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新潟地方裁判所長岡支部 平成9年(ワ)103号 判決 1998年10月08日

原告

小千谷産業株式会社

右代表者代表取締役

新保登

右訴訟代理人弁護士

金田善尚

被告

乙山春雄

右訴訟代理人弁護士

春山進

主文

一  被告は、原告に対し、三三八五万一六八八円及びこれに対する平成四年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の、その七を被告のそれぞれ負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は、原告に対し、四九三四万二四二四円及びうち四八九〇万五六九一円に対する平成四年一一月二八日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。

なお、原告は「予備的請求の趣旨」として、四三九〇万三三五〇円及びこれに対する平成四年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを追加しているが、これは、請求金額において当初の請求の趣旨の一部と認められ、また、請求原因に照らしても、同一の不法行為または債務不履行に基づく損害賠償の請求であり、予備的請求とは扱わないこととする。

第二  事案の概要

一  本件は、訴外甲野太郎(以下「太郎」という)所有名義の別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という)及び訴外甲野ミヨ(以下「ミヨ」という)所有名義の同目録二記載の建物(以下「本件建物」という)につき、原告が太郎を債務者として共同根抵当権を設定したところ、その後に、①本件土地の前所有者であったミヨから太郎への所有権移転登記及び②ミヨを設定者とする本件建物への根抵当権設定登記が、いずれもミヨの意思に反してなされた無効なものであることが判明し、原告が太郎に対する債権を回収できなくなったとして、本件土地のミヨから太郎への贈与を原因とする移転登記手続及び本件建物の原告への根抵当権設定登記手続につきそれぞれミヨの保証書(不動産登記法四四条)を作成した司法書士である被告に対して、委任契約上の債務不履行または不法行為に基づき右回収不能相当額の損害賠償を求めた事案である。

二  前提事実

以下の事実については、当事者間に争いがないか証拠により認めることができる。

1  原告は、金融業及び不動産仲介業を主たる営業内容とする株式会社であり、被告は新潟市内に事務所を持つ司法書士である(甲二九、三〇)。

2  平成四年の春ころ、太郎は、静岡県の生産者からお茶を仕入れて新潟県内で売却する計画を持っており、そのために必要な五〇〇〇万円から六〇〇〇万円の資金を調達する必要があった。まず最初に太郎は、新潟県内の銀行や信用金庫に融資を相談したが、取引が現実に始まっていないことを理由に現段階での融資を断わられた。次に太郎は、新潟市内のローン業者に相談に行った。その際、太郎は、実母であるミヨの実印をミヨの同意なく持ち出して取得した印鑑登録証明書及びミヨ名義の本件土地(当時は太郎への名義移転は未了であった)及び本件建物の登記簿謄本を持参し、これを担保に供する旨右金融業者に申し入れたが、ミヨ本人を連れてくるよう言われたため断念せざるをえなかった(甲一四、二六の一)。

3  そこで、太郎は、知人の長谷川留治(以下「長谷川」という)及び笹川昌博(以下「笹川」という)を通じて、原告に融資の依頼をすることとなった。平成四年四月下旬ころ、長谷川が笹川を伴って原告の燕営業所に赴き、長谷川がかねてから知っていた所長の訴外金子勇吉(以下「金子」という)に融資を相談した。

長谷川は融資の条件として、本件土地及び建物を担保提供すると申し入れたが、金子は、本件土地及び建物が依然ミヨ名義であることから融資の決定を留保した(甲一五、三〇)。そこで、太郎は、本件土地及び建物を自己名義に移転登記することとし、長谷川のかねての知り合いであった被告に右手続を依頼することになった(甲一四)。

