争う。なお、原告と被告等間に、被告等主張のような被告等受領額に相当する物件移転補償契約が成立したとすれば、契約書が作成されていなければならないし(会計法二九条の八)、国の契約は契約書の作成により成立するものであるところ(最判昭和三五年五月二四日民集一四巻七号一一五四頁)、被告等主張のような契約書は作成されていない。

五、証拠<省略>

理由

一、請求原因(一)記載の事実は当事者間に争いない。

そこで、請求原因(二)(1) の、別紙第二(一)の被告及び訴外人等に関する物件移転補償契約(前記別紙第二(一)の補償契約)が、無権代理によるものとして無効であるか否かにつき検討する。<証拠省略>を総合すれば、次の事実が認められる。即ち、訴外星野は昭和三八、三九年当時新潟県北魚沼郡堀之内町助役の地位にあり、訴外井上は昭和三四年から昭和四二年四月頃まで右同町町会議員の地位にあり、同町下島地区にその生家があるものであり、訴外向田孝一は昭和三七年一一月から昭和四〇年三月まで工事事務所用地課長の地位にあつたものであるところ、右訴外野星は工事事務所長から右同町に対する前記国道一七号線の工事施行に伴う用地買収についての協力依頼があつたこともあつて、その後同国道の右同町地区内における工事施行に伴う物件移転等補償契約の締結についてもその促進に何かと助力し、右訴外井上も同様工事事務所長から右工事に伴う右同町下島地区の用地買収についての協力依頼があつたこともあつて、右物件移転等補償契約の締結についても関与していたものである。昭和三九年初め頃、訴外井上及び同星野は、右堀之内町下島地区居住の被告佐藤佐平次、同森山清作、同須田清吾、同田中辰三郎、同八木伊三郎、同八木企義、同中林保夫、同中林弘介等から、国道一七号線開設に伴い家の前がせまくなり、水はけも悪くなつた等の理由で工事事務所と補償の交渉をしてくれるよう依頼をうけ、同年春頃訴外向田孝一にその旨申入れた。同年四月頃、訴外向田孝一は、北陸地建より一応の査定をしてもらつたところ補償金の支出は困難ということでもあり、自己の一応の調査でも、被告佐藤佐平次及び別表第二(一)記載の四名の被告については補償の可能性はあるがその額は少額であるし、その余の前記被告については補償の可能性がないように感じられたので、訴外井上及び同星野にその旨伝えたところ、同訴外人等は強く難色を示したので、右訴外向田、同井上及び同星野は、右被告等のほか物件移転等の補償の必要のない者の氏名を使用して工事事務所長との間に補償契約を締結しそれにより支出される金員を全部右被告等にそれぞれ配分することとし、被告等各人に対する配分額を、被告佐藤佐平次八〇万円、同森山清作五〇万円、同須田清吾二〇万円、同田中辰三郎一〇万円、同八木伊三郎三〇万円、同八木企義四〇万円、同中林保夫一五万円、同中林弘介七〇万円と定めた。同年五月四日頃、右堀之内町下島地区第一作業所に右被告等を集め訴外向田孝一より同被告等に個別的に右配分予定額よりも若千下廻る金額を示しその額ならば補償契約締結が可能である旨告げ、異議があつたら訴外井上及び星野を通じ申出るよう求めたところ、右被告等は訴外坂西長治、同井上を通じ全員異議を申出た。そこで同月下旬頃訴外向田孝一、同井上及び星野は右訴外坂西を使用し、前記配分予定額を被告等に示し、その額で承諾を得た。それで、同月三〇日付で訴外向田孝一は、被告佐藤佐平次については実地調査のうえ別紙第二(二)の所有物件欄記載の物件の移転等につき同別紙記載の補償を給付する旨の上申書を作成し、同別紙(一)記載の被告及び訴外星野から住所氏名を聞いた同別紙(一)の訴外人については同別紙所有物件欄記載の物件の移転等につき同別紙記載の補償に関する上申書を作成し、上申をしたうえ、同年六月一六日北陸地建局長の承認を得た。訴外向田は、同年七月上旬頃同星野に対し、別紙第二(一)記載(被告佐藤佐平次については同別紙(二)の金額、工事内容及び被告等の各氏名等を記入し、日付空白の物件移転補償契約書の用紙及び委任状の用紙を交付し、訴外井上は右訴外星野の指示により訴外坂西方で、被告佐藤佐平次及び別紙第二(一)記載の四名の被告から印を借りうけ右契約書及び委任状を被告各人に示すことも書類の内容を告げることもせずに(但し被告佐藤、同森山には契約書上の額は告げたが、真実の契約額は前記五月末約束の額による、と説明)押捺し<証拠省略>の契約書、<証拠省略>の委任状を作成して訴外星野に交付し、訴外星野は別紙第二(一)の訴外人に関する物件移転補償契約書<証拠省略>を作成のうえ、以上の書面を訴外向田に交付した。同訴外人は右契約書につき工事事務所長に対し承認を求め、同所長は同月一〇日付(但し、別紙第二(一)中、訴外吉田長司については同年八月七日)で承認し、同工事事務訴庶務課長に所長の印を押捺させた(前記証人の証言及び被告本人尋問の結果中以上の認定に反する部分は措信しない)。

