大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 平成6年(ワ)672号 判決 1999年10月29日

原告

セントラル企業株式会社

右代表者代表取締役

中村克夫

原告

株式会社モーターボート新潟

右代表者代表取締役

中村克夫

右両名訴訟代理人弁護士

山岸憲司

上野秀雄

今村哲

市川充

被告

宮本敞

外五名

右六名訴訟代理人弁護士

中村洋二郎

遠藤達雄

高島章

近藤明彦

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告セントラル企業株式会社に対し、連帯して、金二〇〇万円及びこれに対する平成六年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告モーターボート新潟に対し、連帯して、金二〇〇万円及びこれに対する平成六年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告らは、原告らに対し、別紙記載の謝罪広告を、新潟県内において発行する新潟日報朝刊の社会面広告欄に二段抜きで、「謝罪広告」とある部分を1.5倍ゴシック体活字、その余の部分を一倍明朝体活字で一回掲載せよ。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告セントラル企業株式会社(以下、「原告セントラル」という。)は、不動産の売買、仲介、賃貸等を業とする会社であり、原告株式会社モーターボート新潟(以下、「原告モーターボート新潟」という。)は、競艇、競馬、競輪、小型自動車競走の投票券の場外発売所の建設、賃貸及び維持運営の受託等を業とする会社である。原告らは、新潟県黒埼町におけるモーターボート競走の場外発売場(以下、「本件施設」という。)の設置計画について、その用地の確保、施設の建設計画等(以下、「本件事業」という。)を推進する業務に従事している。

(二) 被告宮本敞は、「黒埼町場外舟券売場設置に反対するみんなの会」(以下「みんなの会」という。)の事務局長であり、被告山際浩は黒埼町労働組合団体協議会議長、被告戸沢俊英は西蒲民商黒埼支部長、被告丸山公治は日本農民組合黒埼支部長、被告井上寅治は日本社会党黒埼支部書記長、被告宗村行雄は日本共産党黒埼町委員会委員長の肩書を有し、反対する会の代表委員と称し、反対する会の名のもとに本件施設の設置に反対する運動を展開してきた。

2  被告らによる名誉毀損

(一) 本件ビラの配布

(1) 被告らは、平成五年六月ころ、みんなの会の会合において、ビラの内容について協議し、その協議に基づいて別紙一記載の内容のビラ(以下、「本件ビラ」という。)を作成し、共謀の上、同月ころ、黒埼町において、本件ビラ約六〇〇〇枚を配布した。

(2) 本件ビラには、「汚職・利権がらみ、金でつる舟券売場は認めてはならない」との見出しが付けられ、「地方で広島県神辺町・長崎県大村市長・高知県など収賄・接待で逮捕者が次々……クロサキ町では大丈夫か」、「黒いウワサがぞくぞく」、「設置に血みちをあげている町長や一部の人たちは、ほんとうに大丈夫なのだろうか?黒埼に汚名をもたらすな」との記載があり、また「山田の説明会では、業者(株・モーターボート新潟)のいい事づくめのうまい話ばかり」と記載して、業者として原告モーターボート新潟の社名が具体的に掲げられた上、金銭の授受を表した漫画が記載されている。

以上によると、本件ビラは、これを見た者に対して、あたかも本件事業を推進している原告らが汚職・利権がらみで設置計画を進めているとの印象を与えるものであるから、被告らの右(1)記載の行為は、原告モーターボート新潟のみならず、原告セントラルの名誉を毀損するものである。

(二) 運輸大臣に対する本件文書一及び二の送付

(1) 被告らは、平成六年五月三〇日ころ、反対する会の会合において、協議をして別紙三記載の内容の文書(以下、「本件文書二」という。)を作成し、同年六月三日ころ、同様に協議をして別紙二記載の内容の文書(以下、「本件文書一」という。)を作成し、共謀の上、被告山際、同丸山、同井上、同宗村及び同戸沢の名義で、本件文書一及び二を運輸大臣宛に送付した。

(2) 本件文書二には、「舟券売場問題で業者及び岩野議員その他にまつわる利権疑惑の数々」との見出しのもと、その第5項には、「黒埼町への舟券売場設置をある電気店主人は賛成派議員は一人三〇万円、町長は五〇〇万貰ったと噂を流している。その額を一人一〇〇万円と町長五〇〇〇万円とも言ったこともある。金額の真偽はともかくも収賄の疑惑は強いように思われる」との記載があり、文書一は文書二を別紙として添えて「関係者への厳しいご指導を要請する」となっていることから、これらの文書は原告らの犯罪行為を告発する内容となっており、右(1)記載の被告らの行為は原告らの名誉を毀損するものである。