4  太郎、長谷川及び笹川は、平成四年四月三〇日、右移転登記手続のために新潟市内の被告事務所を訪れた(甲二九)。その際、太郎が手続のために持参した書類の中には、本件土地登記簿謄本の写し、ミヨの署名及びミヨ名の印影がある委任状(乙一の五、甲二九添付資料3)並びに右委任状に押捺されたミヨの印鑑の印鑑登録証明書(乙一の四、甲二九添付資料4の1)が含まれていた。右委任状は、同日の朝に太郎が委任者欄にミヨの住所氏名を書き込み、かつ、太郎が名下に手中にあったミヨの実印を冒捺して被告に交付し、委任事項及び受任者欄は被告が自ら書き込んだものである(甲二六の三、二九)。

被告は、以上の書類に基づきミヨが自らの意思で本件土地を太郎名義に移転するものと信じて、ミヨに直接登記意思を確認することなく(甲一二)、その移転登記事務を受任するとともに、太郎が権利証を持参していなかったため、登記義務者たるミヨの人違いでないことを保証する自己及び被告の妻である訴外乙山昌子(以下「昌子」という。)名義の不動産登記法四四条所定の保証書(甲五)を作成し、同年五月七日、同年四月一七日贈与を原因とするミヨから太郎への所有権移転登記手続をミヨ及び太郎の代理人として申請し(争いがない、甲四)、同年五月一四日付けで申請通り登記が経由され(争いがない、甲一)、被告はその後権利証を太郎に渡した(甲二六の三)。なお、右登記申請後受付前に、法務局からミヨのところに登記意思確認のための葉書が届いたが、長谷川から予め右葉書がくることを聞いていた太郎は、ミヨの手に渡る前に右葉書を手に入れ、自らミヨの住所氏名を書き入れてミヨの実印を押捺し、長谷川を通じて被告に届け、被告の事務所の事務員がこれを法務局に提出している(甲二六の三、二九)。

5  ところで、金子は、長谷川から本件融資の話が持込まれた後、本件土地及び建物の現地確認を行った。原告会社においては、五〇万円超の金額の融資にあたっては物的担保を提出させた上で、社長や副社長が同行の上で担保価値を確認することになっていたので、平成八年五月上旬、当時の社長であった訴外新保俊輔(以下「新保」という)及び当時副社長であった原告代表者と金子の三人で本件土地建物を見に行っている。その際には長谷川及び笹川も同行した。現地では金子らは太郎と事業のことなどを話した。ミヨとはミヨがお茶を出した時に顔を合わせているが、当日の目的が現地確認であったことと、担保権はミヨから太郎に所有権が移った後に設定することとなっていたため、ミヨとの間では融資に関する話はしていない。現地確認後、新保は本件土地建物の担保価値が五〇〇〇万円以上あると判断して、金子に対し五〇〇〇万円の融資を指示した(甲三〇、三一)。

6  前記第4項の移転登記手続終了後の、平成四年五月一八日ころ、太郎、長谷川及び笹川の三人が原告燕営業所に訪ねた後、金子を加えた四名で当時燕営業所の取扱案件につき登記事務を依頼していた司法書士外山文治(以下「外山」という)の事務所を訪れた。その目的は太郎の所有となったはずの本件土地及び建物に前記五〇〇〇万円の融資の担保権を設定することであった。

しかし、外山の事務所で外山が書類を確認したところ、本件建物の太郎名義の権利証がなく、本件建物についてはミヨから太郎への所有権移転登記手続が未了であることが判明したので、外山はその場で被告に確認の電話を入れた(甲一四、一六、三〇)。

被告は、本件建物については移転登記の委任を受けた認識はなかったが、もしかしたら太郎の依頼を聞き漏らしたのかもしれないと思い、また、受任の有無でもめるのも無益であると考えて、善後策を外山と話し合った。その結果、その日は、あくまで本件建物についても本件土地と同様に太郎名義に移転した後に担保権を設定して融資を行うということになった(甲一四、二九、三〇)。

