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新潟地方裁判所 昭和55年(わ)179号 判決 1980年12月23日

被告人 池田勲

昭一九・一二・一五生 かに販売業

主文

被告人を懲役一年及び罰金三万円に処する。

未決勾留日数中八〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある空気銃一丁(昭和五五年押第七八号の一)及び模造刀剣一振(昭和五五年押第七八号の二)をいずれも没収する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  昭和五五年一月一六日午後一一時三〇分ころ、新潟市東明二丁目一番地四の自宅において、フエニルメチルアミノプロパンの結晶性粉末約〇・一五グラムを唾液で溶かして自己の亀頭、尿道口などに塗布し、もつて覚せい剤を使用し、

第二  法定の除外事由がないのに、同年五月二〇日、同所において、スプリング式中折空気銃一丁(昭和五五年押第七八号の一)を所持し、

第三  同日午前四時三〇分ころ、同所において、武藤陽太郎(当四五年)に対し、自己に口答えをしたとしてその顔面、頭部を、数回にわたり手拳で殴打し、膝蹴りにするなどの暴行を加え、さらに同日午前五時過ぎころ、同所において、同人の顔面、頭部を多数回にわたり手拳で殴打し、膝蹴りにするなどの暴行を加え、よつて同人に対し、約一週間の治療を要する右後頭部挫傷及び約五日間の治療を要する眼球打撲傷の傷害を負わせ、

第四  同日午前四時三〇分ころ、同所において、佐藤明夫(当三七年)に対し、その顔面を数回にわたり手拳で殴打する暴行を加え、

第五  同日午前五時過ぎころ、同市東明一丁目七番二号伊藤孝司方住居に故なく侵入し、

第六  業務その他正当な理由がないのに、同日同時刻ころ、同所において、白鞘付模造刀剣一振(昭和五五年押第七八号の二)を携帯し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、本件被告人の覚せい剤塗布行為は覚せい剤取締法にいう「使用」に該当しないと主張するが、証人橋本敬太郎の当公判廷における供述によれば、覚せい剤であるフエルメチルアミノプロパンは動物の粘膜組織から吸収されることが実験的に明らかであるところ、人の亀頭及び尿道口は組織学的には右粘膜又はこれに極めて近い性状を有する組織であるから、当該部分にフエニルメチルアミノプロパンを溶かして塗布すれば人体内に吸収されることは否定し得ないものと認められるのであるから、そのような部位に覚せい剤を塗布する本件の如き行為が覚せい剤取締法にいう「使用」に該当することは明らかである。

次に、弁護人及び被告人は、本件空気銃は、そもそも発射機能に欠陥があり、殺傷能力を欠くため、銃砲刀剣類所持等取締法に規定する銃砲に該当しないし、また被告人においてもこれを古道具としての認識で所持していたものであるから、故意がないと主張するが、(証拠略)によれば、本件空気銃はなるほどそのままでは発射機能は完全ではないが、簡単な補修により容易に通常の発射機能及び殺傷能力を回復することが認められるので、本件空気銃が銃砲刀剣類所持等取締法に規定する銃砲に該当することは明らかであり、被告人の古道具との認識は、単なる法律の錯誤で故意を阻却しない。

二  弁護人は、判示第三ないし第六の事実について、被告人が各犯行当時飲酒酩酊のため心神耗弱の状態にあつたと主張するので、この点について判断するに、なるほど(証拠略)によれば、被告人は犯行前夜の午後一一時ころから約一時間の間に、市内の飲食店で生ビールをジヨツキで二杯、日本酒を約五合、さらに帰宅した後翌日午前二時ころまでの間に、日本酒を約二合、ビールをコツプに一、二杯程度それぞれ飲んでかなり酩酊しており、各犯行についての記憶が十分でない節も窺われるけれども、被告人は平素から酒をよく飲む方で、ウイスキーを水割りにして一五杯ほど飲んでも格別異常な行動をとるということもなく、当夜も必ずしも短時間のうちに一気に飲んだという訳ではないし、さらに犯行時刻である午前四時三〇分ころまでには飲酒後かなりの時間が経過していること、また各犯行の経緯は、犯行当日が判示第一の覚せい剤事件の公判の日であり、執行猶予中の再犯であることから被告人は刑が自己にとつて厳しいものとなることを予測して気も晴れないでいたところ、右帰宅後しばらくして相談相手としていた妻恵美子の姿も見えなくなり、不満が高じてきた矢先、仕事から帰つた武藤陽太郎ら従業員と話をするうち、右武藤が気にさわる返答をしたため立腹して、判示第三、第四記載のとおり手近な所に坐っていた同人及び佐藤明夫に乱暴をしたものであり、判示第五、第六事実については、従業員の伊藤孝司が犯行前自己を裏切るような言動をしたことを思い出して同人に乱暴したところ、同人が逃げ出したので、自宅に帰つたものと思い、模造刀を持つて同人方に行き各犯行に及んだというものであつてその動機をそれなりに理解することが可能であること、犯行当時の被告人の状態は、いつもよりは酔つて感情の振幅も大きくなつていたけれども、受け答えに別段異常な点もなく、ひとしきり乱暴したあとすぐ泣いて謝るなど自己の行動を十分に理解していると認められることなどの事情もあり、これらを総合して考察すれば、判示第三ないし第六の各犯行当時、被告人が事理を弁識し、かつこれに従つて行動する能力が著しく減退していた状態にはなかつたものと認めることができるので、弁護人の前記主張は採用することができない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は覚せい剤取締法四一条の二の一項三号一九条に、判示第二の所為は銃砲刀剣類所持等取締法三一条の四の一号、三条一項に、判示第三の所為は包括して刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第四の所為は刑法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第五の所為は刑訴一三〇条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第六の所為は銃砲刀剣類所持等取締法三五条一号、二二条の四に各該当するところ、判示第二ないし第五の各罪については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をなし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、その刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役一年及び罰金三万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中八〇日を右懲役刑に算入し、被告人において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、押収してある空気銃一丁(昭和五五年押第七八号の一)は判示第二の、同模造刀剣一振(昭和五五年押第七八号の二)は、判示第六の犯罪行為をそれぞれ組成した物であつて被告人以外の者に属しないから、同法一九条一項一号、二項本文を適用してこれを没収し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により、全部これを被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 若原正樹)

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