(三) 楢崎議員に対する本件文書一及び二の送付

(1) 被告らは、平成六年六月初旬、共謀の上、河内直史をして楢崎弥之助衆議院議員に対して本件文書一及び二を送付せしめた。

(2) 本件文書一及び二の内容は前記(二)(2)記載のとおりであるから、被告らの右(1)記載の行為は原告らの名誉を毀損するものである。

仮に、楢崎議員に対する送付のみでは原告らの名誉を毀損したと言えないとしても、被告らは、楢崎議員が文書一及び二に基づいて国会で質問をすることを認識した上で本件文書一及び二を送付し、楢崎議員は、本件文書一及び二に基づいて、国会の決算委員会で、黒埼町において原告らが本件施設設置の計画をしていること、賛成派の町長、議員に対し収賄の疑いがあること等具体的事実を摘示して質問をした結果、これが議事録に記載されたほか、新聞報道もされたのであるから、被告らが原告らの名誉を毀損したことは明らかである。

(四) 記者数名に対する本件文書二の交付

(1) 被告らは、平成六年九月一二日ころ、共謀の上、新潟県庁司法記者クラブ内において、報道機関の記者数名に対し、本件文書二を交付した。

(2) 本件文書二の内容は前記(二)(2)記載のとおりであるから、被告らの右(1)記載の行為は原告らの名誉を毀損するものである。

3  損害賠償、謝罪広告

(一) 原告らが名誉を侵害されたことにより受けた損害を金銭に評価すると、各自金二〇〇万円である。

(二) また、原告らは、被告らの右不法行為によって、社会的評価が著しく低下しただけでなく、本件事業に関する監督官庁、関連諸団体からの評価、信用も著しく低下したものであって、これを原状回復するための謝罪広告としては、最低限別紙の謝罪広告を新潟県内で発行する新潟日報に掲載する義務があると言うべきである。

4  結論

よって、原告らは、被告らに対し、連帯して、右不法行為に基づく損害賠償金として、各原告について、それぞれ金二〇〇万円の支払及び名誉回復措置として、別紙記載の謝罪広告を請求の趣旨3記載の条件で掲載することを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1(当事者)について

同1(一)の事実のうち、原告セントラルと同モーターボート新潟の商業登記上の目的に原告ら主張のものが含まれていることは認めるが、原告モーターボート新潟は訴状肩書地には何らの建物等の施設実態を有しない、いわゆるペーパーカンパニーである。原告セントラルが黒埼町のモーターボート場外発売所の設置などを推進していたことは認める。

同1(二)の事実は認める。

2  請求原因2(被告らによる名誉毀損)について

(一) 請求原因2(一)(本件ビラの配布)について

(1) 同(1)の事実について

本件ビラは、みんなの会の執行を協議する幹事会において、被告宮本が作成した原案を承認して、みんなの会名で、平成六年六月一一日に被告らが黒埼町に全戸配布したものである。

(2) 同(2)の事実のうち、本件ビラに原告らが指摘する記載があることは認め、その主張は争う。

ア 「汚職・利権がらみ、金でつる舟券売場を認めてはならない」との見出しは、舟券売場の誘致に関して汚職等がつきものであるところ、被告らは、このような舟券売場誘致にまつわる懸念を見出しの形で表明したに過ぎない。この見出し自体は、原告らが贈賄等をしたという具体的事実を摘示するものではなく、汚職などを認めてはならないという被告らの意見表明であり、また舟券売場の誘致には汚職や利権がつきものであるという原告とは関係ない一般的事実の摘示に過ぎず、原告らの名誉を毀損するものではない。

イ 「山田の説明会では、業者(株・モーターボート新潟)のいい事づくめのうまい話ばかり。交通問題・環境問題・教育問題についてなんの具体的解決策も示さない」との記載は、原告モーターボート新潟による説明会はいい事づくめのうまい話ばかりであったなどという意見ないし抽象的事実の摘示に過ぎず、いかなる意味においても原告らが関係当局に贈賄をしたという具体的事実を摘示するものではなく、原告らの名誉を毀損すると言えない。

ウ 「設置に血みちをあげている町長や一部の人たちは、ほんとうに大丈夫なのだろうか?黒埼に汚名をもたらすな」との記載及びその左側の金銭の授受を表したマンガの記載は、①内容が全く抽象的であり、右文言等だけではだれがだれに対してどのような行為をしていることを摘示していると言えるのか全く不明確であり、いくつもの解釈があり得ること、②「黒埼に汚名をもたらすな」との記述に先立っていることからも明らかなように、あくまでも懸念の表明に過ぎず、具体的な疑惑を報じたものではないこと、③本件ビラの記載全体のうち、当該記述部分は末尾のわずかなスペースに過ぎず、本件ビラの趣旨は、汚職や利権の原因となりかねない舟券売場の設置には反対する意見を表明し、町民に対し反対を促すものであり、具体的に町長や原告らの汚職を指摘しようとするものではないことは明らかであり、例えば、具体的に「何々の疑惑がある。」などと報じる形式とは明らかに異質であること、④本件ビラの発行母体であるみんなの会は一般の市民団体であって、新聞社、テレビ局、ジャナーリストなどと異なり、格別の情報能力を備えていない団体であることが読者からも容易に推認できるため、右報道の趣旨が原告らの具体的な贈賄の事実を摘示する趣旨のものでないことは、読者が容易に理解でき、誤解を招く恐れはないことから、原告らの名誉を毀損するものとは言えない。