7  しかし、太郎としてはすぐにでも商売の資金を手に入れたかったことから、長谷川及び笹川と相談の上、本件建物についてはミヨ名義のまま担保を設定することにし、その旨金子に話したところ新保に確認の上で了承が得られたので、以上四名で外山の事務所を再度訪れ根抵当権設定登記手続を依頼した(甲一四、二六の三、三〇)。その際、根抵当権設定契約書(甲三)及び外山を受任者とする根抵当権設定登記手続の委任状(乙二の二)が太郎に託されたが、ミヨの住所及び署名欄は空欄であり、名下の押印もなされていなかった(甲三〇)。

根抵当権設定登記手続は外山が受任することとなったが、本件建物についても本件土地同様太郎は権利証を持っておらずこれに代わる保証書が必要であった。金子は保証書作成を外山に依頼したが、外山は新潟地方法務局本局管内で保証書を作成する資格に欠けていたため、外山が被告に電話をかけて保証書の作成を依頼し被告は外山に対しこれを受諾した。被告としては、自分のミスで本件建物の移転登記ができなくなったのではないかとの不安もあり、保証書を出すくらいであれば手間ではないと思って保証書の作成を承知した。右保証書の作成にあたり、金子は被告に対し被告がミヨの家に行ってくれるよう被告に直接依頼し、被告はこれを了承した(甲二九、三〇)。

8  平成四年五月二一日午後、被告は、長谷川及び笹川と一緒にミヨ宅を訪れた。被告は、当日、午後三時ころから別の仕事が入っていたため、右訪問には一時間くらいしか時間を使うことができなかった(甲一三)。ミヨ宅に着いた時には太郎は不在であり、被告はその間ミヨが太郎がお茶の商売を始めることを知っているかどうかは確認したが、それ以上に融資の件を確認することも、自らミヨに対して本件建物に対する根抵当権設定の意思を確認することも、既になされている本件土地のミヨから太郎への移転登記がミヨの意思に基づくものであるかどうかを確認することもなかった。太郎が帰ってきた後にも被告は右確認を行っていない(甲一三、二九)。

同日午後二時三〇分頃、被告は、前記別の仕事の時間が迫っていたため、予め用意してあった被告及び被告の妻である昌子名義の保証書(甲九)を長谷川に手渡してその場から立ち去った。被告は事務所に戻った後、外山に対してミヨ宅に行ってきた旨電話で報告した(甲一三、二九)。

9  太郎は、被告が帰った後、自宅近くの路上の自動車の中で、前記根抵当権設定契約書の根抵当権設定者欄及び委任状の登記義務者欄に自らミヨの住所及び氏名を書き入れるとともに、各名下にミヨの実印を冒捺した(甲二六の四、二七)。同日、設定契約書、委任状、保証書等本件建物への根抵当権設定に必要なすべての書類を、笹川が外山の事務所に届けた(甲一四、二七、二八)。

外山の連絡を受けた金子は、その日のうちに外山の事務所に赴き、必要書類を確認した後、外山に被告がミヨ宅に行ったかどうかを確認したところ、外山は金子に対し被告に右確認した旨答えた。その後、金子は原告燕営業所に戻り、本社に連絡して五〇〇〇万円の融資を実行することにつき社長の新保の了承を得た(甲三〇)。

10  翌五月二二日の午前中に、外山が本件土地及び建物につき原告を権利者とする極度額六五〇〇万円の共同根抵当権設定登記手続を完了し(甲一、二)、その旨外山から金子に連絡があった(甲三〇)。同日、原告燕営業所において、新保立会のもと、金子から太郎に借用書(甲一七)と引き替えに融資金が渡された。融資条件は左記のとおりである。

(一) 契約日   平成四年五月二二日

(二) 融資金額 五〇〇〇万円

(三) 利息    年25.5パーセント(三六五日日割計算)

(四) 返済条件  平成四年六月二〇日から毎月二〇日限り一〇回払い。毎月利息及び五万円以上の元金を自由返済。ただし、最終弁済日は平成五年三月一〇日でこの日に元利金残額を全額返済する。