してみると、別紙第二(一)当事者欄記載の者達の代理人であるとして(代理人が自己の名を示さず本人の名のみを示して押印してなす法律行為も有効な代理の形式であることは明らかである)、訴外井上及び同星野が原告(工事事務所長)との間に、請求原因(二)(一)の別紙第二(一)の物件移転等補償契約を締結したものであると認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして他面、右訴外井上及び同星野には、右別紙第二(一)当事者欄記載の者達から右契約締結についての代理権が授与されていなかつたことは、当事者間に争いない。

従つて、原告と、右訴外井上及び同星野間になされた右物件移転補償契約は無権代理人による契約として無効であると認めるほかない(なお、右被告等において、今後右契約につき無権代理行為の追認をすることは、信義則上許されないものというべきである)。

二、(一)そこで、請求原因(三)の別紙第二(二)の被告等と原告間の物件移転補償契約(前記のいわゆる別紙第二(二)の補償契約)について検討する。

前記一項掲記の各証拠に、<証拠省略>を総合すれば、次の事実が認められる。即ち、被告等中、掘之内町下島地区以上の居住者である被告須田要一、同村竹春芳、同井上庸二、同村竹久男中後三者は、訴外星野に対し前記国道一七号線の工事施行に伴い居住家屋の移転等が必要になつたとしてその補償を工事事務所と交渉してくれるよう依頼し、同訴外人は、前項認定の頃訴外向田孝一にその旨申入れし、同訴外人は前項認定と同様の経過で右被告等にも正当な補償額以上の金員を配布することとした。そこで、昭和三九年四月三〇日右被告等を堀之内町役場に集め訴外星野より一応の金額を示したが同被告等が納得しなかつたので、同年五月頃再び同役場に同被告等を集め、訴外向田から被告村竹春芳に四四万二〇〇〇円、同井上庸二に九〇万円、同村竹久男に四三万一〇〇〇円の額を示し、同人等の承諾を得た。訴外向田孝一は、実地調査のうえ同月三〇日付で別紙第二(二)の右被告等所有物件欄記載の物件の移転等につき同別紙記載の補償を給付する旨の上申書を作成して上申し、同年六月一六日北陸地建局長の承認を得たので、同年七月上旬頃前項記載のような契約書と委任状を訴外星野に交付し、同訴外人は右被告等を堀之内町役場に集め、契約書の内容を被告等に示すことなく印を借りうけて、<証拠省略>の各契約書、<証拠省略>の委任状に押印し、訴外向田にそれを交付した。別紙第二(二)の被告須田要一については、訴外星野のほか同森山政吉より建物移転等の補償要求があり、昭和三九年八月頃、訴外向田より二三〇万円という額を示し、右訴外森山の承諾を得て、同人より訴外向田が被告須田要一の印を受取り、同別紙第二の内容を記入してある契約書<証拠省略>及び委任状<証拠省略>を右訴外森山に示すことなく、それに押印して作成した。そして、これについても右同内容の上申をし北陸地建局長の承認を得た。その後、右各契約書につき前記三名の被告分については同年七月一〇日付で、被告須田要一分については同年八月一七日付で、工事事務所長が承認し、前項記載のとおり同所長の印を押捺した。(前記各証拠中以上の認定に反する部分は措信しない)。別紙第二(二)の被告佐藤佐平次の関係は前項認定のとおりである。してみると、別紙第二(二)記載の被告(被告須田要一を除く)の代理人であるとして訴外星野(被告佐藤佐平次については訴外井上も同様)が原告との間に請求原因(三)(1) の別紙第二(二)の物件移転等補償契約をなしたものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないが、右被告四名が、右補償契約締結の代理権を右訴外等に授与したことは本件全証拠によつても認めることができない。従つて、原告と右被告四名との間になされた右補償契約は無権代理人によるものであり無効であるというほかない。また、右原告と被告須田要一間における補償契約については、訴外森山政吉に右被告を代理する権限が授与されたと認めることを相当とするが、なお右補償契約において原告と被告須田要一の右代理人森山政吉との間に双方の意思表示の合致があつたということはできず、従つて右両者問に右補償契約が締結されたと認めることはできない(前記各証拠<証拠省略>によれば、前記補償契約に関しては、工事事務所用地課長からの条件の呈示は申込みの誘引にほかならず、補償対象者の意思表示に対し、工事事務所長の承諾があつて契約書が作成されたときに右契約が成立すると認めることを相当する)。