エ 本件ビラの記載を全て読んでも、事業の推進者である原告らが、町長、町会議員らに対し、贈賄などの不正な行為を行って計画を推進しようとしているとの具体的な事実の摘示が全くないことは明らかであり、また、そのような強い印象を読者に与えるものでもない。

(二) 請求原因2(二)(運輸大臣に対する本件文書一及び二の送付)について

(1) 同(1)の事実について

文書一は、みんなの会の執行を協議する幹事会において、被告宮本が作成した原案を承認して、被告らが連名で平成六年六月三日付で、運輸大臣宛に発送したものである。

文書二は、平成六年五月下旬に開催された幹事会において、黒埼町の舟券売場推進活動に関連して町内にある噂を幹事会内の内部的な意思統一としてまとめたものである。文書一の請願書を運輸大臣に送付するにあたり、右幹事会において、現在、黒埼町で様々噂が飛び交い問題化している実情を運輸省に知ってもらうために、文書二も資料として添付した方がよいとのことになり、文書一及び二を運輸大臣宛に送付したものである。

(2) 同(2)の事実のうち、本件文書一及び二に原告らが指摘する記載があることは認め、その主張は争う。

ア 文書一及び二には、原告らが町長や町会議員に対して贈賄を行った事実の摘示は存在しない。被告が問題とする文書二の第5項の記載は賛成派議員と町長の収賄に関する噂話の存在であり、贈賄側を原告らとは指摘していない。以上によれば、本件文書一及び二の受け手である運輸大臣又は運輸省関係者が右文書を読んだ場合に、原告らが、町長や町会議員に対し贈賄を行っているという強い印象を抱くとは言えず、文書一及び二は原告らの名誉を毀損するものではない。

イ 被告らが文書一及び二を運輸大臣宛に送付した行為は、民事法上も名誉毀損の成立要件とされる公然性の要件、すなわち一定範囲の者への流布の要件を満たしていない。すなわち、本件文書一及び二は郵送の方法により名宛人を運輸大臣と特定して送付された請願文書であるから、運輸大臣及び運輸省関係者以外の者に流布されることは予定されておらず、実際にも流布していない。よって、被告らによる右文書の送付行為は公然性の要件を欠き、名誉毀損は成立しない。

ウ 本件文書一及び二は、監督官庁宛になされた請願文書であるところ、監督官庁が本件文書二の第5項のような具体的な根拠が示されていない噂話と明記された贈賄の記載をもって、当該業者を直ちに不利益に扱うことは考えられないし、許されないはずであり、本件においても、原告ら代表者が全国モーターボート競走会連合会のボートピア推進本部から呼出しを受けて、贈収賄の問題が本当にないのかどうかについて尋ねられ、注意を受けたにすぎない。したがって、本件文書一及び二を運輸大臣宛に送付したことによって、原告らの社会的評価を低下させることはあり得ない。

(三) 請求原因2(三)(楢崎弥之助議員に対する本件文書一及び二の送付)について

(1) 同(1)の事実は否認する。

被告宮本は、平成六年六月初旬ころ、舟券売場の設置に関する公開検討委員会の委員長であった河内直史に対し、本件文書一及び二の写しを参考のために手交した。河内は、楢崎議員と知己であったが、楢崎議員は、当時運輸省の行政問題に関心を持っていたことから、黒埼町でも舟券売場の設置について、交通問題や環境問題を巡って社会問題になっており、また地元の反対が強いということを参考にしてもらい、さらには楢崎議員から運輸省に対し、設置の承認を行うにあたっては現地を十分に確認するよう申入れをしてもらえないだろうかとの趣旨を含めて、場外舟券売場設置に反対するチラシ、船舶振興会に関する新聞記事と一緒に本件文書二を送付したというものである。河内は、本件文書二を楢崎議員宛に送付するについては、河内から被告宮本に打診があったため、被告宮本は、河内に対し、「差し支えないでしょう。」との返答をした。

以上のとおりであるから、本件文書二を楢崎議員に送付したのは河内であって、被告宮本だけが河内から本件文書二の送付について意見を求められたに過ぎず、他の被告らは、本件文書二の送付に全く関与していない。よって、被告らは、河内による本件文書二の送付について責任を問われることはない。

また、本件文書一は楢崎議員に送付されていない。

(2) 同(2)の主張は争う。

河内が、私信として、特定の私人である楢崎議員に本件文書二を送付したとしても、名誉毀損の成立要件である公然性の要件を満たさない。

本件文書二は、原告らに対する具体的な贈賄の事実を摘示したものでなく、原告らの名誉を毀損するものではない。

本件文書二の送付は、楢崎議員によって国会質問がなされることを予定してなされたものではないから、原告らには名誉毀損の故意がない。また、私信としての性質上、これが流布されることが予想できなかったのも当然であり、過失も存在しない。