(五) 遅延損害金 年29.2パーセント

なお、原告は右貸付けの際に利息として一〇〇万七五〇〇円を天引きしており、当日実際に甲野が受領したのは四八九九万二五〇〇円であった(甲三〇)。なお、その中からさらに火災保険料として七万二二〇〇円が差し引かれている(甲二六の四、三〇)。

11  右貸付金については、平成四年一一月二七日までは左記のとおり合計六三〇万円の支払いが行われてきたが、同年一二月支払分から入金がない(甲一八、甲三〇)。

(一) 平成四年六月二二日

一〇五万円

(二)     七月二〇日

一〇五万円   (三)     八月二〇日

一〇五万円

(四)     九月二一日

一〇五万円

(五)    一〇月二二日

一〇五万円

(六)    一一月二七日

一〇五万円

なお、その後、平成五年に入ってから、本件土地の太郎への所有権移転登記手続及び本件建物の根抵当権設定登記手続が登記義務者であるミヨの意思に反して行われたことを理由に、原告に対する前記各根抵当権設定登記の抹消を求める訴訟が新潟地方裁判所に提起され、平成八年一〇月一四日、原告の請求をいずれも認容する判決が下されて右判決は確定し、右各根抵当権設定登記はいずれも平成九年六月一〇日に抹消された(甲一、二、一九、三〇)。

太郎は、原告からの融資金をお茶の商売の仕入資金、長谷川らへの謝礼金、他の金融機関からの借金の返済等に費消し、現在は残っておらず、また、お茶の商売も売上不振により事業の継続が不可能になり、太郎が右事業を行っていた会社も倒産した。さらに、太郎が本件土地及び建物をミヨに無断で担保に入れたことが家族に発覚し、家にもいられなくなった(甲二六の五)。

12  なお、本件土地及び建物については、太郎の前記債務不履行後に原告が競売手続を申立てていったんは競売が開始され(甲一、二)、評価人による評価がなされた経緯がある(甲二三の二)。右評価書によれば、平成五年三月二三日を基準日として、法定地上権の発生を前提として、建物が三八二二万七〇〇〇円、土地が二四二一万八〇〇〇円との評価がなされている。

三  被告の主張

1  原告主張の請求原因について

(一) 原告の太郎に対する貸付金の回収不能は、ひとえに、太郎の無資力、本件土地の太郎への所有権移転登記手続及び本件建物の根抵当権設定登記手続が太郎により登記義務者であるミヨの意思に反して行われたこと、そして、原告が本件建物への根抵当権設定につき自らミヨの合意を取り付けなかったという原告の重大な過失に起因するものであり、原告が主張する保証書作成上の被告の注意義務違反に起因するものではない。本件土地に対する根抵当権設定は、ミヨから太郎への無効な所有権移転登記という登記の記載を信頼して行われたものである。

(二) 本件貸付行為による損害は、原告が現実に平成四年五月二二日に太郎に交付した四八九九万二五〇〇円より、原告が太郎から返済を受けた六三〇万円を控除した四二六九万円を超えることはない。

(三) 本件建物に関するミヨの保証書は、外山の依頼により被告が作成したものであり、原告の担当者である金子の依頼に基づくものではないので、右保証書作成につき原告と被告の間に委任契約は成立していない。

2  過失相殺

本件土地及び建物については、昭和五二年三月三日付けで太郎を債務者、訴外債権者ミツバ商事を債権者とする限度額二五〇〇万円の根抵当権設定登記が付されていたが、昭和五三年一〇月二〇日付けで新潟地方裁判所における和解を原因としてその抹消登記がなされている。にもかかわらず、太郎は本件土地及び建物の贈与をミヨから受けるとしてこれを担保に原告に本件貸付けの話を持ち込んだものである。しかも、原告は、当初は本件土地及び建物ともに太郎の所有になってから担保を付ける方針であったのが、直前になってから本件建物についてはミヨ所有のままで担保を付することに方針変更したにもかかわらず、原告の担当者自らミヨに直接意思確認することなく、融資申込者たる太郎にその根抵当権設定契約書等の必要書類を預託し、太郎をして容易にミヨの署名捺印を冒用させる結果を招いている。