従つて、原告と別紙第二(二)記載の被告間に有効な契約の成立した旨の原告主張は失当である。

(二)[請求原因(三)(2) の、原告の表見代理の主張は、本件全証拠によつても、原告主張の頃被告等が補償契約締結の代理権を訴外向田孝一を通じ同井上又は星野に授与した旨表示したとの事実は認めることはできない。

従つて、この点についての原告主張は理由がない。

(三)請求原因(三)(3) の原告と別紙第二(二)記載の被告間には同別紙記載の補償契約が成立していないとの主張は、同契約について原告と右被告等にそれぞれの意思表示の合致がないとの主張と解されるが、右契約不成立の点については、当事者間に争いない。

三、原告と被告八木企義、同中林保夫及び同中林弘介との間にいかなる補償契約もなされていないことは当事者間に争いない。

四、そして、被告等が原告主張の別紙第二(三)記載の金員を堀之内農協を通じて各受領していることは、当事者間に争いない。<証拠省略>を総合すれば、工事事務所長は、別紙第二(一)及び(二)記載の補償契約が有効に成立しているものと考えて、右各契約に基きその補償金として(但し、別紙第二(一)及び(二)以外の者の分の振込みもあるので、振込金額は多い)、右堀之内農協に、銀行を経由して、昭和三九年七月一五日四七四万二五八五円、同年八月八日一七六万七八五七円、同月一二日二五七万七四〇八円、同月二二日一〇三万八七八二円、同月三一日一一五万九七〇〇円、同年九月一六日四九万七〇六九円の金員の振込みをしたものであることが認められ、かつ、被告等の前記受領金員は右工事事務所長が支出した金員中より支払われたものであることが推認でき、右各認定を覆すに足りる証拠はない。

五、原告は、別紙第二(二)記載の被告等については同別紙記載の補償金額を超える部分を受領する時に、その余の被告等についてはその全額につきそれを受領するときに、いずれも法律上の原因なくして取得したものであることを知つていた旨主張するが、本件全証拠によつても、被告等が原告主張のような悪意の受益者であつたと認めることはできない。然し、被告田中辰三郎(第一回)本人尋問の結果真正に成立したと認められる<証拠省略>を総合すれば、被告森山清作を除くその余の被告等については、昭和四〇年七月一〇日頃、堀之内役場からの通知により同月一四日右同被告等が右役場に集り、原告から同被告等に対し、同人等が受領した前記各補償金中契約額を超える部分又は契約が有効に存在しないものについては全額を原告に返還するよう請求したことが認定(右被告佐藤、同村竹両名、同井上、同田中の五名)又は推認(被告森山を除くその余の被告)でき、被告森山清作については、右役場からの呼出状は届かなかつたため同日同所に行つてはいないが、その前後頃堀之内町第一作業所で前記その余の被告と同様な返還請求を受け同月二三日工事事務所長名で補償契約の取消通知がなされたことが認められ、以上の認定を覆すに足りる証拠はない。