(四) 請求原因2(四)(記者数名に対する本件文書二の交付)について

(1) 同(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の主張は争う。

被告らは、原告らが裁判所に提出した書証を記者に交付したに過ぎない。我が国の裁判においては、憲法上公開の原則が定めあれており(憲法八二条一項)、記者は裁判所や公開法廷を取材するなどして、この文書やその要旨を記した訴状などの書面に接することができたのであって、原告らの主張は、憲法で定められた裁判の公開原則に反する主張であり、到底採用することができない。

また、原告らは、裁判が公開の法廷で行われることを知りながら、あえて本件を提訴し、自ら本件文書二を裁判所に提出したのであるから、提訴された被告らが本件文書二を交付したことをもって、それを名誉毀損であるなどと主張することは自己矛盾であり、権利の濫用である。

三  抗弁

1  抗弁1(請求原因1に対して―公正な論評の法理)

仮に、本件ビラの記載内容が原告らの名誉を毀損するものであったとしても、以下のとおり、公正な論評の法理の適用により、違法性が阻却される。

名誉を毀損する記事が意見を叙述した言辞(意見表明)であるときは、①当該記事が公共の利害に関する事項についてのものであること、②意見の基礎をなす事実が当該記事に記載されており、かつ、その主要な部分について真実性の証明があるか、記事の公表者においてこれを真実と信じるについて相当の理由があること、または意見の基礎をなす事実が記事の公表された当時既に新聞などにより繰り返し報道されて社会的に広く知れ渡っていた事実であること、③当該意見を、その基礎をなす事実から推認することが、不当、不合理なものとはいえないことの各要件を満たす場合には、当該意見の公表による不法行為責任は成立しないと解すべきである。これを、本件についてみれば、舟券売場の設置という町民の生活に重大な影響を与える事柄及び政治家の汚職問題という公共の利害に係わる事項に関する言論であり、全国の舟券売場の誘致に関し、多数の汚職報道がなされていたことから、黒埼町の誘致においても、汚職などの問題が発生することを懸念し、汚職の原因になりかねない舟券売場の誘致には反対する旨の意見表明を行ったに過ぎないものであり、右法理の適用要件に該当し、違法性が阻却されることは明らかである。

2  抗弁2(請求原因2に対して―請願権の行使としての正当行為)

本件文書らの送付は、憲法一六条により国民の権利として定められる請願権の行使として行われた言論行為である。請願行為は公の機関に対する希望の陳述をその本質とし、参政権の補助的機能を営む権利であり、その性質は当然のことながら、政治的言論の典型の一つである。したがって、請願行為は、その本質において、希望を陳述する意見言明としての言論行為であり、憲法で認められた政治的言論として、厚い保障が及ばなければならない。

本件において、住民の生活上の利害に関する舟券売場の設置に関して、これに反対する立場から、許認可の権限のある省庁に対し、設置推進活動についての問題点を申告し、設置の承認をしないよう希望の陳述を行うことは、正当な請願権の行使の範囲内にある行為であることは明らかである。本件文書一及び二を具体的に検討すると、本件文書一において、原告らの説明における利益誘導的説明や町長の町民に対する不誠実な説明の事実を前提として、運輸大臣に対し、関係者への厳しい指導を要請することを主旨としていることが一読して明らかであり、本件文書二は町内に存在する噂話や疑惑を列挙したにすぎないことも一読明瞭である。このような請願権の行使自体が違法とされることになるとすれば、政治参加に関して有効な手段を持ち得ない国民が簡便に行使できる請願権の意義は大きく没却されてしまうであろう。すなわち、請願行為の本質は希望の陳述にあり、その希望を陳述するためには、ある一定の事実の申告が前提となる。国民はそのような場合にまで、一般のマスコミ報道と同程度の事実調査をしなければ、憲法上認められた請願権の行使であっても、法的責任を問われることになるのか。

よって、本件文書一及び二の運輸大臣への送付行為は、憲法で定められた請願権の正当な枠内にあることは明らかであり、違法性は認められない。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1(請求原因1に対して―公正な論評の法理)について

抗弁1の主張は争う。

(一) 最高裁判所平成九年九月九日判決は、「事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に係り、かつ、その目的が専ら公益を図るものであった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明がなかったときは、右行為には違法性がなく、仮に右事実を真実と信じるにつき相当の理由があればその故意又は過失は否定される。ある事実を基礎としての意見ないし論評による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、右意見ないし論評の前提となっている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性を欠く。意見ないし論評の前提である事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、故意過失は否定される。」と判示し、①公共の利害に関する事実についての表現であること、②表現行為が専ら公益を図る目的であること、③真実性の証明があること、または真実であると信じたことに相当な理由があることを要件としている。

なお、被告らは、右最高裁判決の原審である東京高等裁判所平成六年二月八日判決の判旨を挙げ、③の要件がない場合であっても、意見の基礎をなす事実が意見言明の公表された当時において周知のものとなっていれば、これを基に形成された意見が不当、不合理な者でない限り、名誉毀損の不法行為は成立しないと主張する。しかしながら、右最高裁判決は、報道にかかる事実が周知であることを独立の免責要件として認めると、報道を行った者において当該事実が真実でないことを認識していたとしても、それが周知となっていれば免責されるという不合理な結論となることから、「ある者が罪を犯したとの嫌疑につき、これが新聞等により繰り返し報道されていたため社会的に広く知れ渡っていたとしてもこのことから、直ちに右嫌疑に係る犯罪の事実が実際に存在したと公表した者において、右事実を真実であると信じるにつき相当の理由があったということはできない。」と判示して、原審の右基準を明確に否定している。