よって、原告の本件貸付行為に伴う担保取付には重大な過失が存するので、大幅な過失相殺がなされるべきである。

第三  当裁判所の判断

一  原被告間の委任契約の成否について

原告の主張は、外山に保証書作成を依頼したところ外山が保証書作成の法律上の資格がないため面識のある同業者の外山からその資格を有する被告に話をしてもらい被告はこれを了承したのであるから、外山は原告の代理人ないしは使者として行為したものであり、原告と被告との間に委任契約が成立しているというものである。また、金子も自ら被告に対しミヨに会って意思を確認して欲しい旨話しているから、その点からも、原告と被告との間には保証書作成の委任契約が成立していると主張する。

しかしながら、前記認定事実によれば、本件建物につき司法書士として根抵当権設定登記の委任を受けたのは外山であり、被告は同業者として外山が選んで外山からの依頼により保証書の作成を受諾したにすぎない。そして、被告が右依頼を受けたのは、太郎から本件土地の移転登記手続の依頼を受けた際に本件建物についても依頼を受けながら失念したのではないかと思ったからであり、本件全証拠によるも本件依頼につき原告からはもとより外山からも報酬を受け取った事実は認められず、本件に関し被告が原告側から司法書士本来の業務につき何らかの委託を受けた事実は認められない。

以上によれば、被告による本件建物保証書作成が原告の委任に基づくものである事実は認められない。

二  被告の原告に対する不法行為責任の成否について

そこで、被告が原告に対して不法行為責任を負うか否か検討する。

1 不動産登記法四四条所定の保証書を作成する者は、登記義務者の「人違ナキコト」を保証するものであり、その保証の内容は、具体的には、登記済証が滅失して登記申請人として保証書の作成を現に依頼している者が登記義務者と同一の者であることを証明することである。右申請人が保証人に直接保証書作成を依頼している時は、その者と登記義務者との同一性を調査確認することで足りるが、本件のように、登記義務者が他人を介して間接的に依頼してきている場合には、それに加えて、その他人が登記義務者から真に保証書の作成依頼を任されているかどうかも調査確認すべき義務を負うと解される。その調査確認義務の内容として、常に義務者本人に直接その登記申請意思を確認する必要があるかどうかは場合による。

2 本件土地の移転登記に関しては、登記義務者であるミヨの委任状を持ってきたのが登記により本件土地を取得する登記権利者たる太郎であること、高齢の母親名義の土地を息子が高額の贈与税を払ってまで生前贈与を受けることにかんがみれば、外形的に登記意思を疑わせる事情が認められ、不動産取引に関する専門知識を有する司法書士の被告としては、ミヨに直接その登記意思を確認する義務があったと解される。

また、本件建物の根抵当権設定登記に関しても、本件土地の移転登記の際の太郎の説明は、母親の相続でもめる前に名義を変えておくというものであったのに、建物の保証書作成段階になってから実は太郎の目的は本件土地及び建物を担保に入れて太郎が融資を受けることにあったことを被告は知るに至った(甲二九)ことにかんがみれば、建物についても外形的に登記意思を疑わせる事情が認められ、本件土地の場合と同様に、被告にはミヨに直接その登記意思を確認すべき義務があったものと解される。

3 にもかかわらず、被告は、本件土地の保証書作成にあたり、ミヨの署名押印のある委任状及び右印鑑の印鑑証明書を確認しただけで、それ以上にミヨに直接会うなどその登記申請意思を確認する手段を講じておらず、その結果、被告及び妻昌子の保証書に基づき不実の移転登記がなされたものである。よって、被告にはこの点につき調査確認義務違反の過失が認められる。

