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新潟地方裁判所 平成5年(行ク)7号 決定 1993年12月24日

申立人

細山洋

右訴訟代理人弁護士

山崎隆夫

相手方

新潟県知事 平山征夫

右指定代理人

小池晴彦

飯塚洋

山川賢蔵

青木茂

伊藤元久

天羽隆

神山修

杉浦和信

古澤武

岩橋憲明

細田正美

理由

第三 当裁判所の判断

一  回復の困難な損害を避けるための緊急の必要について

行政処分の執行停止決定の実体的要件は、行政事件訴訟法第二五条第二項、第三項に規定するところであり、申立人はまず、当該行政処分により回復の困難な損害を被ることを主張、疎明しなければならない。この点に関する申立人の主張は、要するに、年末から正月にかけては営業上重要な時期であり、この時期における業務を停止されると、経済的に重大な損失を受けるばかりでなく、顧客に対する信用を失うという回復困難な損害を被る、というものであると解される。

そこで、検討するに、行政事件訴訟法第二五条第二項に規定する「回復の困難な損害」とは、当該行政処分を受けることにより受ける損害が、原状回復又は金銭賠償不能なもの、もしくはこれらが不能ではなくても社会通念上、回復が容易でないものをいうと解するのが相当であるところ、申立人の主張する回復困難な損害の内容は顧客に対する信用を失うという損害も含めて、経済的な損失であり、それについては、もとより金銭賠償により回復が可能であって、それが社会通念上困難であると認めるに足りる事情の存在の疎明もない。

よって、本件において回復困難な損害があるとは認められない。

二  本案についての理由について

本件処分が極めて短い期間の付されたものであることからすると、本件執行停止申立てが認容された場合には、申立人が、却下された場合には、相手方が、それぞれ本案で勝訴したと同じ終局的満足を得るに等しい結果となり、本案訴訟は全く意義を失う蓋然性が高い。

さらに、相手方は、本件申立ては本案について理由がないとみえるときに当たる旨主張するので、進んで本案の理由の有無について検討する。

この点についての申立人の主張の要旨は、本件調査手続が任意調査の限界を越えた不適正な手続であること、本件処分の根拠たる食糧管理法自体が立法事実的裏付けを失い、すでにその妥当性を欠いている問題点があるので、これに基づく処分は慎重にされるべきであるのに、本件処分はその慎重さを欠いていることにあると解される。

しかしながら、一件記録によれば、新潟食糧管理事務所及び同県職員は、平成五年九月二八日、新潟県西蒲原群潟東村大字遠藤四ツ割一一四一番地及び一一四二番地所在の細山商店の精米工場兼倉庫(以下「本件倉庫」という。)に任意調査に赴き、同所従業員に対し、その身分及び臨場の趣旨を告げたうえ倉庫内に立ち入ったところ、それに対しては明確な拒絶がなかったこと、その際、本件倉庫内に保管されていた麻袋等の票せんの記載内容は、その内容が主食用米穀であることを表示していたことが視認されたものの、現品確認あるいは、事情説明の求めは悉く拒否ないし無視されたこと、そこで、不正規流通を阻止するため本件倉庫を監視していたところ、同年一〇月一〇日早朝、これら監視を振り切って、本件倉庫から強行的に米穀が搬出されたことなどが一応認められる。

右認定の経緯からすれば、本件倉庫の立ち入り行為については、少なくとも黙示の承認があったということができ、実際に、麻袋等の内容物が米穀であることが確認されていない旨の申立人の主張があること自体、本件調査が申立人の現品確認拒否の意思に反することなく、任意の範囲内でされていたことを推認させるものである。また、現品の確認自体がされていない点も、前記認定の、本件倉庫内の麻袋等の票せんの記載および強行搬出の経緯に鑑みれば、本件倉庫内に保管されていたものは主食用米穀であることが強く推認できるのであって、本件調査手続に、本件処分を違法とするまでの手続的違法性は認められない。

次に、食糧管理法自体について申立人主張のような問題点が存するか否かはさておき、本件は、前認定のように、申立人が所管庁の事実調査を拒否し米穀を強行搬出したという事案であり、また、一件記録によれば、農林大臣による業務改善命令発令の後も、再三の行政指導がされ、更に法定の公開の公聴会を経る手続が踏まれ、新潟県知事は、これら一連の経緯を考慮したうえで本件処分をしていることが一応認められるから、その運用に慎重さを欠いた点があるとは認められない。

よって、本件申立ては本案について理由がないとみえる場合に該当するというべきである。

三  以上からすれば、申立人の主張は理由がないから、本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 春日民雄 裁判官 鈴木信行 佐久間健吉)

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