(二) 右最高裁判決の要件を本件ビラについてみると、本件ビラは、原告らがボートピア誘致運動を行うにあたり、町長や職員に対し、贈収賄等の汚職を行っていることを婉曲に表現するものであるが、贈収賄の事実が真実であるとの証明はないから、被告らの本件ビラ配布行為は違法性を阻却されない。

また、被告らは、贈収賄の事実について何らの事実調査を行うことなく、本件ビラを作成、配布しているのであるから、贈収賄の事実が真実であると信じたことに相当な理由もなく、被告らの故意、過失を阻却することもない。

2  抗弁2(請求原因2に対して―請願権の行使)について

抗弁2の主張は争う。

(一) 被告らは、請願権の行使であるから、違法性が阻却されると主張するが、私人対私人の場合に、請願行為であるから違法性が阻却されることはあり得ず、政治的表現行為の問題として考えるべきである。そして、政治的表現行為についても、その違法性阻却、責任阻却を考えるにあたっては、基本的には、右最高裁判決で示された要件が該当すると言うべきである。

(二) 被告らが運輸大臣宛に送付した本件文書二に記載された内容、特に原告らが問題としている「ある電気店主人は、賛成派議員は一人三〇万円、町長は五〇〇万円を貰ったと噂を流している。その額を一人一〇〇万円と町長五〇〇万円と言ったこともある。金額の真偽はともかくも収賄の疑惑は強いように思われる。」との事実につき、真実性の証明は全くなされていない。

また、被告らは何の調査をすることもなく、「まあ、この程度にしておこうや」と極めて安易に本件文書一及び二を送付したものであり、真実と信じることに相当な理由は何もない。

したがって、被告らの文書送付行為が違法性阻却、責任阻却されることはない。

第三  証拠

本件記録中の証拠目録の記載を引用する。

理由

一  前提事実

請求原因1(二)の事実、同2(一)(2)の事実のうち本件ビラに原告らが指摘する記載のあること、同2(二)(2)の事実のうち、本件文書一及び二に原告らが指摘する記載のあること及び同2(四)の事実は当事者間に争いがない。右当事者間に争いがない事実に、甲第六号証、第一〇号証、乙第一号証の三ないし八、第二号証の二、第三号証の三、第五号証、第八号証、第一〇号証、第一二号証、第一三号証、被告宮本本人尋問の結果、原告ら代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  原告セントラルは、昭和四六年一〇月に設立され、東京都内において不動産業を営んでいる会社であるが、黒埼町における場外舟券売場の建物の建設及びその賃貸業務に参画するにあたり、事業の永続性、建物の永久性、地元からの雇傭及び地元との融和の観点からは、東京の会社が事業を行うよりは現地法人を設立した方がよいとの考えから、黒埼町内に現地法人として原告モーターボート新潟が設立されることになった。原告モーターボート新潟は、原告セントラル及び原告ら代表者の父が代表者となっている陽光株式会社の出資により設立され、黒埼町の商工会に加入した。原告モーターボート新潟は、設立されたばかりの会社であり、資金調達や関係各方面との人脈作りなどの面で親会社である原告セントラルに頼らざるを得ないことから、事業が開始されるまでの場外舟券売場設置の推進活動は、原告ら両会社の名で行われた。

(二)  平成五年七月二六日、黒埼町商工会から黒埼町長に対して場外舟券売場設置の陳情書が提出され、同年八月三日、黒埼町臨時議会が招集され、同月六日、右陳情書は議会で採択された。

(三)  平成五年九月二日、舟券売場設置に反対するための団体として、みんなの会が結成された。みんなの会は、団体加入が原則とされており、当時の社会党、共産党、日本農民組合など八団体で構成されている。みんなの会には、幹事会があり、右の八団体の代表と顧問として町会議員が二、三人、その他個人参加の者など約一五名で構成されている。被告宮本はみんなの会の事務局長であり、それ以外の被告はいずれもみんなの会の代表委員である。また、被告らは、いずれもみんなの会の幹事会の構成員である。

(四)  モーターボート競走の施行者は地方自治体であり、社団法人モーターボート競走会は施行自治体から競走事務の実施について委託を受けることができるとされている。原告ら民間業者は、場外舟券売場の建物を建設し、これを施行自治体に賃貸する立場にある。また、全国モーターボート競走連合会は社団法人モーターボート競走会を会員とする組織である。