また、本件建物の保証書作成にあたっては、金子から被告自身が直接ミヨの家に行って登記意思を確認するよう依頼され、ミヨの家に行ったにもかかわらず、太郎が始めるお茶の事業について雑談程度の話しをしただけで、それ以上に、太郎の借金のためにミヨ名義のミヨが居住しているその建物を抵当にいれる意思があるかについては確認することはなく、講演の予定があったため用意していた被告及び妻昌子作成の保証書を同行した長谷川に渡して、同行した長谷川及び笹川よりも先にミヨ宅を辞している。その結果、右保証書に基づいて不実の根抵当権設定登記がなされたものである。よって、被告にはこの点につき調査確認義務違反の過失が認められる。

なお、被告としては、この時点で本件土地の太郎への贈与につきミヨに確認しておけばミヨに贈与意思がなかったことを事後的にでも発見できており、被告はこの時点では右贈与が原告から融資を受ける目的であったことを知っていたのであるから、金子や外山に知らせるなどして右融資を回避させることが可能であったものと認められる。

4 原告は、社長自ら本件土地建物を見分していることからも分かるように、太郎の事業の見込みというよりも、本件土地建物の担保価値にもっぱら着目して本件融資をしているのであるから、本件土地の太郎への贈与及び本件建物へのミヨによる抵当権設定が無効であれば融資自体を実行しなかったものと認められる。そして、被告がミヨの贈与意思及び根抵当権設定意思の確認作業を行なえば、ミヨにその意思がないことが判明し保証書の作成もなされず、右各登記及び本件土地につき太郎に所有権が移ったことに基づく根抵当権設定登記もなされず、原告がこれを信頼してその極度額の範囲内で太郎に融資することもなかったものと考えられる。

したがって、原告が右融資によって被った損害は、第3項で述べた被告の過失に起因するものと認められ、被告は民法七〇九条に基づきその損害を賠償すべき義務を負う。

三  過失相殺について

前記認定事実によれば、原告は、社長の新保、副社長及び担当者の金子が実際にミヨの居宅に赴き本件建物にミヨ及び太郎が居住している事実を確認し、また、ミヨ名義のままで建物につき根抵当権設定登記をするにあたっては、金子が自ら及び外山を通じて、被告に対してミヨの居宅へ行ってミヨの設定意思を確認してくれるよう依頼し、外山から被告がミヨ宅に行ったことを確認した上で融資を実行している。

しかしながら、他方、当初予定のミヨ名義の本件土地及び本件建物の受贈者が融資を受けようとする息子の太郎であった事情、また本件建物の登記簿に被告主張のごとき抹消登記等の履歴があること、太郎が原告から融資を受けるのはこれが最初であり五〇〇〇万円もの高額の融資決定の理由がひとえに本件土地建物の担保力にあったことにかんがみれば、原告としては、遅くとも本件融資時までには何らかの方法で原告の社長や社員が直接ミヨの意思を確認すべきであったと認められる。当初ミヨ宅を訪れた時点ではまだ本件土地のミヨへの移転登記が未了であり、原告としては移転登記後に融資を実行するつもりだったので、その時点でミヨに意思確認することまでは求められないとしても、本件建物につきミヨ名義のままで根抵当権設定登記をすることになった段階においても、移転登記手続の委任もしておらずこれまでも付き合いのない被告による意思確認だけでこと足れりとしてそれ以上の確認を怠っているのは、原告の落度であると認められる。

以上によれば、原告には、貸金業者として高額担保貸付けを実行するにあたり必要とされる注意を怠った過失があるというべきである。実際に原告の前に太郎が融資を申し込んだ新潟市内の金融業者においては、ミヨ本人を連れてくるように言われたため太郎は右業者からの借入れを断念しているのである。