してみると、少くとも、被告森山清作以外の被告等はその返還請求のあつた昭和四〇年七月一四日から、被告森山は同月三三日から悪意の受益者になつたというべきである。

六、(一)ところで、被告等は、仮定抗弁として被告等は家屋の移転改築等に金員を費消し利益は現存していない旨主張するが、受けた利益の現存の有無判定の時期は、受益者が返還請求を受けた時であると解すべきところ、それは本件において前記五認定の時であるから、本件全証拠によつてもその時点以前に金員支出をしたと認められない被告佐藤佐平次、同森山清作、同八木伊三郎、同中林保夫、同中林弘介については、利益不現存ということはあり得ないというべきであるし、その余の被告等についても、仮に同被告等がその主張のようにその取得した金員を支出したとしても(後述(三))、その支出により建物の移転、改築及び改造がなされたとすれば、被告等においてそれによつて他の財産(金員)の減少を免れ又はその支出した金員に代るべきものが存することになつたのであるから、利益が現存したいものということはできない。従つて、この点に関する被告等主張は理由がないというべきである。

(二)次に、被告等は、原告と被告等間に別紙第三の補償契約が成立したとしてその請求債権と原告の本訴債権との相殺を主張する。然し、前記一及び二項認定のとおり訴外向田孝一、同井上、同星野及び同坂西長治等から被告等に対しそのような補償金額の告知があつたことは明らかであるが、本件全証拠によつても右訴外向田孝一には原告を代表して被告等と補償契約を締結する権限があつたことは認められないし(また、同訴外人は契約締結のための交渉権限を有していたことは認められるが、それだけでは、民法一一〇条の基本たる代理権となし得ないことが明らかである。従つて、同条の表見代理も認められない)、その権限のある工事事務所長が被告等主張のような補償契約締結の意思表示をした事実が認められないから、原告と被告等間にその主張のような補償契約が締結されたものとは認めることはできない。従つて、被告等のこの点に関する主張も理由がない。

(三)また、被告等は、訴外向田孝一の不法行為により被告等が蒙つた損害賠償債権(国家賠償法一条に基くものと認められるが民法七一五条に基くものでも、この点差はない)と原告の本訴債権と相殺する旨の主張をしている。前認定のとおり訴外向田孝一等が高額の補償額を被告等に告げたことが明らかであるし、かつ前記二記載の各証拠によれば、右により補償契約が成立したものと考えて被告等が家屋の改造等工事を行うかも知れないことを認識していたものと推認され、<証拠省略>によれば、被告等がその主張のような金員支出をしたこともうかがわれる。然し、(1) 前記<証拠省略>によれば、昭和四〇年二月頃には原告と被告等間の物件移転補償契約に関し刑事事件として警察が捜査を開始し、被告等も右を知つたことが認められるから、そのような事情のもとにおいてそれ以後に(前記五認定の時期にとどまらず)金員支出をした被告佐藤佐平次、同村竹久男、同森山清作、同田中辰三郎、同八木伊三郎、同中林保夫、同中林弘介の金員の支払いは、もはや訴外向田孝一の行為との間に因果限関係ありと認めることはできないというほかはなく、(2) また、その余の被告等についても、<証拠省略>によれば、国道一七号線の前記工事施行に伴い、別紙第二(二)の被告等には同別紙記載の損害が発生したことが認められ、その余の被告等については請求原因(八)の損害が発生したことは当事者間に争いないところ、右のようにその損害は国道一七号線の工事施行に伴うもので、訴外向田孝一の行為とは関係ないことが明らかであるし、更に右被告等の右損害以上のその余の金員支出分も損害といいうるか否かについては、本件全証拠をもつてしてもそれを認めるに足りない。

従つて、被告等の右主張も結局理由ありとは認められない。

七、以上の次第であつてその余の点を判断するまでもなく、原告に対し、別紙第二(二)の被告等は別紙第二(三)記載の受領金額中、同別紙(二)[記載の補償金額を超えて受領している分、その余の被告等は同別紙(三)記載の受領金全額及び右各金員に対する前記五項記載の日から支払済まで民法所定年五分の割合による利息を支払うべき義務があると認められるところ、原告は被告等に対し、別紙第一記載の金員の支払を求めているから、その元金については理由ありとして認容すべきであり、利息については一部理由がないものとして棄却すべきである。

八、よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して注文のとおり判決する。

(裁判官 渋川満)

別紙第一~第三<省略>

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