運輸省は、全国モーターボート競走施行者競技会会長宛に「モーターボート競走事業の適正な運営について」という平成五年一〇月一二日付けの文書(乙第二号証の二)を発し、同文書において、「専用場外発売場の設置については、一義的にはモーターボート競走施行者の責務であり、自らが責任をもってこれを行うべきである一方、設置に至るまでの調査、地元調整等の事務については、モーターボート競走施行者のみでは対応が困難な場合もあるため、関係者の協力が必要と思料されるところであるが、その際にも、モーターボート競走施行者は、当該事務の進捗状況を十分把握する等により、社会的な問題の生ずることのないよう配慮すること。」との指導をし、また、社団法人全国モーターボート競走連合会に対しては、平成五年一〇月一二日付けの「モーターボート競走関係団体に対する業務運営の適正化に関する指導について」という文書(乙第二号証の二)において、「同会が専用場外発売場の設置に至るまでの調査、地元調整等の具体的事務を実施する場合には、施行者等の関係者との連絡を密にし、社会的問題が生じないよう配慮すること。」との指導がなされていた。

社団法人モーターボート競走会のボートピア推進部は、民間業者に対して、「地元調整に当たっては、誠意を持って行い、条件的な事項で約束したことは、自己の責任において必ず実行して下さい。なお、施行者、日本船舶振興会又はB&G財団関係の業務に関する事項は、約束又は期待を抱かせるような言動をしないで下さい。」との指導をしていた(乙第一二号証)。

(五)  平成六年五月二二日、上山田地区で原告ら業者が主催する説明会が開催されたが、右業者説明会において、「関連団体からの援助について有形無形のメリットが発生すると思われます。」、「新潟県内における寄付援助実績」、「船舶振興会 三六団体―五三件一六億八五〇〇万円」、「黒埼町への実績」、「B&Gセンター 新津、中之口、味方他一七カ所」などと記載されている文書、船舶振興会における支援一覧表、新潟県内におけるB&Gセンター一覧表、B&G財団事業の実績を示した文書などの資料が配布されて、これらの資料に基づいて住民に説明がなされた。なお、右説明会の開催時においては、施行自治体は確定していなかった。

平成六年五月三〇日に開催された拡大役員会において、兵庫県の姫路の場外舟券売場の資料を配布され、右資料に基づいて場外舟券売場が設置された場合に生じる地元の利益についての説明がなされた。

(六)  平成五年九月ころ、広島県の神辺町の徳山競艇の場外舟券売場設置を巡って、建設業者から山口県のモーターボート協会幹部が賄賂を受けと取った疑いで逮捕されたこと、同年一一月ころ、長崎県の牛津町の大村競艇の場外舟券売場設置を巡って、民間会社が牛津町の町会議員に賛成のとりまとめのために賄賂を申し込んだ疑いで逮捕されたこと、平成六年五月ころ、日本船舶振興会の前事務局長が建設会社から賄賂を受け取った疑いで逮捕されたこと、以上の事実について新聞などで報道がなされた。

二  名誉毀損による不法行為の成否

1  本件ビラの配布による名誉毀損(請求原因2(一))

(一)  請求原因2(一)について

(1) 乙第三二ないし第三六号証、被告ら本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件ビラは、みんなの会の執行を協議する幹事会において、被告宮本が作成した原案を承認して、みんなの会名で、平成六年六月一一日に被告らが黒埼町内に全戸配布したものであると認められる。

(2) そこで、本件ビラが原告らの名誉を毀損するものかについて検討する。

本件ビラは、甲第四号証によると、テレビ・新聞・週刊誌で場外舟券売場の設置に関して、船舶振興会、業者、運輸省の汚職が連日報道されていること及び黒埼町における舟券売場の設置についても、業者説明会において、住民に対し舟券売場の設置が認められた場合には、船舶振興会から補助金が出るとの説明がなされるなど利益誘導がらみの推進活動が行われていることから、汚職等の原因になりかねない舟券売場の設置には反対するとの被告らの意見を表明したものであって、黒埼町の舟券売場設置に関して汚職が行われている事実を摘示するものではないと認められる。

しかし、甲第四号証によると、本件ビラには、「山田の説明会では、業者(株・モーターボート新潟)のいい事づくめのうまい話ばかり」との記載があり、また「黒いウワサがぞくぞく」との見出しのもとで黒埼町でも利益誘導がらみで舟券売場の設置が進められているとの印象を与える①から⑥の記載がなされ、さらに金銭の授受を現すマンガの右横に「設置に血みちをあげている町長や一部の人たちは、ほんとうに大丈夫なのだろうか?黒埼に汚名をもたらすな。」との記載があることに照らすと、本件ビラは、本件ビラを見た者に対して、黒埼町における舟券売場の設置についても、業者らが汚職・利権がらみで進めているのではないかとの印象を与えることは否定できないと言うべきである。

よって、本件ビラの内容は、原告ら業者の名誉を毀損するものと認められる。

(二)  抗弁1(公正な論評の法理)について

本件ビラは、(一)で認定したとおり、テレビ・新聞・週刊誌で場外舟券売場の設置に関して、船舶振興会、業者、運輸省の汚職が連日報道されていること及び黒埼町における舟券売場の設置についても、業者説明会において、住民に対し舟券売場の設置が認められた場合には、船舶振興会から補助金が出るとの説明がなされるなど利益誘導がらみの推進活動が行われていることから、汚職等の原因になりかねない舟券売場の設置には反対するとの被告らの意見を表明したものである。