しかし、被告が本件建物の根抵当権設定意思の確認にミヨ宅に行った際にミヨに設定意思を明確に確認しなかった理由の一つとして、被告は、以前に自ら行った本件土地の移転登記手続を含めてミヨの登記意思に不安を感じており確認すれば以前の自らの保証書発行が間違いだったことが発覚してしまうのではないかと思い、また、意思確認を行なうことによって融資の話に悪影響を及ぼすかもしれないと思ってミヨに詳しい説明をしなかったと述べている(甲二九)。以上によれば、被告は、本来明確に行うべき意思確認を敢えて避けていた様子がうかがわれる。右被告の過失の重大さにかんがみれば原告の過失を重大視するのは相当でなく、公平の見地から、原告の過失割合は損害額の二割と考えるのが相当である。

四  損害額について

1  原告は、太郎に対して、平成四年五月二二日に利息分天引きの上で四八九九万二五〇〇円を交付しているが、右貸付金については同年一一月二七日まで合計六三〇万円が太郎から弁済として支払われたのみであり、残額については補填がなされていない。債務者である太郎が原告からの融資金を原資として経営していた会社は倒産し、太郎も無資力であり、太郎から右融資金を回収することは不可能な状態にある。また、本件土地及び建物につき原告の右融資金を担保するために設定されていた原告を権利者とする根抵当権設定登記は、新潟地方裁判所の判決により既に抹消されている。また、本件土地及び建物の前記評価書によれば、右根抵当権が実行されれば、少なくとも前記融資交付金相当額の回収は可能であったと認められる。

以上によれば、被告の前記不法行為により、原告は右融資金四八九九万二五〇〇円を詐取され、太郎による後述する損害補填額を除き回収不能に陥っていると認められる。したがって、被告の不法行為と相当因果関係の認められる原告の損害は、右融資金交付時点における四八九九万二五〇〇円であったと認められる。

これに前記二割の過失相殺をすると、不法行為時たる平成四年五月二二日時点で被告が原告に賠償すべき損害額は三九一九万四〇〇〇円になる。なお、融資金交付後に原告は太郎から返済を受けているので、その返済額六三〇万円を別表記載のとおり、不法行為の日である平成四年五月二二日から最後の返済日である同年一一月二七日までの過失相殺後の金額に対する民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金に充当し、その余を右過失相殺後の金額に順次充当すると、原告が被告に請求できる額は、平成四年一一月二七日現在で三三八五万一六八八円ということになる。

2  なお、原告は、原告と太郎との間の融資の際の約定利率に基づく利息(25.5パーセント)及び遅延損害金(29.2パーセント)を前提に、右太郎からの返済金を約定利息及び約定遅延損害金に充当した上での残額及び最後の返済の翌日からの約定遅延損害金の請求をしている。

しかしながら、本件において原告から根抵当権設定登記の委任を受けたのは外山であり、被告は、本件土地の贈与登記時においては本件融資のことは知らず、融資と直結する根抵当権設定登記に関しては、外山から頼まれて保証書を作成したにすぎず、当時は保証書が原告の融資の担保のために必要であるという程度の認識であったに過ぎない。かかる被告に対して、原告と太郎間での約定利息及び約定遅延損害金の存在を前提として、返済額を融資交付元金ではなく約定利息及び遅延損害金に充当し、かつ、最後の返済日以降の約定遅延損害金の賠償を認めることは相当ではなく、右損害は被告の不法行為と相当因果関係を欠くものである。

よって、被告に対して不法行為に基づき損害賠償しうる金額は、前記のとおり、詐取された現実の融資時の交付金を過失相殺により減額した金額及びこれに対する通常の不法行為の場合に加害者に対して請求しうる不法行為時からの民法所定の利率の遅延損害金に限定され、融資後の太郎からの返済金は右遅延損害金及び過失相殺後の右損害金元金に充てられたものとして請求金額を算出するのが相当である。

五  以上によれば、原告の請求は主文掲記の限度で理由があるから認容し、その余の請求は棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行宣言については同法二五九条一項適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官住友隆行)

別紙物件目録<省略>

別表

<省略>

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