ところで、特定の事実を基礎としての意見ないし論評による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、右意見ないし論評の前提となっている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性を欠き名誉毀損による不法行為を構成しないと解すべきである。

これを本件についてみると、場外舟券売場の設置は、交通問題、環境問題、教育問題など付近住民の生活に重大な影響を与えるものであり、これが公共の利害に関する事実に係わることは明らかであり、また、前記一で認定したとおり、被告らは場外舟券売場の設置に反対する住民運動の一環として本件ビラを配布したのであるから、その目的が公益を図る目的であることもまた明らかである。そこで、被告らの意見の前提となっている事実が重要な部分について真実であるかについて検討するに、前記一で認定したとおり、場外舟券売場の設置に関して、本件ビラが配布された当時、広島県の神辺町、長崎県の大村市などで汚職が行われた疑いがあることが新聞で報道されていたことは真実であるし、また、平成六年五月二二日に開催された説明会において、船舶振興会からの補助金の一覧表などの資料が配布され、右資料に基づいて住民に対する説明がなされていることや同月三〇日に開催された拡大役員会で兵庫県の姫路の場外舟券売場の資料を配布され、右資料に基づいて場外舟券売場が設置された場合に生じる地元の利益について説明がなされたことなど前記一で認定した事実に照らすと、黒埼町における場外舟券売場の設置についても利益誘導がらみの推進活動が行われていたことも否定できない事実であると言うべきである。よって、被告らの意見の前提となっている事実はその重要な部分について、真実であると認められる。そして、本件全証拠によっても、本件ビラが人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱しているものと認めることはできない。

以上のとおりであるから、被告らによる本件ビラの配布は違法性を欠き、名誉毀損による不法行為を構成しない。

2  運輸大臣に対する本件文書一及び二の送付による名誉毀損(請求原因2(二))

(一)  甲第一及び第二号証、被告ら本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、①本件文書一は、被告らが、運輸大臣に対し、黒埼町での場外舟券売場設置に関して、原告ら関係者が利益誘導がらみの推進活動をしないよう厳しく指導をすること及び右舟券売場設置の承認をしないことを要請する文書であるが、同文書は、みんなの会の執行を協議する幹事会において、被告宮本が作成した原案を承認して、被告らが連名で平成六年六月三日付けで運輸大臣宛に発送したものであること、②本件文書二は、平成六年五月下旬に開催された幹事会において、黒埼町の舟券売場推進活動に関連して町内にある噂を幹事会内の内部的な意思統一としてまとめたものであるところ、文書一の請願書を運輸大臣に送付するにあたり、右幹事会において、現在、黒埼町で様々な噂が飛び交い問題化している実情を運輸省に知ってもらうために本件文書二も資料として添付することが決定され、本件文書二は、本件文書一の別紙として運輸大臣宛に送付されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二) 一般に、ある文書における特定の記述が、他人の名誉を毀損するものとして不法行為を構成するか否かは、単に記述の断片的な文言だけからでなく、当該文書の趣旨・目的、当該文書の性格、当該記述の配置や文書全体の中での構成、前後の文脈などの諸般の事情を総合的に斟酌した上で、読者の通常の注意と読み方を基準として、これによって読者が当該記述から受ける印象及び認識に従って判断する必要があるものと解される。ところで、本件文書一及び二は運輸大臣宛に送付されたものであるから、右文書の性格上、右文書の読者は運輸大臣及び運輸省内部の者に限定されている。したがって、本件文書一及び二の記述が原告らの名誉を毀損するものとして不法行為を構成するか否かは、運輸省内部の読者の通常の注意と読み方を基準として、読者が当該記述から受ける印象及び認識に従って判断するのが相当である。

以上を前提に本件文書一及び二が原告らの名誉を毀損するものとして、不法行為を構成するかについて検討する。

本件文書一及び二の趣旨・目的が、前記(一)のとおり、運輸大臣に対して、黒埼町での場外舟券売場設置に関し、原告ら関係者が利益誘導がらみの推進活動をしないよう厳しく指導すること及び右舟券売場設置の承認をしないことにあることは、文書一の見出しや本文の記述から明らかであると認められること、本件文書二は12項目で構成され、本件文書一の参考資料として添付されたものであるところ、原告らが名誉毀損箇所として問題としている本件文書二の第5項の記述(以下、「本件問題部分」という。)はその中の一項目に過ぎないこと、本件文書一及び二は舟券売場設置に反対する団体が住民運動の一環として運輸大臣宛に送付した文書であることから、当該文書の記述には、右文言の性格上、確実な資料に基づくものでない事柄も含まれていることもあり得ると考えられる上、本件問題部分自体も、ある電気店主人の噂として摘示されていることが認められる。以上の事実を総合すると、運輸省内部の読者の通常の注意と読み方を基準とした場合に、本件問題部分によって原告らが町長や町会議員に賄賂を供与したとの印象を読者に与えるものと認めることはできない。

よって、請求原因2(二)は理由がない。

3  楢崎弥之助議員に対する本件文書一及び二の送付による名誉毀損(請求原因2(三))

(一)  証人河内直史の証言及び被告ら本人尋問の結果によると、被告宮本は、平成六年六月初旬ころ、舟券売場の設置に関する公開検討委員会の委員長であった河内直史に対し、本件文書一及び二の写しを参考のために手交したこと、河内は、楢崎衆議院議員と知己であったが、楢崎議員は、当時運輸省の行政問題に関心を持っていたことから、黒埼町でも舟券売場の設置について、交通問題や環境問題を巡って社会問題になっており、また地元の反対が強いということを参考にしてもらい、さらには楢崎議員から運輸省に対し、設置の承認を行うにあたっては現地を十分に確認するよう申入れをしてもらえないだろうかとの趣旨を含めて、場外舟券売場設置に反対する趣旨のチラシ、船舶振興会に関する新聞記事と一緒に本件文書二を送付したこと、河内は、本件文書二を楢崎議員宛に送付するにあたり、楢崎に本件文書二を送付する右趣旨を説明した上で、被告宮本の意見を求めたところ、被告宮本は、河内に対し、「差し支えないでしょう。」との返答をしたこと、被告宮本以外の被告らはいずれも楢崎議員に対する本件文書二の送付について何らの関与をしていないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。また、本件全証拠によっても、本件文書一が楢崎議員に送付されたと認めることはできない。

以上によると、被告宮本以外の被告らに対する請求原因2(三)の主張はその余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(二)  次に、被告宮本に対する請求原因2(三)の主張について検討する。

甲第三号証及び原告ら代表者尋問の結果によれば、楢崎議員は、国会の決算委員会において、河内から送付された本件文書二に基づき質問を行い、楢崎議員は右質問の中で「賛成派の町長ほか議員に対して収賄の疑いがあるということが言われておる。」との発言をしたこと、右国会質問の内容は議事録に掲載され、テレビなどでも報道されたことが認められる。そして、本件文書二を本件文書一の参考資料として運輸大臣に送付する限りでは、前記2(二)のとおり、これによって原告らの名誉は毀損されないと認められるのであるが、楢崎議員の右行為によって本件文書二の内容が一般に流布されれば、一般の者に対し、原告ら業者が賛成派の町長や町会議員に対し賄賂を供与したのではないかという印象を与えることになることは否定できず、これによって原告らの名誉は毀損されると言わざるを得ない。

そこで、本件文書二の内容が一般に流布されることによって原告らの名誉が毀損されたことについて、被告宮本が不法行為責任を負うかについて検討する。この点につき、原告らは、本件文書二を国会議員である楢崎議員に送付することによって、その内容を不特定又は多数人が認識するおそれが生じるので、右送付行為自体によって原告らの名誉は毀損されることになり、楢崎議員への本件文書二の送付に関与した被告宮本は責任を免れないと主張する。しかし、国会議員に文書を送付したからといって、当然に送付された文書の内容を不特定又は多数人が認識するおそれが生じるとは限らないのであるから、原告らの右主張は失当である。本件のように、特定人に対して文書が送付され、右特定人によってその文書の内容が一般に流布されて人の名誉が毀損された場合において、右文書を送付した者に対して不法行為責任を問うためには、右文書の送付行為の趣旨・目的に照らし、右文書の内容を不特定又は多数人に流布されることが予定されている場合など、右文書の送付行為によって当然に不特定又は多数人が右文書の内容を認識するおそれが生じると認められることを要すると解すべきである。

これを本件について見ると、河内が楢崎議員に本件文書二を送付した趣旨・目的は、前記(一)認定のとおりであり、これによれば、本件文書二の内容が不特定又は多数人に流布されることは予定されていなかったものと認められ、他に楢崎議員への本件文書二の送付行為によって当然に不特定又は多数人が右文書の内容を認識するおそれが生じると認めるに足りる証拠はない。

また、原告らは、仮に、楢崎議員に対する送付のみでは原告らの名誉を毀損したと言えないとしても、被告宮本は、楢崎議員が文書二に基づいて国会で質問をすることを認識した上で本件文書二を送付したと主張するが、本件全証拠によっても、右事実を認めることはできない。

以上のとおりであるから、本件文書二の内容が一般に流布されることによって原告らの名誉が毀損されたことについて、被告宮本が不法行為責任を負うことはないと認められる。

4  記者数名に対する本件文書二の交付による名誉毀損(請求原因2(四))

司法記者クラブ内での記者数名に対する本件文書二の交付は、本件訴訟提起後になされているのであるから、右文書を受け取った記者らに対し右文書に記述されている内容が真実のものであるとの印象を与えるとは考えられず、また、右記者らが右文書に記述されている内容を真実のものとして報道することも考えられない。よって、記者数名に対する本件文書二の交付によって原告らの名誉を毀損することはないと言うべきである。

三  結論

以上のとおりであるから、原告らの請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第六一条、第六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官仙波英躬 裁判官飯塚圭一 裁判官飯淵健司)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例